初めての西加奈子!初心者向けおすすめ作品ランキングベスト6!

更新:2021.12.11

直木賞も受賞し、一躍注目を浴びることになった女性作家・西加奈子。彼女の手がけた作品は小説の域を越えて、映画化や絵本化もされるほど多くの支持を集めています。その魅力とはいったい何なのでしょう。

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直木賞作家、西加奈子

1977年、西加奈子はイランのテヘランで生まれました。その後、2歳で大阪に移りますが、小学生に上がる頃にはまた海外へ。5年生までをエジプトのカイロで過ごします。かなりインターナショナルな感じですが、大阪での幼少期の影響がとても強かったらしく、外国の文化や言葉になじみつつも大阪弁を一番使いこなしていたんだとか。エジプトでも日本の本をたくさん読んでいたそうです。

その後はまた日本に戻ってきて、関西の大学へ。卒業後は編集者でライターのバイトをしながら喫茶店を開業しますが、喫茶店が暇すぎてカウンターの奥で原稿を書くようになりました。そして、この時に軽い気持ちで小説でも書いてみようと思い立ち、短編小説『あおい』を執筆するのです。

思いつくままに書き上げた『あおい』の原稿を見て、これをなんとか活字にしたいと強く思うようになり、大阪での生活を全てなげうって上京。出版社に持ち込んだところ、編集者の目に留まってデビューすることになりました。すごい経歴と行動力の持ち主ですね。

西加奈子の作品は家族や身近な人間をモチーフにしたものが多いです。また、文章のリズムに気を遣っているそうで、彼女が最も敬愛する作家・遠藤周作の原稿テープ起こしなどの影響を受けているとのこと。インタビューなどでも終始関西弁で話しており、西加奈子の温かな人となりが伺えます。

1位:じぶんらしく強く生きること『漁港の肉子ちゃん』

あらすじ

「漁港だからってみんな魚ばかり食べたくないだろう」という頓狂な発案から執筆を始めたという『漁港の肉子ちゃん』は、西加奈子という「大阪のおばちゃん作家」を全面に押し出した傑作となりました。小さな漁港で暮らす母と娘の温かな人情小説です。

悪い男に騙され続け各地を転々とした母とその娘が、ある安住の地で生活を始めることから物語は紡がれていきます。

タイトルにもなっている肉子ちゃんは、北陸の小さな漁港にある焼き肉屋「うをがし」で働く元気なお母さん。本名は「菊子」なのですが、丸々と太っていてしかも焼き肉屋で働いていることから、周りからは「肉子ちゃん」と呼ばれ親しまれています。性格は自由奔放で底抜けに明るく、移住してきたにもかかわらず歯切れのよい関西弁で豪快に話します。

一方、その娘のキクリンは母とは違っていたってクール。友達と話す時も関西弁ではなく周りの言葉に合わせ、自由気ままに振舞う母の姿に時には嫌気がさしてしまう、年頃の娘です。しかし、そんな母でもかけがえのない存在であることは間違いなく、母の天真爛漫な様子をうらやましく思うこともあるのでした。

とはいいつつも、やはり母のことが気がかりな娘・キクリン。関西から引っ越してきた事や少々明るすぎる母のこともあって小学校での人間関係に悩んでしまいます。自分は母のことが好きだけれども嫌いでもある、そんな葛藤に苦しむ娘をみて、肉子ちゃんは大切なことを教えるのでした。

著者
西 加奈子
出版日
2014-04-10

ここが見所

母と娘、そして周囲の人間ひとりひとりが実に魅力的な人物に描かれていて、終始心温まるお話になっています。

地方の田舎にある小さな漁港と聞くと、ともするとうら寂しく廃れたイメージを持ってしまいがちですが、そんなイメージは一切感じさせることがありません。肉子ちゃんを通し、作者自身が持つ明るさで包まれています。

