挑戦的なタイトルが並ぶジェーン・スーの著作は、アラサーアラフォー世代の女性を中心に支持を受け「未婚のプロ」という異名をとるほど人気を博しています。鋭い観察眼で物事の核心を突く彼女の作品をご紹介しましょう。
外国人のような響きの名前ですが、これはペンネームで、本人は生粋の日本人女性。なんでも外国人割引プランのあるホテルに泊まる際に偽名を使い、そのままペンネームにしたというつわものです。
1973年生まれ、東京都の出身で、自称「未婚のプロ」として音楽プロデューサー・作詞家・コラムニスト・ラジオパーソナリティなどマルチに活躍しています。
SNSで書いていた日記を読んだ編集者から声をかけられたのがきっかけで、雑誌「GINGER」でコラムニストとしてデビュー。また自己紹介代わりに書いていたブログから多数の執筆依頼が舞い込むなど、インターネットがブレイクの出発点となっています。
『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』はテレビドラマ化もされ、大きな話題となりました。
24歳で母親を亡くしたジェーン・スー。母親から彼女の人生について聞かなかったことを後悔したそうです。本書は、もう同じ失敗をくり返さないようにと、80歳になる父親に彼の人生を聞き絆を深めようと悪戦苦闘するさまを描いたエッセイです。
戦時中に生まれて必死に働き、子をもうけ、妻を失った父親の物語は、明るく楽しいことばかりではありません。どの家族にも表と裏があるのです。
- 著者
- ジェーン・スー
- 出版日
- 2018-05-18
ジェーン・スーはひとりっ子なうえ未婚なため、母親が亡くなった後は家族は父親しかいません。それなのに、父親のことを何も知らないとあらためて思い返す冒頭のシーンが印象的です。
父親と娘の間には、どこか見えない壁があり、特に思春期以降はぐっと会話が少なくなる家庭も多いのではないでしょうか。著者自身も反発し、ぎくしゃくしたものを抱えていた時期が長かったそうです。
それでもいま、父親に聞いておかなければ絶対に後悔すると、筆をとる想いの強さ自体に心動かされるでしょう。
「不完全ながらも気楽な我が家。それは私が私を納得させるために長い時間をかけ完成させたスローガンだ。押入れの秘密を暴いたせいで、掲げた旗はどこかへ飛んで行ってしまった。 」(『生きるとか死ぬとか父親とか』から引用)
父親もなかなか普通ではない人物で魅力的。憎い部分もあるけれどそれでも家族で、「家族」の在り方や関係性を考えさせられる作品です。
自称「未婚のプロ」であるジェーン・スーが、自らと同じ「未婚中毒患者」に送る痛快人間観察エッセイです。
プロポーズされない101の理由をイラスト付きで解説。未婚予備軍に対し、私みたいにこんなことをしていたら一生未婚だよと、鋭い目線と痛快な言い回しで警告……というよりは笑い飛ばしてもらおうという作品でしょう。
- 著者
- ジェーンスー
- 出版日
- 2015-09-04
もしも結婚したいなら、自分で稼いで生活できる自由さを手放せなくなってしまった「独身ジャンキー」のジェーン・スーを反面教師にすべきだと警告する、痛快エッセイです。
プロポーズされない理由は、ひとつひとつは女性であれば「あるある」と共感できるものばかりですが、さすがに101も集まると圧巻。
「仕事でヘトヘトな彼を、休日のIKEAに連れて行ったことがある。」
「ミネラルウォーター以外の水を飲まない。」
「ネットの噂を、いちいち彼に報告する。」
「だから言ったじゃない、と彼を小馬鹿にしたことがある。」
「よんどころない事情もなく、実家に住み続けている。」(『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』から抜粋)
身に覚えのある女性読者の胸にグサグサと突き刺さるでしょう。こじらせっぷりと、それに自ら切り込無鋭いツッコミが魅力の作品です。
ジェーン・スーのブログを加筆修正したものに、書き下ろし20本を加えたボリュームたっぷりのエッセイ集です。
女性たちが見て見ぬふりをしてきた恋愛や結婚、そして老後にいたるまでのさまざまな問題を、核心をつく物言いと毒舌でぶった切り、すっきりさせてくれること請け合い。「講談社エッセイ賞」を受賞しました。
- 著者
- ジェーン・スー
- 出版日
- 2016-04-12
「板垣死すとも自由は死せず!加齢すれども女子魂は死せず!
