5分でわかるAPEC!加盟国や設立の経緯、ビジネスカードなどを簡単に解説

更新:2021.11.16

環太平洋地域の経済協力を推進するため設立された「APEC」。創設以来、参加する国や地域(エコノミー)は増え続けていて、多種多様な広がりをみせています。この記事では、加盟国などの概要や設立の経緯、台湾の参加、日本で開催された首脳会談、「APECビジネストラベルカード」などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。

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APECとは。加盟国など概要を簡単に解説

 

正式名称は「アジア太平洋経済協力会議(Asia-Pacific Economic Cooperation)」といいます。その頭文字をとった略称である「APEC」。その名が示すとおり、アジア太平洋地域の経済発展や地域協力を推進するための枠組みとして、1989年に発足しました。

常設事務局はシンガポールに設置されていて、年に1回の首脳会議のほか、外相や経済担当相による閣僚会議が開催されています。ちなみに首脳会議の開催地は参加する国や地域のなかから選ばれ、日本では1995年と2010年に首脳会議が開催されました。

APECでは、参加国や地域を表す際に「国」という言葉は用いず、「エコノミー」といいます。活動資金は全エコノミーが負担していて、外務省のホームページによると、2015年の予算は500万アメリカドル、日本はそのうちの約18%にあたる90万1000アメリカドルを拠出していて、アメリカと並ぶ拠出エコノミーだそうです。

1989年に設立された当時の参加国は、12ヶ国でした。その後順調にエコノミーが増加し、2018年現在では21の国と地域が参加しています。

  • アメリカ
  • インドネシア
  • オーストラリア
  • カナダ
  • シンガポール
  • タイ
  • 大韓民国
  • 台湾
  • 中華人民共和国
  • チリ
  • 日本
  • ニュージーランド
  • パプアニューギニア
  • フィリピン
  • ブルネイ
  • ベトナム
  • ペルー
  • 香港特別行政区
  • マレーシア
  • メキシコ
  • ロシア連邦(50音順)

参加エコノミーを見るとわかるように、APECは、ASEAN(東南アジア諸国連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)にメンバーを加えたような形で、「地域主義」の枠組みとしては世界最大の規模を誇ります。

APEC全体で世界のGDPの約60%、世界の貿易量の約50%、世界の人口の約40%を占めるほど。そのため重要性が高まり、近年では経済協力に加えて安全保障や環境問題などさまざまなテーマを扱うフォーラムとして機能するようになっているのです。

APECへの台湾の参加について

 

実はAPECは、法的な拘束力をもった公式の機関ではなく、「非公式のフォーラム」という位置づけがされています。その理由は、中国の特別行政区である香港や、現在多くの国から国家として承認されていない台湾が参加しているからです。

1991年、新たなエコノミーとして中華人民共和国と香港、台湾が加わりました。しかし中華人民共和国と台湾は、1949年に中華人民共和国が建国されて以来、どちらが正統な中国政府であるかをめぐり「2つの中国」問題で対立を続けています。

APECでは、政治的にデリケートな問題を抱えている中華人民共和国と台湾を参加させるため、なるべく政治色を排する方針を掲げています。

たとえば会議の際に国旗や国歌が用いられることはありません。また参加国の首脳会談も「非公式」とすることで、台湾を国家として承認するかどうかの問題に触れない形式をとっているのです。「エコノミー」という名称も、国以外の立場で参加することに配慮して付けられました。

こうした配慮の結果、APECは多様な地域との経済協力を実現しました。他の地域主義の組織は、ほとんどが国家主体となっているため、エコノミーという体制をとっていることはAPECの大きな特徴だといえるでしょう。

APEC設立の経緯

 

APECが設立された経緯には、日本の動きも大きく関わっています。

日本にとって長らくもっとも重要な貿易相手だったのは、アメリカでした。しかしAPECが設立された1980年代後半になると、1985年に結ばれた「プラザ合意」の影響を受け、より安価な労働力を確保するために東南アジアへ生産拠点を展開するようになります。

