作者・西加奈子が『サラバ!』で直木賞を受賞した後、初めて執筆した作品。自身の成長をおそれていた主人公の少年の前に現れたのは、美しい転校生の少女でした。そんな彼女は「撒くこと」が大好きで……。大人へと変わっていく子供をみずみずしく、切なく描いた成長物語。本作はキャストに草彅剛を迎え、2019年3月に映画化されます。 この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで詳しく解説。魅力も5つに分けてご紹介します。ぜひ最後までご覧ください!
主人公である、小学5年生の慧。彼は、大人になること、男であることを嫌だと感じている少年でした。しかし、かといって女になりたいかといえば、決してそうではありません。
そんな彼のもとに、自由に生きているコズエが現れます。彼女はとっても美人で背が高く、小さな村中が注目してしまうような少女でした。慧は彼女と出会い、徐々に気持ちに変化が表れ始めるのです。
彼女と出会った慧は、大人への考え方や未来への受け止め方が、しだいに変化していることに気づきます。果たして彼の気持ちは、どのように変化していくのでしょうか。
大人になりたくない子どもの、大人への変化を描いた、微笑ましくも切ない物語。
- 著者
- 西加奈子
- 出版日
- 2016-02-25
そんな本作は2019年3月15日に、鶴岡慧子が監督・脚本で映画の公開が決定。主演は山崎光、ヒロインは新音、その他、山崎光、草薙剛らの豪華キャストが勢揃いしています。撮影のロケ地は四方温泉です。主題歌は、シンガーソングライターの高橋優が手がけることも発表されました。
繊細な心の成長を描いた胸打つ本作のストーリーは、芥川賞作家であるピースの又吉直樹も、バラエティ番組「アメトーーク!」で面白いと紹介したほどです。
本作に登場する人物を、簡単にご紹介させていただきます。
彼女はイランのテヘランで生まれで、エジプトと大阪育ち。関西大学法学部を卒業後、雑誌「ぴあ」のライターを経て、『あおい』で小説家デビューを果たしました。
その翌年に出版された『さくら』は20万部を超える大ベストセラーとなり、さらに2015年には『サラバ!』で直木賞三十五賞を受賞しています。その受賞後の第1作目として執筆されたのが、『まく子』だったのです。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2017-10-06
その他にも、有名な作品に『きいろいゾウ』や『ふくわらい』、『おまじない』など、数多くの人気作品を執筆しています。
『きいろいゾウ』は宮崎あおい、向井理が主演で映画化もされました。その後『円卓』も映画化しています。
彼女の作品は装丁も特徴的でデザイン性ががあり、人気を博しています。その表紙は、本作の猿のイラストをはじめ、彼女自身が描いた絵が使われることも多く、その多才さが伺えますね。イラストのファンも多く、2018年には絵画展も開催されました。
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「まく子」とは言葉通りの意味で、「撒く子」のこと。「どんなものでも撒くことが好きな子ども」という意味になります。
コズエはとても変わった女の子であり、小銭や砂利、そしてホースの水など、なんでもかんでも撒き散らしてしまうのです。慧は物語の冒頭で、こんなことを言っています。
まくことが好きなのは、男だけだと思っていた。
1位になったF1レーサー、優勝した野球チーム、土俵入りするお相撲さん、
いつだって何かをまいているのは男だ。
(『まく子』より引用)
作者の西は、撒く=射精=男というイメージから、本来は撒く側ではない女の子が「撒く子」として活躍する物語を考えたのだそう。本作では、撒くことが男の象徴であり、子どもの象徴であるかのように扱われています。しかし、コズエは女の子であるにも関わらず、撒くことが大好きなのです。
彼女は一見すると大人っぽく見られるのですが、実際はとても子どもっぽい部分がある人物。そんな行動を見て、慧は徐々に彼女に惹かれていきます。この「撒く」という行動は、彼女を象徴するアイデンティティなのです。
小学5年生は、とても微妙な年齢といえるのではないでしょうか。性別による変化が表れ始め、男の子は体毛が濃くなってきたり、体に筋肉がつき始めたり、身長が急に伸び始めたりと徐々に大人の階段を登り始めます。
そして女の子も生理が始まったり、胸が膨らみ始めたりと、男の子よりも早く大人の階段を登り始める時期なのではないでしょうか。
そんな年代だからこそ微妙な気持ちの変化もあり、大人になりたくないと考えている慧。そんな彼にとって、思春期特有のそういった話題自体がストレスになっていました。
大人になるとおそらく、子どもの頃よりも悪口、妬み、嫉妬、そのような世界の黒い部分に気づくようになるかもしれません。彼はそういったことを心のどこかで感じていたからこそ、大人の世界を怖いと感じ、大人になるのを嫌がっていたのかもしれません。
しかし、コズエと出会ったことで、「進む」ということが決して悪いことではないと気づき始めます。そんな彼女を好きになり、彼女をとおして大人の世界を受け入れていくのです。
彼の「大人になりたくない」という気持ちは、誰しもが1度は感じたことのあるものではないでしょうか。しかし実際に大人になってしまうと、そう思っていたことすら忘れて、日々を生きていくのです。
不安がなく、思いついたことをフィルターをかけず、何でも口から「撒いて」いた子供時代。そして、大人へと成長していくに連れて感じてしまう将来への不安と、それを受け入れて進んでいくということ。そういった、もう取り戻すことのできない切ない過去を、本作を読みながら思い出してみてください。
想いを温めていた慧は、ついにコズエにそれを打ち明け、告白。そしてなんと、彼女も彼のことを好きでいてくれたことが判明するのでした。
しかし、めでたしめでたしという展開かと思いきや、お互いの気持ちを知ったコズエは、慧の元からいなくなってしまうのです。それは実は、彼女にある秘密があったからで……。
彼女にまつわる、衝撃のラストとは?そして、2人の恋の行方は?気になる方は、ぜひ本作を手に取ってお確かめください。
- 著者
- 西加奈子
- 出版日
- 2016-02-25
コズエは最後に「小さな永遠を終わらせないといけない」、「大きな永遠に、変えないと」と発言していなくなります。このセリフにはどんな意味が込められているのでしょうか。
ここで言われたことが指す出来事は、子どもから大人になるということの、さらに大きな意味を象徴しているようです。
大人になるということは、確実に死に近づくこと。生命の生き死にを心で受け止めることができた慧が、仲間とともに迎えるそのラストをご覧ください。