『蔵六の奇病』がヤバすぎ!4つのトラウマ要素をネタバレ紹介!

更新:2021.11.28

『蔵六の奇病』は独特なタッチで知られるホラー漫画家・日野日出志の代表ともいえる短編作品です。奇妙な「ねむり沼」の近くにある村に住む蔵六は、7色の吹き出物が全身に現れる奇病にかかりました。彼は村人から隔離され、やがて吹き出物の膿で絵を描き始めます……。 五感に訴えかけてくる不気味な絵柄が、読者を得体の知れない恐怖に陥れる怪作です。気になった方はぜひご覧ください。

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『蔵六の奇病』がやばい!隠れた名作トラウマ漫画をネタバレ紹介!【あらすじ】

 

昔あるところに、蔵六という若者が住んでいました。彼はあまり頭が良くなく、百姓にも関わらず絵を描きたがるという変わり者。

ある年の春、そんな彼の体に異変が起きるのです。

 

著者
日野 日出志
出版日

 

それは、毒々しい色をした吹き出物でした。最初顔だけでしたが、気付けば全身くまなく広がっていたのです。医者に診せても、この奇病の原因はわかりませんでした。

流行病を恐れた家族は、彼を近くの森に隔離することを決めます。その森には奇妙な沼がありました。死期迫った動物が自然と集まってくるという、「ねむり沼」です。

彼はその沼近くの森で、絵を描いて過ごすようになるのですが……。

 

作者・日野日出志とは?

 

日野日出志(ひのひでし)は、1946年生まれの漫画家です。

元々子供のころから漫画が好きだった彼は、ギャグ漫画家を志望していました。ところが、ギャグ漫画の巨匠・赤塚不二夫という才能に触れてギャグを諦め、作風を転換します。

1967年に「COM」の月例新人賞に、『つめたい汗』が入選したことでデビュー。この作品はホラー漫画ではありませんでしたが、人物の造形やねっとりとした感情表現の巧みさは、この時点ですでに見られます。彼の叙情的なストーリーテリングは日本国内に留まらず、欧米にもファンが生まれるほど普遍的な魅力があります。

また、同じころにサブカル系雑誌の元祖ともいえる「ガロ」誌でも入選。「ガロ」と「COM」。サブカル分野で有名な2誌において、どちらでも認められた非凡さが窺えます。

そして彼は『蔵六の奇病』を発表し、ホラー漫画家としての地位を確固たるものとしました。わずか40ページあまりの短編に推敲を重ね、1年がかりで描き上げたという、まさに心血注いだ逸品なのです。

そんな本作について、これから掘り下げていきたいと思います。

 

トラウマ要素1:変化する蔵六の体が恐ろしい…

トラウマ要素1:変化する蔵六の体が恐ろしい…
出典:『蔵六の奇病』1巻

 

本作はとにかく、主人公である蔵六の変化がきついです。

怪しくおどろおどろしい雰囲気、得体の知れない病状、後に詳述しますが村社会の閉鎖感も相まって、ビジュアルと精神の両面から不気味さを演出してきます。

おでき、吹き出物のたぐいは、普通の人にも体の変調や病気の前触れとして出てくるもの。ところが彼のそれは、尋常ではありません。顔中ぶつぶつが発生し、トライポフォビア(蓮の花の実や、蜂の巣などの穴が密集した状態に恐怖心を覚えるという、いわゆる集合体恐怖症)を引き起こしかねない勢いなのです。

控えめにいっても不細工な蔵六がそんな有様となり、最終的に吹き出物が全身を覆っていく様子は、苦手な方にはとことん気持ち悪く映るでしょう。

そのうえ、でき物からどろりとした膿が出てくるようになります。作中で7色と称される膿の色が、読者には白黒にしか見えないのがせめてもの救いです。だからといって、生理的嫌悪感が払拭されるわけではありませんが……。

 

トラウマ要素2:自分の体から出たウミで絵を描く!?

 

あらすじでも少し触れましたが、蔵六はなぜか絵を描くということに執着しています。

その衝動の理由は一切語られません。強いて考察するなら、彼の生きざまそのものとでもいうべきでしょう。

奇病にかかる前から、彼は絵について考えていました。生きとし生けるもの、ありとあらゆる美しい動植物を、その躍動感とともに、生き生きとした「色」をどうにか写し取りたいと思っていたのです。

しかし悲しいかな、その想いは閉鎖的コミュニティで理解を得られません。そして想いは募るばかりで、鮮やかな色を調達することも彼には出来ませんでした。

そこに現れる全身の吹き出物。でき物を潰すと、7色の膿が出てくるのです。彼はその膿を集めて、絵の具にすることを思い付きました。

膿を絵の具にした絵画。不気味で気持ち悪さしか感じられませんが、どのような出来映えになるのでしょうか。

 

トラウマ要素3:村人たちの言動に人間の恐ろしさを感じる

トラウマ要素3:村人たちの言動に人間の恐ろしさを感じる
出典:『蔵六の奇病』1巻

 

蔵六の家は百姓です。彼らが所属するコミュニティである村の人々も、大半がそうでしょう。

時代は定かではありませんが、あまり裕福ではない時代(江戸時代?)のようです。

百姓にとっては日々の糧、開拓と農作物を育てることが何よりも大事。疎かにしては生きていきません。それが彼らにとっての正常であり、正しい価値観なのです。そんな村人や家族には、蔵六の絵を描きたいという衝動が理解出来ない異分子として映ります。その結果、文字通りの村八分が起こりました。

蔵六の実兄を除いて、両親は彼に同情的でした。特に母親は村を離れてからも、密かに彼の援助をしています。

しかし、彼が森に入ってから、やがて森全体が悪臭に包まれるようになりました。その根源は、蔵六です。彼は隔離しても、まだ村の脅威となっていたのでした。そして彼の唯一の味方だった母親すら止められない、排斥へと向かっていくのです。

わからないから、気持ち悪い。理解出来ないから、排除したい。人間の心の闇が感じられます。

 

トラウマ要素4:『蔵六の奇病』のラストが切なすぎる!最後は亀になる!?

著者
日野 日出志
出版日

四季は巡り、蔵六の病状は進行していきます。餓鬼のように痩せ細り、肌は潰れ、両目も腐り落ちてしまいました。怪物扱いされた彼が、本当に怪物になったように見えます。

冬になって、村人は総意として、彼の討伐を決意。しかし森に分け入った村人達は、蔵六がいなくなっていたことに気付きます。

そして、それと入れ替わるように、美しい亀が現れました。綺麗な7色の甲羅を背負った、目のない亀です。

その亀の正体は、最後まで語られません。蔵六を含めて醜いもの、汚らわしいものが集まる「ねむりの沼」で、美しさのあまり村人の目を奪った亀。本当に醜かったのは誰なのか……ぜひ実際に読んで、考えてみてください。

ひょっとすると、閉鎖社会から爪弾きにされた蔵六は、かえって幸せだったのかもしれません。

いかがでしたか?生理的な嫌悪感を抱かせるだけでなく、読後にもの悲しさも感じさせるのが、日野日出志の最高傑作といわれる所以なのでしょう。


日野日出志による『毒虫小僧』について紹介した<『毒虫小僧』の4つのトラウマ要素をネタバレ紹介!ヤバすぎグロホラー漫画?>もおすすめです。ぜひご覧ください。

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