第23回電撃小説大賞で、大賞を受賞した作品。「発光病」という不治の病を患ったヒロインと、姉を失って時間を止めてしまった主人公。そんな彼らが織りなす、儚く、切ないラブストーリーです。 本作は、永野芽郁と北村匠海が主演で、2019年3月に映画化。そんな、これからますます注目していきたい感動作の魅力をご紹介しましょう。
高校1年生の岡田卓也は、姉を自殺で亡くしてからというもの、人生に意味を見出せず、投げやりな日々を送っていました。
そんな彼のクラスメイトである、渡良瀬まみず。彼女は不治の病である「発光病」にかかっており、入院生活を余儀なくされていました。
学校に通えない彼女のために見舞いに行ってやれ、という教師の提案で、卓也は病院に向かうことになります。最初は成り行きでしたが、卓也とまみずは、しだいに打ち解けるようになるのです。
余命幾ばくもないまみずに代わり、彼女のやりたいことをやるという約束を交わし、それらを実行していくことになるのです。
- 著者
- 佐野 徹夜
- 出版日
- 2017-02-25
卓也はこの約束を果たすために、まみずのリクエストに応える形で、いろいろなことをしていきます。その過程で、徐々に2人は心を通わせていくのです。
本作にはこの他にも、卓也のクラスメイトである香山彰や、自殺した卓也の姉、アルバイト先の先輩である平林リコなど、個性豊かなキャラクター達も登場。
人の死がつなぐ、時に笑え、時に泣けるラブストーリーなのです。
2019年2月現在で、売上発行部数が20万部を突破したラノベ小説。表紙は注目のクリエイター・loundrawが手がけています。2019年2月には、彼の作品やインタビューを収録した『夜明けより前の君へ featuring 君は月夜に光り輝く』が発売予定です。
そんな本作は、2019年3月に映画化が決定。主演は、北村匠海と永野芽郁です。その他のキャストには今田美桜などが発表されており、注目の若手俳優が多く登場。及川光博など、魅力的なベテラン勢も出演します。
監督は、月川翔。さまざまなメディアで大ヒットした「キミスイ」こと『君の膵臓をたべたい』でも監督を務めた人物です。本作の世界観が映像でどのように表現されるのか、ぜひ注目したいですね。
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・岡田卓也(おかだ たくや)
本作の主人公。姉の死を受け入れることができないまま投げやりな日々を送っていましたが、まみずとの出会いをきっかけに、少しずつ変わっていきます。
親しい人の死を経験し、そんななかで余命僅かなまみずを好きになったことで、さまざまな葛藤を抱えることになっていくのです。
・渡良瀬まみず(わたらせ まみず)
本作のヒロイン。卓也とはクラスメイトです。見舞いに来た卓也と出会い、彼に自分のしたいことを託す約束をしました。
「発光病」という不治の病を患っていて、余命はわずかだと宣告されています。この病気は、月の光を受けると体が発光し、死が近くなるほど発光が強くなる謎の奇病です。
自分の死を受け入れていましたが、卓也と出会ったことで、生きたいという気持ちが強くなっていきます。
ヒロイン・まみずは、自分の命が残り僅かなものだと十分理解しているものの、まだやりたいことがたくさんありました。そこで、見舞いにきた卓也に自らのしたいことを託し、代わりに実行してもらうことにしたのです。
そんな交流を続けるうちに、彼女は彼に対して、淡い恋心を抱くようになります。そして、卓也もまた彼女のことを好きになって、その気持ちを伝えるのです。
しかし、まみずはもう生きることができません。彼女は、彼と同じ気持ちを持っていたにも関わらず、それを受け入れることができませんでした。
彼女は、自分の死を受け入れ、覚悟して生きてきました。しかし、卓也と出会ったことで、生きたい気持ちが強くなっていったのです。
生きたいと思う心と、死に向かっている状況がせめぎ合い、葛藤する彼女。その姿はとても切なく、読んでいて引き込まれること間違いありません。
本作のテーマでもある、死。それが彼女を中心に、丁寧に描かれていきます。
主人公である卓也もまた、辛い現実を背負っている少年です。3年前に姉を自殺で亡くし、その死を受け入れらないまま、時間が止まったように生きています。
彼の母親は娘を失ったことで、息子である卓也もまた失ってしまうのではないかという恐怖を感じており、それもまた彼の置かれた状況を複雑なものにしている一因となっているのです。
まみずのように、自らが死んでいく現実を突きつけられるのも想像を絶する辛さですが、彼のように大切な人を亡くしたまま生き残る辛さも、また想像を絶するものなのでしょう。
