高い社会性をもつことで知られるミツバチ。農業や経済など、人間の生活にも大きく関わっています。この記事では、そんな彼らの生態や種類ごとの特徴、針の構造、ダンスなどについてわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
非常に高い社会性を持つことで知られるミツバチ。1日に1000以上もの卵を産む女王バチ、女王以外のメスで構成される働きバチ、女王と交尾をすることが仕事のオスバチで成り立っています。
体長は平均で9~20mm、巣の中で1番大きいのが女王バチです。寿命も、働きバチが数週間~1か月、オスが2週間~1か月と短いのに対して、女王バチは2~5年と長寿になっています。
単眼が3つ、複眼が2つの合計5つの眼をもっていて、光と色のほか紫外線も見ることができます。また口には蜜を吸うための舌と下唇、小顎が合わさった口吻という器官があり、この口吻を伸ばすことで花の蜜を吸っているのです。吸いあげた蜜はその場で食べるわけではなく、体内にある蜜袋に溜めて巣に運びます。
蜜を吸う時に体についた花粉は、前肢と真ん中の肢を使ってこそぎ取り、後肢のくぼみにある「花粉バスケット」に詰め込んで花から花へと運びます。蜜を分けてもらう代わりに、受粉を手伝っているんですね。
巣は、六角形の巣室が平面上にいくつも連なった構造をしています。これは最少の材料で優れた強度をもてる構造なんだとか。材料は、ミツバチの体内で作られた「蜜蝋(みつろう)」です。蝋腺という器官をとって排出され、前肢と大顎を使ってこねて歪みのないように形成していきます。
巣室は卵を育てたり蜜を貯めたりするのに使われるため、中身が落ちることのないようすべて上向きになっています。
またミツバチはフェロモンを発することでも有名です。同じ巣の仲間を判別したり、外敵が攻めてきたことを伝達したりしています。またこのフェロモンをコントロールしているので、メスの働きバチが卵を産むことはありません。
現生しているのは9種類です。養蜂に使われているセイヨウミツバチと、日本でも野生で姿が見られるトウヨウミツバチ以外は限られた場所にしか生息していません。では代表的な種類を紹介していきましょう。
・セイヨウミツバチ
蜂蜜の採取や、商業用作物の受粉を目的として、日本を含む世界中で飼育されている種類です。南極大陸以外のほぼすべての陸地に生息。体長は13~20mmほどになっています。
野生下では15万匹を超える働きバチを抱えるコロニーも確認されるほど、非常に高い社会性をもつことで知られています。ただ亜種によっては高い攻撃性をもっていることもあるため、野生で見かけた際は刺激しないほうがよいでしょう。特に冬の時期は気性が荒くなるため注意が必要です。
・トウヨウミツバチ
日本では北海道から九州にかけて、そのほか南アジアと東南アジアなど幅広い範囲に生息している種類です。体長は12~19mmです。
養蜂に使われることもありますが、移住性のため巣箱を脱走することが多く、飼育には適していません。
日本に生息するニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜種とされていて、独自の進化を遂げています。獰猛なスズメバチに対抗するために、働きバチがスズメバチを中心に置いて球状に固まる「蜂球」と呼ばれる形態を取ることがあるのです。蜂球の中心部の温度は47度まで上昇し、中にいるスズメバチを蒸し殺してしまいます。
このほかスズメバチなど外敵が巣を襲おうとすると、入口付近で素早く腹部を振動させ、巣への着地を防ぐ振身行動をとることもあります。
・オオミツバチ
東南アジアに生息する種類で、体長は17~32mmほどと大型。腹部が長いのが特徴です。
飼育をするのは難しい獰猛な性格をしていますが、自然下の大きな巣を狙ったハニーハンティングが東南アジアでは長くおこなわれています。
・コミツバチ
アフリカの北東部からマレーシアにかけて生息する種類で、体長は8~16mmともっとも小型。黒い縞がある赤身を帯びた体色が特徴です。
