デザイナーを夢見る実果子と、お隣さん・ツトムの恋愛や、その友人たちの恋模様を描く本作。アニメ化もされ、当時の少女たちを夢中にさせた名作です。作者は『NANA-ナナ-』で有名な矢沢あい。ちなみに本作の続編で、直接的ではないものの関わっているのが、『Paradise Kiss』。実写映画化もされた作品です。 今回は、どこまでもキュートな『ご近所物語』の見所と、名言ベストをランキング形式で10個ご紹介。ネタバレ注意です。
読めばきっと、夢に向かって一生懸命になれる、まっすぐだった頃の自分を思い出す。そんなストーリーの、『ご近所物語』。
矢澤芸術学院に通う主人公・実果子と、お隣に住む幼なじみ・ツトムの恋を中心に、さまざまな人間模様が展開されます。
幸田実果子は、矢澤芸術学院、通称・ヤザガクの服飾デザイン学科に通う1年生。元気いっぱいな彼女の夢は、デザイナーになって自身のブランドの店を持つこと。
山口ツトムは、実果子のお隣さんです。人気バンドのメンバー・中川ケンに似ているという理由で、女子に騒がれることに。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
実果子は、夢に一直線で毎日頑張っているのですが、幼なじみのツトムが最近モテていることに、ついモヤモヤしてしまいます。それと同時にツトムは友人の勇介が実果子を狙っていると知り、彼女への恋心に気づき、ここから物語は大きく動き出します。
本作の魅力は、実果子とツトム、幼なじみ2人の恋模様だけにとどまらないところです。夢に向かって頑張る姿、彼女たちを取り巻く友人たちの恋愛と人間模様が、しっかり描かれます。授業やサークル「アキンド」の活動など、きらきらした日常のなかで、彼女たちが恋・夢・友情に悩みながらも成長する青春ストーリーが楽しめます。
『ご近所物語』はマンガMeeで無料で読むことが出来ます。
本作の魅力は、何といっても登場人物たちの個性。主人公の実果子をはじめとするキャラたちが、みんな魅力的で、おしゃれなんです。
ツインテールに派手なヘアカラー、ミニスカートに高いヒール靴など、みんな思い思いの格好をしています。カラフルで媚びないファッションは可愛く、それぞれの性格をよく映し出しているもの。また、キャラを物語る、キラキラ星人や、ナイスバディ子といった愛称もユーモラス!!
ここからは名言のご紹介の前に、彼らの魅力をご紹介します。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
主人公の幸田実果子は、派手な見た目の元気いっぱいなギャルです。奇抜なファッションから彼女の強さがうかがえますが、中学時代はその個性が周囲に受け入れられず、不登校だった時期も。ご近所さんで不登校時代も支えてくれたツトムに対して素直になれず、思い悩むこともしばしばです。
デザイナーになるという夢に向かって一生懸命で、ヤザガク・服飾デザイン学科内でも有名。文化祭のファッションショーではグランプリに輝き、ロンドンへの留学か、ツトムのそばにいるかの選択を迫られます。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
彼女のお隣さんである山口ツトムは、生まれた時から彼女と一緒で、家族のような存在です。ヘンなオブジェを作るのが趣味で、カメラにも興味があります。
一見軽く見えますが、狭いテリトリーで生きていくことを不安に思っており、ずっと実果子と一緒にいてもいいのか悩んでいる様子。しかし友人の勇介が彼女を意識しているのを知ったことで、彼女への恋心を自覚します。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1996-08-08
別名・ナイスバディ子と呼ばれるのは、中須茉莉子。実果子たちの先輩で、ミス・ヤザガクに選ばれたこともあるスタイル抜群の美人です。彼女がツトムに迫ったことで、実果子はイライラを隠し切れなくなります。
同郷の幼なじみ・修に片思いしていますが、ツトム、勇介との間にもいろいろ起き、彼女の周りの人物相関図はなかなか落ち着きません。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1997-01-14
田代勇介はツトムの友人で、口は悪いけど実は優しい性格。彼が、実果子のことを気になると言ったことで物語が動き始める、まさに重要人物です。後に茉莉子の失恋を機に、彼女と付き合うことになります。しかし、彼に思いを寄せる控えめな性格の歩も登場し、そちらの関係も目が離せません。
このほかにも、実果子とツトムの家族などたくさんの人物が登場し、ストーリーが進むにつれ相関図は大きく変化します。ちなみにニックネームが独特なキラキラ星人こと如月星次は、途中から登場する人物。少女漫画家である実果子の母・留里子のアシスタントを務めます。美形で整った容姿であるため、実果子とツトムから飛び出した形容が「キラキラ星人」でした。よきアドバイザーでもあります。
彼らはみんな素直になれなかったり、わかりにくい優しさを持っていたり、実に不器用です。けれど、自分らしく前に進もうとする姿が、とても愛おしく感じられるでしょう。
『マリンブルーに抱かれて』『天使なんかじゃない』など、多くの名作を生み出した国民的漫画家。少女漫画を専門にしており、代表作の1つ『NANA-ナナ-』では、小学館漫画賞を受賞しました。
