教科書やニュースなどでよく目にする「OPEC」。石油に関するものだということは知っているかもしれませんが、どのようなことをしている組織なのかご存知でしょうか。この記事では、加盟国などの概要、結成された目的や意味、協調減産の仕組みなどをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
OPECとは、「Organization of the Petroleum Exporting Countries」の頭文字をとった略称で、日本語でいうと「石油輸出国機構」です。
石油産出国の利益を守ることを主な目的として1960年9月14日に設立され、本部はオーストリアの首都ウィーンに置かれています。設立当初の加盟国はイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5ヶ国。その後加盟国は増え、2018年7月の時点では全部で15ヶ国です。
産油量に関わらず、加盟国から一律で拠出される資金で運営されています。最高決定機関は、6月と12月の年2回開催される総会。全加盟国が参加し、原油生産量や価格の調整などをしています。
産油量・埋蔵量ともに、加盟国内最多を誇るサウジアラビアがリーダー的存在とされていますが、議決は全会一致が原則なうえ、決定事項を加盟国に強制する仕組みも存在しないので、その指導力は強いとはいえません。
かつて東洋一の産油国といわれていたインドネシアは、1962年に加盟。しかし資源の枯渇や油田への投資不足、経済成長による原油使用量の増加などもあり、2004年には輸入が輸出を上回ることに。2009年に脱退して2015年に再加盟しましたが、2016年に総会で決定した協調減産に参加しなかったためわずか1年でメンバーシップ停止になっています。
OPECは最盛期である1970年代には世界全体の産油量の60%以上を握り、強い価格統制力を持っていたことから「世界最大のカルテル」と呼ばれていました。
ロシアやメキシコなどOPECに加盟していない国や地域の産出量が増えるにつれて徐々に影響力は弱まっているといわれていますが、現在でも世界の産油量の40~50%を握っており、依然としてエネルギーバランスの大きなウエイトを占めています。
第二次大戦の終結後、石油の価格決定権はセブン・シスターズと呼ばれる7つの巨大企業から成る「国際石油資本」が牛耳っていて、彼らは強固なカルテルを形成し、莫大な利益を得ていました。
原油価格を安値で安定させることで、先進各国の復興と経済成長に貢献した一方で、産油国の利益は削られてしまっている状況でした。
1950年代に入ると世界各地でナショナリズムが勃興し、資源の利益を途上国に戻そうと主張する資源ナショナリズムの考えが広がっていきます。また中小の石油会社ができたことやソ連のような社会主義国でも産油量が増加したことにより、国際石油資本による支配に綻びが生じ始めました。
1959年2月、国際石油資本が産油国の了承なしに原油公示価格の引き下げを発表すると、これに反発した産油国はアラブ石油会議を開き、国際石油資本に対して原油価格改定時の事前通告を要求。しかし拒否されてしまいます。
この会議にはアラブ諸国だけでなくイランとベネズエラも招かれていて、ベネズエラの鉱山炭化水素大臣ぺレス・アルフォンソと、サウジアラビアの石油鉱物資源大臣アブドゥッラー・アッ=タリーキーとの間で、南米と中東の産油国が団結する協定が結ばれます。
翌1960年8月に再び国際石油資本が公示価格の引き下げを発表すると、これに反発した産油国5ヶ国がイラクのバグダッドに集まり、OPECを設立しました。
国際石油資本から石油輸出国の利益を守ることを主な目的として誕生したのです。
石油関連の報道などでよく耳にする言葉のひとつに「協調減産」というものがあります。協調減産とは、簡単にいうと産油国が協力し、世界の原油の産出量を減らすことです。
最近では2016年12月にOPECとロシアなど非加盟国の主要産油国が会合を開き、世界の原油生産量を2%削減することで合意しました。仕組みとしては各国に生産枠を設定することで、過剰な原油が市場に出回ることを防ぎ、だぶついている在庫の削減を図るというものです。目的は原油価格の引き上げにあります。
この流れの背景にあるのが、エネルギー関連のニュースで話題にのぼる「シェールガス」。シェールガスが原油の代替エネルギーになり得るものだとして市場に出回り始めたため、原油のシェアを奪われてしまうという危機感が強まったのです。
そこで対抗処置として、まずは生産コストが高いシェールガスを市場から締め出そうと、原油価格を下げることで価格競争を仕掛けました。しかし技術の進歩などでシェールガスの生産コストが下がったため、産油国の思惑どおりにはいきませんでした。
原油価格を下げることは、シェールガス企業を苦しめる効果もありますが、その反面で原油の収入に依存している産油国にとっては自らの首を絞める行為でもあります。耐えきれなくなった結果、原油価格を上昇するために協調減産を実施することとなったのです。
OPECとよく似た名前の「OAPEC」という組織があります。「Organization of the Arab Petroleum Exporting Countries」の頭文字を取った名称で、日本語では「アラブ石油輸出国機構」といいます。
1968年の1月にクウェート、リビア、サウジアラビアの3ヶ国で結成され、2018年現在の加盟国は資格停止中のチュニジアも含めて11ヶ国です。OPECとは異なり、中東と地中海沿岸の北アフリカ諸国のみで構成されているのが特徴です。
本部はクウエートの首都クウェートシティに置かれていて、石油産業を中心に経済活動の協力を図ることを目的としています。結成のきっかけは、1967年に起きた「第三次中東戦争」の際、OPECに加盟していたアラブ系の産油国とそれ以外の国の間で、アメリカ、イギリス、西ドイツに対する石油の輸出をめぐって対立したこと。
OPECに加盟していた国のなかで、アラブ系の国々のみが独立してOAPECをつくったのです。よく似た名前の両者で加盟国も一部重複していますが、別の組織だと覚えておきましょう。
- 著者
- 岩瀬 昇
- 出版日
- 2016-06-20
元商社マンであるエネルギーアナリストの作者が、原油価格形成の仕組みを解き明かしてくれる一冊です。
原油価格は、ガソリン代や航空チケット代など読者にとっても身近な問題で、時に経済を大きく混乱に陥れる可能性があるものです。直近では、2016年前半に一時、20ドル台にまで下落し、世界経済に大きな影響をおよぼしました。時には、国家間の関係にも破門を広げることもあります。
本書では最新データと作者の経験を活かして、その価格形成の基礎知識を身に着けていくことができます。OPECが果たしている役割や影響がよりわかりやすくなるでしょう。
エネルギーの大半を原油に頼っている私たちにとっても、無視できる話ではありません。ぜひ本書を読んで、経済の流れを理解してみてください。
- 著者
- 松尾 博文
- 出版日
- 2018-02-17
1972年に「ローマ・クラブ」という民間のシンクタンクが「あと20年で石油は枯渇する」と発表してから間もなく50年が経とうとしています。しかしいまだに石油は枯渇することなく、人類の文明を支え続けています。
ただ、我々はエネルギー大変革の時を迎えているといえるでしょう。 石油などの化石エネルギーから太陽光などの再生可能エネルギーへの転換が進み始めています。
かつて欧米は、中東の石油を抑えることで莫大な財を蓄え、世界の覇権を握りました。OPECも、現状では世界最大のカルテルと呼ばれていますが、100年後には再生可能エネルギーを牛耳るものが権力を得るようになるのかもしれません。
本書では、そのような時代に世界はどう動いていくのか、そして日本はどうするべきなのかが解説されています。緻密な取材と調査で、世界で起きていることをつぶさにまとめ上げ、説明しているのが特徴です。