兵法の書物としては、世界でもっとも有名な『孫子』をご存知でしょうか?本作以前は、戦争の勝敗は運によるものだという考えが主流でした。しかし作者の孫武が戦争の記録を分析・研究し、人為的な要因によって勝敗が決まることを突き止めたのです。 そんな本作は、ビジネスに繋がる部分も多いので、現代では起業家やビジネスマンにも親しまれています。今回の記事では、そんなビジネスにも応用できる考えや、名言をご紹介します。ぜひ、ご覧ください。 また、本作は「flier」で無料で概要を読むこともできます。さまざまなビジネス書、教養書を10分で読めるスマホアプリなので、時間がない方、ご自身で概要を知りたい方はまずはそちらで読んでみてはいかがでしょうか?
『孫子』は戦争における戦術や考え方をまとめた書物で、世界中で読まれています。紀元前500年あたりの中国の春秋時代に執筆されました。武将であり、軍事思想家でもあった孫武が作者で、13篇から構成されます。
現代のビジネスにも応用できる内容なので、起業家やビジネスマンが参考にすることも。さまざまな出版社から刊行されていますが、岩波文庫のものが有名で、特にわかりやすいと評判のようです。
本作は戦争での戦い方などをまとめた内容ですが、中国では『孫子《兵法》大全』というドラマ作品にもなっています。そちらはストーリー仕立てで、さらに内容が分かりやすくなっているようです。
- 著者
- 出版日
- 2000-04-14
日本でも齋藤孝氏が『強くしなやかなこころを育てる! こども孫子の兵法』という本を出版し、難解な内容をわかりやすくまとめています。
しかし子供向けとは限らず、本質的な言葉は大人にも手軽に読みたい時におすすめできる内容です。
- 著者
- 出版日
- 2016-03-17
ほかにも現代の生活に応用するために改編された本がたくさんあります。かなりの長寿作品ですので、ご自身に合った学び方、目的で、本を選んでみるのもよいでしょう。
本書では、戦う際には5つの要素を考えて、不利な場合は戦いを避けるべきだと書いています。この要素は、それぞれなにを意味しているのでしょうか。
大義のこと。なぜ戦うのか、社会への訴えを考えるべきだという意味です。本来は、国の政治のことを指しています。
ビジネスでも部下や仲間に対して、仕事の本質的な目的を示していかないと、うまくいかないということですね。利益ばかりを追い求めて、長時間労働や休日出勤をさせるような経営では、成功できないのです。
気温や天候など、自然界の巡りこと。運勢といいかえてもいいですね。運は人間にはどうしようもないように思えますが、自然界のことを研究していれば、ある程度は予測できると『孫子』では考えます。それらを考慮して、自分にとって有利になるようなときに戦うべきだということです。
景気や天候も、仕事を成功させるには大切な要素。ビジネスをするときには、そういった外的要因も分析し、少しでも有利な状況で勝負できるようにしましょう。
土地や敵との距離感といった、地理的な要素のこと。戦争では、とても大切な要因のひとつでした。
ビジネスにおいても、地理的な要因は重要です。どこの国、地域に店舗を置くかで、売上は変わってきます。社員を雇う場合も土地勘のある地元の人間が多いほうが、地域に溶け込んだ事業ができるでしょう。
リーダーのこと。いうまでもなく、もっとも大切な要素で、そのまま勝敗に直結するといってもよいでしょう。
仕事をするうえでも、社長やプロジェクトのリーダーが、成功するかどうかを左右します。部下が信頼し、運命をともにしてもいいと思えるような人材であるのか。そう思ってもらえるような接し方を、日頃からしているか。もう1度見直しましょう。
軍隊のルールのこと。ビジネスに置き換えると、社風や、チーム内の決めごとと捉えることができます。
成果をあげた社員には、それなりの報酬があるのか。社内のルールは厳しすぎないか。そういったことも、仕事のモチベーションに直結するのです。
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激水の疾くして、石を漂わすに至る者は勢なり。
