2016年、リンダ・グラットン氏が書いた作品。人生100年時代をどのように生きるかが書かれています。この記事では、そんな本作で書かれていることを、要点を押さえて簡単に解説。ぜひ参考にしてみてくださいね。
イギリスの有名大学であるロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットンが書いた本作は、2013年に日本語に訳されて、東洋経済新報社から出版されました。
世界中で人気を博し、日本でも注目を集めて売上を伸ばし、発行部数は日本でも30万部を超えています。
「平均寿命が伸びて100年生きることを前提にすると、
私たちは生き方を変えなければならない」
これが「ライフシフト」の意味。本作のテーマは、100年時代の人生戦略です。さて、ここからは実際にその内容について解説していきましょう。
- 著者
- ["リンダ グラットン", "アンドリュー スコット"]
- 出版日
- 2016-10-21
リンダ・グラットンは、ロンドン・ビジネス・スクールの教授で、2011年には経営思想界のアカデミー賞とも呼ばれるThinkers50のランキングトップ12に選ばれるなど、非常に有名な人物です。
アメリカの経済誌であるフィナンシャルタイムスには「今後10年で未来にもっともインパクトを与えるビジネス理論家」と称されるなど、世界的に影響力があります。
そんな彼女は、本作よりも前に「ワークシフト」という本を執筆していました。
ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
2012年07月28日
この作品で、彼女はテクノロジーの進化が私たちの生活に変化をもたらすことを予言しています。そしてテクノロジーが進化した後の世界で人生をどのように楽しむかを議論したのが、本作「ライフシフト」なのです。
当初彼女が研究していたのは、テクノロジーでした。その研究をとおして、人の寿命はまだまだ伸びるということが明らかとなりました。そのため彼女は、テクノロジーで寿命が伸びた後、私たちはどのように人生を生きるべきかを戦略的に考えなければならないと思い至ったのです。
現在社会では高齢化が進むことによって、個人の生き方や社会のあり方を根本的に変えています。日本においても超高齢化社会が進んでおり、それに合わせた人生設計の必要性が叫ばれるようになりましたよね。
それをうけ、人生が長くなっている分、今まで通りの人生設計で生きていくことは困難であるとグラットンは主張します。彼女曰く、これまでの人生設計は「教育→現役時代→老後」でした。しかし、このモデルがこれからは、適応しなくなるというのです。
長寿化することによって、個人の「老後」の期間が伸びていけば、端的にいうと、お金が足りなくなってしまいます。
その結果、社会としては個人を助けるために、財政出動をしなければなりません。しかし、それによって年金財政が圧迫されてしまえば、年金の支給額が減ってしまい、また個人の生活が困窮してしまうという悪循環に陥ってしまいます。そんな状況を、グラットンは次のように書いています。
フランスにこんな寓話がある。
妖精のオンディーヌは、いびきをかいて眠りこけている夫のバレモンが
不貞をはたらいたことに気づいた。
怒り狂ったオンディーヌは、夫に呪いをかけた。
起きている間は生きていられるが、眠ればその瞬間に死ぬ、という呪いだ。
パレモンはこれ以降、目が閉じることを恐れて、
一瞬の休みもなしに働き続ける羽目になったという。
(中略)寿命が長くなれば、私たちを待っているのは「オンディーヌの呪い」だろう。
永遠に動き続ける運命を背負わされたパレモンと同じように、
私たちはそれこそ永遠に働き続けなくてはならなくなる。
どんなに疲れ切っていても、立ち止まれば生きていけないのだから。
(『LIFE SHIF』より引用)
一般的に長生きはよいこととされていますが、たとえ寿命が伸びても、老後の生活を変えていかなければ幸せになれない時代に突入したのです。
そのためには、まず人生の戦略を変えなければなりません。この動きはすでに日本でもなされていて、従来の働き方を見直す「働き方改革」が、実際に進められています。
本作のなかで、グラットンは無形資産が重要だと言っています。
無形資産とは、その名のとおり目に見えない資産のこと。土地や建物のような有形資産とは違い、形を持たないものを指します。寿命100年時代には、この無形資産を個人としてどのように増やし、どう運用していくかに目を向ける必要があると、グラットンは主張しているのです。
なぜ、それが重要であるかというと、寿命が100年ともなれば、人の人生はより複雑になるからです。この複雑な人生を生き抜くためには、さまざまな危機を回避するのに役立つ無形資産が必要となります。
彼女は無形資産を3つに分けています。それは以下のとおりです。
有形資産も、生きていくのにはとても大切です。しかし高齢者になってからも人生が長いことを考えると、仕事に繋がる能力などが非常に重要となってきます。
また、ただ働いて生活するだけの人生は、あまりにも虚しすぎます。そんななかで重要となってくるのが、友人をはじめとした周りの人の存在なのです。
そして長い人生においては、さまざまな変化が起こります。そうしたものに瞬時に適応できる能力も、これからの時代は求められているのです。
これらをどのように増やすか、そしてどのように運用するかが、人生100年時代には求められているのです。
これからの社会を生きる私たちは、長寿化が進むことによって100年以上生きることも珍しくなくなるでしょう。その結果、新しい人生の節目や転機が、次々と訪れるようになるのです。