本作にはそのような作者・西加奈子の大阪愛、関西弁の温かさのようなものを強く感じさせるものがあります。『円卓』では終始関西弁で話す登場人物に囲まれていますが、本作では舞台が東北地方なので、そのセリフが特に際立つのです。言葉を大切にする作者の思いが特にこめられた一冊ですね。

人情のこもったお話と言葉へのこだわりは西加奈子の神髄であり、作者の温かな人となりが特に感じられる一冊として、第1位に選出しました。

『漁港の肉子ちゃん』は2021年6月、明石家さんまプロデュースによってアニメ映画化されました。アニメーション制作を担当したのは『映画 えんとつ町のプペル』のSTUDIO4℃。予告動画でキャラクターたちがどう動くのか確認してみてください。

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2位:西加奈子にとっての記念すべき一冊『サラバ!』

あらすじ

西加奈子『サラバ!』は、作者がデビュー10年目の節目に手がけた作品で、「とにかく長いものを書いてみたかった」とのことで執筆したそうです。2015年に直木賞を受賞し、本屋大賞2位にも選出されたことで大きな話題を呼びました。

主人公は圷歩(あくつあゆむ)。イランで生まれ、日本に一時期戻ってから次はエジプトで生活することになり、また日本に戻ってくるという少年時代を過ごします。

作者の幼少期と同じですね。10年目に一念発起して取り組んだ作品ということで、作者と主人公がシンクロしているのが感じられます。

日本に戻った歩は順風満帆に生きていきます。女の子からはモテモテ、ライターの仕事は大きな反響を受けて世界中を飛び回り、一流ライターとして名をはせているのですが、そんな成功者を絵にかいたような歩にも暗い事情があるのでした。家族の存在です。父と母はエジプトに居た頃に衝突して今や別居中、姉は情緒不安になり暴力をふるうようになってしまっていたのです。

少しずつ人生の歯車が狂い始める歩。そんな折、エジプトで事件があったというニュースを聞きました。どうやら、エジプトに住んでいた頃に親しくなった友が危ないとのこと。両親のケンカの発端を知ることもかねて、友人を救うために歩は慣れ親しんだエジプトに再度足を運ぶのでした……。

著者
西 加奈子
出版日
2014-10-29
著者
西 加奈子
出版日

ここが見所

本作のユニークな点は、エジプトの描写がとてもリアルなところです。作者が実際に数年間住んでいたということもあって、その生活の様子や現地の人々とのやり取りなど情景描写が繊細です。読んでいると、行ったこともないのにエジプトの景色が目の前にありありと映し出されるようです。

そして驚くのが、この壮大なストーリーを設計図もなしに書き上げた事です。小説を書く時には、プロットと呼ばれる構成をあらかじめ決めて書く方が多いそうですが、本作にいたってはそのようなことは全く決めていなかったんだとか。「ハッピーエンド、主人公は男、言葉を違えた男の子の友情」という要素以外には何も決めなかったそうです。

そして書いてみるやいなや、どんどん筆が進んで、原稿を入稿する時には「こんなにすんなりいっていいんだろうか」と逆な不安を抱えてしまったそうです。「自分で書きながら、登場人物に引っ張られるところがあって、めちゃくちゃ幸せになる瞬間がありました」と語る作者のこの作品は、実に10年目の節目にふさわしい壮大な物語となったのです。

タイトルの「サラバ!」にもしっかりと作中でエピソードがあって、なぜこれがタイトルになったのかということも分かります。西加奈子とはつくづく言葉を大切にする作家なのだと実感する一冊です。

3位:直木賞受賞後も傑作を生みだし続ける西加奈子『i(アイ)』

あらすじ

「この世にアイは存在しません」

本作は、主人公のアイが学生時代に授業で受けたこの言葉に大きな影響を受け、悩み生きていく物語です。

アイは、シリア出身でアメリカ人の父、日本人の母の養子として暮らしていました。恵まれた環境で育ち、ミナ、ユウという大切な人に囲まれて日々を過ごしています。そんな中、日本の震災、世界で起きるテロ、紛争などの事実に心を痛めます。そして、恵まれた環境にいる自分に罪悪感を覚えるのです。やがてアイは自分の存在価値は何か、考えるようになりました。アイは自分の存在価値を見つけることができるのでしょうか。

