理科の授業で習った記憶があっても、その存在について深く考えることはほとんど無いであろうプランクトン。ごく小さな原始生物という印象が強いですが、実際はどんな生物なのでしょうか。この記事では、彼らの定義や分類、植物性と動物性の違い、生態系への影響、赤潮などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
「プランクトン」という言葉は、古代ギリシャ語で「漂う」「流される」といった意味をもつ「planktos」に由来していて、淡水・海水を問わず世界中の水域に浮遊している生物の総称です。
ミジンコやゾウリムシなどの顕微鏡を使用しないと姿が見えない微生物はもちろん、エチゼンクラゲのように1mを超える大きさのものまで、水中を漂って移動する生物はすべてプランクトンに含まれます。
誕生の歴史は古く、約35億年の原始の海にはすでに存在していたと考えられています。最古の植物プランクトンであるシアノバクテリア類は、光合成をすることで大気と海洋に酸素を送り込み、地球環境をつくりあげていったそうです。
彼らが10億年近く光合成をくり返したことでメタンや二酸化炭素が減少し、ブドウ糖など生物の体を構成する有機物が増え、さらに上空に紫外線を防ぐオゾン層が作られていきました。つまり、プランクトンの地道な活動が、地球で生命が生きられる環境を整えていったといえるでしょう。
大きく分けて、「植物プランクトン」と「動物プランクトン」の2種が存在します。
まず植物プランクトンは、光合成をして必要な栄養素を自ら生産するため、自発的な運動を必要としません。一方で動物プランクトンは、光合成をせずに外部から栄養を摂取するため自ら運動します。
基本的には動物プランクトンの方が複雑な体のつくりをしていて、餌を体内に取り込む口、移動する仕組み、子孫を増やす仕組みなど多様な器官をもっています。またミジンコのように生息環境によって形を変える種もいるため、植物プランクトンと比べると同定が難しいようです。
またなかには、光合成ができる植物プランクトンの特徴と、運動ができる動物プランクトンの特徴を併せもつ種もいます。その代表が、ミドリムシです。
彼らは名前のとおり緑色の体色をしている単細胞生物です。眼点と呼ばれる器官で光を感じて運動をします。2本の鞭毛(べんもう)を使って泳ぐことができるほか、細胞全体を伸縮させたりくねらせたりする「ユーグレナ運動」をおこないます。
海洋に生息する生物のうち、なんと約98%がプランクトンだと考えらえています。動物プランクトンは植物プランクトンや海藻を餌にして増殖し、魚などが動物プランクトンを餌にするといったように、食物連鎖のピラミッドの底辺部分として生態系を支えているのです。
海水域に生息しているプランクトンは、水温や塩分濃度、栄養分などの条件によって成長が左右されます。珪藻(けいそう)や円石藻(えんせきそう)など一部の原生生物は、条件がそろうと急激に増殖するため、「ブルーム」と呼ばれる大群を形成することもあるようです。
ブルームから発生する微粒子が空気中の水分を凍らせて雲となり、気候に影響を与えることもあると考えられています。
また、甲殻類でありプランクトンでもあるオキアミなどは、クジラや海鳥の主な餌になっています。プランクトンの数や種の変動は、生態系へ大きな影響を与えるのです。
赤潮は、珪藻や渦鞭毛藻など一部の植物プランクトンが急激に増殖して「ブルーム」を形成し、海の一部が赤色やオレンジ色に染まる現象のことです。日本近海では、高度経済成長期の1960年代に瀬戸内海などで多発しました。
急激に増えた植物プランクトンは、海水中の酸素濃度を低下させるほか、魚のエラに付着して窒息させたり、藻類に毒素を発生させたりします。海洋生物を大量死させることもあり、生態系にとって有害な結果を引き起こしてしまうのです。
赤潮が発生する主な原因は、海水の富栄養化だと考えられています。工場排水や生活排水などが海に流れ込むことで、窒素やリンなど植物プランクトンにとっての養分が増えることが影響しているのです。
またもうひとつの原因として、地球温暖化による海水温の上昇も挙げられています。これらの要因が重なることで植物プランクトンと動物プランクトンのバランスが崩れると、生態系への影響が深刻なものとなってしまうでしょう。
近年では、異常発生したプランクトンの死骸が硫化水素を発生させることで、海面の一部が不自然に青く見える「青潮」も東京湾などで確認されています。水質が汚濁した海域で見られるため、こちらも生活排水が原因だと考えられています。
- 著者
- 日本プランクトン学会 監修
- 出版日
- 2011-11-05
海水域に生息する種を中心に、川や池、湖などの淡水域に生息する種も含めて多様なプランクトンを紹介している図鑑です。写真やイラストを豊富に用い、生態の基礎知識や採取方法まで網羅しています。
ミドリムシや動物プランクトンはどのように運動をするのか、藻の一種であるボルボックスはどのように増殖するのかなど、理科の教科書よりも少し堀り下げた内容です。小中学生向けとされていますが、大人が読んでも楽しめるでしょう。
知識を得るだけではなく、「自分でプランクトンを観察してみよう」という風に、自分でも調べたくなる内容になっています。
- 著者
- ["若林 香織", "田中 祐志"]
- 出版日
- 2017-10-27
海洋にすむプランクトン約250種の生態を写真とともに紹介した、世界初の浮遊生物図鑑です。生涯を海の中で漂って過ごす「終生プランクトン」と、エビやタコ、アンコウなど幼生の期間のみ浮遊生物として過ごす「一時プランクトン」の両方を解説しています。
なんといっても写真の美しさが圧巻です。さらには食事の方法や狩りの仕方などを記したコラムも充実していて、読み物としても満足できるでしょう。
実際にプランクトンを観察する際にも、季節や時間帯、水中、陸上からの観察ポイント、注意点が載っているので、参考にしてみてください。
普段はその存在を意識させられることがほとんどないプランクトンですが、赤潮を引き起こす原因となる種がいるかと思えば、その赤潮を制圧できる可能性があると研究されている種がいるなど、小さな体にさまざまな可能性を秘めています。外見も面白くて魅力的なので、気になった方はぜひ紹介した本を読んでみてください。