本作は、まっとうな経営をしている企業が陥ってしまう罠について書かれている、ビジネス書です。健全な経営をしているのに、なぜ赤字になり、倒産にまで追い詰められてしまうのでしょうか。 この記事では、『イノベーションのジレンマ』の要点から伝えたいことまで、詳しく解説させていただきます。ご興味がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
本作は、技術革新が優良企業を滅ぼす可能性があることを示したビジネス書で、翔泳社から出版されています。著者はクレイトン・クリステンセン。彼が、この本で初めて提唱した言葉が「イノベーションのジレンマ」なのです。
この言葉は、業界で確固たる地位を築き上げた企業が、目先の利益ばかりに意識がいき、既存製品の改良ばかりを続け、その結果、真の顧客を見失ってしなう状態のことを指しています。
- 著者
- クレイトン・クリステンセン
- 出版日
例の1つとして、カメラが挙げられます。当時カメラは、よりよい画質を求めて、企業は切磋琢磨していました。それは、どれだけ綺麗に撮影できるかということです。しかし、ある時、画質は劣る代わりに、手ぶれ防止などの機能がついたカメラが登場。これにより、瞬く間にお客は奪われてしまったのです。
これは、あくまでも一例にすぎませんが、本作ではさまざまな事例をもとに、こういったイノベーションのジレンマについて解説されています。
ホリエモンこと堀江貴文も、これについては危惧しており、このままでは日本の企業がどんどん倒産していくと考えていました。
本作は大企業の方だけではなく、中小企業の経営者、マーケティングの担当者、マネジメントをされている方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。市場の変革を受け止め、売上を上げ続けるための答えが、ここに記されているかもしれません。
- 著者
- ["クレイトン・M・クリステンセン", "スコット・D・アンソニー", "エリック・A・ロス"]
- 出版日
- 2005-09-16
『イノベーションのジレンマ』の作者である彼とは、いったいどのような人物だったのでしょうか。
1952年、アメリカ合衆国で8人兄弟の第2子として生まれました。政治家や経営者など、多くの優秀な人材を排出することで有名なブリガムヤング大学経済学部を、なんと主席で卒業。その後はハーバード・ビジネス・スクールの経営管理学修士、経営学博士などを取得しています。オックスフォード大学の経済学修士も取得しているという優秀ぶりです。
大学卒業後は、ボストン・コンサルティング・グループに所属し、その後ホワイトハウスの運輸省長官として2年間補佐として勤めました。
そして1997年に『イノベーションのジレンマ』を出版し、2003年には、『イノベーションへの解 利益ある成長に向けて』を出版したのです。その他にも代表作として、『明日は誰のものか-イノベーションの最終解』『教育×破壊的イノベーション教育現場を抜本的に変革する』などがあります。
イノベーションには、2つの種類があると、クリステンセンは述べています。それは、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」です。
持続的イノベーションとは、お客のニーズをさらに満足させるために、既存製品を改良していくこと。先ほどのカメラの画質がよくなることなどが、そうですね。同じ製品ではありますが、少しづつ、少しづつ改良されていきます。
破壊的イノベーションとは、低性能・低機能ではありますが、高い利便性を備えているため、お客様の市場を一気に変えてしまうような力を持っているものです。携帯に備え付けられたカメラが、これに当たります。カメラ付き携帯の出現により、カメラ単体の商品価値は大幅に低くなりました。
カメラ自体に改良をおこない、よりよいものを追求していくことも、もちろん大切です。しかし、既存の製品の最適化ばかりに意識がいってしまうと、お客の本当の欲求が見えなくなってしまい、企業を潰すことにもなりかねません。
クリステンセンは、安全な道ばかり選んで、破壊的イノベーションを起こされてしまってはならないと、注意しているのです。
クリステンセンは、経営者の正しい判断が、企業をくり返し倒産させることになってしまう危険について述べています。そして、お客様のニーズに耳を傾けすぎることも、危険だと言うのです。それはなぜでしょうか。
