人間ドックの設立や終末期医療の普及など、日本の医学の発展に貢献してきた日野原重明。1999年に文化功労者に選ばれ、2005年には文化勲章を授与されています。105歳で亡くなるまでに数多くの著作を残しました。人と命を愛した彼の言葉は名言ばかりです。この記事では、そんな彼の作品のなかから特におすすめのものをご紹介していきます。
1911年に山口県で生まれた日野原重明。2017年に惜しまれながらも105歳でその生涯の幕を閉じました。
聖路加国際病院の名誉院長や上智大学日本グリーフケア研究所の名誉所長などを務めた医学博士で、日本で最初に予防医学の重要性を唱え、人間ドッグを開設。それまで「成人病」と呼ばれていた病気の名称を「生活習慣病」に変えた人物でもあります。
1996年に起きたオウム真理教の「地下鉄サリン事件」の際は、通常業務を停止して被害者の治療にあたり、陣頭指揮をとったことでも有名です。日本の医学界に多大な貢献をしてきました。
2001年に90歳で出版した『生きかた上手』は累計発行部数120万部以上のベストセラーとなっています。
日野原重明の90歳を記念して出版された本作。生き方に悩むすべての人に向けた指南書として、15年以上経っても読み継がれています。
命と向き合い続けてきた医師ならではの視点で、具体的な例も織り交ぜながら「死にざまとは生きざまである」と教えてくれるのです。
- 著者
- 日野原 重明
- 出版日
- 2013-04-08
「地位や名誉は死ねばなくなる。財産も残したところで争いの種をまくだけですが、『ありがとう』のひと言は、残される者の心をも救う、何よりの遺産です。」(『生きかた上手』より引用)
本作では一貫して、死を意識した生き方が描かれています。
動物は、その瞬間まで死というものを認識できないけれども、人間は命がいつか終わることを知っています。だからこそいくつになっても生き方を変えることができるし、習慣も変えられるのだと、日野原重明は読者に語りかけてくるのです。
また医療についても言及。心と体は切り離すべきではないといった「病は気から」の考え方や、医療の対象は「病」ではなく「人」であり、「臓器」ではなく「心」に触れるものだという考え方などは、読者にとっても参考になるでしょう。
90歳になってもなお現場に出て働きつづけた日野原の、老いることについての言葉も注目したいところ。自分の人生をまっとうするために、高齢の人にも若い人にも読んでほしい一冊です。
日野原重明が子ども向けに書いた作品。小学6年生の国語の教科書にも文章が採択されました。
子ども相手だからといってごまかさず、難しいテーマについて言葉を選びながら真摯に語っています。もちろん大人が読んでも心に染みわたるでしょう。
- 著者
- 日野原 重明
- 出版日
- 2006-04-01
「人間というのはすごいものです。人間に生まれてきて、わたしたちはよかったですね。」
「うれしいときだけがきみではありませんよ。笑っているときのきみだけが、きみではありませんね。悲しいときのきみも、恥ずかしくて消えてなくなりたいと思うときのきみも、きみなのです。」(『十歳のきみへ―九十五歳のわたしから』より引用)
日野原重明が自身の体験や経験を織り交ぜ、家族のことや生きること、学ぶことについて語っています。実は彼自身が10歳と20歳の時に大病を患ったそう。そのうえで自分自身を大切にすることと、人のために時間を使うことは矛盾しないと述べています。
日野原が人を救う医療に人生を捧げてきたことを思うと、余計に胸に響く言葉です。10歳の子どもが読むのと大人が読むのとでは違った感想を抱けるはず。ぜひ親子で読みたい物語です。
本書は日野原重明が100歳の時に発表したもの。「食べ方上手は生き方上手である」とし、病気にかからず元気で長生きをするための食習慣を教えてくれています。
ともに語っているのは、漢方医であり未病医学の権威でもある天野暁。日野原の西洋医学と天野の東洋医学、双方の立場から解説しています。
- 著者
