時代を超えて、理念や原理原則を頑なに守り抜く経営姿勢を持つ会社は、やはりその歴史に納得できる偉大な会社が多いもの。本作のタイトルでもある「ビジョナリー・カンパニー」とは、理念を掲げながら環境の変化に挑み、長期間にわたって優良であり続ける企業のことをいいます。 この記事では、ビジネスマン必読書である本作について、簡単に紹介していきます。大きなインパクトを世界に与えつづけている企業、我々の生活になくてはならないビジョナリー・カンパニーに学んでみましょう。
本作は、卓越した企業に共通する点から「時代を超える企業の生存の原則」を導き出した本です。経営者必読の書として、世界中で読みつがれています。「サイバーエージェント」の社長・藤田晋も、本作を愛読書としているといわれています。
作者のジェームズ・C・コリンズは、1958年1月25日生まれのビジネス・コンサルタントです。その他にも作家や講師としても活躍しています。マッキンゼー・アンド・カンパニー社やヒューレット・パッカード社などの有名企業で働き、現在に至ります。
ビジョナリーとは、「将来のビジョンを持った」という意味の英語で、「ビジョナリー・カンパニー」は、「将来のビジョンを持った会社」という意味。本作には、その例としてIBMやマイクロソフトなど、実在する有名企業も登場します。
また、『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』『ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる』そして、「ビジョナリー・カンパニー2」に内容を補足した『ビジョナリー・カンパニー 特別編』と、シリーズ化もされてもいます。
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
1995年09月26日
本作では数多くの事例が紹介され、「ビジョナリー・カンパニー2」では、どうしたらビジョナリー・カンパニーになれるのかを記載。「ビジョナリー・カンパニー3」では、どうして会社が衰退するのか、また衰退しないためにはどうしたらよいのかが書かれ、「ビジョナリー・カンパニー4」では、経営のために必要なビジョンとは何かが書かれています。
本シリーズで一貫しているテーマは、時代を超えて生存していくような企業が持つ、ビジョンや仕組みを考察する、というもの。
「ビジョナリー・カンパニー4」のなかでは、マイクロソフトとアップルが対比されており、マイクロソフトがビジョナリー・カンパニーとして位置づけられています。つまりアップルは、ビジョナリー・カンパニーと対極の会社だという解釈なのです。
しかし実際のところ、このように解釈されたのは、著者が会社を調査した期間が創業時から2002年までであったためと考えられています。アップルは、2002年にスティーブ・ジョブズ氏がCEOに再就任したことで、ビジョナリー・カンパニーとなります。
それゆえに、それ以前はビジョナリー・カンパニー出ないと解釈され、マイクロソフトと対局にあると捉えられてしまったのです。実際、本作の第4章「銃撃に続いて大砲発射」では、「アップルの復活」について、補足して説明されています。
本作は、同じようなコンセプトをもとに書かれている『エクセレント・カンパニー』と、よく比較されます。しかし『エクセレント・カンパニー』は、組織が巨大になっていく過程で失いがちな、小さな組織の優位点を失わないようにする戦略に焦点が当てられていました。
一方で本作は、時代の転換点を乗り越えて、発想力の衰退を防ぐための戦略に焦点が当てられているのです。
ビジョナリー・カンパニーとは、将来のビジョンを持った会社のことをいいます。将来のビジョンは、その会社のアイデンティティとなるもの。それに基づいて、経済活動はおこなわれています。
そのなかのひとつである基本理念を隅々まで浸透させるためには、社内のさまざまな点において「一貫性」を保たなければなりません。ひとつの制度、ひとつの戦略、ひとつの戦術、ひとつの仕組み、ひとつの文化規範、ひとつの象徴的な動き……そういったものを、戦略的に統合しなければならないのです。
組織の中の隅々にまで基本理念がいきわたっていれば、そこで規律が生まれます。規律とは、基本理念が示すのと同じ方向に、全員で向いて行動できるということです。足並み揃った活動をするためにも、一貫性を持っていなければならないのですね。
ビジョナリー・カンパニーとなるような会社は、カルトのような文化を持っていると考えられています。「カルトのような文化」といわれると、危険なのではないかと思われるかもしれません。
しかし、ビジョナリー・カンパニーは、特定のカリスマ的なリーダーがトップダウンで部下に指示を与えるような組織ではありません。むしろ権限の分散が進められており、業務上の自主性が幅広く認めているのです。そのため、ビジョナリー・カンパニーにおいては、カルトのような文化が存在していたとしても、閉鎖的にならないのです。
そして、先ほど書いたとおり理念を管理することによって、組織メンバー同士の一貫性を維持すると同時に、自主性によって進歩を促しています。
ビジョナリー・カンパニーにおいては、時を告げる経営者ではなく、時計を作る経営者となるのが大切だといわれています。
時を告げる経営者とは、「〜をしろ」と部下に対して一方的にミッションを与えるような経営者です。部下は、上司の指示によって動くことになります。そうすると、社会に影響を与えるような、インパクトのあるイノベーションが社内で起こりにくくなってしまうのです。
ですので、ここでは時計を作るような経営者になることが大切といわれています。これは、どんな時計を作ろうかというビジョンを、部下たちと共有しようとする経営者です。部下に指示ではなくビジョンを与え、それを共有することによって、よりよい時計=ミッションを作ろうというのが特徴なのです。
上司や部下という関係ではなく、会社のメンバー全員が同じビジョンを共有することによって、それぞれが同じ方向を向いて前進できるようになるというメリットが生まれます。
