「お葬式」「マルサの女」など数多くの映画作品を世に送り出した伊丹十三。もともとは俳優として活躍し、さらには戦後日本にエッセイと定着させたエッセイストでもあるのです。彼が残した著作のなかから特におすすめのものを厳選してご紹介していきます。
1933年に映画監督である伊丹万作の長男として生まれた伊丹十三。俳優や映画監督、テレビ番組制作、エッセイストなどとして活躍したマルチタレントです。
監督デビューをしたのは1984年年のこと。処女作である「お葬式」が「日本アカデミー賞」や「芸術選奨新人賞」など30以上の賞を受賞するという華々しいスタートを飾りました。
また共著や翻訳を含め多くの著作を残しています。映画作品でも見られた独特の「伊丹節」が作品にあらわれていて、彼の感性は今も色あせることなく読者を楽しませているのです。
1997年に、64歳という若さで突然亡くなりました。
1965年に発表したエッセイ集で、伊丹十三の文筆家としてのデビュー作でもあります。
俳優の仕事をするためにヨーロッパに長期滞在した際のあれこれをまとめた短文集。テーマは多岐にわたり、当時としてはかなり斬新で目新しい形の文章で、戦後の日本において初めて「エッセイ」というものを形にしたものだったそうです。
- 著者
- 伊丹 十三
- 出版日
- 2005-03-02
伊丹が20代の頃に書いたとは思えないほど完成された文体で、教養やユーモアを随所に感じさせてくれる作品です。酒や車、食などの身近なことから、映画や英国紳士などについても語っています。
1960年代の作品なため時代を感じる内容もありますが、シニカルな文化批判はむしろ新しくも感じられ、日本男児の「粋」を思わせてくれる部分も多数。キザとダンディズムに溢れています。伊丹十三の感性の鋭さを堪能できる一冊です。
1968年に刊行されたエッセイ集です。スパゲッティはうどんではない、セーターはカシミヤに限る、目玉焼きの正しい食べ方、酒の正しいたしなみ方など、伊丹十三が「これが本物だ」と信念を抱いている事柄について綴っています。
自身の体験したエピソードも惜しげなく披露し、恋愛や人生を語る伊丹。男性の読者を想定されて書かれた作品ですが、もちろん女性も楽しめるでしょう。
- 著者
- 伊丹 十三
- 出版日
- 2005-03-02
似非欧米文化に対し、「本物はこうだ」と語る内容です。彼いわく、上っ面を盗むだけでなくきちんと本物を知り、本物を凌駕するところまでいきつけばいいのだそう。
「優れたものを取り入れる時にはそれを自分の狭い視野と貧しい感覚でもって、低い次元にまで引きずりおろし、歪曲するということをするべきではない、というのだ。根本精神をあやまたずに盗め!」(『女たちよ!』より引用)
また、いまでは当たり前になったスパゲッティのアルデンテやアヴォガドを紹介したり、さらには女性は程度が低いので苦手だと豪語したりと、現代の価値観とは異なる表現も多々登場します。それがかえって、当時の彼の人より1歩進んだ視点を浮き彫りにしているのです。
ミカンの皮の剥き方、女性の生理、天皇の日常など、伊丹十三がどこかで聞いたいわゆる「世間話」をまとめた珠玉の一冊です。
1974年から76年まで雑誌「話の特集」に連載していた文章と、「週刊文春」に掲載した文章がメイン。そのほかインタビューや座談会も楽しめます。
- 著者
- 伊丹 十三
- 出版日
- 2005-06-26
内容は、これぞノンフィクションエンターテイメントとでもいうべきもの。さまざまな人物との世間話をまとめただけなので、嘘か本当かわからない話や、役に立つのかわからない話ばかり。それが伊丹十三の筆にかかると面白くなってしまうのです。
洋食屋の主人が延々とオムレツの作り方を説明しながら実演しているものに伊丹が相槌を打つだけの話や、後の映画の元ネタになっているのではないかと思わせるわがままな病人の話など、うなったり笑ったり、時にはちょっと怖くなる話まで盛りだくさんです。
素朴でありながらも、大人たちを困難な状況に陥れる子どものさまざまな質問。時に人間の本質をついていることもあり、だからこそ難問なのです。
本書は、そのなかでも科学的な疑問に絞り、専門家に回答を聞いた後に伊丹十三がエッセイ風に執筆した作品になっています。
- 著者
- 伊丹 十三
- 出版日
やはりタイトルが秀逸です。突然子どもから質問された時、答えに窮しておもわず「ママ(もしくはパパ)に聞きなさい」と言ってしまった方もいるのではないでしょうか。
たとえば「空ハナゼ青イノ?」といった定番の疑問から、「人工衛星ハドウシテ落チテコナイノ?」「北極ヘイクト東西南北ハドウナルノ?」のように本当に難しいもの、さらには「ナゼドンドンオ札ヲスッテ貧乏ナ人ニアゲナイノ?」といったものまで、質問は多岐にわたります。
回答の随所に伊丹十三のユニークさが現れているのが面白いポイント。またどうすれば子どもの好奇心を伸ばすことができるのか、人にわかりやすく説明できるのかも学ぶことができ、とにかく伊丹の造詣の深さに感服できる一冊です。
雑誌「考える人」の伊丹十三追悼号をまとめ、加筆した作品です。
映画監督、俳優、エッセイスト、イラストレーター、デザイナーとさまざまな分野で才能を発揮した伊丹。まさに天才といえる人物でしょう。そんな彼の若い頃の写真や愛用品の数々、手紙、未公開原稿、親交のあった人々へのインタビューなどが収録された愛蔵本です。
- 著者
- 出版日
- 2005-04-21
伊丹十三はマルチに活躍していたためファン層が広く、またそれぞれのファンが彼のどの部分を評価しているのかもさまざま。本書はなるべくすべてのファンが満足できるよう配慮された編集になっていて、この一冊で伊丹十三という人物の全貌が見渡せるでしょう。
早すぎる死は悲しくスキャンダラスでしたが、彼が何を大切にして生き、周りの人たちとどのように接していたのか、その人生にぜひ触れてみてください。