ある、14インチのハードディスクが売られていました。このハードディスクは、今のサイズを維持したまま、どれだけ容量を増やすことができるかの改良をおこなっていました。それがお客様の望みであり、企業の目標であったのです。
そんな市場に、8インチのハードディスクが登場。これは、容量はさておき、8インチをさらに小さくしていくことを目標にしていました。
現在のお客のニーズは、容量を増やすことにあると明確に出ているため、経営者としては14インチのハードディスクにどんどん投資していくことでしょう。しかし、結果は今の世の中を見てわかる通り、容量ではなく、サイズの小さいものが売れ、生き残っています。
このことからわかるように、同じ評価軸ではなく、違う評価軸の製品が出た場合、お客のニーズが転換してしまう可能性があるのです。新たな市場が出てしまうと、既存の市場はどんどん小さくなり、しぼんでいってしまいます。
クリステンセンは、お客様のニーズに最適化していくのは、危険であると注意しているのです。
クリステンセンは、製品の品質の向上ばかりに視点がいってしまうことは危険だと述べています。これは、日本の製造業がよい例なのではないでしょうか。
日本の製造業の技術は、世界的にも高い評価を受けています。日本人は真面目で勤勉なため、日本の製品はどんどん改良され、高機能、高性能な製品がたくさんあるのです。具体例を出すと、今やガラケーといわれている製品がそうでしょう。
ガラケーは着うたにはじまり、音楽、カメラと、次々に高機能が搭載され、どんどんと改良されていきました。しかし、その時、世界ではすでにスマホへシフトしていたのです。iPhoneが、まさにそうですね。
iPhone3は瞬く間に全世界に広がり、日本もその影響であっという間にスマートフォンが主流となりました。そして今まで「携帯電話」と呼ばれていたものが「ガラケー」と呼ばれるまでになってしまったのです。
おそらくiPhone3よりも、当時発売されていたガラケーの方が高機能で、カメラの画質も優れたものがあったと考えられます。しかし市場のニーズは、すでに別次元にいってしまっていたのでしょう。
このようなことから、品質の向上ばかり目指すのは危険だと考えられるのです。
日本でも、破壊的イノベーションをおこなってきた企業として、ソニーが存在します。ソニーは、フロッピーディスク、ウォークマン、VHSなど数多くの破壊的イノベーションを生み出し、世に送り出していました。
しかし、これらをずっと生み出し続けることはできなかったのです。それは、日本の雇用制度が大きく関係しているという指摘もあります。日本は終身雇用制度であり、人材の入れ替わりがなく、破壊的イノベーションを出し続けるには厳しい環境です。そのためもあってか、ソニーは一時衰退していきます。
その他にも海外の例では、アップルのiPhoneが携帯市場でスマホという概念を出した、破壊的イノベーションがあります。
さらにワタミは鳥貴族とのイノベーションのジレンマに陥り、ウォルマートはAmazonとのイノベーションのジレンマに陥っています。また、アメリカの写真用品のメーカーであるコダックも、イノベーションのジレンマに陥って、経営破綻したことで有名です。
イノベーションのジレンマには、広告業界やタクシー業界も注意が必要です。
広告業界は、マスメディアからインターネットに大きく舵を切らなくてはいけなくなりました。インターネットの世界は成果がすべて数字で見えてしまいます。テレビからインターネットが中心となりつつある今、広告代理店は今までのやり方では通用しなくなってしまうのです。
またタクシー業界も、スマートフォンの台頭による自動配送アプリの影響や、自動運転が待ち構えています。
スマートフォンと自動運転が連携してしまえば、人が介在しないタクシーが完成してしまい、たった1人でもタクシー会社を運営できてしまうかもしれません。そうなると、今までのタクシー会社としては成り立たなくなってしまうでしょう。
国から守られてきた米などの農業も、イノベーションのジレンマの危機にさらされています。
日本の米は、アメリカのような大規模栽培ではなく、今まである程度の規模で栽培されており、ブランド化もされていました。
しかし、ここにきて米の価格は下がり続け、後継者不足から土地が余ってしまうという問題が発生。そうなると、大規模栽培にシフトすることとなってしまうのです。しかし大規模栽培になると、より一層価格は下がります。
クリステンセンの仮設のとおり、米農家もイノベーションのジレンマの危機に陥って、このまま衰退していってしまうのでしょうか。