こうした動きを背景に、日本国内ではしだいに、重要な貿易パートナーであるアメリカと東南アジアを包含する「環太平洋地域」で、新たな経済協力の枠組みを作るべきだという考えが生じていきました。

1987年から日本とオーストラリアの間で、アジア・太平洋地域の経済協力を目指す取り組みが進められていきます。

そして1989年、オーストラリアのボブ・ホーク首相がアジア・太平洋地域の大臣会合を提唱。アメリカやASEANからも好意的な反応が生じ、同年開催されたASEANの拡大外相会議において、オーストラリアの提案に賛意が表明されました。その結果、オーストラリアのキャンベラで最初のAPEC閣僚会議が開かれることとなったのです。

APECは日本でも開催!2010年は成果があった?

 

APECの首脳会議は年1回、エコノミーのいずれかにおいて開催されています。2010年の首脳会議は、日本の横浜で実施されました。

「Change and Action」をテーマに掲げ、これまでの成果を確認するとともに、より緊密で、強く、安全な共同体を築くための地域経済統合を推進する、さまざまな方針が決定されたのです。

日本は開催国としてAPECをリードし、首脳宣言として「横浜ビジョン~ボゴール、そしてボゴールを越えて」を採択しました。

「横浜ビジョン」は、1994年にインドネシアで採択された「ボゴール目標」の成果を確認し、「自由で開かれた貿易及び投資」を実現するためにエコノミーが進展を遂げたことを評価しています。そのうえで、さらなる地域統合を進めて「緊密な共同体」「強い共同体」「安全な共同体」を作ることを目指し、各エコノミーが協力することが宣言されました。

この目標を達成するため、日本各地で開かれた会合で「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の構築に向けた合意や、「APEC成長戦略」の策定、食の安全を確保するため「食料安全保障」に協力することの確認などがされています。

このように日本で開催された首脳会議を通じ、APECの将来像に関わる具体的な目標がエコノミー間で共有されることとなりました。

また日本は、このAPECを通じてより密接にアジア・太平洋地域と提携することを表明しています。今日の「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」への加盟など、環太平洋地域の経済と日本がコミットしていく方針が定まったといえるでしょう。

ビジネス界とも連携!「APECビジネストラベルカード」とは?

 

最初に述べたとおり、APECの目的はアジア・太平洋地域の経済発展や地域協力を推進することです。そのための取り組みとして、APEC域内の円滑な経済活動を助ける特別なカード「APECビジネストラベルカード」が作られています。

「APECビジネストラベルカード」は、基準を満たしたビジネスパーソンに対し、政府が発行するカードです。このカードとパスポートを提示することで、APEC域内では無査証で何度でも、短期商用目的の上陸申請が可能となるほか、入国審査も特別レーンを使用することにより少ない待ち時間で受けられるようになるそうです。

現在、「APECビジネストラベルカード」には19のエコノミーが完全参加しています。アメリカとカナダは暫定参加のため事前審査が必要となるケースもありますが、ほぼ全域で特典を活かすことが可能になっているのです。

日本は2003年から導入していて、外務省に申請すれば1万3100円で取得できます。観光目的では使用できず、あくまで商用でしか利用できませんが、APEC域内に頻繁に出張するビジネスパーソンは取得して損はないでしょう。

国際派官僚の回想録でAPECの創設過程を知る

著者
村岡 茂生
出版日
2017-02-02

 

作者は、1950年代末に当時の通産省に入省し、1980年代まで官僚として働いてきた人物です。オイルショックや日米貿易摩擦などへの対処も興味深いですが、やはり注目はAPECの創設。

縁の下の力持ちとしてさまざまに尽力した過程と成果が記されています。どのようにしてオーストラリアを抱き込み、ASEANから賛意を取り付けたのか……交渉を実現するためにとられた細やかな戦略や配慮を読み取ることができるでしょう。

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