「お金」にどんなイメージを持つでしょうか?生きるのに必要なもの。たくさん欲しいもの。もしくは、お金の話をするなんて、いやらしい!なんて思う人もいるかもしれません。 この『お金2.0』は、そんなお金の「本質」や「これからどうなっていくのか」を解説している書籍です。本作を読んでお金について考えるきっかけができたら幸いです。
さて、このタイトルとは、いったいどういう意味なのでしょうか?
数字の「2.0」は、「更新」の意味があります。よくプログラムなどで「バージョン2.0」など、新しくなったら数字が更新されていきますよね。それと同様の意味で使用されているようです。そのまま、お金の意味が更新される、ゼロから作り出されるという意味のよう。
サブタイトルに「新しい経済のルールと生き方」とあるように、今はお金や経済が、仮装通貨の台頭や、信用を軸とした資本によって大幅に変化している時代。そういった話に関することは難しいと敬遠されがちですが、本作は中高生でもわかるように解説されています。
お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)
出版社は幻冬舎。シンプルなタイトル、わかりやすい内容で人気を博し、発行部数は2018年3月の時点で2018年10月現在、10刷20万部を超えています。売上ランキングでも、長い間上位を維持していました。
また、この作品の漫画版を作るプロジェクトも進んでいます。作者の佐藤航陽、編集者の箕輪厚介をはじめ、堀江貴文、家入一真など名だたる人々が審査員として名を連ねている注目のプロジェクトです。
作者の佐藤航陽は、どんな人なのでしょうか?
彼は、株式会社メタップスという会社を経営しています。幼いころに「家にお金がないらしい」と気づき、不平等な社会に不満を持ちます。そして、もっとよい仕組みを作ろうと、早稲田大学の法学部に入学したのです。
しかし、ちゃんとした法律家になろうとすると、大学に加えて大学院にも行かなければなりません。金銭的に余裕がなく、法律家になるのはあきらめるべきかも……そんなことを考え始めたある日、お金に振り回されたくないのに、お金に左右されていることに気がつき、方向転換。
自分で会社を作って、今よりよい社会の仕組みを作ることに決めたのでした。
なかなか思い切った進路変更ですよね。自分の人生の舵を大きく切り直した彼は、アプリの収益化プラットフォームを作って成功しました。
本作がここまで広がった理由として、広告が大々的に打たれたというのもあるでしょう。実はこれは、作者が印税を辞退し、その分を販促に使ってほしいと申し出があったからだそう。かなり大胆な人ですよね。
そして、本作の編集者・箕輪厚介も有名な人物です。
彼は堀江貴文の『多動力』の仕掛け人でもあり、編集者以外の活動でも精力的に動く人物。元々ファッション雑誌の広告営業をしており、その時の経験が生きているのか、かなり行動的です。
自分をブランド化させないと生き残れないと語る彼は、編集という枠を飛び出して、遊びなのか仕事なのかわからないことも多くやってきています。未経験でも、自分が面白いと思ったことはとことんやりつくし、それが成果に繋がるヒットメーカーでもあります。
そんな彼が「死ぬほど面白い」という、この本作。お金や経済の本質がわかるとして、大絶賛しています。
経済とは「人間が関わる活動をうまく回すための仕組み」と佐藤は語ります。今まで読み解く対象だったそれは、いまや「作り上げていく対象」となりました。それゆえに今の時代の経営者は、「よくできた経済システムをつくるプロ」であることが求められるようになっているというのです。
その経済システムは、どのような要素で成り立っているのでしょうか。作者は、発展する経済システムの要素は以下の5つだと解説しています。
まず報酬が明確であること。生物的、社会的な欲望を満たされること。儲けたい、モテたい、認められたいの3Mが満たされること。
その経済の参加者が、常に「状況は、時間によって変化する」ということを知っている、ということ。
運と実力、両方の要素があるべきです。実力だけでも、運だけでもそれぞれの積極性が失われてしまいます。
平等といわれても、実際には偏差値や年収、売上、その他さまざまな指標で、秩序の可視化がおこなわれています。そのポジションを守ろうとする力が必ず働くのです。
その経済の参加者同士が助け合ったり、議論する場が用意されていて、全体が1つの共同体であることを認識できるということ。
この5つで経済は発展していきますが、発展した後に、安定性と持続性をもたらす2要素というのが追加されます。それは「寿命による移動先」と「共同幻想」です。
経済システムは必ず「淀み」が発生し、新しい環境が望まれます。システムが永遠に機能することはなく、完璧なものは最初から作れません。よって、そのものの寿命を最初から計算し、別のシステムに移っていける選択肢を用意しなければいけないのです。