著者
西 加奈子
出版日
2016-11-30

ここが見所

この物語は、劇的な何かが起きるわけではありません。学生時代「この世にアイは存在しません」と数学の先生が話したことでアイは衝撃を受けます。この言葉を軸に、アイの周りで起こる出来事、全世界で起きる自然災害、紛争を取り上げながら、アイが自分の存在価値を見いだしていく物語です。随所ででてくる「この世にアイは存在しません」という言葉。先生が言ったのは数学の虚数の話でしたが、物語が進むにつれこの言葉は重みを増していきます。

アイは、世界で起きるテロや紛争、災害で亡くなった方についてノートに書き留めていきます。そうすることで、自分の存在に対する罪悪感と向き合うのです。災害などの当事者でない者がその問題に向き合う事の難しさ、無力さを感じることでしょう。また同時にその問題に心を寄せることの大切さも描かれています。

こんなにもテーマを広げていきながらまとめきる力量は、さすがの西加奈子。最後の最後に感動があふれ出る、読んでよかったと思わせてくれる作品です。ぜひご一読ください。

4位:冒頭から引き込まれます『きりこについて』

あらすじ

「きりこは、ぶすである。」という冒頭の一文がなによりも強烈な本作。夏目漱石の「吾輩は猫である。」という書き出しに似たものがあって、読み始めからなかなか衝撃的です。

物語の主人公であるきりこは、確かにぶすでした。しかし悲しいような嬉しいような、両親からは「かわいい、かわいい」と誉めそやされて、すくすくと成長していきました。やがて大きくなるにつれて、その両親の言葉は幻だったときりこは気付いていきます。ある事件を境に引きこもりがちになってしまうきりこですが、ある日みた夢がきっかけとなってまた新しい世界へと飛び出していくのでした。

本作はそのような、現実とイメージの乖離に悩みを抱えるきりこを中心とした女性の姿を描いた作品です。面白いのは、語り手が猫であること。冒頭も相まって、夏目漱石を意識したのかなと思ってしまいます。この猫はラムセス二世という個性的な名前の猫で、きりこが小さい頃に拾ってきた猫です。少しずつ人間の言葉を覚え、ついには人間について語ることができるようになってしまいました。

著者
西 加奈子
出版日
2011-10-25

ここが見所

このお話のテーマとなっているのは、「欠点を受け入れるということ」なのでしょう。きりこの周りには、目立たずに地味で太っていた女の子、男性に溺れて社会的な評価を全く受けられない女の子、精神を病んでしまった女の子など悩みをそれぞれに抱えた女性がたくさんいるのです。そして、様々な葛藤を抱えつつも、社会との接点を見出し、自立していくクライマックスは感動的です。きりこもぶすで、容姿的には欠点とされるかもしれませんが、考え方や行動でそれをプラスにしていくのです。そんな強さを教えてくれる一冊。

また、よく耳にする「小学生男子は足が速いやつがモテる」という話がありますが、それについての考察が作中でされており、その理由や背景も納得ができて面白いです。

他にも猫が活躍する小説を読みたい方は、こちらの記事もおすすめです。

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5位:大家族の末っ子、ませた少女の物語『円卓』

あらすじ

西加奈子の『円卓』は、2014年に映画化もされた、ユーモアあふれる家族の姿を描いた作品です。

物語をリードするのは、大阪の公営住宅に住まう8人家族。近所の中華料理店から譲り受けたとされる円卓が6畳の居間に置かれ、家はいつでもワイワイガヤガヤと賑わしい様子です。そんな大家族の末っ子・琴子が本作の主人公です。

