鮮やかな赤髪や、水玉をモチーフにした一連の作品群で知られる草間彌生。アメリカの雑誌「TIME」で「世界で最も影響力がある100人」に選ばれ、海外での評価も高い芸術家です。実は書籍も数多く発表している彼女。今回はそのなかから特におすすめのものを厳選してご紹介していきます。
1929年に長野県松本市で生まれた草間彌生。幼少期から総合失調症に悩まされ、幻覚や幻聴から逃れる手段として絵を描きはじめるようになったそうです。
1945年、「全信州美術展覧会」にわずか16歳で入賞。女学校を卒業した後は、京都市立美術工芸学校の4年生に編入して日本画を学び、1年で卒業しました。その後は地元の松本をはじめ、東京などで個展を開催し、さまざまな芸術家や美術評論家と関係を築きます。
1957年にはアメリカにわたり、活動の拠点をニューヨークに。絵画のみならず、立体作品やファッションショーなど多彩な表現方法を意欲的に取り入れていきました。男根をモチーフにした作品など、その過激さゆえに「ハプニング」と呼ばれるものもあり、「前衛の女王」の異名をとります。
1973年に日本へ帰国。芸術活動に加えて小説も発表するなど、活動の幅を広げていきました。数々の賞を受賞し、87歳になった2016年には、女性画家では4人目となる「文化勲章」を受賞しています。
草間彌生自らが綴った自叙伝です。生い立ちや渡米してからのエピソード、作品への思い、病のことなど彼女の人生が記されています。
草間の作品といえば、全体が水玉で覆いつくされている印象が強いですが、彼女が水玉を描くようになったのは、幻覚や幻聴から自分自身を守るためでもあったそう。病気の苦しみや偏見にあらがい、評価を勝ち取ったその生きざまは、読者に勇気を与えてくれるでしょう。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2012-03-28
本書の特徴は、エキセントリックな作品群に隠れがちな草間彌生の内面に触れることができる点でしょう。
多くの人が抱いている「水玉とカボチャの人」というイメージは、彼女のごく一部にすぎません。それら作品の背景となる人生をかけた戦いの意味を知ると、芸術がまた違って見えてくるのではないでしょうか。
1983年に発表された草間彌生の短編小説集です。「野性時代新人文学賞」を受賞しました。
ニューヨークでドラッグまみれになった黒人男娼が、白人の客を殺す姿を描いた表題作や、問題のある家庭で過ごし離人幻覚にとらわれるキーコが主人公の「離人カーテンの囚人」、妻の死体と30日間暮らし続けた男を描いた「死臭アカシア」の3編が収録されています。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2012-10-25
草間彌生の小説のテーマは、自身の作品とほぼリンクしていて、彼女の魂の叫びを文章にしたものだといえるでしょう。
思いの丈を水玉で表した絵画とは異なり、小説ではダイレクトに言葉としてその精神が現れています。そのため生々しい描写も多く、感受性の強い人は読み進めるのが辛い場面もあるかもしれません。しかしそれは、草間が自身の内にある恐ろしいものと向き合っているからこそ成しえているものでもあるのです。
圧倒的な筆力と、彼女の見ている世界を体感してみてください。
イギリスの作家ルイス・キャロルが描いた『不思議の国のアリス』に草間彌生が挿画をつけた作品。夢と幻想の世界を草間が表したアートブックとして楽しむことができるでしょう。
翻訳を手掛けたのは、日本ルイス・キャロル協会の会員でもある楠本君恵。チャーミングな仕上がりでプレゼントとしても人気の高い一冊です。
- 著者
- ルイス・キャロル
- 出版日
- 2013-07-22
アリスの世界観を草間彌生の解釈で表し、挿絵にしています。また文章のみのページにも水玉模様がデザインされているなど、一冊丸ごと草間ワールド全開の作品です。
さらにアリスの背が伸び縮みする場面では、テキスト自体の大きさを変化させるなど、さまざまな工夫が施されています。
見ても読んでも楽しめる、すでに『不思議の国のアリス』を読んだことがある方にも、初めて読む方にもおすすめの作品です。
これまでに発表された草間彌生の著書やインタビューを中心に、彼女の言葉から人生や哲学を追っていく作品です。
彼女の作品のもつ力強さの源がどこからくるのか、本書を読めばその片鱗がわかるかもしれません。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2013-05-17
「『自己消滅』は長い年月の創作のなかで私が一番興味を持っているテーマです。たとえば、身体じゅうに水玉をつけて、周りの環境もすべて水玉模様にしてしまう。このように同じ物をどんどん作り続けることで、自分自身の存在がその表現の中に埋没してしまう。それがセルフ・オブリタゲーション(自己消滅)なのです。」(『水玉の履歴書』から引用)
草間彌生にとっての水玉は、けっしてポップでキュートなものではなく、自分を埋もれさせて無限増殖する存在であり、水玉の中に自分を埋没させることによって自身も無限になっていくのだということがよくわかる一節です。
彼女自身の生命や宇宙に対する捉え方が随所に表れています。幼少期から現在までの写真も掲載されていて、まさに「履歴書」という名にふさわしい一冊。生き方に勇気をもらえる作品です。
言語芸術と呼ぶべき、草間彌生の詩集です。1975年から1989年頃の作品が収められています。
鮮やかで派手な絵画とは対照的に、彼女の傷つきやすくもろい内面がこれでもかとストレートに表現されています。時に痛々しく、時に憂鬱に、読者の心に響いてくるでしょう。
- 著者
- 草間 弥生
- 出版日
- 1989-09-01
芸術家として最前線をはしる草間彌生ですが、常に生と死を意識していることがわかります。純粋で不安定な彼女の内面に注目です。
エネルギーに満ちている彼女の作品とは対照的に、ひとりの人間としての抱えきれないほど大きな思いが本書には描かれていて、ドキリとさせられるでしょう。