- ["日野原 重明", "天野 暁"]
- 出版日
- 2011-09-02
本書で述べられているのは、栄養などの小難しい話や実現困難なものではなく、食生活における考え方そのもの。具体的に今日の食事から変えてみようと思える一冊です。
たとえば1日3食を厳守しなくてもよく、トータルで考えてその人にあった規則正しい食事になっていれば問題ないということや、コレステロールの値は人それぞれ正常値が異なるので気にしすぎる必要はないなど、常識を覆してくれます。
平均寿命を大きく超えている日野原重明の言葉には、説得力を感じられるでしょう。ちなみにダイエットについても言及しているので、体型が気になる方にもおすすめです。
2012年に発表された本作。誰かの役に立つことは自分という存在そのものが生かされることだ、と常々語ってきた日野原重明が、命と人生への向き合い方を綴った作品です。
1970年に起きた「よど号ハイジャック事件」で、他の乗客とともに人質となった日野原。このことをきっかけに、自分に与えられた命について深く考えるようになりました。
- 著者
- 日野原 重明
- 出版日
- 2017-12-06
「人生は失敗ばかり、後悔ばかり、という人ほどいのちの使いかたがあるのです。」
「生きているだけで価値がある。」(『いのちの使いかた』より引用)
日野原は78歳の時から「いのちの授業」と称して、いのちの大切さを伝えるために全国200以上の小学校で講演をおこなっていました。一貫して、命とは与えられた時間であり、人のために命を使うことの尊さについて語っています。
自身が長寿であることに関しても、「誰かのために使える時間が伸びたことに尽きる」と語る姿勢には感服するばかり。命という時間の使い方を示してきてくれていた彼の言葉が胸に刺さるでしょう。
100歳を超えてからfacebookなどのSNSを始めた、チャレンジ精神あふれる生き方を垣間見て、読むだけで元気もわいてきます。自分の人生を見つめなおすきっかけになる一冊です。
「健康法や実用書ではなく、人生において何が幸せなのかという本を書き残しておきたい」と話したことがきっかけで作られた本作。11日間、計20時間にもおよぶインタビューをまとめました。
この時日野原重明は105歳。まさに最晩年で、死の半年前まで制作を続けていた一冊です。
- 著者
- 日野原 重明
- 出版日
- 2017-09-27
「私が言葉によって支えられてきたように、迷い傷ついたあなたの心へ、私の言葉が届くことを願っています。」(『生きていくあなたへ 105歳 どうしても遺したかった言葉』より引用)
時にはベッドに横になりながらおこなわれたインタビュー。おそらく彼自身、もしかしたら誰かに言葉を届けられるのはこれが最後になるかもしれないと考えていたのではないでしょうか。
ただ死を直前に控えている状態にもかかわらず、その言葉のひとつひとつは軽やか。読者の心にもすんなりと入ってきます。冒頭で「死ぬのは怖くないですか」と問われた際には、
「恐ろしい……。あなたにそう聞かれるだけで恐ろしい……。」(『生きていくあなたへ 105歳 どうしても遺したかった言葉』より引用)
と飾ることなく赤裸々に恐怖の言葉を述べ、けれども死と生は切り離せないものであり、死とひとつになった生を生きることが大事だと語りかけてくれるのです。
日野原重明の集大成ともいえる珠玉の一冊。作中にたびたび出てくる「キープオンゴーイング」という彼の言葉のように、常に前に進み続ける人になりたいものです。
日野原重明は、身体に管を入れるなどの延命治療の一切を拒否し、自宅で家族に見守られながら、静かに105年の人生の幕を下ろしました。聖路加国際病院の院長は会見で、「年を取ること自体が未知の世界に1歩ずつ足を踏み入れていくこと。こんな楽しい冒険はない」と日野原が生前言っていたことを語り、自分の命がなくなる過程を客観的に眺めていたのではないかと分析していました。生き方だけでなく死に方も提示してくれた日野原の言葉は、いつまでも語り継がれていくべきものでしょう。