- 著者
- ジム・コリンズ
- 出版日
- 2001-12-18
本作では、同じバスに誰を乗せるかが重要だということが書かれています。このことは「ビジョナリー・カンパニー2」のなかで主張されています。
ビジョナリー・カンパニーは、同じ基本理念を共有したメンバーによって運営されているような組織です。理念を共有していることが、その会社のメンバーである証となります。しかし、これは経営者が理念をメンバーに対して示すということではありません。
示すのではなく、むしろ、メンバーとともに作り出すことが重要なのです。そのため「誰を選ぶか」をまず決めて、その後に「何をすべきか」決めることになります。そうしてからでないと、メンバーとビジョンを共有することができないからです。
つまりビジョナリー・カンパニーになるためには、同じバスに誰を乗せるかと同じようなことを考えるのが重要な課題となります。
ビジョナリー・カンパニーは、「or」ではなく、「and」が重視されるような会社です。
「or」とは、二者択一的な考え方。一方「and」とは、AとBの両方を手に入れる方法を考えるというもの。「or」の考えに基づいてしまうと、Aという考えに基づいた時、それ以外のBという考えを簡単に受け入れられなくなってしまいます。そのため、一見矛盾する考え方を、同時に追求できなくなりがちです。これは、考えの偏りを生み出します。
たとえば、一般に会社は利益を追求することが善であるから、それ以外は悪であると考えてしまうということ。
しかし、ビジョナリー・カンパニーにおいては、利益を求めると同時に、社会や環境のためにどんなインパクトを与えられるかを考えます。このように「and」の考え方を重視する会社こそが、ビジョナリー・カンパニーなのです。
本作には、重要な概念が2つ登場します。それは「針鼠(ハリネズミ)」と「弾み車」です。この概念は『ビジョナリー・カンパニー2』のなかで、詳しく展開されています。
本作の著者たちが調査したところ、偉大な会社は非常にシンプルなコンセプトに特化した戦略を持っており、それを会社の活動の指針として位置づけていました。
著者たちは、体も小さく、動きも遅い針鼠が、自分の体の唯一の特性である針を使って生存してきたことの比喩として、概念の名前をつけました。つまり偉大な会社は、非常にシンプルなコンセプトに特化した戦略を指針として活動しているからこそ強いのだと考えられるのです。
「針鼠」という概念の核心は、長期的に最善の成果を生み出す方法を明らかにし、この概念から外れる機会にぶつかったときに、「ありがたいが見送りたい」という答えが出せる規律を、きちんと持ち続けること。
この概念を持った会社には、「情熱をもってとりくめるもの」「自社が世界一になれる部分」「経済的原動力となるもの」の3つが存在しています。
なぜ、針鼠の概念を持った会社には、これらが存在するのでしょうか。その理由は、会社のメンバー全員が同じビジョンを共有しているからです。
明確なビジョンを全員が共有することによって、それが指針となり、日々の仕事に情熱を持って取り組むことができます。そして、自社の強みを伸ばして世界一を目指し、それを原動力として、業務に取り組めるようになるのです。
さらに本作のなかで、次のように著者は問いかけています。
巨大で重い弾み車を思い浮かべてみよう。
金属製の巨大な輪であり、
水平に取り付けられていて中心には軸がある。
直径は10メートル程、厚さは60センチ程、重さは2トン程ある。
この弾み車をできるだけ速く、
できるだけ長期間に渡って回し続けるのが自分の仕事だと考えてみる。
(『ビジョナリー・カンパニー 2』より引用)
このとき、この巨大な輪を回すことは、非常に困難な作業となることがわかるでしょう。それでも私たちは、これを回し続けなければなりません。
しかし、どんなに巨大な輪であっても、それを1度回し、何度も何度も続けていれば、重みによって回転速度が上がって、少し押すだけで大丈夫になります。これが「弾み車」の概念です。
この比喩で、著者たちは何を言いたいかというと、劇的な変化はゆっくりと起こるということ。いきなり大きな変化を起こそうと思っても、会社が劇的に変化することはありません。むしろ、日々継続して努力することによって、急激な変化は起こるのです。
その変化を起こすためには、日々仕事に励む必要があるでしょう。
本作はシリーズ化されているほどの人気で、翻訳もされています。しかし、非常に長い本です。そのため、全て読破したという方は少ないのではないでしょうか。
もし時間がなくて読めないのであれば、漫画版をおすすめします。
- 著者
- 出版日
- 2018-10-12
こちらは、『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ4冊の内容における、重要なエッセンスがギュッと詰まったものです。まずは要点を知りたいという方には、ピッタリとなっています。
内容もただ要約してあるだけではなく、自己キャリア、マネジメント、投資などの実践において、どのようにビジョナリー・カンパニーの考え方を生かしていくかが書かれているのがポイント。
ホテルのコンシェルジュである主人公・柏木知佳子と、お客さんとの関わりを通じてビジョナリー・カンパニーの考え方が学べる構成となっています。仕事をとおして成長していく、知佳子の姿にも注目です。
手に取りやすい一冊。ぜひこの機会にご一読ください。
「終わりなき革新」を日々積み重ね、「変わらない理念」を羅針盤として守る。目先の業績の上下だけにこだわらず、確固たるビジョンを持った企業こそが、株式市場からも評価を受けます。そのようなビジョナリー・カンパニーであることこそが、今後の企業には求められているのかもしれません。
ぜひ本作を読んで、どんな会社がこれからの時代を生き残っていくのか考えてみてくださいね。
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。