親指事件の渦中に読んだ傑作の3冊【橋本淳】

更新:2021.11.14

どうも、橋本淳です。 気づけば梅雨も明け、夏が来る前に(もう来ているような気候ですが)冷房の掃除などの家事に勤しもうと、重い腰を上げたところで、その事件は起こった。

1987年1月14日生まれ。2004年にドラマ『WATERBOYS 2』でデビュー。『連続テレビ小説 ちりとてちん』(07~08年)でヒロインの弟・正平を好演。以降、TV、映画、舞台と幅広く活躍中。 最近の出演作 舞台では、『君が人生の時』(17)、KERA・MAP『キネマと恋人』(16)、『クレシダ』(16)、『月・こうこう,風・そうそう』(16)、二兎社『書く女』(16)、KAAT『ペール・ギュント』(15)、新国立劇場『海の夫人』(15)、城山羊の会『トロワグロ』(14)、『HISTORY BOYS』(14)、新国立劇場『ピグマリオン』(13)、『耳なし芳一』(13)、ベッド&メイキングス『未遂の犯罪王』(12年)、『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』(12)、新国立劇場『温室』(12)など。TVでは『悦ちゃん』(17)、『PTAグランパ』(17)、『連続ドラマW グーグーだって猫である2』(16)、『連続ドラマW 夢を与える』(15)、『大河ドラマ 軍師官兵衛』(14)、『闇金ウシジマくん』(10)、『半分の月がのぼる空』(06)など。映画では『At the terrace テラスにて』(16)、『風が強く吹いている』(09)ほか。 ◆◆◆今後の出演作品◆◆◆
泡の子

慣れないことはするもんでないですね。普段家事なんかにやる気満々になることのない僕が、家事やるぜフィーバーな、無双状態になってしまったのがそもそもの原因か。

掃除機の先端を“細長い筒状の窓のサッシなどを吸い込むのに便利なあいつ”に変えようとしたところで、その事件は起こった。

ボタンを押し込みながら引っこ抜くとこにより、掃除機の先端のTになっている部位を抜くことができる仕組みなのですが、思ったより硬く、力任せにフンヌと強引にやろうとした結果、右手の親指の皮も、ベロリンと持っていかれてしまった次第でありました。これが最近、起こった小さな事件、親指事件であります。

事件と銘打っておりますが、親指先端のわずかなベロリンなので大事ではないのですが、この時代に右手の親指に傷を負うということは、生活に致命的なダメージを受けるのです。

それはやはりスマートフォンの台頭。考えてもみてください、今や携帯のロックを開けるのは暗証番号ですか? いやいや指紋認証です。もちろん暗証番号でも開けることはできますが、便利になりましたね、ワンタッチで触れるだけで開錠ができるのです(最近はもっとすごいやつ、顔認証なんてのもありますね)。

お気づきですね?

これが出来ないのです。不便になったものだ。

まぁ仕方ないと次の工程に進みますと、今度はメールです。親指一本で打っていたのが、これまた出来ず、あー不便。両手持ちスタイルになってしまうのです。これは雨の日なんて苦痛でしたよ、普段の手ぶらな状態なら構いませんが、傘という装備が追加されているものですから、不便極まりないのです。

こんな小さい傷に、まさかここまでやれらてしまうとは……。

そんな時は読書でもして、気を沈めましょう。

本のページをめくるたびに、

わずかにキレた右手の親指の先端が気になる。

ああ。うぅ。事件です。

そんな中、読んだ傑作の3冊です。

鍵のない夢を見る

直木賞受賞作。地方の町でささやかな夢を見る女たちの暗転を描いた傑作。彼氏が欲しい、母になりたい、普通の幸せが欲しい、5人の女性の夢と転落。

全部で5編あるのですが、どれも橋本好みのストーリー。人の思い、暗部、思案が見事な作品。普通に読み進めていくと、はっとした瞬間に夢から覚め、現実に戻される感覚。この時空を飛び越えさられるような感覚はやはり、本ならではの楽しみです。それを最大級に昇華しているのが、本作なのではないでしょうか。

心に刺さった一節

水風呂に入れられたように、胃の底から内臓が冷える感触がする。

ギケイキ 千年の流転

本屋に平積みされていて、目の止まる。映画『パンク侍、斬られて候』の公開もあるからか町田康作品が多く置かれた一角で、目に止まった。“ギケイキ”という文字。1ページ目をめくり、あぁ! “義経記”かと気づく。古典の源義経の話を、町田康が抱腹絶倒な小説に生まれ変わらせた。義経の一人称で語られる本作。現代口語で描かれ、読むスピードも早業のごとくグイグイ進みます。古典は苦手だなぁと感じていていた人には絶対おすすめ。パンキッシュな義経とメンヘラ気味な弁慶のキャラクター、歴史が現代に蘇る。

心に刺さった一節

庭に出て池の畔に立ち月光を浴びていると変態の吐息のような風が吹いていた。

虚人たち

泉鏡花賞受賞作。

妻と娘が同時に、しかも別々に誘拐される。自らが小説の登場人物であることを意識しつつ、主人公は必死に捜索を続ける。いくつもの実験的手法が含まれている、読者さえも立ちすくむ前人未到の話題作。

読み始めると、なんだか違和感を感じる。なんだろうと思っていると、ふと気付く。読点がないことと、セリフ以外の部分に改行がない。この文字がブワッと並んでいることへの違和感。これは時間の流れと描写が一致しているため文体は現在形で語られ、さらに時間が一定に流れているために、前述したことが無いとのこと。また他にも普通の小説との一線を引く手法があり、不思議な感覚に陥ります。ぜひ、この気持ちのいい違和感を感じてみてほしいです。

心に刺さった一節

食べている時間の経過は食べている描写や食べものの描写によって記憶されるべきです。

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