「現代の魔法使い」と呼ばれる落合陽一氏。2017年に「情熱大陸」で取り上げられ、さまざまなメディアに登場している彼が、これからの日本の再興を考えた内容の一冊です。テクノロジーや少子高齢化、人口減少など、さまざまな視点から世界の中の日本を見直し、どうしたら日本が再興するのか、といったことが徹底的に考えられています。そんな『日本再興戦略』を、ポイントごとに解説していきましょう。
まずは本作の概要と、その内容をざっくりとご説明しましょう。
2018年1月に幻冬舎より販売され、その売り上げはアマゾンランキングで1位を獲得。発売から1日で、8万部を突破しました。さらに5日で11万部を突破するなど、多くの人に読まれています。
日本再興戦略 (NewsPicks Book)
2018年01月31日
本作は今現在大きく変わりつつある世界の中で、停滞している日本はどう再興していけばいいのかを説いた内容です。
この戦略は「改革」ではなく、日本の「アップデート」だと落合氏は話しています。日本がどのような道をたどるべきなのか、しっかりと解説してある一冊です。
落合陽一氏は「メディアアーティスト」という肩書きを持つ、若き研究者です。科学技術(コンピュータや電子機器)を使ったアート表現をする芸術家のことを、メディアアーティストといいます。それに加えて筑波大学の准教授であり、企業家でもある人物です。
特に彼は「現代の魔法使い」と呼ばれ、2015年には世界最先端の研究者を選ぶ、米ワールド・テクノロジー・アワードを、28歳の若さで受賞したという経歴の持ち主。
- 著者
- ["落合 陽一", "猪瀬 直樹"]
- 出版日
- 2018-10-31
彼は将来、人・機械・自然が親和し、その区別がなくなる「デジタルネイチャー」の時代が到来すると話し、機械が人を支配するといった悲観的な考えを否定しています。むしろ凝り固まった人間性を捨てて、自然な形で機械と人間が融合する……そんな世界を説いているのです。
そして本作の編集を手がけた箕輪厚介も有名な人物です。
彼は堀江貴文の『多動力』の仕掛け人でもあり、編集者以外の活動でも精力的に動く人物。元々ファッション雑誌の広告営業をしており、その時の経験が生きているのか、かなり行動的です。
- 著者
- 箕輪 厚介
- 出版日
- 2018-08-28
編集という枠を飛び出し、遊びとも仕事ともいえないことを数多くこなす彼は、「自分をブランド化させないと生き残れない」と語ります。未経験でも面白いと思ったことはなんでもやり、経験を増やし、そしてその経験から数々のヒット本を手がけているのです。
『日本再興戦略』は、この2人の天才がこれからの日本を考え尽くした結果生まれた本、といっても過言ではないのかもしれません。
まずは、「欧米」という言葉。日本にいれば、しょっちゅう聞く言葉ですよね。
ですが落合氏は、「欧米」というものはない、「欧」と「米」は別物である、と言っています。確かに考えてみれば、ヨーロッパとアメリカというのは、かなり大きな一括りですよね。
これはまず、明治の日本が西洋列強に追いつくため、政治体制から法律・農工業などの考え方をヨーロッパから輸入したことから始まります。それによって文明開化が起こり、日本は急速に発展しました。
そして近代化が進み、太平洋戦争が終わった後は、アメリカによる統治が始まります。それによって、アメリカ式の産業復興が進んで、経済大国として躍進したのです。
このような歴史から、それぞれのよいとこどりをした結果「欧米」という言葉が生まれました。
しかし、双方の国の歴史も産業も、まったく違っていますよね。そういった各国の違いの特徴を理解したうえで取り入れていかないといけないのに、日本は盲目的によいと思えるところを取り入れてしまいました。
そもそも東洋と西洋では、根底にある考え方がまったく違うのです。その違いに目を向けつつ欧米の文化・思想の源流をたどっていくと、自由と平等の民主主義・理性主義を持つ「ギリシャ思想」と、神の存在を信じる「ヘブライ信仰」というものにたどり着きます。
日本では、そういった信仰や思想の考え方はありませんし、こういった思想・信仰が根底にあるまま議論してもなかなか結論は出ず、不毛なままです。
東洋の思想や日本の背景を加味して考えること、また海外から何かを取り入れる際は、体制や主義思想などの特徴をきちんと捉えることが重要だと考えられるでしょう。
日本人は「百姓的」な働き方をすべきだと、落合氏は説いています。
