考えていることをうまく伝えられる人は、もともとのセンスがあるからだと思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、著者の佐々木圭一は「伝え方にはシンプルな技術がある」「感動的なコトバは、つくることができる」と言い切っています。 本作では、コピーライターとしてコンプレックスの塊だった著者が発見した「人生を変える伝え方のレシピ」が、惜しげもなく公開されています。ぜひご覧ください。
2013年2月に初版が発行されて以来、2018年11月現在、累計で発行部数は約120万部の『伝え方が9割』。続編である『伝え方が9割2』も出版され、そのなかで著者が各方面で実際に聞き出した成功例やエピソードを中心に、伝え方についての具体的な実践方法が紹介されています。1が座学編なら2が実践・応用編といったところでしょうか。
また、『77部署合体ロボ・ダイキギョー』というドラマ作品も作られました。あらすじは、巨大ロボットに入って左膝部分を担当する主人公が、自分より下にある部分を担当する同僚たちとのコミュニケーションを考えていくというもの。ストーリー仕立てになっており、より学びを吸収しやすいかもしれません。
そんな本作の著者は幼少の頃から転校続きで、常に「目立たないこと」を目標としていたために、自分を表現することが大の苦手な少年でした。しかし彼がそのまま大人になって社会人生活をスタートさせたのが、なんと大手広告代理店の「博報堂」。そこでの配属先は、なぜか「コピーライター」でした。
そこから文章の下手さと漢字を知らないことで、周りの人を驚かせ続けた彼の苦悩がスタート。会社ではお荷物扱い、ストレスからくる過食で1年に10キロも太ってしまうという、最悪の生活が待ち受けていました。
そんな苦悩のなかで、膨大な量のコトバ、コピーを見続けて研究するうちに、1つの事実を発見します。それがこの『伝え方が9割』の原型となる、ある種の法則と、コトバのカラクリです。
発見したコトバのコツやテクニックが見えてきてからは、著者の生活は一変。国内外のコピーや広告の賞を総なめにします。
上記は、彼の代表的な広告コピーの1つ。目にしたり、耳にしたことがある方も多いはず。これらは実は、著者の「ヒミツのレシピ」から生まれていたのでした。
- 著者
- 佐々木 圭一
- 出版日
- 2013-03-01
本作が伝えるコンセプトは、「ノーをイエスに変える技術」。具体的には次の「3つのステップ」と「7つの切り口」です。
「ノーをイエスに変える3つのステップ」
「ノーをイエスに変える7つの切り口」
シンプルながら、これが実に強力。このメソッドを使えば、夫婦間のコミュニケーションや、職場でのメールのやりとりも、各段にイエスのポテンシャルが高まると作者は語ります。
本作は「イエス」を求める営業職や、ビジネスコミュニケーションを必要とする研修カリキュラムにも参考にされるようになり、冒頭のようなシリーズへと大きく発展していきました。
さて、ここからは具体的な7つの内容について、主に恋愛面でのユースケースを想定しながら紹介していきましょう。
「ノーをイエスに変える技術」の基本は、自分の思っていることをそのままコトバにせずに、相手の頭の中を想像して、相手の好きな世界に近寄ることです。
もしアナタが彼女をデートに誘うとしたら、「僕とデートしてください」という自分の思っていることをそのまま口に出すのを、まず控えましょう。その代わりに相手が好きなことを思い浮かべます。
アナタの好きな女性が好きな食べ物は?場所は?好きな趣味は?好きな映画は?を考えます。もし、イタリアンが好きな女性なら「今度僕とデートしてください」と言う代わりに、「今度新しく出来たパスタの店に、一緒に行ってみませんか?」と言えばどうなるでしょうか?
伝え方しだいで「イエス」が返ってくる可能性は、確実に高まるはずです。
相手にイエスと言わせるテクニックは、まだまだあります。たとえば「認められたい欲」。残業を頼みたいときに「残業をしてくれる?」というよりも、「君の企画書が1番刺さるからね!」、「君の資料が1番見やすいから、お願いしてもいいかな?」などと言えばどうでしょうか?
