スズメやエナガの仲間で、丸っこい体が愛らしい「モズ」。実は外見に似合わず肉食で、捕まえた獲物を枝などに突き刺す残酷な一面ももっています。この記事では、彼らの生態や鳴き声、「はやにえ」という習性、繁殖と巣作りなどについて解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
スズメ目モズ科に分類される鳥類です。中国東部や朝鮮半島、日本に分布し、林や農地、河川敷などで姿を見ることができます。
ただ秋から春にかけては開けた平地、夏から秋にかけては涼しい高原というように季節で生息地を変えることもあり、1年をとおして同じ場所で見られるとは限りません。特に北海道に生息するものは、気温が下がる冬場は本州にまでやってきます。
全長は20cmほどで、体の上面から側面は茶色やオレンジ、下面は白褐色をしていて、オスの顔にはクチバシの付け根から頬にかけて黒いラインが入っているのが特徴です。
クチバシは猛禽類のようなカギ状をしていて、食性は肉食です。昆虫や蛙、ネズミなどの小動物、小鳥などさまざまな獲物を捕食します。狩りをする時は見通しのよい枝の先などに止まっていることから、比較的見つけやすいでしょう。
漢字では「百舌鳥」と表記されるモズ。これは、これは、シジュウカラやメジロ、ウグイスなど他の鳥の鳴き声を真似る習性から名付けられました。
鳴き真似ができるのはオスのみで、繁殖期にメスにアピールをする際におこなうようです。鳴き真似が上手いオスほどモテる傾向があります。
また、秋になると「キィーキチキチキチ」と高く鋭い声で鳴く様子も見られます。これは「高鳴き」という自らの縄張りを主張するもので、こずえや電線など見晴らしのよい所で激しく鳴き続けるのが特徴です。
加えて、食料の少ない冬場に餌を見つけるためには、秋のうちに良質な縄張りを確保する必要があります。「高鳴き」は縄張りに侵入した者への警告の意味合いももっているのです。
縄張りは家族やつがい単位ではなく、1羽につき1つあります。性別や年齢を問わず激しい争いがおこなわれることも多く、空中戦や、地上でも激しくつつき合いをくり広げることも珍しくありません。競り合いの後11月頃には縄張りが確定し、単独で越冬をします。
江戸時代には猛禽類に分類され、気性の荒さと狩りの恐ろしさから「モズタカ」と呼ばれていました。獰猛さが如実に表れているのが、秋にみられる「はやにえ」という行動です。
「はやにえ」は、捕まえた獲物を枝や有刺鉄線に突き刺したり、枝に挟んだりする行為のことです。小さな虫やネズミ、トカゲ、さらにはスズメやシジュウカラなどの小鳥も対象になります。
モズが「はやにえ」をする理由は明らかになっていませんが、食糧が少なくなる冬に備えて貯蔵しているという説や、狩猟本能を満たしているという説、他の個体に縄張りを主張しているという説などがあります。枝などに突き刺した後にすぐ食べることも多く、捕えた獲物を引き裂くための手段という説も有力です。
この行為は古くから人々の興味をひいてきました。「はやにえが高い場所にあると大雪になる」「はやにえを待てば幸せになる」「カナヘビのはやにえは幸せを運んでくる宝物」など多くの言い伝えがあります。
オスがメスにアピールを始めるのは、2~3月頃です。鳴き真似をして普段と異なる鳴き声を出すだけでなく、頭を振りながら翼を半分ほど開いて震わせ、求愛ダンスをする姿が見られます。
アピールが成功すると、オスは餌を運んでメスにプレゼントをし、これをメスが受け取ると晴れてつがいとなるのです。
つがいになると3月頃に営巣を開始します。巣を作る場所は夫婦で決めた縄張りの中央部で、巣を隠せるような茂った葉があるか、餌を捕れる場所があるかなどで判断しているようです。
巣は地上から1~2mほどの場所に作ります。材料は木の枝や皮、草の根、鳥の羽やビニール袋などです。巣作りはメスが中心になり、オスはメスに従って移動をし、外敵に邪魔をされないよう見張りをしています。
巣が完成すると、いよいよ産卵です。1日1個ずつ、合計で3~4個の卵を産みます。卵をあたためるのはメスだけです。その間オスはメスのために餌を運ぶ役割を担います。
卵は2週間ほどで孵化し、雛は昆虫の幼虫やクモなど食べやすい餌を食べて成長していきます。しばらくするとカエルやトカゲも食べるようになりますが、雛はまだそのまま食べる力が無いため、親鳥は「はやにえ」にした獲物を小さくちぎって与えるのです。
またモズは、カッコウに托卵されてしまうことがあります。卵の大きさはよく似ていますが、カッコウは成長すると体長が35cmほどになり、かなり大柄です。モズの巣の中に体の大きなカッコウの雛がお世話をされていることもあるのです。
モズの雛は、孵化した後2週間ほどで巣立ちとなります。しばらくの間は集団で生活をし、やがて自分の縄張りをもって単独で暮らすようになるのです。
- 著者
- 嶋田 忠
- 出版日
- 2009-01-01
動物カメラマンの嶋田忠が手掛けた作品です。里山で暮らすモズの迫力のある写真を、生態とともに掲載しています。
子育てを終えたモズが、秋から冬にかけての厳しい時期をたった1羽で生き抜いていくのが印象的です。本書には、冬の直前によく見られる「はやにえ」を中心に、彼らのハンターとしての姿を多数紹介しています。厳しい自然に小さな体で向かっていく勇ましさを堪能することができるでしょう。
巻末には、「はやにえ」について嶋田自身が観察して得た情報をまとめています。なかには、「はやにえ」をカラスなどの他の鳥に食べられても追い払うことはせず、むしろ気にしている様子もないといった不思議な現象も見られます。
昆虫やネズミなどさまざまな獲物が串刺しにされている、やや衝撃的な写真は載っていますが、文章自体はやさしいので小学生でも読むことができます。野生動物に興味をもつきっかけにもなる1冊です。
- 著者
- 中村 文
- 出版日
- 2014-06-20
街中や里山など、日本国内のさまざまな場所で見られる小鳥たちを紹介している図鑑です。学術的な視点ではなく、カルチャーとして親しめるよう、絵画や文芸などもあわせて掲載しています。
とにかく小鳥たちの可愛さを理解してもらいたいと、体長や特徴、分布などの生態情報を擬人化した表現で書いているのが特徴です。
モズについても、つがいの仲がよいこと、子育てが終了した後には縄張りを奪い合うライバルとなること、翌年になると少し離れた場所で別のパートナーを探すことなどの一連の行動を「気まずいのでしょうか?」と語っていて、微笑ましい気持ちにさせてくれます。
小鳥が登場する文学作品や浮世絵、さらに葛飾北斎風にスズメを描くテクニックなども紹介しており、読みごたえも抜群です。タイトルに「ときめく」とあるように、癒されること必至の1冊で、プレゼントにもおすすめです。
可愛らしい体に似合わない鋭いクチバシをもっていたり、オスがメスに口移しで餌を食べさせる一方で、つがいの関係が解消されると縄張りを争うライバルになったりと、モズは2面性を感じさせる不思議な生物です。興味をもたれた方は、ぜひ紹介した作品を読んでみてください。