琴子は孤独を愛していました。8歳であるうえに、こんなに賑やかな家族に囲まれながら孤独を愛するとはおかしな話かもしれませんが、琴子はいつも賑やかな家族に辟易してしまうこともしばしばなのです。家族に愛されながらも不満ばかりが募る、そんなちょっと気難しい女の子です。

そんな琴子が様々な人と関わりながら、孤独について、そして家族について8歳なりに少しずつ気づいていきます。このお話は、少し変わった女の子である琴子の成長を描いた作品なのです。

著者
西 加奈子
出版日
2013-10-10

ここが見所

この作品のポイントとしては、まず関西弁の歯切れの良さがあるでしょう。「うるさいぼけ」「なにがおもろいねん」とこれだけではあまり伝わらないかもしれませんが、西加奈子がとにかく関西の言葉を愛する気持ちが物語の最初から最後まで詰まっています。作家の経歴を見てみるとインターナショナルな印象を受けますが、本作を読んでみるとイメージがガラリと変わりますよ。

また、本作のテーマのひとつが「言葉」。琴子はいつもジャポニカ学習帳を持ち歩いて、はじめて聞いた言葉を書き連ねていくのです。もちろん、冒頭に書かれているのは「孤独」の二文字。様々な言葉や人にふれあい、その意味を考えていくことで琴子は学んでいくのです。言葉は小説の基礎であり、言葉の積み重ねが小説になってきます。その言葉をテーマに設定していることから、なんだか小説としての純粋なものがこの作品にはあるような気がします。

2014年に芦田愛菜主演で映画化されました。監督の行定勲についてはこちらの記事もおすすめです。

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6位:飼い犬の瞳に映るものとは『さくら』

あらすじ

デビュー翌年に刊行された西加奈子『さくら』は20万部を超えるベストセラーとなりました。とある家族の温かなつながりと苦しみを乗り越える姿を描いた物語です。

長谷川家はどこにでもあるような、普通の家族。両親と3人の子供、おばあちゃん、そして犬のサクラがいる温かな家庭でした。物語を引っ張るのは、兄である一(はじめ)とその弟の薫、妹のミキ。幸せな家庭を築く父・昭一でしたが、ある事件を境に家族崩壊の危機に陥ってしまいます。

「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブアップ」という遺書を残したまま、一は公園で首を吊ってしまいました。成績優秀、スポーツ万能、誰からも好かれるスーパースターのような存在だった一は、交通事故であられもない姿となり、下半身不随という身体になってしまったのです。一が亡くなってしまった長谷川家は灯が消えたように暗くなって、それぞれがやさぐれてしまいます。昭一はふらりと家を出て行ってしまい、母は過食に深酒、子供たちもふさぎこんでしまうように。幸せに満ちた家族の姿は過去のものとなってしまいました。

一家離散まであとわずか、という時にふらっと昭一が帰ってきます。少しずつ以前の活気を取り戻す長谷川家。しかし、今度はサクラの身体が弱っていきました。必死にサクラの病院を探し回る中、残された家族は生死について、家族について大切なことを学ぶのでした……。 

著者
西 加奈子
出版日
2007-12-04

ここが見所

タイトルの『さくら』はこの犬の名前にちなんだものでしょうが、物語の中心は一や薫、ミキといった子供たちの姿です。それではなぜサクラの名前がタイトルになったのか、ということですが、このことはお話のキーポイントとなって最後に明かされます。

犬や猫など動物を飼っている家庭は多いと思いますが、彼らはけして人間と話すことはありません。ただ、じっと家族の様子を見守っているだけかもしれません。しかし、そんな存在が家族の絆を強くすることもあるんだ、ということが実感できる一冊です。

色々と悲劇的なことが連続して起こりますが、最終的にはハッピーエンド。さわやかな気持ちで読了することができます。

『さくら』の魅力についてもっと知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。

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以上、西加奈子をはじめて読む方へ向けたおすすめ作品のご紹介でした。とにかく、この作家の作品はセリフや言い回しなど言葉そのものが魅力的なので、実際に手に取ってみることを強くおすすめします。

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