何かと忙しく過ぎていく日々。気づくとゆとりなく過ごしていませんか?少し立ち止まって、今日は涙を流して心の掃除をしませんか?大人になって失ってしまった「何か」に響くおすすめの小説をご紹介します。
始まりは、病院のソファーに置き去りにされていた1冊の文庫本です。手書きで書かれたタイトル『共病文庫』という本は、クラスメイトの桜良の秘密日記で、その本を覗いた主人公の「僕」は、桜良の余命が少ないことを知ります。「秘密を知るクラスメイトくん」となった「僕」は、桜良が死ぬ前にやっておきたいことに付き合うことになり、物語は展開していきます。
- 著者
- 住野 よる
- 出版日
- 2017-04-27
すい臓を病んでしまった少女と主人公の闘病生活を描く感動の物語と安易に想像してしまいますが、実は2人の青春を焦点にしている作品です。全体的に軽い調子で進んでいく会話が、一見「死」からかけ離れているように流れていきます。しかしその少女の発する言葉には「死」を連想する言葉が散りばめられており、逃れられない「死」のにおいが濃厚です。
また、その「死」の暗さによって主人公たちの「生きる今」が輝いて見えます。そんな「今」の中で、桜良と関わって少しずつ変化する「僕」の心情がまた切ない。人との関りに興味のない「僕」と人との関りを大切にする桜良、違うから惹かれあっていく2人。特にクライマックスからラストは時を忘れ、入り込んでしまいます。このタイトルに隠された2人の心情と結末に涙腺崩壊してください。
舞台はアメリカ南部、シーブルック。自然描写がとても美しく、目の前に浮かび上がるように、田舎の自然がきれいに表現されています。情熱的な青年ノアがお嬢様であるアリーにひと目惚れし、美しい自然の中で二人の夏が始まります。しかし、身分の違いで引き裂かれ、この淡い想いはひと夏の思い出となってしまうのです。
その後二人は偶然に再会するも、アリーには結婚目前の婚約者がいました。それでも落花流水のごとく惹かれ合う二人、止められない強い想いのままに激しく求め合います。
- 著者
- ニコラス スパークス
- 出版日
更に数十年後、二人は老人ホームにいます。アリーはアルツハイマーに罹り、記憶を失ってしまいます。そこでノアはアリーのために二人の軌跡を書き綴り、毎日毎日アリーに読み聞かせるのです。
「わたしは ありふれた男だ。でも わたしは 全身全霊をかたむけ 愛する女性がいる。いつでもそれだけで十分だった」(『君に読む物語』、アーティストハウス、8ページより引用)
純愛の舞台を、青春期、壮年期、老年期と分割し、かつ老年期にクライマックス持っていっているところが、更なる感動を生み出しているのを感じます。年月を経ても変わらないノアの深い想い。いつの時代も純愛は人の心を動かしますね。しっとり大人の純愛に浸りたいときおすすめの1冊です。
作家としての妻と、支えてくれる最高の読者である夫。そんな設定をもとに物語は一捻りも二捻りにもされて進んでいきます。二部構成でsideAとsideBの2編が収録されています。
書くのをやめるか、このまま死ぬか。そんな死の宣告をされた彼女が選んだのは、世間が自分を必要としなくなるまで、物語を紡ぎ続けることでした。
襲いかかる運命を受け入れ、日々を分かち合える人がいることの幸せと、それを失う恐怖と不安を、緩やかに進められていくストーリーがリアリティを感じさせ、読む者の胸を突き動かします。
- 著者
- 有川 浩
- 出版日
- 2015-12-04
夫の死を宣告された彼女は、その運命に導いた神への怒りに近い感情を抱きます。そして彼女は、夫の死を描くことで、それが逆夢になることを願い、筆をとります。
物語の中で羅列される祈りに、夫の死に抗う彼女の湧き上がる想いが伝わってきます。また何気ない語り口も彼女の狂おしいまでの想いを漂わせているところがまた涙を誘うんです。
「書く側」の壮絶さが色濃く書かれていて、実話かと思うような話で更に引き込まれてしまいます。そして、漢字とひらがなを巧みに操り、この夫婦の世界観を際立たせ、「読む側」の想像力を掻き立てます。
それぞれを襲う運命の悪戯を共に乗り越えていく2人の芯の強さと愛の深さ。そして有川浩の作家としての力量が伺える話の構造には下を巻きます。物語に泣き、構成に驚く、まさにエンターテイメントな1冊です。
『ストーリー・セラー』の他にも有川浩の作品を読んでみたい方は、こちらの記事もご覧ください。
人気No.1恋愛小説家・有川浩の書籍をランキング形式でおすすめ!新作も