そんな彼は、しだいに生きることよりも、死ぬことに興味を抱くようになります。それはある意味、自然な流れといえるかもしれません。そんな彼がまみずとの交流を経てどう変わるのかも、物語の見所の1つなのです。
卓也の心理描写がリアルなのには、ある理由があります。それは、本作のあとがきで明らかになりました。実は、作者・佐野徹夜は、過去に友人を自殺で失くすという体験をしていたのです。
大切な人を自殺で失う苦しみ。それを作者自身が実際に体験していたからこそ、それが作品に反映され、卓也の内面を生々しく、とてもリアルに描いていたのです。
卓也のクラスメイトである香山は、つかみどころのない遊び人タイプの男子高校生。卓也とまみずを出会わせるきっかけとなった張本人でもあります。
実は、この香山の兄は、卓也の自殺した姉の元恋人でした。さらに彼の兄の死が、卓也の姉の自殺のきっかけとなっており、香山と卓也の関係は非常に複雑なものとなっていたのです。
香山はかなりデタラメな性格をしており、卓也がいじめられていた際にはいきなり飛び降りを図って重傷を負うという行動をしたこともあります。どうしてそんなことをしたのかははっきりしませんが、卓也を助けるための行動だったのでしょう。結果的に、彼はこの一件が原因で、バスケの道を絶ってしまうことになりました。
一歩間違えば死んでしまうようなことを笑いながらやってしまうのだから、はたから見るとかなり危なっかしく感じられるでしょう。
意思の読めない変わり種の存在ですが、不思議な魅力のあるキャラクター。そんな彼と卓也の関係にも、注目してみてください。
上記したように香山とは複雑な関係である一方、結果としていじめられているところから助けてもらったことで、卓也は香山のことを恩人と思うようになりました。
まみずの願いを叶えるために卓也が文化祭でジュリエット役に立候補した際は、香山はロミオ役に立候補。ここからも、彼らの友情を感じられます。
そんな2人ですが、香山が卓也にまみずへの想いを打ち明けたことから、恋のライバルへと関係が変化することになるのです。香山は女性関係を整理するほど、彼女に対して本気の様子。そして後日、彼は告白することに決めたのでした。卓也はこの展開に、少なからずショックを受けることに……。
しかし、告白は失敗に終わります。理由は、まみずに「好きな人がいるから」。これは香山を振るための口実なのか、それとも……。
秘密の関係を続ける2人と、親友を巻き込んだ三角関係は、王道の展開ながら目が離せないもの。ストレートに想いを伝える香山、気持ちがハッキリしない卓也、そして気持ちが見えてこないまみずの対比が面白く、彼らの気持ちを推測しながら読んでしまう展開です。
「最高のラブストーリー」と銘打たれているように、本作は感動系のラブストーリーです。いわゆる難病ものであり、余命いくばくもないヒロインと、主人公の短い恋愛模様が描かれていくことになります。
「発光病」というオリジナルの要素はありますが、設定自体はまさに王道なもの。だからこそ多くの人の心にしみ込む、感動ストーリーになっているのかもしれません。
恋愛にまつわる話以外にも、まみずの両親の離婚原因を聞きにいくという話も収録されています。そこで父親から語られた離婚理由。そこには、あるわけがあったのでした。
そんな感動的な内容が多い本作ですが、ただ最初から最後まで泣けるというだけではなく、時には笑ってしまうようなエピソードもあるのが魅力的。
たとえば、卓也がまみずのやりたいことを代わりにやるという話のなかには、1人で遊園地に行ったり、メイド喫茶でアルバイトをしたりというものがあります。
メイド喫茶のアルバイトでは働く場所はキッチンになりましたが、男子高校生がいきなりアルバイト先に選ぶのには、なかなか勇気のいる場所です。1人で遊園地というのも本来であればなかなか馴染みのない行為ですが、約束なので卓也は頑張ります。
そんな姿には、笑いとともに、彼のまみずに対する想いも感じることができるでしょう。
大切な人を失う辛さをすでに知っている卓也と、大切な人の前から消えなければならないことを知っているまみず。その恋愛模様はとても切なく、特に終盤になると涙なくして読むことはできません。
また、それを支えている繊細で美しい文章も魅力的です。素直な文章で編み出されるラブストーリーは、読み始めたら一気に引き込まれること間違いなしでしょう。
卓也とまみずの、儚くも美しい純愛を描いた本作。なんと、その後を描いた作品が発表されたのです。
本作を読んでその世界観に魅了された方には、ぜひおすすめしたい一冊といえるでしょう。
