漫画原作「チワワちゃん」が心をえぐる。3つの謎をネタバレ考察【映画化】

更新:2020.12.15

チワワといえば、大きな瞳が特徴的な世界最小の犬種を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。こちらで紹介するのはもちろん犬ではなく、映画化も決定している岡崎京子の漫画「チワワちゃん」です。 なぜ彼女はバラバラ死体で発見されたのか。どこか痛みをともなう名作を、3つの見所とともにご紹介いたします。

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映画化の原作漫画「チワワちゃん」が痛い、切ない!魅力をネタバレ紹介!犯人は誰?【あらすじ】

「チワワちゃん」は、岡崎京子の描いた短編漫画集に収録された表題作です。岡崎京子は1980年代から1990年代に活躍した漫画家で、オシャレな画面とリアルな若者たちの描写で人気を博しました。交通事故の後遺症により休筆を余儀なくされていますが、2003年発表の『ヘルタースケルター』が映画化されるなど、今なお多くの読者から支持されています。

本作は1996年に発売された短編集に収録された1作です。チワワというと、どうしても犬の姿を思い浮かべてしまいますが、作中のチワワちゃんは、千脇良子という女の子。物語は、彼女がバラバラ死体となって発見されるところから始まります。

著者
岡崎 京子
出版日

チワワちゃんは、東京で暮らす仲の良い男女グループのなかでも、マスコットキャラクターのような存在でした。グループにいたミキは、チワワちゃんがバラバラの状態で、東京湾で発見されたことを、ニュースで知ります。しかし、彼女が千脇良子という名前の看護学生だったという事すら知りませんでした。

千脇良子としてではなく、仲間のチワワちゃんとして彼女を知る人物たちが、死をきっかけに「自分の知るチワワちゃん」を回想していくという物語。読者としてはチワワちゃんを殺した犯人が気になるところですが、本質は犯人探しではありません。

知っていくうちに、目の前に存在していた人物の事を、何も知らなかったという事実とが浮かび上がりました。飛び交う噂も根拠が無いものも多く、だからこそ本当のチワワちゃんの人生が垣間見られたとき、一生懸命生きていた1人の女性の最後を思い、切なくなってきます。

また、本作は犯人が気になるという声もありますが、その人物を突き止めるというストーリーではありません。あくまでも世界観や人物たちの心情が主題となっているので、その真相は明かされないまま終わります。ぜひ読者の皆様も難しい犯人探しよりも、この独特な世界観を味わっていただければと思います。


岡崎京子のおすすめ作品を紹介した<岡崎京子のおすすめ作品ランキングトップ5!『ヘルタースケルター』の作者>の記事もおすすめです。

登場人物を紹介!

本作は、遺体となって発見された1人の女性を、様々な人物が登場して回想するという構成の作品です。チワワちゃんの死をニュースで知り、彼女について回想を始めるのが、ナビゲーター役となるミキ。彼女とともに、本当のチワワちゃんを探っていくことになります。

登場するのは、チワワちゃんを知る人物たち。チワワちゃんの元恋人であるヨシダ、吉田の友人のカツオ。チワワと一番仲が良かったユミ、グループを作るきっかけとなったビデオ作品を撮るナガイ。他にも、シマサヨコという仲間たちが登場します。

そして忘れてはいけないのが、一言もリアルで語ることはなくとも、主人公であるといえるチワワちゃん。顔が小さくて笑顔のかわいい、まさしくマスコットキャラクターという言葉がふさわしい彼女は、実際どんな人物だったのか。彼女と関わった人物たちとともに、読者もチワワちゃんがどんな人だったのかを、知っていくことになります。

見所をネタバレ考察!チワワちゃんに関する証言にある、空虚

相手の事を、全部知っているという自信と根拠を、人は持ちがちではないでしょうか。誰しもが自身の全てを他者にさらけ出しているわけではなく、人によって見せる側面を変えていることも多いはずです。心を許した人に本質をさらけ出すことは多くても、なかなかすべてをさらけ出しているとは言えないでしょう。

チワワちゃんは、グループの仲間全員に慕われて人気のあった人物でした。しかし、人気があることと、彼女を理解してくれる人がいるということはまったく別のもの。本作は人物の姿はそれを見る人の目と心によってその姿を変えるという事が思い知らされる展開なのです。

人気者でも嫌っている人が中にはいるもので、チワワちゃんに関する悪い噂を信じていた仲間も一定数いて、彼女の良いとはいえない行動について言及する人物もいました。グラビアアイドルをしたり、彼氏と別れたことをきっかけにAVに出演したり、クスリをやっていたり。その中には真実のものもありますが、それとは関係なくその人に対する歪んだ気持ちが受け取る側にあれば、その人の中では情報が悪い方へと修正されてしまうのです。