有川浩の作品はあらゆる世代からの人気が高く、映像化したものも数えきれないほど。本好き読者による2011年の好きな作家ランキング女性編では、堂々の1位を獲得している作家。そんな有川浩の人気作品をご紹介します。
まじめで受け身で不器用な米村真弓子が、犬らしくない愛犬ベンジャミンと共に駆け抜ける青春物語です。携帯がまだそれほど普及しておらず、物語の中で公衆電話が重要な役割を果たすところに懐かしさを感じます。
- 著者
- 山本 幸久
- 出版日
- 2013-07-24
放送部員となった真弓子は、ある日失敗して落ち込んでしまいます。そこに大河原が、君の声はいいと褒めてくれ、真弓子の心に恋心が芽生えました。しかし、気持ちを伝えられぬまま、大河原は下級生の蔦岡るいと付き合い始めてしまます。二人を見守ることしかできない真弓子…それが歯がゆくて歯がゆくて、受け身すぎる真弓子に思わず読みながら、頑張れ‼と叫びそうになってしまいます。
真弓子を守り抜こうとする、犬らしくない愛犬ベンジャミン。ペットを飼っていると“つい話しかけてしまう”という心理がうまく組み込まれていて、ベンジャミンとのやり取りに笑みが零れてしまうことも。
真弓子の、思っていることを口にできなかったり、進路に悩んだりと、その不器用さに共感でき、思い通りに進まない人生に悲観することなく、前向きに進んでいこうと思わせてくれる作品です。甘酸っぱくて切ない、様々に織り成す真弓子の心模様に、あの頃を思い出してみませんか?
日常の全てのことを好奇心で「楽しい」に変換するということを、追求し続けてきた放送作家の三村は、すい臓癌で余命6か月と宣告されてしまいます。平和な日常に、妻に伝えるタイミングを逃してしまう三村ですが、余命を全うすることを決断するのです。
それは、「家族を悲しませたくない」「家族に『楽しい』を感じていてほしい」という三村の優しさなのですが、その遺される家族のために考えたことが、自分の死後に家族を支えてくれる人、つまり…妻の再婚相手を探すという企画でした。びっくりしてしまうようなシナリオがタイトルと繋がり、クスリと笑みが零れます。
- 著者
- 樋口 卓治
- 出版日
- 2015-02-13
出てくる登場人物達の悪意のないユーモアがそれぞれ微笑ましかったりします。余命宣告されていることをつい忘れてしまうテンポで展開されていくストーリーですが、笑わせて知らぬ間に胸をジンワリさせてくれます。
そして、ついに三村の思惑を、事実を知った妻は、三村の思いとは裏腹に怒り出してしまうのですが、その妻のとった行動や息子の言葉に、胸をグッと掴まれます。最後まで、日常の全てのことを好奇心で「楽しい」に変換するという三村の信念が貫かれていて、「あぁ、家族っていいな」と思わずにはいられません。
ユーモア満載の日常に笑いあり涙ありの、心が暖かくなる愛を感じる物語。家族との時間を大切にしたくなる物語です。
健吾という8年同棲していた恋人に去られた梨果のもとに、別れの原因でもあった健吾の新しい彼女・華子が押しかけてきます。
健吾への想いをまったく捨てきれない梨果ですが、強引に梨果の部屋に住み始める華子には、戸惑いながらも徐々に惹かれていきます。
次第に華子をめぐってたくさんの男性が登場し、出る人出る人みんな華子のとりこになってしまうのですが、誰よりも一番彼女の魅力に取り憑かれているのではないか、というくらいまで好きになってしまうのが、なんと梨果なのです。
健吾と真剣に付き合うでもなく、複数の男性と遊ぶ華子を、怒り、妬み、憧れる梨果。
梨果と同じような経験をしたことはなくとも、恋をすればわかる「好き」だけじゃない気持ち。本作にはそんな複雑な感情がたくさんたくさん散りばめられています。
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
「好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの」とは、健吾に対して放った華子のセリフ。彼女の生き様を如実に表した印象的なセリフだと言えます。読み手としては、健吾に同情しつつも、華子に共感の念をも抱くのではないでしょうか。
読み進めるうちに、梨果と共に華子の魅力に気付かされていくだけに、三角関係が終わりを迎える終盤はとても衝撃的です。ぜひ覚悟して読んでみてください。
リアリズムファンタジー。人気作家西加奈子が描く空想と現実を織り交ぜた、優しく穏やかな恋愛小説です。