その他にも、「勉強しなさい!」と言って素直に勉強する子どもって、まずいませんよね?でも「それじゃ一緒に勉強しよう!」と言って横で静かに本を読むだけでも、子どもの勉強に向かう確率が上がるのは、実践的に証明されているようです。
デートが続けば、いよいよ告白タイム。イエスをもらえる告白は、いったいどんなセリフ?場所は?タイミングは?もちろんそれらもありますが、大事なのは「伝え方」です。ここでは3つの方法をご紹介しましょう。
まず最初は初級編の、サプライズ法です。サプライズといっても、特に特別なものではありません。初級編ですから、至極簡単なテクニックなのです。
それは「!」を付ける。これだけです。「今日は会えてうれしかったです。また会いたいです」と、メールで書くよりは、「今日は会えてうれしかったです!また会いたいです!」と書くだけ。これだけでも、ずいぶんと印象が違うと思いませんか?
次は、ギャップ法です。これは最後のメッセージの意味に、ギャップをつけること。
たとえば「好き」と単純に言われるよりも、「嫌いになりたいのに、あなたがどうしても好きです」と言われた方がドキッとします。それは、最初と最後にギャップがあるからです。スタート地点を下げて、メッセージのゴールとの高低差でかなり伝わり方が変わります。
3つ目は、クライマックス法です。同じ「好きです。付き合ってください」というコトバの前に、「これだけは、ぜひ知ってほしい」「誰にも言わないでほしいんだけど」「これだけは絶対に忘れてほしくない」という、強いコトバを入れてみます。この方法を使って告白すると、つまりクライマックス言葉を前につけるだけで、効果はまったく変わってくるというのです。
簡単に取り入れられるものでしょうし、ぜひ告白に悩んでる方は使ってみてはいかがでしょうか?
こちらの作品は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」でも楽しむことができます。
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先に「イエスを引き出す基本の3ステップ」を紹介しました。ただ私たちは、いつもお願い事だけを人に伝えているわけではありません。時には謝罪やお断りという、マイナスのメッセージを伝えることもあります。そんな時も、この「伝え方」が使えるのです。
ファストフードで注文したときに「4分ほど待っていただけますか?」と言われて、すんなり納得して待つ人がどれぐらいいるでしょう?でも「できたてをご用意する間、4分ほどお待ち願いますか?」と伝えたらどうでしょうか?「できたてが食べられる」という相手のメリットに、うまく合わせていますね。
さらに飛行機から降りる際に「先のお客様が出るまで、お席でお待ちください」と言われるより、「前のお客様が出られるまで、ゆっくりと御支度ください」と言われたほうが、はるかに気分がよくなりますよね。
この方法は、恋愛においても生かせます。たとえばデートで遅刻する場面があったとします。その際に「ごめん。遅刻するから、待っててもらってもいい?」では、相手はなかなか納得しないもの。
しかし「ごめん。遅刻するから、そこの近くにあるケーキの美味しい喫茶店で待っててもらってもいい?」と言ったらどうでしょうか。そして、遅刻したお詫びにそこの代金を支払えば、相手を怒らせずに済むかもしれません。
このように、何かをお願いする際は、相手のメリットを考えて行動すると円満に進むケースが多いのです。
人間は感情の生き物。同じ頼まれ事でも、その時の感情によって結果は「NO」にも「YES」にもなるでしょう。そして「NO」を「YES」にする魔法の言葉が「感謝のコトバ」。つまり「ありがとう」です。
たとえば家族となった相手に「ちゃんとゴミ捨ててよね!」と言う代わりに「いつもゴミ捨てありがとう!今日もお願いね!」と言ってみましょう。結果は明らかに変わるはずです。
「ありがとう」は「伝え方のテクニック」の範囲を超える、魔法のコトバ。これは夫婦間に限ったことではなくて、子育てにも有効です。
2人の関係や、家族の間でうまくコミュニケーションがとれていないとき、仲直りや復縁の可能性をグンと高めるのが、「ありがとう」というコトバを真っ先に口にすることなのです。
最近のベストセラーはよく漫画化されますが、本作も例外なく漫画になっています。題して『まんがでわかる伝え方が9割』。シナリオは、星野博文が担当しています。
- 著者
- 佐々木 圭一
- 出版日
- 2017-01-27