(中略)
実は女子女子言ってる女たちも、自分がもう女子という年齢ではないことを十分自覚しております。それでも『自称女子』が跋扈するのは、『女子』という言葉が年齢ではなく女子魂を象徴しているからです。スピリッツの話をしている当事者と、肉体や年齢とメンタリティをセットにして考えている部外者。両者の間には大きな乖離があります」(『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』から引用)
女性にはいつだってもやもやする諸問題があります。いったいいつからババアでおばさんなのか、カワイイについて、男女間の友情についてなど……ひとつひとつに決着をつけてくれる、ジェーン・スーの小気味よい口調が痛快です。
全体的に辛口ですが、根底にはアラサーアラフォー世代への愛があふれていて、楽しく読み進めることができるでしょう。
赤い口紅やイヤフォンから流れる音楽、オーガニックや誰かをまねた髪形など、女性が社会から身を守り自分を奮い立たせるためには、さまざまな「甲冑」を身につけなければなりません。軽やかに着こなす誰かを見ては、自分の心のクローゼットにある一貫性のない甲冑にため息をつくことも……。
女である自分が嫌いなわけではないけれど、戸惑い、もてあまし、外からの期待につい反発してしまう女性に送るエッセイ集です。
- 著者
- ジェーン・スー
- 出版日
- 2016-05-28
「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。ならば、手持ちの甲冑と未入手の甲冑、それぞれ身につけ精査してみようではないか。フランス人は10着しか服を持たないと言うし、ときめくものだけ残せと言う人もいる。思い込みのストッパーを外し、似合うか否か、必要か否かを頭で決めつける前に試してみる。無理だったら大袈裟に傷付かず、ハハハと笑って次へ行こう。どうしても手放せないなら、納屋にでもしまっておけばいい。」(『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』から引用)
雑誌「CREA」での連載に加筆し、女として生きるというテーマに真正面から挑んだエッセイ集です。
世間や時代、社会と戦うための装具として「甲冑」という言葉を使っていますが、身に着ける服や髪形、化粧などを指しているだけではなく、考え方や生き方、行動なども含まれています。
オーガニックや京都、ヒーリング、宝塚、ディズニーランドなどとりあえずいろいろやってみようという明るさと、素敵だろうけど面倒くさくてとてもやる気がしないというコンプレックスがバランスよく描写され、同世代女性の心をえぐります。
ジェーン・スーが支持されるのは、単なる承認欲求のようなグチを言ったり、あるあるネタを並べたりしているだけでなく、自分自身を客観視してきちんと説明できているからでしょう。なぜ自分がそれを好きなのか、それを好まないのか、辛辣ながらも語られていて、読者も納得できるのです。
連載していた雑誌のターゲットが「20代から30代の経済的に自立した女性」のため、アラフォーにはまだ届いていないけれども「女性」であることをなんだか持て余している若い年代の方でも楽しむことができるでしょう。
働く女性のオアシス、「マッサージ」。ジェーン・スー自身も、いったいいくら使ったんだと途方に暮れるほど通いまくったそうです。
本書は、そんな彼女のマッサージ遍歴と、そこで働くセラピストへの経緯や共感がつまったエッセイ集です。
軽快な語り口で心のコリをほぐしつつ、マッサージ店に行ってみたいという方の指南書にもなるようさまざまなジャンルの店を紹介しています。
- 著者
- ジェーン・スー
- 出版日
- 2017-03-21
雑誌「AERA」に連載されていた、自腹でマッサージに通いまくるエッセイ。身体のコリをほぐすのは自分でもできるけれども、人の手でやってもらうことに意味があるのだと彼女は語ります。
都内を中心に、街中の激安マッサージ店から接骨院、岩盤浴、スウェーデン式、チャイナ式、ドイツ式、足裏マッサージ、ダイエット鍼、ミネラル湯治などあらゆるリラクゼーションを網羅しているといってもよいでしょう。
「『女のマッサージは男の風俗』などと揶揄する声が、うっすら聞こえなくもありません。有技能者の徹底的なケアをお金で買うことが、風俗のひとつの側面だとしたら、『それについては、のちほどゆっくり考えよう』と凝り固まった首をシャリシャリ鳴らしながら、私は地味に頷くしかない。」(『今夜も金で解決だ』から引用)
マッサージのレポートなんて面白くなさそう、と侮るなかれ。そこに集まる人々や施術者との交流を見ていると、読者の疲れも癒されていきます。