鷙鳥の撃ちて毀折に至る者は、節なり。
(『孫子』より引用)
激流が岩を砕くのは勢いがあるからで、水そのものに力があるわけではないということをいっているこの言葉。また、鳥が獲物を一撃でしとめるのは、タイミングが絶妙だからで、鳥の足に力があるわけではないという例も出します。
企業経営においても、新商品の投入や新規事業の立ち上げは、勢いとタイミングが大切。顧客もおらずニーズもない状態で、新商品を発表しても意味がありません。さらにいうと競争力のない中小企業が、このようなことをしてしまうと、さらに苦しい状況になるでしょう。
また、企業だけでなく、営業など個人レベルの仕事でも同じことが言えます。営業先の状態や自社商品のニーズを見極めるからこそ、うまくいくのです。どんな仕事でも、勢いとタイミングは大切だということを心得ておきましょう。
本書の虚実編には、敵よりも先回りすることの重要性が書かれています。引用してみましょう。
先きに戦場にいて敵の来るのを待つ軍隊は楽であるが、
後から戦場について戦闘にはせつける軍隊は骨がおれる。
(中略)戦いに巧みな人は、〔自分が主導権を握って実に処り、〕
あいてを思いのままにして、あいての思いどおりにされることがない。
(『孫子』より引用)
相手の先を読んで行動することを勧めているのです。
ビジネスにおいても、競合他社よりも早く動くことは重要。情報収集をおこたらず、ライバルよりも先手を打ちましょう。
同じく虚実編には、敵のいないところを狙って行動することの大切さが説かれています。攻撃が成功するのは、敵がいないところを狙っているからなのです。
行軍は長い距離を移動するので、兵隊が疲れてしまいます。しかし、それも人のいないところを行けば、体力の消耗をおさえることができます。このように軍隊を動かす際には、敵のいないところを狙うのが効率的なのです。
ビジネスにおいても、敵のいないとこで事業を起こせば、独占市場を作り出すことができます。いわゆるブルーオーシャンの開拓ですね。現代ではなかなか難しい部分ではありますが、基礎的な考えですので、必ず頭に入れて行動するようにしたいものです。
虚実編には、勝つためにはしっかりとした観察が必要だとも書かれています。相手の最大の急所はどこなのか、どういうことを考えているのか、そしてそこを突くために自分ができることとは何なのか。それを理解することができれば、先回りして行動したり、こちらの思うままに戦況を動かすことができます。
ビジネスにおいては、敵=顧客に置き換えられます。市場を構成する彼らの判断基準や購買基準をつかむことで、的確な行動をとれるでしょう。
またもう1つの敵ともいえる競合他社の動きも忘れてはいけません。彼らからすれば、こちらもまた観察の対象です。そのため、『孫子』では究極の隊形は無形だと書かれています。統制された再現性の高い隊形や戦術ではなく、その時々の状況に合わせて有機的に変化する組織にすべきだということです。
自社が新しいマーケットを開拓するときや撤退するときにも、その時々の状況に合わせて動くことで最適な行動がとれるとともに、競合他社から動きを読まれにくい、後発企業の動きを鈍らせるというメリットがあるのです。
虚実編には、軍隊の形は水のようであるべきだと書かれています。
水は、高いところから低いところへと流れるもの。軍隊も敵のたくさんいるところから、防御の手薄なところへ流れていけば、有利に戦いを進めることができるのです。敵の状態によって隊形を変えれば、どんな状況でも対策ができます。
このように柔軟な姿勢を持つことで、どんな敵であっても勝利を収めることができる軍になるのです。
仕事でも、競合他社の動きや市場は、いつ変化をするかわかりません。水のように変化できるチームにしておけば、不測の事態にも対応できるでしょう。
本書では、勝つために必要な5つのポイントを上げています。
戦場の広さや、敵味方の距離を考えること。
「度」を考慮して、戦場に投入する物資や戦力の量を決めること。
「量」を考慮して、戦場に送り込む兵の人数を決めること。
「数」を考慮して、敵と味方の戦力を比較すること。
