野村総合研究所の研究員でもある山形浩生。地域開発やODA関連調査を本業としながらも、経済や文学、SF、コンピューターなど幅広い分野で翻訳・評論活動を手がける人物で、彼の訳者あとがきを楽しみにしている人も多い人気の作家です。この記事では、そんな山形が翻訳を手掛けた書籍のなかから特におすすめのものを紹介していきます。
1964年生まれ、東京都出身の翻訳家です。東京大学へ進学すると「SF研究会」へ入り、ウィリアム・バロウズの同人誌を制作するなどの活動をしてきました。これをきっかけに出版社から声がかかり、卒業後もバロウズの作品の翻訳を多数手掛けています。
またアメリカの経済学者ポール・クルーグマンに傾倒し、彼の作品を筆頭に経済関係の翻訳にも関わるようになりました。
東京大学大学院を卒業した後、マサチューセッツ工科大学大学院を修了。シンクタンクで開発コンサルタントとして働く傍らで、さまざまなジャンルでの評論や翻訳活動をおこなっています。多岐にわたる分野で活躍する山形浩生の翻訳は、膨大な知識に裏打ちされたわかりやすく読みやすい文章が評価されているのです。
またオープンソースやコピーレフトの活動に参加していることでも有名で、自身の著作の多くをフリーで公開しています。
アメリカの経済書ベストセラー作家、チャールズ・ウィーランがお金について解説した本です。山形浩生が守岡桜とともに翻訳し、解説あとがきも担当しています。
そもそも「お金」とはなんなのか、誰が価値を保証しているのかなど基礎的なことから学べる入門書といってよいでしょう。経済に疎い人にこそおすすめの一冊です。
- 著者
- チャールズ・ウィーラン
- 出版日
- 2017-12-18
お金は私たちの生活になくてはならないものですし、価値が高いこともわかっています。しかし一歩踏み込んでみると、そんなお金について知らないことがたくさんあるのではないでしょうか。
本書では、仕組みはもちろん、なぜ世界で貨幣を統一できないのかや、国際経済、仮想通貨などの話題まで網羅。日本以外の国の経済についても学べるので、ぐっと世界の理解度が深まります。アメリカンジョークなども合間に挟みながら話が展開していくので、肩肘張らずに読み進めることができるでしょう。
訳者は2人ですが、全体の監修は山形浩生がおこなっています。原書には無い図説や見出しをつけ、初心者にもわかりやすいようにと工夫がされているのも特徴です。
ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの著作を山形浩生が翻訳したものです。2012年に日本経済新聞の「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」で第2位を獲得しました。
リーマンショック以降の経済情勢について解説し、どのように対処すべきかを提示しています。
- 著者
- ポール・クルーグマン
- 出版日
- 2015-02-05
「本書を読んで、一人でも多くの人が現状の各種政策の愚かさに気がついてくれればとは思う。財政出動しようよ。かなり手遅れとはいえ、復興まともにやって、教育やインフラ補修にどんどん予算だそうよ。そして予算つけるだけでなく、それをちゃんと消化しようよ。必要なら予算執行の細かい基準とか緩めようよ。日銀は、すでにやっている国債引き受けをもっと認められた枠いっぱいにやろうよ。」(『さっさと不況を終わらせろ』訳者解説から引用)
ポール・クルーグマンは、「ニューヨークタイムズ」紙の辛口コラムニストとしても絶大な人気を誇る経済学者です。40歳以下のもっとも優れた経済学者に贈られる、「ジョン・ベイツ・クラーク賞」も受賞しています。
本書では、経済と政治との関係や、増税、財政出動、金融緩和といった基本的な政策とその影響について言及。堅苦しくない翻訳で、身近な問題として捉えることができます。山形浩生自身が彼に傾倒していることもあり、まさに最強タッグといってよいでしょう。