「百姓」とは「百の生業を持つ人」という意味。AIが普及することによって、専門性のない仕事はすごいスピードで機械に置き換わっていきます。「百姓」のようにさまざまな仕事をすることによって、「専門性×専門性」で独自性を高め、機械にとって変わられない人材になることが重要なのです。
多動力 (NewsPicks Book)
2017年05月27日
これは堀江貴文氏の『多動力』でも言われていること。ただし、「きちんとハマること」が重要になってくるといいます。単純に手をつけるだけでなく、没頭し、ある程度の能力までいくと「専門性」を身に着けることができるのです。
「あるひとつのプロフェッショナル」までいかずとも、各分野である程度の能力を身につけ、それを掛け合わせていくことで独自の能力を発揮することができます。これが、これから日本人が生き残る術であるということなのです。
AIによってもたらされる未来は「デジタルネイチャー」だと、落合氏は説いています。
デジタルネイチャーとは、「人工物と自然物の区別がつかない世界」だそうです。たとえば、今VRと現実の物質の区別は、リアルの触感があるかないかで判断できます。しかし、それの違いがまったくわからなくなること、それがデジタルネイチャーなのです。
そうなっていくと、現実と仮想の区別がつかない、さらに自分の体や能力が、その世界で拡張していくようなことも起こり得ます。データだけで物質ができてしまうかもしれないし、自分が拡張されて、単純にできることが増えるかもしれません。
そういった未来を見据えて、自分の価値、AIに負けない価値をどうやって作っていくか、どうやって生きていくかを考え直していくのが重要なのです。
落合氏は、近代を「標準化された世界」と表現します。人間らしい社会を作るために、人間は「統一化」されていきました。そして、みんなが似たような感性や思考となっていったのです。
しかし、近年は多様化、ダイバーシティへの時代の変化、「個人がおのおの好きなことをし、またそれを表現する時代」への変化などが起こっています。
人を均一化する考え方を脱し、教育を見直し、それによってマイノリティやワークライフバランスといった問題の抜本的解決がおこなわれると、落合氏は語るのです。それによって、それぞれにストレスのない、無理のない毎日が送れるようになるのでしょう。
少子高齢化、人口減少は、今のところネガティブな面しかないように思われます。
単純に、働き手や売り上げの減少が目に見えているからですよね。しかし、落合氏はこれらを「むしろ大きなチャンス」と捕らえています。
というのも、すべての国々が、こういった問題を抱える可能性をはらんでいるからです。そうした問題をいち早く抱え、さらにこの無理難題を解決する方法を生み出すことができれば、日本は一気に世界から注目を浴びることができます。
まさに「ピンチはチャンス」といわんばかりに、この現状を打開するための一手を考えられれば、日本が大逆転する可能性もあるというのです。
このピンチから脱出、さらに新しい価値を生み出すことができれば、日本がさらに飛躍していく……それは、夢物語ではないのかもしれません。
これからの時代は「リーダー2.0」だと落合氏は言っています。
その特徴とは、
この3つだそうです。
弱さがあるとは、すべて自分で出来てしまう人ではなく、誰かの手を借りることが出来る人。スーパーマンではなくて、周りに頼れるという弱さがある人のことを指します。
2つめは、組織の意思決定と、実務権限を明確に分けること。たとえば、役職の大きな人がすべて意思決定の権限を持つなどはしません。役割は役割で個人が請負って実力を発揮しますが、その能力によって組織の意思決定の権限が強くなる、などということはありません。それは、リーダーも同じことです。
3つめは、特定の誰かにリーダーの役割を引きつぐのではなく、その業界やチーム内で人材を育成することが重要ということ。このことにより、その取り組んでいる事柄の関係人口を増やし、裾野を広げることができるのです。
リーダーとして上に立つのではなく、あくまでもみんなと同じ目線、水平の関係でまとめていく人が求められています。
これからの時代には、教育そのものを見直すことも必要だと説いています。
これからの時代に向けて身につけておくべき能力は、
この2つだそうです。
ポートフォリオマネジメントとは、収入源を複数持つこと。金融的投資能力とは、その名のとおり、投資先を見きわめてしかるべきところに投資する能力です。
