新たに担任となったのは、なんと史実の織田信長本人だった!? 時空を超えてやってきた、戦国時代を代表する偉人による教育現場の改革具合が面白い作品『ノブナガ先生』を、全巻分ご紹介します。戦国時代の人間ならではの価値観と知識をもって、現代の教育の在り方そのものに食ってかかるさまは、まさに必見です。
過酷な労働環境のなかで高校の教師をしている男・藤倉健一(ふじくら けんいち)は、帰宅途中落雷に打たれ、突如、戦国時代にタイムスリップしてしまいました。
- 著者
- 大和田 秀樹
- 出版日
- 2018-05-19
時代を超えた先にいたのは、なんと誰もが知る歴史上の偉人・織田信長。
現代の知識を駆使して彼の家臣として仕える事になった健一でしたが、ついに信長にとっての運命の日、「本能寺の変」当日を迎えてしまいます。
もはやこれまでかと思われたその時、健一を再び落雷が襲うのでした。
気が付いた時に、彼は現代に戻っていましたが、なんとそこには一緒にタイムスリップしてきてしまった信長の姿があったのです。その流れで健一宅に居候する信長でしたが、現代を知ろうとするなかで、健一が就任している高校で教鞭を取る事を決めたのでした。
あらすじの通り、信長は現代にタイムスリップした後に、高校教師として働くことになります。
当然の事ながら時代が違い過ぎて、彼自身も適応するのに苦労が絶えない……かと思いきや、本作の信長はまったくその点問題ありません。
タイムスリップしてきた彼は、健一の家に居候して暮らす事になるのですが、なんとあらゆる電化製品や文明の利器に対しても特段驚きを見せず、易々と使いこなして見せます。作中でも、テレビを見ながら寛ぎ、ある日突然スマートフォンが欲しいと健一にねだるなど、愉快なほどの順応ぶりです。
その現代への適応の早さには、健一も思わず舌を巻かざるを得ませんでした。
しかしそれだけでなく、信長は戦国時代特有の知識と経験を活かした活躍も見せます。歴史の講義中に教科書には載っていない、当時の戦国時代の人間しか知り得ない知識を語って、生徒達の心を掴むのです。
さらに不良に絡まれた際には、日本刀にて不良生徒を切り伏せて退散させる事になります。しかし、その際も命までは奪わず、腹の皮一枚を切って済ませるなど、スマートな対応を見せるのです。優しいのかどうかわかりませんが……。
その他にも、現代における活躍の様子が随所に盛り込まれており、その度に信長という人物の優秀さを思い知らされるので、とても爽快な魅力に溢れた作品といえるでしょう。
先述したとおり、信長は戦国時代の価値観と知識をもって、現代に適応出来る人物です。そのため本作では、信長が教師に就任してからというもの、随所に歴史的な雑学が散りばめられています。
特に、信長本人しか知り得ない情報や、一般的な彼のイメージとはちょっとかけ離れたその嗜好について語られる点が、面白いといえるでしょう。
たとえば、信長本人が生きていた時代には幕府という言葉そのものがなかったため、彼は幕府を知らなかったり、室町というのは現代で認知されているほどの大きな規模ではなかったりといった、教科書で習うような知識とはちょっと異なる観点からのエピソードが語られていたりします。
こうした、学者が語った知識だけではない諸説から、意外なイメージのものをチョイスしているのも興味深いです。
そして信長本人についても、大の甘いもの好きだったり、身内にはとても寛容な人間であったりと、血も涙もない冷血なイメージとは異なる人物として描かれているあたりも、キャラクターの魅力向上にもつながってよい点といえるでしょう。
全編とおしてギャグテイストで進む本作ではありますが、学園ドラマとして高校で巻き起こる数々の問題に対応することも忘れてはいません。
昔ながらの不良生徒の更生から、インテリな委員長の歴史に関する知識の挑戦を軽くいなすなど、生徒達との対話も欠かさないのです。
さらに、高校で起こり得る問題としてモンスターペアレントの対応や、ソーシャルゲームに課金しすぎて家のお金をつぎ込んでしまったことから自殺しようとしている男子生徒の対応など、気の休まる暇がありません。
そんな数々の学園問題に対し、信長なりのやり方でどう取り組んでいくのかを見届けるのも、本作の重要な楽しみ方であるといえるでしょう。
また、教師としての彼の台詞は、実に含蓄のある名セリフが揃っています。心に残るようなインパクトの強い発言の数々も、人生における教訓と出来るのではないでしょうか。
ここからは、単行本ごとの見所についてネタバレ紹介していきます。
信長が健一のタイムスリップに巻き込まれて現代に飛んできた事から、教師としての「ノブナガ先生」の活躍が始まる第1巻。
インテリ委員長からの歴史に関する質問をいなして尊敬を得たり、女生徒にフラれて不登校になった生徒を脅して投登校させ、荒療治としてフった女生徒との仲を取り持ったりと、滅茶苦茶なようで教師としてしっかりと仕事をしています。
いずれも1話完結型で、すべての話に信長らしい教訓が含まれており、全編見応えがある展開です。
- 著者
- 大和田 秀樹
- 出版日
- 2018-05-19
そんな本巻の見所は、信長が不良生徒の心を掴み、「信長軍団」結成の第1歩を踏み出すエピソード。信長が高校を訪れた際に、彼に絡んだ不良生徒が、再び報復に訪れます。
そんな不良生徒をみねうちで打ち倒した後、それでも衰えない闘志で向かって来ようとする彼らのガッツを、信長は賞賛し認めるのです。
反抗しながら生きてきた不良生徒を真正面から受け止めてくれた寛大さに、彼らは感銘を受け、傍で付き従うようになるのでした。
信長という人物の器の大きさと、カリスマ性をしっかりと感じる事の出来るよいエピソードでしょう。
教師としての職務をとおして、現代にもすっかり馴染んできた信長が暴れまくる第2巻。
本巻でも、いきなりモンスターペアレントをぶちのめしたり、お笑いネタがつまらなかったという理由で生徒を斬り伏せようとしたりと、相変わらずの横暴ぶりを見せます。
一方で、覇王と恐れられたほどの器を余すところなく感じられる台詞を口にするなど、人生を生きるうえでタメになるような発言も節々で描かれており、勢いが衰えません。
- 著者
- 大和田秀樹
- 出版日
- 2018-09-18
そんな本巻の見所は、信長によって語られる、怖い話のエピソードでしょう。
彼自身が語る歴史裏話は本作における魅力の1つでありますが、今回は彼の口から比叡山焼き討ちの後に起こった恐怖の出来事が語られます。
歴史的に重要なイベントについて信長が語るというだけでも魅力的なのに、そこに怪談めいた要素が合わさるという事で、読み手としてもワクワクせずにはいられない、期待感が募る内容となっているのです。
その話の結末については……ぜひ、ご自身にて確認して頂ければと思います。