しかし作中で語られる、真実か否か不明な様々なチワワちゃん像の断片をつなぎ合わせることで、都会で恋と人生を謳歌していたひとりの少女の姿が立体的に浮かび上がってくるのも事実です。

誰しも、他者のすべてを理解することは難しいこと。とはいっても、私たちはその限られた情報で相手を見るしかないのです。チワワちゃんの周囲の言葉からその事実が突きつけられ、誰にも本質を理解されることなく逝ってしまった1人の女性の人生について考えさせられます。

見所をネタバレ考察!感情を交えずに淡々と進んでいく物語

 

人が亡くなったとき、襲ってくる、強い痛みと悲しみ。特別親しくなくても亡くなった人のことを想う時、少なからずそんな辛さを感じるのでないでしょうか。人が死ぬという事は、それだけ感情を揺り動かされるということ。

チワワちゃんは突然、バラバラの状態で発見されました。しかし突発的な親しい人物の死という状況にも関わらず、この物語では彼女の周囲の感情が揺れ動く様子は見られません。まるで数年前の出来事であるかのように、それぞれが淡々とチワワちゃんについて語っていくのです。

ある意味特異な描写であるといえるでしょう。見ようによっては、チワワちゃんに対して特別な思い入れが無いのではないかという疑念を持つかもしれません。

しかし、実際にそれは本人たちにしか分からないこと。この独特とも異様ともいえる静かな空気感が、より彼女の死、そして何も揺れ動くところを見せない彼らの感情への想像を掻き立てるのです。

 

見所をネタバレ考察!チワワちゃんという存在に表されるのは、若者ならではの不安、焦燥感?テーマを考察!

人とのつながりが希薄であるというのは、昨今よくいわれがちではないでしょうか。特に若者はそうだと言われることが多いかもしれません。

だれかれ構わず濃い密度で付き合うのが最良というわけではありません。ただ、本作でも描かれているように、ただその場のノリや空気に合わせて仲間として付き合うけれども、深い話をするわけではないという関係性は「薄い」と言わざるを得ないものです。

チワワちゃんは誰からも好かれるような人物でした。しかも、一定の人物と深い関係にあったのにもかかわらず、誰も彼女の本質を知ることはありません。しかしチワワちゃんのような存在は、珍しいものではないでしょう。誰かと一緒にいるけれど、理解されている感覚が薄いと感じる若者は多いように思えます。

本当の彼女を知る人がいないという事は、チワワちゃんも誰かと深くかかわりすぎることを避けていた可能性があります。千脇良子という個人でありながら、不安定な存在のチワワちゃんとして周囲と関わっていた彼女。両者ともに深く踏み込もうとしない彼らの関係は、一見楽しそうに見えてもそこはかとない不安を感じさせるものです。

それは彼ら自身が心の底ではこの希薄な関係性に満たされない思いを持っているからではないしょうか。まだ経験も実績もなく、あるのはこの身ひとつだけ、でもありのままの自分を出すのは怖い。そんな若者ならではの焦燥感を見事に描いているように感じられます。

映画化の原作漫画!短編集『チワワちゃん』はこの他の作品も面白い!

著者
岡崎 京子
出版日

 

1人の仲間の死から始まる物語、表題作である「チワワちゃん」が注目されていますが、本作は短編集。コミックスには7編が収録されています。「チワワちゃん」はどちらかといえば重めの話ですが、中には気軽に読める作品もあり、様々な岡崎ワールドを楽しむことができます。

ガスや水道といったライフラインを止められた2人のOLがくり広げる珍道中を描いた「夏の思い出」や、正反対な性格の2人組が登場する「危険なふたり」は楽しい雰囲気。「GIRL OF THE YEAR」はオチに注目したい作品です。R・D・レインの詩をセリフに使用するなど、実験的な漫画でもある「好き?好き?大好き?」。ダメ男に引っかかった少女たちが活躍する「チョコレートマーブルちゃん」など、作品傾向は様々です。

初版発行当時に若者だった読者だけではなく、現在の若者にも通じる普遍的な「青さ」を感じさせる本作。また、オシャレな雰囲気も色褪せることはなく、独特な色気を醸し出しています。映画化に際し、岡崎ワールドの一端に触れてみてはいかがでしょうか。

 

衝撃的な死から始まる、淡々と紡がれる物語『チワワちゃん』。かわいいタイトルですが、その中には様々な感情や人生が描かれています。映画ではオリジナルキャラクターも登場し、また違った雰囲気の作品となる様子。原作も手にとって、表現の違いを比べてみると、チワワちゃんのまた違った側面が見えてくるかもしれません。

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