子供はよくも悪くも、親の影響を大いに受けて育ちます。その2つの能力を伸ばすためには、親がまずそういったことに興味を持ち、勉強し、意識して生活すること。子供にしてほしいことは、自分でもまずやるということが重要なのです。
時には、子供とともに考え、一緒に成長していく。一方的に正しいと思うものを教えていくのではなく、子供と一緒に学び、時には子供に教えられていくことも必要なのではないでしょうか。
これからの時代は、「ワークライフバランス」ではなく、「ワークアズライフ」が重要になるのだそうです。
今は、仕事一辺倒の時代からプライベート、いわゆるライフのほうを重要視する流れになっています。しかし、そもそも日本人はワークアズライフという働き方で、うまくいっていた民族だと落合氏は主張しています。
それは、仕事と余暇をきっぱり分けるような生き方ではなく、仕事と生活の境界線を曖昧にしていき、働いている状態と生活している状態をイコールにすることです。
週5日働いて残りの2日で休んでも、実際は疲れが取れなかったり、ストレス解消に繋がらないことは多々あります。このような働き方より、仕事とプライベートが地続きであるような働き方こそ日本人には向いているのです。
しかし、これを実行するには、自分のベストな働き方を見つけることが重要となります。バリバリ働くのが合っている人もいますし、自分のペースで働くほうが成果が出るという人もいるでしょう。
このようなことを踏まえたうえで、ワークアズライフを実行していくことが、ストレスのない働き方への第一歩なのかもしれません。
それでは、この本の名言をランキング形式でご紹介していきましょう。
第3位
人類のよさは、モチベーションだ。
(『日本再興戦略』から引用)
デジタルネイチャーの世界になっていくと、現実と仮想の区別がつかなくなっていきます。そこで重要なのは、やはりモチベーションがあること。実体があるかないかというのがわからなくなってくる将来、やはりマインドの部分は、機械には真似できないものですよね。
機械は、リスクを単純に嫌がります。確率の問題になるからです。しかし、そこでモチベーションが上がって能力をさらに発揮できてしまうのは、人間ならではのよさですよね。
第2位
英語力よりも日本語力
(『日本再興戦略』から引用)
英語が重要と、教育にも力を入れている昨今ですが、今や自動翻訳のクオリティは上がる一方。英語が多少できるよりも、日本語(母国語)でしっかりロジカルに考えられることの方が重要です。
落合氏は、短文で意見をまとめること(twitterくらいがいい訓練になるそう)、それくらいの分量で自分の意見を持てること、まとめられること、そういったことが大事で、理にかなっているといいます。そういったことには、まず日本語力が重要なのですね。
第1位
手を動かせ。モノを作れ。批評家になるな。
ポジションを取った後に批評しろ。
(『日本再興戦略』から引用)
悩んでばかりいる人、また口ばかり動かしている人にはならない。まずはなんでもいいからやってみること、そして、自分でやってみて価値を作り出し、ポジションを取ることが大事だと主張しています。
まずは、やってみないと価値があるかどうかもわからず、そして生み出せる価値もわからず終わってしまいます。
社会のスピードがどんどん速くなっている今の時代だからこそ、まずは手を動かして行動してみることが必要。実践の重要性が、どんどん上がっているのです。
本作は『日本再興戦略』という大きなタイトルですが、実際には、「では我々はどうしたらいいのか?」がきっちりと落とし込まれた内容の一冊となっています。
日本再興戦略 (NewsPicks Book)
2018年01月31日
これから、AIやテクノロジーによって、どんどん世界は変わっていきます。それを踏まえたうえで、さまざまな価値観を受け入れること、自分が変化していくことは、とても重要となってくるのです。そして、価値は自分で作っていくものになります。
まずは自分から動いていくこと、そして、それによって自分が定義づけられていき、やがて他人にも浸透していくのです。
変化を恐れず、批評家をものともせず、自分ができることをやっていく。それが日本を再興するための、1人ひとりの行動なのではないでしょうか。
いかがだったでしょうか?これからの世界、世界の中の日本が、これからどうしていくべきかが書かれた示唆に富んだ一冊。ぜひ手にとってみてくださいね!
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。