30年以上イタリアに住み、現地の風土や文化、人々の様子を日本に伝えているジャーナリストの内田洋子。あたたかい目線で綴られたエッセイも人気を博しています。今回は、そんな彼女の文庫で読める代表作から、「ノンフィクション本大賞」にノミネートされた作品まで、おすすめのものを厳選してご紹介しましょう。
1959年生まれ、兵庫県出身の内田洋子。イタリア在住のジャーナリストです。
「俳優がかっこいい」という理由で東京外国語大学のイタリア語学科へ進学し、ナポリへの留学や通訳のアルバイトなどでイタリア語を学んでいきました。
その後、外資系銀行や新聞社での勤務を経て、ミラノに渡って通信社を起業。以来、現地のニュースを日本に発信し続け30年以上が経っています。
デビュー作は、1995年に発表した『イタリアン・カップチーノをどうぞ 幸せが天から降ってくる国』。イタリアの魅力を伝えるエッセイ集です。
そのほか『ジャーナリズムとしてのパパラッチ イタリア人の正義感』、翻訳書の『パパの電話を待ちながら』など。2011年には『ジーノの家 イタリア10景』で「日本エッセイスト・クラブ賞」と「講談社エッセイ賞」を受賞しました。
2018年に発表した『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』は、本屋大賞とYahoo!が新設した「ノンフィクション本大賞」にノミネートされ注目を集めました。
「籠いっぱいの本を担いで、イタリアじゅうを旅した行商人たちがいただなんて。そのおかげで各地に書店が生まれ、〈読むということ〉が広まったのだと知った。なぜ山の住人が食材や日用品ではなく、本を売り歩くようになったのだろう。」(『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』から引用)
かつてイタリアの山奥に、本を愛し、本を届けることに情熱を傾けていた人々が住む村がありました。そのことを知った内田洋子は、村を訪れて彼らの子孫を取材し、歴史を辿っていきます。
本と本屋の原点がイタリアの風景とともに語られている作品。2018年に「ノンフィクション本大賞」にノミネートされました。
モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
2018年04月06日
「いつか読もう、と積んだまま忘れられている本はないだろうか。ある日ふと読み始めてみると、面白くてページを繰る手が止まらない。玉手箱の中から、次々と宝物が飛び出してくるような。モンテレッジォ村は、そういう本のようだ。本棚の端で、手に取られるのを静かに待っている。」(『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』から引用)
イタリアのトスカーナ州にある山村モンテレッジォに暮らす人々は、1800年代の初頭、イタリア各地に本を届けていたいわば本の行商人でした。2018年現在の人口は30人ほどだそうですが、村では毎夏「本祭り」が開かれています。
なぜ交通の便がよくない山奥で、しかも本の行商がおこなわれていたのか。なぜ人々は本を求めるのか。読者も、内田と一緒にその謎を追い求めていくことになります。
随所にカラー写真も挿入されているので、現地の様子を感じながら読み進めることができるでしょう。すべての本好きにおすすめの一冊です。
ミラノから、ヴェネツィアのジュデッカ島に引っ越した内田洋子。本書は、現地の人々の暮らしや風土などの魅力を語ったエッセイ集です。
「水の都」と呼ばれるヴェネツィアの湿った空気感や、人々の息遣いなど、観光客として訪ねただけではわからないものを追体験させてくれるでしょう。
- 著者
- 内田 洋子
- 出版日
- 2017-11-02
「ミラノからは近いけれど、遠い町。住めることならぜひ、と誰もが夢見る一方、実際に引っ越す人はたしかに稀かもしれない。うらやましいわ、でもなぜ引っ越したの、家はどのあたり、住み心地はどう、酷い湿気でしょう、冠水は大丈夫なの……。」(『対岸のヴェネツィア』から引用)
内田洋子がミラノからヴェネツィアに引っ越すことを告げると、周りの人は皆一瞬黙り、こんな反応をしたそうです。観光地としては有名ですが、イタリアの人々からどのような印象をもたれているのかがよくわかるでしょう。
内田が暮らしたジュデッカ島からヴェネツィアまでは、水上バスで行くことができます。水路だらけなうえ、橋は歩行者専用のものが多いため、車や自転車がほとんど走っていないそう。移動手段は徒歩か船という、水に翻弄されるリアルな暮らしをうかがい知ることができます。
そんな現地の様子を伝える内田の文章も魅力的。ヴェネツィアの「素顔」を感じられる一冊です。
イタリア語で「愛」は「amare(アモーレ)」。あまくて情熱的な恋愛をするイメージを抱いている方も多いのではないでしょうか。
本書には、内田洋子が実際にイタリアで見聞きした、15の恋物語が綴られています。切なくてほろ苦いものも含めて、お楽しみください。
- 著者
- 内田 洋子
- 出版日
- 2017-08-22
「ミラノではあっという間にカップルが生まれ、瞬く間に別れてしまう。昨日までは夫の友人だった男と、さっそく今日から新たな人生を始めてしまう妻がいたりする。」(『どうしようもないのに、好き イタリア 15の恋愛物語』から引用)
本書に登場するのは、内田の友人や知人たち。上記からもわかるように人間関係が複雑に絡み合いますが、それを誠実に、そして緻密に紡ぐ筆力が光ります。
けっしてハッピーエンドだけではありませんが、心地よい余韻に浸ることができる大人の恋愛ストーリーを堪能できる一冊です。
イタリアで30年以上暮らしている内田洋子。本書には、普通に暮らしている普通の人々の生活が綴られています。
まるで小説のような鮮やかで美しい語り口で、うっとりとした気持ちになれる全10篇。それぞれのラストには意外な結末がまっています。
- 著者
- 内田 洋子
- 出版日
- 2015-10-06
本書のなかで語られるのは、内田洋子がイタリアで知りあった人々の人生を切り取った物語。彼らの波乱万丈っぷりもさることながら、懐にするりと入り込んでいく作者の、ジャーナリストとしての資質にも感嘆してしまいます。
本当に事実なのかと疑いたくなるほど、ドラマチックなエピソードばかり。語り手の内田はあくまでも傍観者的な存在ですが、登場人物の心情や、まるでイタリアの風を感じられるような情景描写に、彼女のあたたかい眼差しが表れています。
日本から遠く離れたイタリアという地で、実際に暮らしている人々の「営み」を感じられる贅沢な作品です。
2011年に発表され、「日本エッセイスト・クラブ賞」と「講談社エッセイ賞」を同時受賞した、内田洋子の代表作ともいえる作品です。
イタリアに魅了され、30年以上住みついている内田洋子が見た、イタリアの人々にまつわるエピソードが10篇綴られています。
- 著者
- 内田 洋子
- 出版日
- 2013-03-08
本書の主人公は名もない普通の人たちですが、タイトルに「10景」とあるように、そこにイタリアの鮮やかな情景が重なります。
冒頭の「黒いミラノ」は、ミラノのど真ん中にあるという暗黒街で、犯罪者が1度逃げ込むと警察の手も届かなくなるような場所。内田はそんな危険なところにも臆せず突入していきます。また山の上の小屋に住む話や、数年間船に住んだ話など、好奇心と行動力にあふれた彼女のバイタリティにも驚くでしょう。
内田洋子の目をとおして、イタリアの魅力を感じてみてください。