従来の教育・仕事・引退という3ステージの人生から、それぞれの人が活躍の場を見出す「人生のマルチステージ化」がもたらされると、グラットンは言います。
従来の社会とは違い、寿命が100年以上に伸びるような社会では、これまでの人生のステージのどこか、あるいは全部を少しずつ伸ばしていくだけでは対応できません。なぜなら就職するタイミング、引退するタイミングという一般的な適齢期も変化してきますし、若者と高齢者といった世代間に引かれている境界線も変化するからです。
このことは、私たちが「標準」として信じていたフォーマットや境界線が根本的に崩れ無くなっていくことを意味しています。このことを指して、グラットン氏は人生のマルチステージ化が進むと主張しているのです。
従来の人生のモデルでは、2回しか移行ができません。つまり、教育・仕事・引退という3ステージは、教育から仕事へシフトし、さらに仕事から引退して老後へとシフトしていく人生だったのです。
しかし先に説明したように、この前提が崩れるとしたら、私たちはどのように人生を生きていけばよいでしょうか?そのための手がかりとして、グラットンは3つの生き方を提示しています。
この3つの生き方が今後は必要になってくると、グラットンは主張しているのです。
本作には、漫画版があります。
「ライフシフト」は名著ではあるものの400ページ以上にもわたる長大な本ですし、一部専門的な記述もあります。時間がなく、簡単にあらすじだけでも知りたいという方にはぜひおすすめです。
漫画版であれば196ページなので、1時間もあれば読破可能でしょう。
- 著者
- ["星井 博文", "リンダ・グラットン", "アンドリュー・スコット"]
- 出版日
- 2018-08-31
漫画版では、大学4年生の美咲が主人公。彼女の他にもさまざまな登場人物が加わって、ストーリーが展開します。
美咲は大学生らしく、今を楽しく過ごしながら、将来について漠然とした不安を抱えていました。そして悩んでいるのは彼女だけではなく、彼女の家族もまた、それぞれ違った悩みを抱えていたのです。
そんな彼らのうちの誰かに、必ず感情移入することができるでしょう。そしてそのストーリーとともに「ライフシフト」の重要な概念を学ぶことができます。
こちらでざっくりと重要なポイントを把握し、原作にチャレンジするというのもおすすめです。
寿命が伸びて100年以上生きる社会になったら、今までの3ステージの人生から、マルチステージの人生へと変化することを主張した本作。今までのように生きていたら、人生の後半はお金がなく、仕事もない、過酷な状況になってしまいます。
これからは無形文化を持つことを意識し、長い人生を快適に、楽しく過ごしていきたいですね。
- 著者
- ["リンダ グラットン", "アンドリュー スコット"]
- 出版日
- 2016-10-21
最後に、本作に登場した名言をランキング形式で紹介していきます。
第5位
長寿化をめぐる議論は、お金の問題に偏りすぎている。
(『LIFE SHIFT』より引用)
現在の長寿化を巡る議論が、お金の問題に偏りすぎている問題を鋭く指摘しています。たしかに日本でも老後の年金問題が注目を集めていますが、老後をどのように生きていくかについての議論は少ないですよね?
お金は生きていくうえで大切ですが、どのように生きていかなければならないのかという、根本的な話し合いが必要でしょう。
第4位
まわりのみんなと同じ行動をとるだけでうまくいく時代は終わったのだ。
(『LIFE SHIFT』より引用)
私たちは小学校を卒業し、中学生になって、高校生となって、大学にいって、就職するという人生があまりに当たり前だと思っています。つまり、周りと同じように行動することが是とされる時代だったのです。
しかし100年以上の寿命を迎えるこれからの時代は、1人ひとりが自分で考えて行動することが求められるのです。
第3位
人生は「不快で残酷で短い」という、
17世紀の政治思想家トーマス・ホップスの言葉は有名だ。
これよりひどい人生は一つしかない。不快で残酷で長い人生である。
(『LIFE SHIFT』より引用)
不快で残酷で短い人生は最悪です。しかし、今までの考えのもとで人生を過ごしていては、このような人生が待っています。そうならないためには、戦略的に人生を生きていかなければならないのです。
第2位
無形の資産は、それ自体として価値があることに加えて、
有形の金銭的資産の形成を助けるという点で、
長く生産的な人生を送るためにカギを握る要素なのだ。
(『LIFE SHIFT』より引用)
長寿化した社会では、無形資産が重要となります。なぜなら、複雑になった社会では、有形資産だけではうまくいかない可能性があるからです。
無形資産は金銭的資産の形成を助けてくれますし、長く生産的な人生を送るためとカギとなるものといえるでしょう。
第1位
変身を成功させるためには、
自分を理解すること、
新しいネットワークに入れること、
自分から行動出来ることの三つの能力が必要だ。
(『LIFE SHIFT』より引用)
自分を変えたいと願う人は多くいますよね?自分を変えるためには、自分を理解することで新しいネットワークに積極的に入ること、そして自分から行動する必要があります。これらの3つの能力を身につけることが、今後の長寿化した社会をより豊かに生きるためのカギとなるでしょう。
グラットンの書いた「ライフシフト」は、働き方改革が叫ばれる日本においては、大変示唆に富む本です。ぜひ自分で手に取って、自分のライフシフトについて考えてみてはいかがでしょうか?
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。