戦国時代の熱が残る江戸時代初期を舞台に、敵味方入り乱れたバトルアクションがくり広げられる、時代漫画『どらくま』。作者特有の熱さと、裏切りと、刺激的な表現が魅力の作品です。 気になった方は、ぜひこの機会に一読してみてはいかがでしょうか?
1615年。大坂夏の陣で豊臣方と徳川方の戦いは決着し、戦国乱世が完全に終わって、表向きには徳川大平の時代が訪れました。
そんななかで、群雄割拠の裏で活躍した影の者達は、ひっそり生き続けていたのです。
たとえば、主人公である真田源四郎、そして戸隠(とがくし)の九喪(クモ)。2人はかつては敵味方でいがみ合う仇敵でしたが、彼らと同じように戦乱を生き延びた影の者達の陰謀に巡り会ったことで、協力して戦っていくことになるのです。
主に知略を弄する源四郎と、常人離れした肉体と忍の技を駆使するクモ。守銭奴の源四郎に対して、金勘定のない野生児のクモ。キャラクターも戦闘スタイルも正反対の凸凹コンビですが、不思議とかっちり噛み合うところが、本作の魅力といえるでしょう。
- 著者
- 戸土野 正内郎
- 出版日
- 2015-04-10
基本的には江戸時代初期を舞台にした、架空の時代劇バトルアクションといった内容。ですが、歴史や時代劇に詳しい人には、ちょっと気になる小ネタが、ちらほらとちりばめられています。
まず、真田源四郎という名前。真田といえば、戦国時代有数の武将です。武田信玄に仕えた真田信綱には、源太郎という別名がありました。かの名高き真田幸村は、源次郎。他にも源三郎と源五郎はいるのですが、なぜか源四郎の別名を持つ者だけ、史実では存在しません。
つまり、これによって、本来存在しない男を軸としたフィクションであることが示唆されるわけです。
また戸隠は、伊賀や甲賀ほどではありませんが、忍者の流派として有名。このように、痛快なアクションに、少しずつ史実の要素が織り交ぜられているのが本作の魅力でしょう。
- 著者
- 戸土野 正内郎
- 出版日
- 2006-08-10
作者の戸土野正内郎は、『悪魔狩り』シリーズや『イレブンソウル』で有名な漫画家でもあります。血みどろのアクションには定評があり、それはもちろん本作でも健在です。歴史要素はアクセントの1つなので、単純に戸土野アクション漫画として楽しんでも面白いでしょう。
ちなみにタイトルの『どらくま』とは聞き慣れない言葉ですが、古代ギリシャの通貨単位ドラクマからきています。ドラクマはオボロイ銅貨6枚分の単位です。オボロイ銅貨は、副葬にも使われていました。いわゆる冥土銭。真田家の家紋が六文銭であることに引っかけて、このタイトルになったのでしょう。
『イレブンソウル』については<『イレブンソウル』が面白い!侍魂を描くSF漫画は名言だらけだった!>で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
大坂夏の陣から1年後。徳川の世が太平(平和)になっても、未だ野心を抱く者が各地にいました。美濃山中では、密かに鳳(おおとり)家が、戦に備えた築城をおこなっていたのです。
真田源四郎は商人としてそこを訪れますが、不審が祟って囚われの身になります。そこで彼は運命的に、同じく虜囚となった戸隠のクモと再会するのでした。
- 著者
- 戸土野 正内郎
- 出版日
- 2015-04-10
鳳家は、叛意が徳川に知られたうえに、身内から裏切りが出て、事態が泥沼の戦いに突入していくことになります。多勢に対して意気消沈する鳳家の寡兵を、源四郎とクモが鼓舞する展開が熱く、続く攻城防衛戦も大迫力です。
敵も味方も腹に一物抱えた曲者ばかりのなか、唯一の癒やしであるのは勇那(いさな)姫だけ。しかし、何やら寡兵達に対して申し訳ない気持ちを抱えているらしい彼女。そこには、どうやらわけがあるらしく……。
そのわけが判明するのは、彼女が敵に囚われている最中でした。なんと、彼女の正体は勇那姫ではなかったのです。そして彼女とクモには、意外な繋がりがあることもわかるのでした。
果たして、彼女の正体とは?そして、クモとの繋がりとは?