共同幻想は、いわば「理念」です。「理念」や「美学」に共感すれば、ついてくる人は必ずいます。こういった価値観の共有が重要になってくるのです。
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作者は、これからは価値主義の時代がくるといっています。では、それはどういったものなのでしょう。
現代の経済は、もちろん「資本主義」で回っています。重要なのは、いうまでもなく「資本」です。ですが、一方「価値主義」というのは「価値そのもの」が重要視されます。
テクノロジーの進化により、資本以外の「信頼」「注目」「興味」が見える化されるようになってきました。SNSのフォロワー数などが、わかりやすい例です。価値が可視化されているのです。
テクノロジーの急激な発展により、シェアリングエコノミー(モノや場所などを、多くの人と共有する仕組み)、ブロックチェーン(分散型ネットワーク。ビットコインの中核技術がベース)など、今までにない概念が登場してきました。
「役に立つ」「儲かる」だけの資本的な指標だけでなく、「応援する」「感謝する」など内面的な価値が可視化されてきたのです。
それによって、みんなの意識が資本より価値へとシフトチェンジし、それらが中心となる経済が出来上がりつつあります。
そういった価値を重要視する経済システムが中心になれば、お金以外のもので生きていけるようになるかもしれません。「儲かるかどうか」でなく「誰かの役に立つか」「誰かと感動を共有できるか」が中心になり、お金から開放される未来がくるのかもしれません。
本作では、社会の分散化という概念が出てきます。
先ほどもいいましたが、テクノロジーやモバイル端末が進化し、さらにインターネットのサービスも世界の多くに浸透しました。それによって、個人の情報発信や共有が活発化。情報や意思決定の流れが、分散化することになったのです。
「個人」がそれぞれ発信することによって、多様な価値観やライフスタイルが台頭し、それぞれが自分らしく生きること、表現することが一般的になっていきました。
それによって経済のトレンドは、その分散化していったものを繋ぎとめる役割が多くなったのです。たとえば、人と何かを共有するサービスであるシェアリング・エコノミーも、分散化されたモノやサービスが繋がった経済として成り立っています。
宿泊施設や民宿を貸し出す人のためのサイトである「airbnb」は、個人が所有している空いている部屋やスペースの情報を集めるサービス。これとシェアバイク(登録した人が、好きな時間に自転車を利用できるサービス)やカーシェアリングが繋がったものが、シェアリング・エコノミーとなったのです。
このことから、今現在起きている多くのことは、あらゆる仕組みが細かく「分散化」されていった結果に生まれている、ということになるのです。
「お金」という概念がアップデートされ、新しい経済の価値観がどんどん生まれていっていることを、本作では説明してきました。
では、我々はこれからの時代をどう生きていくべきでしょうか。
作者が少年時代に「お金がないと困る仕組みを変えたい」と思ったことは、いまや現実になりつつあります。お金というものが単なる道具でしかなくなり、人々が重点に置くのは、人への「信頼」や「共感」「感動」となっていくでしょう。
そして、その価値観はそれぞれ分散化されてゆき、それぞれのサービスや仕組みを繋ぐ経済が、次々と生まれていくのではないでしょうか。
お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)
私たちがこの価値主義を生き抜いていくためには、資本を重要視するのではなく、自分が何に熱中できるか、どこまで夢中になれるかがキーポイントになってきます。
人への共感や感動に重きを置かれる価値主義では、熱意をもって伝えられる人が活躍していくでしょう。独自性や個性を持って動いていくこと。それが価値主義を生き抜くための方法なのです。
あなたが夢中になれるもの、人に熱意を持って語れるものはなんですか?今一度振りかえって、考えてみるといいかもしれません。
いかがだったでしょうか?これからの新しい経済の説明、また、それをどのように生き抜いていったらいいのか。『お金2.0』は、そんなことをかなり平易な文章でわかりやすく解説しています。このほかにもまだまだご紹介しきれていない部分もあるので、ぜひ手にとって読んでみてくださいね。
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書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。