この物語のカギとなるのは、きいろいゾウと女の子の物語である絵本。ツマとムコの夫婦の物語が絵本の物語とリンクしていて、現実世界であるのに、ツマとムコがまるで童話の中の住人のように感じられるのです。
夫、無辜歩(むこあゆむ)妻、妻利愛子(つまりいあいこ)お互いに、ムコさん、ツマと呼び合う仲の良い夫婦。田舎の一軒家で暮らし、畑ではトマトを栽培しています。
ムコは小説家で夜遅くまで執筆活動に取り組み、ツマは人よりちょっと感受性が強いのか、犬や木などの生き物と会話ができます。そんなツマを優しく見守るムコ。都会の喧騒とは無縁の、優しさに満ちた、穏やかな夏から物語は始まります。
ところが2人には互いに秘密があったのです。その秘密が穏やかな生活を一変させ、物語を加速させます。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2008-03-06
人と人とが深く繋がるとき、それはつまり愛というのでしょうが、そこには痛みが生じます。そしてその痛みは言葉や時間が癒してくれます。ムコはツマと初めて出会った時、そして何かあるたびに言います。「大丈夫ですよ。」きっとこの一言が安心の素で、優しく包まれているという安らぎを生み出しているのだと思います。
元々は赤の他人である夫婦です。2人のように多少の差はあっても、秘密の1つや2つ誰しもが持っているものです。しかしそれは決して悪いことではありません。露呈した時には支え合えばいいんです。
「大丈夫ですよ。」と一言伝えるだけで、救われる想いがあるんだと、信じたくなります。それはつまり、愛を信じるということなのかもしれません。
他の登場人物も生き生きとしていて、楽しませてくれるのも本作の読みどころでしょう。クールで大人びた小学生の大地くん。いつでも社会の窓全開の近所のおじさんアラチさん。その奥さんのセイカさんは、冷奴にミロをかけて食べちゃうなど、小ネタまで楽しませてくれます。
さあ、「大丈夫ですよ。」の優しさに包まれましょう。
『きいろいゾウ』の他にも西加奈子の作品を読んでみたい方は、こちらの記事もご覧ください。
初めての西加奈子!初心者向けおすすめ作品ランキングベスト6!
直木賞も受賞し、一躍注目を浴びることになった女性作家・西加奈子。彼女の手がけた作品は小説の域を越えて、映画化や絵本化もされるほど多くの支持を集めています。その魅力とはいったい何なのでしょう。
アメリカの小説家、トルーマン・カポーティによって執筆された本作。表題作の他、短編3つが収録されており、村上春樹が翻訳をつとめたことでも知られる作品です。オードリー・ヘプバーン主演の映画が有名ですが、原作となる本書も、映画の魅力に負けず劣らずの名作です。
『ティファニーで朝食を』の主人公「僕」は、何年も前から行方が分からなくなっている、ホリー・ゴライトリーという女性のことを思い出します。今では立派な作家となった「僕」ですが、当時は作家を目指し、ニューヨークに出てきたばかりの青年でした。あの頃アパートには、ホリー、「僕」、ユニオシの3人が暮らしており、アパート内に入る扉の鍵をいつも持っていないホリーは、真夜中でもお構いなしに「僕」やユニオシの部屋のベルを鳴らしていたのです。
女優であるホリーは、天真爛漫で自由気まま。アパートでもしょっちゅうパーティーを開き大騒ぎです。ですが、身勝手な中にもどこか誠実さが漂う彼女に、「僕」はいつしか心惹かれるようになっていくのでした。
- 著者
- トルーマン カポーティ
- 出版日
- 2008-11-27
舞台となっているのは、第二次世界大戦中のニューヨークです。当時の街並みや人の様子が、味わい深い文章で繊細に表現され、その世界観に引き込まれていきます。主人公の視点から描かれる、どこまでも自由で、掴みどころのないホリーの姿は本当に魅力的。そんな彼女に惹きつけられていく、主人公の心理描写に思わず共感してしまうことでしょう。ホリーの内面に隠した苦悩を感じ取ることもでき、ますます彼女に魅了されていきます。
村上春樹のスマートな翻訳はとても読みやすく、翻訳モノが苦手な方でも違和感なく読めるのではないでしょうか。映画とは、だいぶ印象の違う作品になっていますから、映画で知っているという方も、そうでない方も、ぜひ1度読んでみてくださいね。
古風で物静かな女性麻子。タイトルの『冬のひまわり』は麻子のことを表しています。優しい夫を持ち、穏やかな生活を続ける麻子。しかし彼女には20年も思い続けている人がいました。学生時代に出会った透です。