そんな彼女の作品をバイブルとする読者は、大勢います。年齢を問わず、幅広い層から愛される作品たち。多くの読者の心を掴んで離さないのは、なぜなのでしょうか。
天使なんかじゃない 1 (りぼんマスコットコミックス)
1992年05月15日
矢沢あいの作品は、登場人物が、ほかの作品に友情出演的に登場することも特徴のひとつ。たとえば、『ご近所物語』には『天使なんかじゃない』の中川ケン、瀧川、そして翠と晃が登場します。
『ご近所物語』の登場人物の子ども達が主役である『Paradise Kiss』には、なんと実果子が登場。読者にとっては、嬉しいサプライズです。
矢沢あいのおすすめ作品を紹介した<『NANA‐ナナ‐』以外の矢沢あい、おすすめ漫画ランキングベスト5!>の記事もおすすめです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2014-01-17
また、このような読者を楽しませるサービス精神のほかに、作者自身の趣味や好みが、ふんだんに盛り込まれているというのも魅力のひとつ。彼女自身おしゃれが好きで、被服学校に通っていました。漫画家でなければ、スタイリストになっていたというほどで、ずばり『ご近所物語』にそのエッセンスが感じられます。
また、彼女自身がファンであるヴィヴィアン・ウエストウッドは『NANA-ナナ-』に登場。ブランドの魅力が感じられる描写がなされており、これをきっかけにヴィヴィアンにハマったという人も少なくないのではないでしょうか。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 2000-05-15
その他にも、好きなアーティストなどがさりげなくちりばめられおり、実際に彼女がよいと思うもの、惹かれているものが作品世界を作っているのです。
読者へのサービス精神と、作品にディテールまでこだわる細やかさが読者を話さない理由なのかもしれません。
さて、ここからはいよいよ名言のご紹介にいきましょう。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1997-01-14
これは、ツトムが実果子にハッピー天使ベリーちゃんを見せながら言った言葉。サークル活動をおこなうアトリエで、彼と、フリーマーケットサークル「アキンド」のメンバーである歩が仲よさそうにしていることにヤキモチをやいた実果子に対してのものです。
お前はあのベリーちゃんに俺の愛を感じないの?
(『ご近所物語』4巻より引用)
ちなみに、ハッピー天使ベリーちゃんとは「アキンド」のマスコットキャラ。ツトムが作った可愛い天使のベリーちゃんは、実果子にそっくりなんです。
彼には実果子のことがこんな風に見えているのだと思うと、思わずキュンとしますね。いつも素直になれない彼女も、彼のこの言葉に影響されて、ようやく素直な気持ちを言えるのでしょうか。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1997-07-15
実果子はいつも、デザイナーになって自分のブランドの店を持ちたいと言っています。しかし、ただ授業や課題を頑張っていれば、その夢が叶うわけではありません。学園祭が迫るなか、彼女はツトムとの擦れ違いやケンカが原因で、授業にも遅れてしまいます。
そこで如月星次がこう言うのです。
そんなの言葉でならいくらでも言えるよ
行動に移せないなら口にするべきじゃない
(『ご近所物語』5巻より引用)
さらに厳しい言葉が続きますが、これは実果子のよき相談相手である彼なりの優しさが感じられるもの。
星次は、漫画家である実果子の母のアシスタントをしながら夢を追っているだけあって、創作の世界の現実を知っています。だからこそ、彼女の様子を見て、あえて厳しい対応をしたのかもしれません。
将来やツトムのことで悩む実果子は、こうしたシビアな言葉によって奮起。言葉で言うだけではなく困難なことにも挑戦しようと、学園祭に向けて燃えるのでした。
サークル・アキンドメンバーよりも人生経験豊富な、大人な星次ならではの名言です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
バディ子こと、茉莉子の名言。ツトムや、片思いしている修や、勇介などを相手に、ふらふらしているように見えてしまうかもしれない彼女ですが、そんなちょっと遊んでいる彼女だからこそ、得ることが出来た思いをつぶやきます。
どーでもいー人と世界広げても、中身が空っぽってカンジ
それなりに楽しーけどなにしても感動がないのよねー
(『ご近所物語』6巻より引用)
何をしても感動を得られるような相手と一緒にいることが大切なのだと、読者に教えてくれるこの言葉。彼女にとってその相手はツトムなのか、片思いの修なのか、はたまた勇介なのか……。
流されやすいところのある茉莉子ですが、応援したくなる登場人物の1人です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1998-04-15
実果子の友人・神崎リサの名言。赤い髪でパンクな見た目の彼女ですが、ツトムに対して怒りをあらわにしている実果子を、冷静に諭します。
だからさ……
そーゆー一喜一憂する気持ちを恋とゆうんじゃないの?