あらすじは女性雑誌編集部員の舞が、わがまま女優に振り回されたり、モデルやデザイナーとの折衝に悪戦苦闘するなか、謎の駄目出しお姉・マリアから「伝え方1つで、ノーをイエスにする事もできるのよ!」とのアドバイスを受け、日々成長するというもの。
マリアからの的を射たアドバイスに、読んでいて思わずドキッとしてしまうかもしれません。また彼女(彼?)からのアドバイスは、仕事に生かせることはもちろん、恋愛にも活用できます。
好きな人に自分の気持ちをうまく伝えられまくてモヤモヤしている方は、ぜひこの作品を参考にして、伝え方を身につけてみるのはいかがでしょうか。
原作の内容をしっかりと抑えながら、わかりやすく読み進められます。
ここで、本作に登場する名言をご紹介していきましょう。コトバを中心にしたこの本のまさに中心となる考え方が、名言として浮かび上がっています。
ひと工夫のあるふせんを見ると、相手は好印象を持ちます。
なぜなら、ひと工夫をすることは「あなたが好きです」と伝えていることだからです。
(『伝え方が9割』より引用)
少し凝ったふせんに、仕事を手伝ってもらったことに対しての「ありがとう」を、飲み会の幹事を務めたことに対しての「お疲れ様」を書いてデスクに貼っておくだけでも、相手は嬉しく思い、それをきっかけに距離を縮められるかもしれません。
何気ない感謝の一言は、人を嬉しくさせるもの。それが手書きのメッセージであったら、なお嬉しいですよね。好きな相手、特にその相手が同じ会社内にいるのであれば、かなり効果的な方法なのではないでしょうか。
「ありがとう」と感謝するコトバに、人は否定をしにくくなります。
さらに名前を言われると、人は応えたくなります。
(『伝え方が9割』より引用)
好きな人とデートすることができたのに、なんだかあまり話が盛り上がらなかった……そんななかで次のデートの約束を取り決めることは、なかなか至難の技です。
そんな場合は、別れ際に思い切って、相手の名前を呼んでから「今日は楽しかったです、ありがとう。もしよかったら、また一緒にご飯行きましょう。」と言いましょう。
先ほどもご紹介しましたが、感謝を伝えられると、なかなか断りにくいものです。相手の名前を呼んで感謝を伝えることで、次のデートの約束ができるかもしれません。
一方で、人は2つ選択肢があるときの「比較」が得意です。
(『伝え方が9割』より引用)
これは、誰しも経験があるはず。多くの人は「何が食べたい?」と聞くと、「なんでもいいよ」と答えます。でも「お肉と魚と、今日はどっちが食べたい?」と聞かれると相手はどちらかを答えますし、それに文句をつける人もいないでしょう。
デートでお店を決める際に相手の希望を聞きたい、でも「どの店がいい?」と聞いてしまうと決断力がないと思われてしまう……そんな葛藤を解消するのに、かなり有効な手段といえるでしょう。これで、いつもよりスムーズにデートができるかもしれません。
相手にノーと言われない、貴重なテクニックの1つです。
この記事ですべてはご紹介できませんが、本作のなかにはさらに数多く実例が掲載されています。
「芝生に入らないでください」と言うよりも、「この芝生に入ると農薬の匂いがつきますよ」と伝える「相手が嫌いなことの回避」。
「Aを買ってください」と言うよりも、「AとBを買うならどちらですか?」と伝える「選択の自由」。
「自治会の集まりに、ぜひご参加ください」と言うよりも、「今度の自治会、斎藤さんだけには来てほしいのです」と伝える「あなた限定」などなど……。
どれも「なるほど!」と、思い当たることばかりです。
- 著者
- 佐々木 圭一
- 出版日
- 2013-03-01
ここで最後に、気になる人は気になっているであろう「9割なら、残りの1割は?」という事ですが……これも著者が、本作のなかで語ってくれています。
人は目に見える資格ばかりを磨きたがりますが、
私からすれば、それは10%でしかありません。
残りの90%はあなた自身を魅力に伝えられる、伝え方やコトバです
(『伝え方が9割』より引用)
この「伝える」コツとテクニックを身に付けるということは、イエスを獲得して「得をする」機会を増やすという目的のためのもので、それがほぼすべてなのだと、著者は自らの人生から語ります。
普段のコミュニケーションからビジネス、そして恋愛・結婚にも役立つ『伝え方が9割』。本作で伝え方を身につけて、好きなあの人と距離を縮めてみてはいかがでしょうか。
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。