ミツバチのなかでも原始的な種であると考えられています。
・サバミツバチ
ボルネオ島、マレーシア、インドネシア、ブルネイの熱帯雨林にのみ生息する希少種で、体長は10~22mmほど。赤みがかった体色です。
トウヨウミツバチと同じルーツをもっているそうで、外見もそっくりです。島での生活に適応するように進化したのが本種だと考えられています。
働きバチは、体内にある毒嚢に「アピトキシン」という毒を溜めています。毒嚢と刺し針が繋がっていて、敵を針で刺した際にそのまま相手の体内に毒を流し込める仕組みです。
指し針には返しの役割を担う小さな棘が生えていて、1度刺してしまうと抜くことは困難です。そのためミツバチは、相手を指した後に針と毒嚢を体から落とします。そしてほどなくして死んでしまうのです。
ただこれは人間が相手の場合です。他の昆虫など人間の皮膚よりも柔らかい皮膚をもつ相手の場合は、針を抜くことができるので、1度指しても命を落とすことはありません。
ちなみに毒に含まれている「アピトキシン」は、タンパク質の混ざりあった化合物です。そのなかでも「メリチン」という成分に、HIVに感染した細胞のみを殺す働きがあることが確認されており、ミツバチの毒を医療に役立てる研究が進められています。
ミツバチがダンスによってコミュニケーションをとっていることを発見したのは、ノーベル生理学・医学賞を受賞しているドイツの動物行動学者、カール・フォン・フリッシュです。
主に餌を採集できる場所を見つけると、ダンスをするように動きまわり仲間に伝達します。その種類は多く、たとえば巣の近くに餌場がある場合は、円を描くように丸く歩き振り向いてから反対方向にもう1度丸を描きます。
巣から50m以上離れた遠くの場所に餌場がある場合は、8の字を描いて飛び、お尻で餌場の位置を伝えます。巣からの距離が遠いほど8の字が大きくなり、さらに食糧の質がよいほど激しく踊るそうです。これだけの情報量を理解していることが驚きです。
ダンスをしている個体に対し、他の個体が頭突きをして止めさせることも確認されており、これには「その餌場は危険だから近づかない方がよい」というメッセージがあることも確認されています。
- 著者
- Juergen Tautz
- 出版日
- 2010-07-01
ミツバチの集団行動について、美しい写真とともに解説している作品です。
女王バチとオスを生殖機能、働きバチを体を構成する組織と考えた場合、コロニーはひとつの生物であるとして、コロニーの成り立ちから彼らの生態を紐解いていきます。
女王バチのみが出産するという、遺伝的多様性のない彼らが命をつないでこれたのは、優れた子育て方法があるからだそうです。コロニー全体で種を守ろうとしていることがわかるでしょう。
また巣の中の様子がわかる貴重な写真も満載です。どの項目も非常に詳細に記されているので、ミツバチについて詳しく知りたいという方におすすめの1冊です。
- 著者
- トーマス・D. シーリー
- 出版日
- 2013-10-14
新しい女王バチが誕生すると、古い女王バチはコロニーに棲む半数の働きバチを連れて巣を出ていくそうです。本書は、旅立った彼らが新しい住処を決める時を例に挙げ、ミツバチがどのように意思決定をしていくかに迫った作品です。
新しい巣の場所を決める際、まずは探索の任を請け負った働きバチと探索バチが出発します。そのなかで支持する候補地が対立すると、探索に行かなかった個体で多数決をし、より多く支持された場所に決定するという民主的な方法をとっているのです。このプロセスをさらに細かく分析するために、著者は気の遠くなるような調査をしています。
常に最良の結果を求めて民主的な判断をする彼らから、人間が学べることもあるはずです。ミツバチの集団IQの高さに驚かされる1冊です。
1匹の個体の体の構造を見る限り、他の昆虫と比べて特段優れているわけではないミツバチ。ところが集団になると、人間顔負けの高い能力を発揮します。興味をもたれた方は、ぜひ紹介した本をお手に取ってみてください。