日本でも人気の高いアメリカの犯罪推理ドラマ「NUMB3RS 天才数学者の事件ファイル」。数学を活用して犯罪捜査をし、難事件を解決していく物語です。
本作はその解説本という位置づけで発表されています。ドラマのエピソードを抜粋して、背景にある数学の概念を紹介。文系の方でも問題なく読み進められる内容です。
- 著者
- ["キース・デブリン", "ゲーリー・ローデン"]
- 出版日
- 2008-04-11
たとえば連続強盗が起こっている時、数学を使ってどんなふうに犯人を見つけられるのか。未解決事件の遺留品から指紋が見つかり一部分一致する人がいるとわかった場合、指紋の一致率はどのように判断すればよいのか……。
数学があぶり出すのは真実のみ。犯罪推理と相性がよく、解き明かしていく過程にワクワクできます。また数学は犯罪捜査だけでなく、テロ対策や交通などにも使われていることがわかり、ドラマの中だけでなく実生活にも役立っていることがわかるでしょう。
山形浩生のあとがきでは、本文内の事例について日本で手に入る参考資料を提示しながら、独自の解説を展開。あわせて読むことで楽しみが倍増します。翻訳の語り口も軽妙で、ドラマを見ていない人にもおすすめの作品です。
アメリカのSF作家、フィリップ・K・ディックの作品を、山形浩生が翻訳したもの。初版は1989年に発表され、当時の山形はまだ20代でした。その後も彼はさまざまなディックの作品を翻訳しています。
本書の舞台は、未開の惑星「デルマク・O」。謎に満ちた建造物と、物質をコピーする生物が徘徊しています。そこに14人の男女が送り込まれるのですが、通信が途切れ、メンバーがひとりずつ殺されていき……。
- 著者
- フィリップ・K・ディック
- 出版日
- 2016-05-24
登場人物は皆どこか人格に欠陥があり、協調性が無く、いわゆるダメダメなキャラクター。現実の世界には無い宗教が登場し、それに対する各々の向き合い方がストーリーと複雑に絡んできます。
ストーリーの各所にどんでん返しが仕掛けられていて、最後のオチには驚いてしまうかもしれません。そして何と言っても見どころは、山形浩生のあとがきです。毒舌ながらも正鵠を得ていて、彼の解説も含めてひとつの作品として楽しめるでしょう。
アメリカで1950年代に生まれたカウンターカルチャー「ビートニク文学」を代表する、作家ウイリアム・バロウズと詩人アレン・ギンズバーグの書簡集です。
「ヤーヘ」と呼ばれる究極のドラッグを求めて南米に行ったバロウズと、同じく南米を旅しているギンズバーグのやり取りが記録されています。どこまでが事実でどこからが創作なのか、あるいはあるいは全部事実なのか、全部創作なのか……いまとなってはわかりません。
本書では、オリジナルの麻薬書簡を、未公開の資料や記録などをもとに改定してまとめたものになっています。
- 著者
- ["ウィリアム バロウズ", "アレン ギンズバーグ"]
- 出版日
- 2007-09-04
「旧訳のひどさは折り紙付きだったので、きちんとなおしたものが出せるのは本当にありがたいことです。」
「バロウズ入門としては好適だし、バロウズとギンズバーグの素質のちがいを理解するにはとても好都合な一冊だとは思う。バロウズの無用な知ったかぶり、ギンズバーグのオカルト耐性の低さなど、欠点も含めて。」(山形浩生公式ホームページから引用)
山形浩生は東京大学SF研究会時代に、柳下毅一郎とともにバロウズについての研究本を作成しているほか、バロウズ作品の翻訳を多数おこなってきました。
バロウズは『ジャンキー』や『裸のランチ』など麻薬を扱った小説で知られる作家です。そんなバロウズと詩人のギンズバーグによる、トリップ体験や幻覚剤の試飲、男色体験など社会的な規範から外れたやり取りがメインになります。
実は別の訳者で日本語版が発表されたこともありますが、差別用語や俗語の翻訳に困難を極めたようでした。本作では、さすが山形浩生、その点の心配はありません。ショッキングな内容も多々ありますが、アメリカ文化の一角を知れるおすすめの一冊です。