イノベーションのジレンマに陥らないためには、どうすればよいのでしょうか。それは、先ほどもご紹介したとおり、低機能でありながら高い利便性で客を惹きつける破壊的イノベーションを生み出すことです。
そして同時に、持続的イノベーションを継続すること。つまり、この両輪が、重要であるといえるでしょう。
しかし、破壊的イノベーションへの投資が、なかなか難しいことも事実です。破壊的イノベーションの市場は、まだ生まれていない市場を指します。そのため、そもそもどこにニーズがあるのか分かりませんし、必ず成功するとも限りません。持続的イノベーションより、はるかに投資リスクがあることも事実なのです。
そのため、持続的イノベーションである程度の利益を抑えつつ、可能な限り破壊的イノベーションへ投資をしていく戦略が、これからの企業には必要なのではないでしょうか。
破壊的イノベーションを成功させた企業として、ユニクロが挙げられます。当時、ファッションはあくまでデザインであり、高いものがよいというような価値観でした。
そこにユニクロは、機能性を提案します。それが、フリースです。
当時フリースを着るには高いお金を出すしかなく、そして、それを着る人は、山好きのごくわずかな人種でした。そこでユニクロは、暖かくて低価格なフリースを発表し、世の中の今までのファッションの価値に、新しく機能を提案したのです。
この成功によって今日のユニクロが存在するといっても、過言ではないでしょう。
その他にも破壊的イノベーションを成功させた企業として、インテル、キャノンのミラーレス、富士フィルムなどがあります。
『イノベーションのジレンマ』は、具体例を出しながら解説しているものの、1回読んだだけですんなりわかる本ではありません。ビジネス書を初めて手にする方にとっては、なかなかとっつきにくい本でもあります。
そんな方には、マンガと図で解説されている、この作品がおすすめです。
- 著者
- イノウ
- 出版日
- 2014-08-05
原作で登場する例が昔の話が多かったところを、この作品では現代の事例で紹介されているので、非常に理解しやすくなっています。
ポイントも、「イノベーション」の基本理論、「破壊的イノベーション」の戦略、「イノベーション」戦略における人や組織の選定、「イノベーションのジレンマ」の理論に基づく日本企業の事業・組織事例の解説の4つに絞ってあるので、簡潔でわかりやすいのが特徴。
原作は700ページ超えの大作だったので、時間がなくて読めなかった方も多いはず。ぜひ、そういった方もこの作品を手に取って、理解を深めてみましょう。
クリステンセンが予想する未来とは、いったいどんな未来なのでしょうか。
結論としては、イノベーションのジレンマに陥らないために、イノベーションのジレンマというものがあることを理解したうえで、持続的イノベーションと破壊的イノベーションをうまく調和させることが必要不可欠であると述べています。
この調和を取ることができれば、イノベーションのジレンマという障壁は、クリアできるではないでしょうか。
逆にいうと、こうした点に気をつけない限り、日本企業の未来は暗いと予想されるのです。
- 著者
- クレイトン・クリステンセン
- 出版日
そして最後に、本作の登場する名言を、一部ご紹介させていただきます。
すぐれた経営こそが、業界リーダーの座を失った最大の理由である。
(『イノベーションのジレンマ』より引用)
日本企業にとっては、頭が痛い言葉かもしれません。日本は堅実で真面目なため、優良といわれる企業は数多くあります。しかし、イノベーションのジレンマにさらされた場合は、非常にもろい企業が多いのではないでしょうか。
日本人の保守的精神が、そうさせるのかもしれませんね。
破壊的イノベーションの多くは、社内から芽が出てくるが、
まっとうな経営判断と組織的理由によってつぶされる。
(『イノベーションのジレンマ』より引用)
多くの経営者はリスクを怖がり、そのため大胆な施策を打ち出すことは、なかなか難しいことでしょう。しかし、イノベーションのジレンマの考え方に気づき、投資すべきことには投資しておかないと、いざという時に手遅れになってしまうのかもしれません。
本作の紹介、いかがでしたでしょうか。さらにイノベーションのジレンマの考え方に触れたい方は、ぜひ本編をお確かめください。学びの多い良書です。
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。