これらを考えたうえで、敵と味方のどちらが勝つのかを考えること。
ビジネスでも、市場や顧客の規模を考えて(度)、商品や備品をどれくらい投入するのかを決め(量)、人員を割り振って(数)、競合他社との戦力を比較して(称)、勝算があるのかを見極めましょう。
本書での重要な考え方のひとつに、「拙速」があります。多少クオリティが低くても、すばやく行動するほうがよいという意味です。それは、ビジネスでも同じことがいえるでしょう。
戦争は多額の費用が必要になり、兵も国家も疲弊します。たとえ勝てるとしても、戦いを長引かせると失うものも多くなるのです。それを避けるためにも、攻撃は迅速におこなわなければなりません。
ビジネスでも、キャンペーンをおこなったり、安売りをしたりすることがあるかと思います。そのときもズルズルと長期間おこなうのではなく、短い期間で勝負に出るべきです。長期化すればブランドイメージを下げ、利益率も下がります。
新規事業の立ち上げも、企画は綿密に練らなければいけませんが、いざ事業のスタートとなったら迅速におこなっていきましょう。
本書では、将軍は、敵はもちろん味方にも真意を悟られてはいけないとしています。情報を共有することは大切ですが、共有してはいけないこともあるのです。会社経営においては、人事やM&Aのような対外交渉も、社員には知られないほうが好ましいでしょう。
この考えからいくと、だめなリーダーとは部下に考えを見透かされるような人。他人が理解できないほど深い考察をしていないと、結果は残せません。周りの人間に考えが見透かされるということは、浅い思考しかできていないということなのです。
戦いに勝利するためには、自分たちではどうにもならない要素も重要になってきます。そのため、『孫子』では、まず負けない状態を作り、敵が弱みを見せたら攻め込むことを勧めています。
会社経営においては、売り上げのアップや新規の顧客を獲得することには、景気やタイミングなどが影響します。自社の動きだけでは、どうにもならない部分があるのです。
しかし、自社の結束を固めたり、どこかで結果が出なくても会社が潰れないようにする柱を持つことは、自分たちの努力しだいでできます。勝利は敵や運に左右されますが、負けないようにすることは誰にでもできるのです。まずは足元を固めるところから始めましょう。
戦争をする際は、国が一体となって協力します。お金はたくさん使いますし、仕事のできない農家も出てきます。長年に渡ってそんな状態が続いても、勝敗は一瞬。その時に備えて事前にいくらあっても困らないのが、情報です。
戦いの勝敗は運によるものではなく、人間の働きにかかっています。そしてその根本にあるのが、情報。指揮官は敵や天候、地形の情報をしっかりと把握しておかなくてはなりません。
企業経営でも、競合他社との競争は一瞬で終わることが多いです。決戦に備えて、日頃から情報収集を怠らないようにしましょう。
本書では、戦って勝つことは最善ではないとしています。戦えば味方にも損失がでるからです。そのため、戦わないで相手を屈服させることが、もっともよいとしています。
会社経営においては、競合他社と顧客を取り合うのではなく、新たな市場を開拓していくことがよいでしょう。ただ、ブルーオーシャンが見つけられるのが最も良い方法ではありますが、なかなかそう簡単には見つからないもの。
そこで必要となってくるのが発想力。細かいところまで観察し、気づきを得て新たなニーズを掘り起こせば、それは今までにはない市場を見つけたといえるでしょう。当然ながら独占市場を作れれば、自社に損失を出さずに利益を上げることができます。日頃から自社と外部要因を分析し、どのようにすれば利益が出るのか、会社を守れるのか、何か新しいアイディアはないのか考えておきましょう。
本書の謀攻編には、コミュニケーションの重要性も書かれています。将軍が間違った指示を出したり、部下と意思疎通ができていなかったりすると、当然ですが戦いには勝てるリスクが上がってしまうもの。
