陸上のカマキリ、空中のオニヤンマと並び、水中の最強ハンターとして知られるタガメ。実は個体数が減少していて、絶滅危惧種に分類されています。この記事では、彼らの生態や毒性、飼育方法、料理の味などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
カメムシ目コオイムシ科に分類される昆虫で、全長は50~70mmほどです。水中に棲む昆虫のなかでは、日本でもっとも大きいです。
かつては北海道を除く全国の水田や水溜まりに生息していましたが、綺麗な水の中でしか暮らせないため、東京、神奈川、長野、石川などの野生種は絶滅したと考えられています。またその他の地域でも個体数を減らしてしまいました。
さらに、タガメが生息できるような綺麗な水質の場所には、同じくカメムシ目のタイコウチなども共存していることが多く、幼虫が他の肉食昆虫に捕食されてしまうことも数を減らしている原因だといわれています。
食性は肉食で、頭部にある角のような大きい2本の前肢を使って獲物を捕獲します。待ち伏せ型の狩りが得意です。尻から伸びた呼吸管を水面に出して呼吸をするため、頭を下にした状態で、周囲の泥や石に隠れながら待機します。自分の体の数倍も大きい蛙や魚を捕食することから、水生昆虫のなかで最強と呼ばれているのです。
獲物を捕食する際は、2本の大きな前肢で組み付いた後、口から棘のような口吻を伸ばして相手の体に突き刺します。麻痺毒と体組織を溶かす消化液を流し込み、相手の肉を溶かしてから食べるのです。
前肢の先には鋭い鉤爪が付いているため、たとえばドジョウのような体の表面にぬめりのある生き物も捕食することができます。
麻痺毒も非常に強力で、マムシのような体が大きく獰猛なものも3分あれば動きを完全に封じることができるそうです。
この麻痺毒や消化液は人間に対しても有効です。命を落としたり体組織が溶かされたりする心配はありませんが、激しい痛みがあり、口吻が刺さった箇所は赤く腫れあがることもあります。そのためタガメを捕獲する場合は側面を持つようにして、頭の前に指を出さないように注意する必要があります。
タガメを飼育する際は、大型の水槽を用意し、底に砂利を5cmほど敷いて、水を10cmほどの深さまで入れましょう。繁殖させたい場合は、水草と、水面から10cm以上出る長さの棒を刺し、産卵場所を作る必要があります。
水槽は直射日光が当たらない場所に置きましょう。布などを掛けて部分的に日陰を作ってあげるのもおすすめです。
水質を保つためにろ過装置をセットし、飛んで逃げることを防ぐために金網などでしっかりと蓋をします。餌は金魚やオタマジャクシ、カエルなどを与えるのが一般的です。特に繁殖期と越冬の直前は大量に食べます。
繁殖期は4月から9月までの暖かい時期です。それまではオスとメスを別々に飼育し、メスの腹部が膨らんできたら一緒の水槽に入れてみましょう。この時期を誤ると、メスがオスを殺してしまうこともあるため注意が必要です。
交尾をすると、メスはその日のうちに100個前後の卵を産みます。産卵を終えたメスはすぐに別の水槽に移動させてください。オスは卵を守る習性があるため、残しておきましょう。
卵は12~15日ほどで孵化します。餌が少ないと共食いをしてしまうこともあるので、孵った幼虫から別の容器に移していきましょう。ただ餌を与えすぎても死んでしまうため、大きな魚や蛙とは混泳させず、小さなメダカなどを与えるのがおすすめです。5回の脱皮を経て、2か月ほどで成虫になります。
タガメの寿命は2年ほどあり、越冬もします。屋外で飼育する場合は、落ち葉や瓦などを水槽に入れ、身を隠せる場所を作ってあげましょう。室内で飼育する場合は、水温を20度前後に保っていれば、活動したまま越冬させることができます。
日本では絶滅危惧種に分類されているタガメですが、タイやベトナム、中国南部、台湾などでは古くから食用として扱われています。
茹でたり素揚げをしたりするのが一般的な調理方法で、意外なことに洋梨やバナナのようなフルーティな香りがするそうです。特にオスは繁殖期にフェロモンでメスを誘うため香りが強く、1匹80円ほどで取引されるようです。
もともとは養魚場などで魚を食い荒らしてしまうため、駆除の一環として食用にされたそうですが、現在では野生の個体が生息する溜め池にネットを掛け、餌を与えて囲い込み、食用の個体を育てる養殖場もあります。
日本では馴染みが薄いですが、国連が世界的な食糧難を回避する手段として昆虫食を推奨していることもあり、今後もしかしたらタガメが食卓にあがる日が訪れるかもしれません。
- 著者
- 内山 りゅう
- 出版日
- 2013-05-15
タガメと、彼らが暮らす水田の様子を美しい写真とともに紹介している絵本です。幼虫の成長過程や独特な狩りの様子など、どの写真も臨場感たっぷりです。添えられている文章からは生態を学ぶことができます。
タガメのメスは、強いオスとの間に自分の子孫を残そうとするため、他のメスが生んだ卵を壊してしまう習性があります。オスも、自分の卵を壊したメスと交尾をすることがあり、その様子からは自然のなかで命を繋ぐことの厳しさを実感させられます。
彼らが暮らしているのは、農薬が使われていない水質のよい田んぼなどです。この景色を守るためにはどうすればよいのかなど、環境問題についても考えさせられる1冊です。
- 著者
- ["三田村 敏正", "平澤 桂", "吉井 重幸"]
- 出版日
- 2017-07-10
日本国内で見られる水生昆虫を紹介するガイドブックです。本書ではタガメやアメンボなどカメムシ目の昆虫89種を紹介しています。
背面だけでなく、側面、腹面などさまざまな角度から撮った写真を掲載しており、細部まで観察することができます。
また幼虫と成虫それぞれが生息する場所や時期、見つけることの難しさを五段階評価で表しているのも本書の特徴です。持ち運びしやすいサイズなので、フィールドワークのお供にぴったりの1冊でしょう。