- 著者
- 佐野 徹夜
- 出版日
- 2019-02-23
こちらの作品は、本編に未収録だったエピソードが収録されています。卓也とまみずのまだ語られていなかった話が見られるのは、ファンにとってまさに感涙ものでしょう。
さらに注目したいのは、『君は月夜に光り輝く』のその後が描かれているところ。少しだけ大人に近づいた卓也、そして香山の様子を知ることができるのです。この本の発売に際して発表されている、卓也のものと思われる「僕は今でも君が好きだよ」という言葉が、読者の胸を締め付けます。
この作品に関して作者・佐野徹夜は「物語が終わったあとも人生は続きます。そんな人生の一瞬の光を切り取ったような本になりました。」とコメント。今もどこかで懸命に生きている彼らの様子を、ぜひ『君は月夜に光り輝く +Fragments』で見届けてみてください。
切ないストーリーや幻想的な描写などが魅力の本作ですが、名言といえる素敵な言葉が多く描かれているのも特徴です。
特にラストシーンにある、
生きていて、例えば忘れてく自分が怖いんだ。
(『君は月夜に光り輝く』より引用)
という一文には、いろいろな意味が含まれています。
これは、卓也とまみずが迎えた結末のなか、卓也がこれまでまみずと過ごした時間を思いながら考える言葉。これから生きていくなかで、勉強や常識といったどうでもいいことを覚えていけばいくほど、もう増えることのない大切な人との時間を忘れてしまうのではないか、と思っているのです。
大切な人を失い、自分だけが生き残っていることの辛さを知っている彼だからこその名言といえるのではないでしょうか。
それに対して応えるまみずの言葉も、また名言です。
あなたのせいで、私はもう、生きたくてしょうがないの。
(『君は月夜に光り輝く』より引用)
どういう状況で、このセリフを残したのか……それは大事なラストシーンのネタバレになってしまうので細かいことは避けますが、ここまで彼女と卓也の2人の時間を読んできた読者にとっては、深く心に突き刺さることは間違いなしの名シーンです。
心の底から大切と思える人に出会えた時、どんなに絶望的な状況でも生きたいと思えるようになるのかもしれません。それはシチュエーションの違いこそあれ、きっと多くの人が共感できる部分なのではないでしょうか。
他にも哲学的な名言も、心に染みてくる名言もあるので、本作で自分だけの名言をぜひ探してみてください。
本作はタイトルからして、とても素敵なイメージを与えてくれます。これは、まみずが患っている不治の病「発光病」を意味しているものです。
「発光病」というのは、月の光を受けて体が発光し、その光は死が近くなればなるほど激しく輝くというもの。まみずを苦しめる病気ではあるのですが、月夜の下でヒロインが淡く輝くという描写はとても幻想的で、切ないストーリーとともに本作の世界観を美しく作り上げています。
また、死に近づくほど発光が強くなるというのも死期を視覚的に感じることができ、物語をさらに幻想的なものにしているといえるでしょう。
- 著者
- 佐野 徹夜
- 出版日
- 2017-02-25
まみずの体調は、悪化の一途を辿っていました。彼女は死への恐怖から、卓也に「もう2度と会いに来ないで」と言ってしまいます。
一方卓也は、彼女の余命があと2ヶ月だと知らされることに。彼は大きなショックを受けますが、それと同時に、彼と会わなくなってから、まみずが泣き続けていることも知るのです。卓也は再び、彼女に会いにいくことを決めました。
そして再度、まみずに告白をするのです。彼女のことを絶対に忘れないと誓いながら。まみずもその想いから逃げず、受け止めることに決めたのでした。
想いが通じあった2人。しかし、残された時間はあと僅かでした。そんななか、まみずは卓也に最後のお願いをするのです。
その願い、そして彼らの運命は……。
電撃小説大賞の審査員も絶賛したほど、ラスト数行は素晴らしく、感動したという言葉を残している読者も少なくありません。まみずの気持ちを素直な言葉で書いたこのラスト数行のために、物語が積み上げられてきたといっても過言ではないでしょう。
それほど印象的なラストになっているので、その感動は、ぜひ実際に手に取って感じてみてください。
いかがでしたか?難病もの系のラブストーリーは、他の作品でもよく見られる王道な設定です。なかには、あまり得意じゃないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品は泣けるばかりではなく笑える個所もあり、多くの人に受け入れられやすい作品となっています。
これを機に、まずはぜひ気軽に手に取ってみてください。