ビジネスにおいても、社長や管理職が現場を知らずに指示を出していると、間違った方向性の展開をしてしまったり、部下との距離ができてしまったりして目的を果たすのが難しくなってきてしまいます。あなたが部下を持つ立場なら、市場やそこで働いている人たちのことを理解し、コミュニケーションをとり、適切な指示を出すことを常に意識すべきでしょう。
本書には漫画版もあります。難しくてとっつきづらいのなら、こちらから手にとってみましょう。
まんがで身につく 孫子の兵法 ((Business Comic Series))
2014年11月08日
漫画版の『孫子』の作者は、経営コンサルタントもしている、孫子の研究者。初心者でもわかりやすいように、ビジネスに役立つ部分を抜き出しています。単なる解説書ではなく、「どうしたらビジネスに応用できるか」という視点で書かれているので、古典が苦手な方にもおすすめできます。
原作を読む前の予習にも使えますし、解説本として一緒に読んでもいいでしょう。この本だけでもビジネスには役立つので、気になったらぜひ手に取ってみてください。
ここでは、ビジネスに役立つ本作の言葉をご紹介します。
- 著者
- 浅野 裕一
- 出版日
激水の疾(はや)くして石を漂わすに至るは勢いなり
(『孫子』より引用)
「水が岩を砕くのは勢いがあるからだ」という意味で、戦いには勢いが大切だということです。
ビジネスでも、勢いとタイミングを味方につければ勝てる可能性が上がります。競争力が弱い中小企業や個人事業主こそ、市場や景気の流れを読んで、勢いとタイミングで勝利を目指しましょう。
兵は詭道なり
(『孫子』より引用)
詭道とは、「相手をだます技」という意味。戦争はスパイや裏切りなど、なんでもありだということですね。だからこそ、できる限り戦わない方がいいという意味にもとれます。
ビジネスで競争相手に勝つのはいいことですが、そのために汚い手を使うことがあるかもしれません。敵を作らずに生き残る方法を模索したほうが、平和的でよいかもしれません。
拙速は巧遅に勝る
(『孫子』より引用)
本作のなかでも有名な言葉。正確には、戦争はお金がかかるうえに国家が疲弊するので、たとえ勝てるとしても長引かせるべきではないという意味になります。
「雑でいいから、とにかく速く行動しろ」という意味で使う人がいますが、仕事や経営を長引かせて消耗してはいけないという意味で、雑でもいいということではありません。
ビジネスでも、短い期間で結果を残せる戦略を考えましょう。戦いを長引かせては、たとえ勝ったとしても損失が大きくなってしまいます。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
(『孫子』より引用)
敵と自分をよく知れば、100回戦っても安心だという意味。ビジネスでも敵を知り、自分のことを理解すれば、確実に結果が残せるはずです。
顧客や競合他社を分析するのはもちろんですが、自社の商品や部下の強みを理解して、有利に仕事を進めるようにしましょう。そうすれば、100回戦っても安心でしょう。
兵とは国家の大事なり、
死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり
(『孫子』より引用)
本書の基本的な考え方です。ここでの「兵」とは戦争のこと。戦争は国家の一大事で、お金もたくさんかかるので、軽々しくおこなうべきではないといっています。全編にわたって、この思想が基礎になっています。
「察せざるべからざるなり」は口癖のように登場する、本作の定番フレーズ。その意味は、しっかりと理解しないことがあってはいけないということで、必ず押さえておきたいポイントだとも読み取れるでしょう。誰かと争うということは、相手だけでなくこちらにも大きな痛手をともなうものであり、そのことをしっかりと理解していないのに軽々しくしてはいけないということ。
ビジネスはもちろん、すべてのことに通じる考えであり、結局、争いとは双方にデメリットがあることが確約されたものだともいえるかもしれません。
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。