鳳家の一件が片付き、腐れ縁となった源四郎とクモは、そのまま2人でつるんでいました。彼らが山奥でその日暮らしをしていたある日、川に流れ着いた1人の娘を助けます。
- 著者
- 戸土野正内郎
- 出版日
- 2015-10-10
彼女の名前は「桜」。かつて武田信玄が編成した「根津のくノ一」の一員でした。かくして2人は、歴史の裏で暗躍する影の戦いに巻き込まれていくことになるのです。
前巻では華麗な逆転劇を決めましたが、ここでは一転して苦しい状況に追い込まれてしまいます。
本巻では源四郎の伯父・真田信之(実在の人物)が登場し、真田家が本格的に関わってくるのです。見所は、源四郎の正体が、真田信之の義理の息子であると判明するところでしょう。信之と徳川家の関係が、源四郎の運命を大きく左右していくことになるのです。
一方クモは、奇怪な術士に苦戦。この物語が一筋縄ではいかないことが暗喩されます。さらに、源四郎が守銭奴になった一端も描かれています。こちらも注目です。
真田家と徳川家の、陰謀の渦中に入ってしまった源四郎とクモ。クモは倒れ、真田との因縁が源四郎を蝕んでいきます。
- 著者
- 戸土野正内郎
- 出版日
- 2016-03-10
進退窮まる一方で、源四郎は1つの手を打っていました。鳳家の騒動で共闘した偉丈夫の大嶽丸(おおたけまる)に、助っ人を打診していたのです。
知略と力を総動員して、仲間であるクモを助ける展開が非常に熱い本巻。反乱を考えている様子である義父・信之に対して、源四郎が啖呵を切る場面も見逃せません。
物語の昂ぶりを反映して、忍者同士のバトルもさらに苛烈に。超常忍術を相手取って、素早さのクモ、力の大嶽丸、知恵の源四郎が挑んでいきます。
本巻では、主人公2人の、過去に関する場面が見所です。
クモは家族を腹いせで皆殺しにされ、そのなかで唯一生き残りました。そして両親の知り合いだった忍者に救われたのです。どうやら、この忍者が彼に教えた「土ぐもの術」というものが、今後、重要なものになってくるよう。
一方の源四郎も、思いがけない形で過去が明らかになっていきます。本巻から烏丸焦という女性忍者が登場するのですが、彼女はなんと、心拍数などをもとに相手の嘘を見抜く、特殊な能力の持ち主。この能力によって、彼に関する重要な秘密が見抜かれてしまうのでした。
暗闘を経て、真田家は太平の世の微妙な均衡を保つ役目を負うことになりました。徳川の顔を立てつつ、密かに徳川への対策も練ることになるのです。
- 著者
- 戸土野正内郎
- 出版日
- 2016-08-10
源四郎、クモ、そして桜は、未だ気炎吐く伊達勢力の探索と、徳川最強の忍「軒猿十王」の1人、天雄の消息を追っていきます。
伊達の領地である奥州では、大坂夏の陣でクモの仲間だったシカキンと再会。彼は伊達の「黒脛巾組」という組織に入っており、天雄はそこに潜り込んでいたのです。天雄は密かに伊達の隠し財産を狙っているのですが……。
本巻では、新キャラクターのキツネに注目。見た目はかわいいもの、ポンコツな彼女。殺伐とした戦闘シーンが多い本作において、癒しを与えてくれること間違いなしです。そんな彼女は、ある重要なキャラクターなのですが……いったいどういった人物なのか、ぜひ考えながら読んでみてください。
後半は、きな臭い話となります。仇討ちや各勢力の思惑が入り乱れ、敵味方もめまぐるしく入れ替わっていくことに。物語は、クライマックスに向け、どんどんテンションをあげていきます。
強敵・天雄を打倒したと思ったのも束の間、源四郎とクモ達は、共闘関係にあった伊達家のシカキンらに捕縛されてしまいます。そして狼狽える2人に対して、積年の因縁が語られるのでした。
- 著者
- 戸土野正内郎
- 出版日
- 2017-02-10
すべては源四郎とクモの過去、彼らがまだ敵対していた、大坂夏の陣での出来事に原因があったのです。
突然裏切られた――と思いきや、その根が元々、大阪でのクモの裏切りにあった、という衝撃の幕開けから本巻は始まります。裏切り、裏切られの関係がどんでん返しとなって、話が俄然面白くなっていき、ますます目が離せません。
戦国乱世の終焉を軸に、複雑化したキャラクターの関係性が、一気に浮き彫りになるのは痛快。軒猿十王の最強の刺客「髑髏」と大嶽丸の因縁も気がかりですが、ついに明かされる源四郎の本気が見所でしょう。
ラストに向けてさらに畳みかけてく展開です。
一度は倒されたかに見えた天雄。しかし、それは替え玉でした。未だ本人は生きており、裏で暗躍していたのです。彼は平和に馴染まない影の者として、大名はおろか南蛮まで巻き込んだはかりごとを企み、再び乱れた世の中にすべく立ち回っていたのでした。
因縁と陰謀を断つべく、源四郎達は最後の戦いに挑みます。
- 著者
- 戸土野正内郎
- 出版日
- 2017-06-09
忍術と剛剣唸る時代劇バトルアクションも、最終回を迎えます。
本巻は、大獄丸と髑髏の話がすべて明らかになるところも見所。今まで隠されたままだった髑髏の素顔が明かされるのにも、注目です。
彼らの話の他にも、戦国時代の本当の幕引きとして、いくつもの戦いに決着がつきます。源四郎、クモ、大嶽丸がそれぞれの相手と大立ち回り、人間離れした怒濤のアクションが演じられるのです。
かつて忍や侍は、戦乱という時代の寵児でした。それが平和の世の中になったことで、どう変わるのか、あるいは変わらないのか。最後の決着は、登場人物それぞれにとって、自身の存在理由を賭けた戦いといっても過言ではありません。
源四郎がなぜ商人を自称し、金に執着するのか。その理由も最後まで読めばわかることでしょう。
生き残れりゃ勝ちですよ……俺はそう思ってます
(『どらくま』6巻より引用)
源四郎の、この言葉に相応しい結末。ぜひ最終巻は、ご自身の目でお確かめください。
いかがでしたか?全6巻と比較的短いなかに、濃いエッセンスが、ぎゅっと詰まった怪作です。戸土野正内郎作品が好きな方は、ぜひ一度読んでみることをおすすめします。