作り笑いをしてしまう自分に悩んでいる人におすすめの本

更新:2021.12.2

「人の目を気にしない生活」を選んだがゆえに「人の目が異様に気になる」。 「ユニークな人になりたい」けど「常識はずれな人にはなりたくない」。 「普通なんてない」といいながら「平均が気になる」。 変わった人だねと言われることに喜びを感じつつも、その裏の裏まで気になってしまう…自意識過剰を順調に育てて来た筆者が送る、「自分との戦い」ならぬ「自分との痴話喧嘩」に悩むあなたにおすすめの新書、ご紹介します。

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「笑い」は、自分への報酬?

本を紹介するサイトであまりこういうことを言うのもどうかと思うし大きい声でいえることではないが、実はビジネス書が苦手である。

本業とは別で、会った人にその人の印象で自分の読んだ古本を選んで送るというようなサービス(ほぼボランティア)をしているのだけれど、先日そこで会った人が「いやー、僕ドヤ顔してくる本が苦手なんですよねー」とおっしゃっていた。私がその言葉を聞いてパッと思いついてしまったのが、前に無理して読んだビジネス書数冊だった。カテゴリで十把一絡げすることはよいことでないとも思いつつ、「ビジネス書」がそもそも「ビシッと答えを指し示してくれるハウツー」である以上、ドヤ顔の特性はさけられないものだろう。私情をはさみまくると「ビジネス書」には体育の授業にも似た、背筋がぞっとする感じを禁じ得ない本が多いように思う。

その似たジャンルとも思われがちでありながら、好きなのが新書である。本題に入る前に、「ビジネス書」と「新書」の違いを語らせてほしい。

「ビジネス書」は前述した通り、体育の授業のイメージである。筋肉隆々…とまではいかないものの、こころなしか背筋の伸びたジャージ姿の教師が「精神と肉体の健康」を大義名分に振りかざしながら、「綺麗なフォーム」やら「仲間との協力」とを、体に叩き混んでくるアレである。私が会った教師がたまたまそんな人ばかりだったのもあるけれど、どうしてああも彼らは「ドヤ顔」なのだろう。

「新書」は古文や化学の授業のイメージである。「どうせ寝るんだろ」くらいのちょっといじけたテンションの教師陣が、「どうせ聞いてないし」くらいの温度感で教科書を淡々と進める。私も御たぶんにもれず寝てるか、本を読んでいることの方が多かったが、たまに教師が放つ「ウケをねらったのかねらってないのかわからない小ネタ」は面白いなと思いながら聞いていた。そしてその時の「ドヤ顔」ならぬ「奇をてらった顔」いわば「テラ顔」には不遜にも愛くるしさを感じていた。

遠回りしたが、何を伝えたいかというと「新書おすすめです!」ということである。

さらに、内なる欲望の声のままに伝えるなら「新書、なんかかわいい!」というこことである。

そんななかでも、特にとっつきやすい「かわいい」内容の本が『笑い脳 社会脳へのアプローチ』である。

著者
苧阪 直行
出版日
2010-01-29

この本は、表情「笑い」の世界をいろんな実験で明らかにしようというもの。タイトルの「笑い脳」は「笑いを生み出す脳」のことらしい。つまり、「笑うってことをするのは脳のどこの部分のどういう働きなんでしょう」ということである。第1章では「笑いとは何か」(主に笑いの分類と実験の紹介)、第2章では「笑いと報酬系」(主に笑いが体の中でどう作用しているかの紹介)、第3章では「社会脳へのアプローチ」(主に理系的な話と社会学的な話が一緒にできそうという期待的な何か)を語っている。このここちよい「おいてきぼり」感、素敵。
 

ここまでで興味が薄れそうというあなたのために、内容以外の魅力もお伝えしよう。

この本は「新書」なのでさらに言えば「科学ライブラリー」なので「分類するだけ」「事実を述べるだけ」である。「笑顔の作り方」とかをコンコンとお説教してこないし、「いつも笑顔でいるとコミュニケーションが円滑に!」とも言ってこない。めずらしく「健康にいい」とか言い始めたと思ったら以下である。

陽気さが導くポジティブな情動が健康によいことは、すでに述べた。充足感や共感は、笑いによって得ている報酬だと考えることもできる。もし、笑いが報酬系と深くかかわっているとすれば、脳のその領域がこれらと最も深くかかわる「笑い脳」といえるのだろうか?

「陽気さが導くポジティブな情動」。なんて素敵な表現だろうか。小説ではめったにお目にかかれない堅苦しさである。声に出して読みたくなる何かがある。明日からLINEで使ってみたくなったりもする。

笑いの発生要因は「期待とのズレ」、笑いは「自己への報酬として内発的な努力の結果得たもの」とのこと。作り笑いは「社会的な笑い」で、「ヴィーナスやモナリザの微笑」に通ずるものがあるのだという。それから人間の子どもは3〜4才から愛想笑いをするらしい。なんなら猿もするらしい。悩んでいることもこうも分解されると、なんだかわけがわからなくなる。科学は事実によってのみならず、そのまっすぐさが心を救ったりもするんじゃないだろうか。

思い出してみてほしい。体育で心身ともに摩耗させられた後の、生物の授業の心地よいまどろみを。

 

 

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