世間は……
(『ご近所物語』7巻より引用)
実果子はいつも、ツトムのことで喜んだり怒ったりしています。リサはそんな彼女に対し、特定の1人にだけ変化するその感情こそ、恋なのだという気づきをくれるのです。すぐにわかりそうなことでも当事者は気づけない、外側から見ているからこそ、わかることもあります。
この助言によって、果たして実果子は、素直にツトムへの気持ちを認められるのでしょうか。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
留学の話が舞いこんできた実果子。ツトムと離れたくない気持ちが大きい彼女は、同じように夢を追う星次に相談するのですが、その時に言われた名言です。
夢を実現できるかどうかは、
それに向かってどれだけ行動をおこせるかにかかっていると僕は思うよ
(『ご近所物語』1巻より引用)
彼が夢にいたるまでの道筋、それにともなうリスクについて語るこの場面は、どこまでも現実的で、それでいて星次の実果子への誠実さが表れています。
物語終盤、重大な決断をしなければならない場面に直面する実果子とツトム。この言葉が、そんな2人の未来にどう影響するのでしょうか。
夢を追う人全員に知ってもらいたい言葉です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
実果子の両親は離婚して、バラバラに暮らしていました。漫画家の母と実果子は一緒にマンションで、カメラマンの父は別に暮らしていたのです。
その両親が再会し、言葉を交わすシーンでの名言です。
「ごめんください」じゃなくて「ただいま」かな
(『ご近所物語』2巻より引用)
実果子の父・広彦の言葉。彼から妻・留里子に向けたこの言葉は、家族への温かさを感じ、思わずじーんとしてしまう言葉です。
その後、実果子はこの2人に起こったびっくりするような出来事を心から喜ぶのですが、その様子をツトムが見守っている描写がなされます。幼いころから、こうして彼女のそばにいたのだろうと想像することができるあたたかい場面で、その様子にも感動してしまう展開です。父と母、そして実果子とツトムの関係に癒されます。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1996-08-08
いなくなった実果子を見つけ出すのは、いつもツトムでした。そんな昔のことを思い出している時の、実果子の名言です。
あの頃ツトムはやさしかったけど
あたしも今より素直だったかもしれない
(『ご近所物語』3巻より引用)
昔と違って、今のツトムは女の子からキャーキャー騒がれているし、茉莉子と距離が近いしで、実果子はそれが気に入りません。しかし、なぜ気に入らないのかがわからないのです。少しずつ環境が変わって、気持ちも変化して、お互いの存在がそれまでとは違ってきていることに対する戸惑いが感じられます。
もう少し素直になりたいけど、そうなれないのであろう彼女の、複雑な気持ちと可愛らしさが表れていますね。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1997-01-14
実果子の名言。学園祭のファッションショーで、ウエディングドレスを着て歩いている時の言葉です。
すましてるだけじゃつまんない
幸せは自分から飛んで行ってつかまえなきゃ
(『ご近所物語』4巻より引用)
学園祭のなかで、もっとも厳しいといわれるウエディングドレスのデザイン・作成に挑み、見事にステージに立ってみせた彼女らしいひと言です。笑ったり、泣いたりして自分から動いて到達したところにこそ、幸せはあるのでしょう。
デザイナーになって自分のブランドの店を持つという夢のために、一生懸命にやってきた彼女の頑張りに、ツトムも仲間たちもこれでもかと拍手を送ります。
そしてこのドレスが、彼女にチャンスと、新たな悩みをもたらすことになるのです。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
- 1997-07-15
ツトムのストレートな名言。実果子が、茉莉子からツトムの重荷になっていると言われたことを知った時、彼はそんなことはないと強く否定します。そのあとの言葉に続くものです。
おれは実果子を幸せにしてやりたいだけだ!
それだけだ!
(『ご近所物語』5巻より引用)
彼の実果子を思う一途さが伝わってきます。彼女のひたむきに夢を追いかけるところ、素直になれないところ、すべてをひっくるめて思っているのだと伝わってくるまっすぐな言葉です。
- 著者
- 矢沢 あい
- 出版日
実果子の名言。ツトムのそばにいるか、夢のために留学するか。悩みに悩んで選択した後の言葉です。
手に入れたいのはハッピーエンドじゃない、
鍛え抜かれたハッピーマインドだ
(『ご近所物語』6巻より引用)
いつも素直になれずについつい泣いてしまう弱さを抱えていた彼女。しかし自身の心に目を向け、本当に価値あることを見極めようとする姿勢を持つようになったことが、見て取れます。
彼女が手に入れようとしているものは何なのか。ラストまで読めば、自分には彼女のようなハッピーマインドがあるだろうかと、自身に問いかけずにはいられなくなるでしょう。
その決断を、そして物語の結末を、ぜひ見届けてください。
『ご近所物語』には魅力的な登場人物がたくさん。その人数の分だけ存在する、恋や悩みに引き込まれます。自分にもこんなご近所さんがいたらな、なんて考えてしまうかも。
いつまでたっても色あせない、とびっきりの名作です。