貧困問題や少年事件、虐待などさまざまなテーマを手掛けるノンフィクション作家の石井光太。常に公正な目を保ち、誠実で真摯ななかにも優しさが光る文章が魅力です。『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』は、新設された「本屋大賞ノンフィクション本大賞」にノミネートされ話題を集めました。この記事では、そんな彼の作品のなかから特におすすめのものをご紹介していきます。
1977年生まれ、東京都出身の石井光太。日本大学芸術学部を卒業した後、ノンフィクションライターとして活動を始めます。
デビュー作は、2005年に発表した『物乞う仏陀』。カンボジアやネパール、インドを訪れ、地雷障害者や麻薬売人らと触れ合い取材をした作品です。「開高健ノンフィクション賞」や「大宅壮一ノンフィクション賞」の候補となり、注目を集めました。
その後も精力的に活動を続け、実際の取材はもちろん、ノンフィクションを解説するガイド本である『ノンフィクション新世紀』を発表するなどしています。
こうした活動が評価され、2012年には日経ビジネス「次代を創る100人」にも選出。2013年には自身初の小説として『蛍の森』を発表、2014年にはニュース番組のコメンテーターを務めるなど活動の幅を広げています。
2015年、神奈川県川崎市の河川敷で、中学1年生の少年が殺害され、遺体を遺棄されました。
体を43ヶ所もカッターで切りつけられていたという残忍なもの。1週間後に、17歳と18歳の少年3人が殺人の疑いで逮捕されました。その衝撃と狂騒ぶりが印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
本書は、被害者と加害者の関係や生い立ち、事件の性質や背景にある環境などを追いかけた、石井光太初の少年犯罪ルポです。
2018年には、本屋大賞とYahoo!が新設した「本屋大賞 ノンフィクション本大賞」にノミネートされています。
- 著者
- 石井 光太
- 出版日
- 2017-12-13
この事件はセンセーショナルな側面から、マスコミの報道やインターネット上でかなり騒がれ、その結果情報が乱発されて事実がわかりづらくなっていました。加害少年らの顔写真や氏名なども出回っています。
その一方で、何がこの陰惨な事件の原因だったのか、どうすれば防げたのかという部分については、なかなか踏み込んでいなかったのではないでしょうか。
本書では、関係者の家族状況、友人たちの証言、そして亡くなった少年の父親へのインタビューなどで事件の真相を解き明かしていきます。少年犯罪は社会の暗部を映し出す鏡といわれるように、 そこから見えてくるのは、被害者の少年も加害者の少年も、家庭や生活の環境が劣悪だったという事実。
しかし、だからといって人を殺していいわけではありません。ではどうすれば全員を救うことができたのでしょうか。事件後の関係者の行動や、少年法の在り方なども考えるきっかけになる一冊です。
1945年の終戦直後、全国には12万人を超える戦災孤児がいたそうです。幾度も空襲を受けた東京にも、家族や家をなくした子供たちがたくさんいました。浮浪者となった彼らはその後、どうなったのでしょうか。
本書は、石井光太が5年を費やして100人を超える人にインタビューをし、残されている資料などを検証して行方を追った作品です。
裏面史ともいえる戦争孤児の問題に切り込むことで、戦争を見つめなおします。
- 著者
- 石井 光太
- 出版日
- 2017-07-28
生きるために、物乞いだけでなくスリや窃盗、身売りなどをしていた子供たち。町の浄化政策などにより、やがて追い払われていきました。現代の日本であれば、たとえ家族を失ったとしても露頭に迷うことはないかもしれませんが、当時は誰も彼もが生きるのに必死な時代。立場の弱い子供であろうと、救いの手を差し伸べられることはほとんどなかったでしょう。
上野近辺では、多い時に1日で6人もの浮浪者の死体が処理されていたそう。周りで次々と人が死んでいく光景に、心が傷を負わないはずはありません。
そんな環境を生き抜いて大人になった人たちへ石井光太がインタビューをし、当時の状況を振り返ります。なかなか表に出ることのない戦争の一面に触れてみてください。
電気も水も止まったゴミだらけの部屋に閉じ込められ、当時5歳だった男児が亡くなり7年後に遺体が発見された厚木市幼児餓死白骨化事件。
高校の時から10年で8人もの子を妊娠し、自ら殺した嬰児を天井裏と押入れに隠していた下田市嬰児連続殺害事件。
そして6人の子供のうち次男のみをウサギ用ゲージに監禁し、殺害した足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件。
本書はこれら3件の実子虐待死事件について、加害者となってしまった親自身の成育環境やインタビューを交えながら、なぜこのような事件が起きてしまったのかを読み解いていきます。
「鬼畜」の家:わが子を殺す親たち
2016年08月18日
センセーショナルな事件が起こると、メディアもそれを受け取る側も、加害者の異常さにフォーカスして「普通」の家族とは異なることに着目し、自身とは関係のない世界のことだとどこか安堵を得ます。
しかし本書を読んでみると、どの事件でも加害者となった親は「子を愛していた」と語るのです。ではなぜ我が子を殺す「鬼畜」となってしまったのか。石井光太は、彼らには共通して「自身ではどうにもならなかった要因があるのではないか」と考え、丁寧に親たちの成育歴をたどっていきます。
胸が痛くなる描写も多いですが、すべて事実。本書が事件を解決できるわけではありませんが、日本の社会でこのような事件が起こっていることを受け止め、何ができるのか考えるきっかけになる一冊です。
2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。岩手県の釜石市も津波の被害にあい、死者・行方不明者の数は1000を超えています。
辛くも一命をとりとめた人々。愛する家族や友人を失った彼らが、混乱のなかでどのように遺体と向き合い、死者を弔ったのかを取材したルポルタージュです。
- 著者
- 石井 光太
- 出版日
- 2014-02-28
東日本大震災に関する報道はさまざまな局面でなされ、津波が町を襲う様子や、被害の様子は映像や写真で目にした人も多いでしょう。しかし当事者以外はほとんど目にしていないのが、「遺体」です。
石井光太は、震災が発生した2日後に現地に入り、取材を続けました。安置所には次々と遺体が運び込まれます。自衛隊員、消防団員、医師、葬儀関係者、そして住民たち。震災後の混乱に翻弄されながらも、必死に命と向き合っていく姿は、あまりにも過酷で辛いものです。
報道されない3.11の事実。日本で暮らすひとりとして読んでおきたい一冊です。
世界の人口はおよそ67億人ですが、そのうち1日を1ドル以下で暮らさざるをえない人々が、なんと12億人もいるそうです。そんな人々を思い浮かべる時、もしかしたら私たちは「貧しい人々」と画一的に見てしまっているかもしれません。
石井光太は、貧困といわれる彼らの立場になって物事を考え、細かく実態を知ることが、貧困問題をより深く知ることができ、それが現地の人の利益にも繋がると考え取材をしていきます。
- 著者
- 石井 光太
- 出版日
- 2011-06-26
実際に途上国へ赴くだけでなく、スラムの住民や路上生活者たちと寝食を共にする石井光太の取材力は圧巻。だからこそ、文章にも説得力があります。
スラムでは、親のいないストリートチルドレンを誘拐して兵士にしたり、四肢を切断して障害児にし、物乞いをさせて金を巻きあげたりと、かなり劣悪な犯罪が横行していました。その一方でそんな場所で暮らす彼らも、普通に笑い、恋をし、逞しく子育てをする日常生活を送っているのです。
本書に描かれているのは、途上国のリアルな姿。貧困問題への目線を一変してくれる作品です。