外国に行っていたはずの彼が日本に戻ってきたとき、ふたりはひとつの奇跡に賭けます。ふたりの思い出の地、鈴鹿での二輪耐久レース会場。人妻の身でありながら、毎年夏になると麻子はそこに出かけずにはいられませんでした。麻子はその夏、会場で透に会えなかったら彼をふりきろうと決意します。でも、もし出会えたのなら……。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
物静かな序盤、中盤と一転し、終盤はレースの高揚感と麻子、透二人の気持ちが高まり一気に緊張感が高まります。
遠い昔の恋を忘れず思い続ける純粋な麻子、そしてその麻子が帰ってくることを信じてなにもいわずに見守ってくれる麻子の夫、良介。ラストシーンでの良介の涙には思わず「健気」という言葉が漏れました。男性側にこの言葉が似合うというのも珍しいです。
一緒にいて居心地のいいワタルと、出会った瞬間に惹かれてしまった早瀬との間で揺れる主人公、ナズナの恋です。
ワタルを愛しているが、早瀬への恋心を止められない。そんなナズナの心のうちがひしひしと伝わってくるのです。
似たような傷を抱えるからか共鳴し早瀬に惹かれていきますが、その傷を癒してくれたワタルを大切にしたい想いも持っています。どちらもナズナの純粋な気持ちで、誰も悪くないからこそ苦しくなります。
最後にナズナの選んだ道と、驚きのラストに涙があふれるでしょう。
- 著者
- 小手鞠 るい
- 出版日
- 2009-06-04
恋と愛。本作ではその違いを描き出しています。
人を好きになるときはあまりに唐突のため、誰にだって非はないでしょう。三角関係ですがドロドロした感じはなく、清廉な空気を感じさせるのが小手鞠るいの妙。恋と愛の間で揺れ動き、どちらを失ってもなおナズナの心には純粋な想いが残ります。ナズナの心情にすべて共感することはできませんが、それでも否定はできません。
自分自身の今までの恋愛は愛だったのか、恋だったのか。そっと問いかけてくれる作品です。
オシャレでドラマチックな作品の多い山田詠美が描くAからZで始まる恋愛小説です。
「たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。」
(『A2Z』より引用)
このプロローグがこの作品の全てを物語っています。たった26文字。そうです、アルファベットのAからZのことです。この26文字を組み合わせることで、全ての表現ができるのです。そして有言実行とでも言いたげに、物語はaからzの26章で成り立っています。
- 著者
- 山田 詠美
- 出版日
- 2003-01-15
この物語の中には3つの恋愛があります。①共に編集者として働く森下一浩と夏美の夫婦 ②一浩と女子大生の冬子の不倫 ③夏美と郵便局員の成生の不倫 ダブル不倫ですね。さぞかしドロドロしているのでしょうと思われるかもしれませんが、読んで驚いていただきたいです。背油が乗っているのにサッパリしているとんこつラーメンとでも言いましょうか。どうしてこんなにサッパリと不倫を描けるのか、不思議です。その中でも気に入った文章を抜き出したいと思います。
「雨は降っていたけれども、雨に打たれていた訳でもない。屋根はあった。私たちは、洗濯をしていた。成生のアパートメントの側のコインランドリー。洗濯機をテーブル代わりにして、近所の酒屋から調達してシャンペンを飲んだ。震動でシャンペンの泡が盛り上がり、私たちは慌ててプラスティックカップを持ち上げて合わせた。音のしない安物の乾杯。私たちは、その後、少しずつ注ぎ、少しずつ飲んで、そして、少しずつキスをした。」
(『A2Z』より引用)
『ティファニーで朝食を』改め『コインランドリーでシャンペンを』ですね。山田詠美ことポンちゃんの手にかかれば、なんてことのないコインランドリーも素敵なデートスポットになってしまいます。
夏美の視点で描かれていますが、この夏美がカッコいいんです。バリバリ働き恋愛に身を興じる。その姿に憧れを抱くのも理解できます。大人女子の理想とも言えるかもしれませんね。
夫婦のあり方や恋というものが人生にどう関わっているのか、読み終わってそんなことを考えました。オシャレなだけじゃない、真面目に浮気する恋愛小説。大人女子必見です。
何かに追われる日々に休息のひと時を。今回紹介した作品が、貴方の心を優しく包み込んでくれると思います。