残念なお姉さんの、自由気ままな鉄道1人旅を描く本作。鉄道ファンにおすすめの作品ですが、のんびりした旅の様子は、誰が読んでも癒されます。 今回は、そんな旅鉄漫画の既刊1、2巻分の魅力と見所をご紹介。スマホアプリで『ぱらのま』を無料で読むこともできるので、お姉さんとともに日本全国をめぐってみてください。
kashmirによる、ゆるゆるな雰囲気が魅力の鉄道旅行漫画、『ぱらのま』。作者の前作『てるみな』は猫耳の小学生女子という主人公、シュールな世界観で根強い人気を集めました。本作は、その世界観を引き継ぎながらも、よりほのぼのした雰囲気を楽しめる作品です。
主人公の謎のお姉さんは、乗りたいと思った鉄道に乗り、行きたいと思った場所に行くという、自由気ままな性格。
彼女は鉄道を中心に交通機関を駆使して、日帰り旅行からちょっと足を延ばした遠方まで、日本全国津々浦々を旅します。特に目的はなく、その途中途中で思いついたことを実行する、のんびりしたものです。
- 著者
- kashmir
- 出版日
- 2017-01-31
彼女は旅のなかで、車窓、駅弁、温泉、さまざまなものに心惹かれます。それでも誰に咎められることもなく、気楽にどこにでも立ち寄れるのが、1人旅の魅力的なところでしょう。
そんな行き当たりばったりともいえる旅が、なんとも楽しそうな『ぱらのま』。目的にも、お金にも、時間にもとらわれない、大人ならではの旅が味わえます。
これまで知らなかった旅の楽しみ方や、新たな土地の魅力にも、気づくことができるかもしれません。
さまざまな観光名所をめぐる旅、お姉さんのマイペースな性格、読めばそのゆるゆるした雰囲気に癒されるはずです。その圧倒的なゆるさが、本作の大きな魅力といえるでしょう。
職業不明、年齢も不明な、ぽやっとしたお姉さんの無計画な小旅行。きっと読者も一緒に、ゆるっと旅行しているかのような気分になれるはずです。
本作では、お姉さんが観光地を巡ったり、美味しいものを食べたり、自然を眺めたり、淡々と旅を満喫します。特に大きなハプニングが起こったり、事件に巻き込まれたりしないことも、この作品の特徴なのです。
ご飯を食べるときには、黙々と食べる。お湯につかれば、ほっと一息つく。「うわあああ美味しい」「ぽかぽか温まる~」などの過剰な感想はありません。きらきら輝いていたり、もうもうと湯気がたっていたりすることもないのです。
すべてあるがままに描かれている様子からは、いたって素朴で落ち着いた印象を受けることでしょう。旅のプロであるお姉さんの目線で進む物語は、 何物にもとらわれることなく、ゆったりとした時間が流れます。
彼女にとって特別なものではなく、なんとなくうどんを食べたくなったり、路面電車に乗りたくなったり、日常の一部分であるかのような軽い思いつきで始まる旅。じんわりと心に沁みわたる癒しがあります。
主人公の謎のお姉さんは、旅館では浴衣がはだけていたり、髪がぼさぼさ気味だったりと何だかしまりがありません。しかし彼女は、1人旅の達人で、鉄道のプロ。そのため、随所に旅の楽しみ方や、実用的な知識がちりばめられています。
さまざまな旅の知識が満載で、お姉さんの知識量に驚かされます。都内の特急事情なんて、彼女にとっては軽いものです。
新宿から乗れる特急は、小田急ロマンスカー、西武の小江戸、成田エクスプレスに東武のスペーシア、中央線のあずさ・かいじなどがあります。そのなかでも小田急は本数が多い、成田エクスプレスは空港まで停まらないといった情報も付随するのです。
見知らぬ土地での公共交通機関利用は、どきどきするもの。同じところを旅する際に覚えておくと便利かもしれません。
実は、彼女のお兄さんも旅に詳しいのですが、このお兄さんも知識を披露してくれます。たとえば、レトロな趣がある路面電車が走っている場所にいきたいなぁ、なんて思っても、その都市を把握している人は、きっと多くないはず。
しかしお兄さんは北海道から九州まで、意外にもたくさん走っている路面電車について軽々と説明し出すのです。札幌市、函館市、広島市、長崎市など、路面電車が走る都市の一覧表は、お姉さんの旅だけではなく、我々読者が情緒ある景色やノスタルジーを楽しむ旅に一役買いそうですね。
本作では、街並みや観光客、グルメや鉄道事情など、すべてがありのままに描かれています。お姉さんの目線の、リアルな世界なのです。
しかし、ごくまれに、知らない世界に迷い込んだような気分になるシーンが登場します。旅の途中で突然訪れるその風変わりなエピソードが、なんとも不思議で、読者はより物語に入り込んでしまうことでしょう。
- 著者
- kashmir
- 出版日
- 2013-03-29
実は作者・kashmirは、不思議な作風で人気を博す漫画家。ファンからいわせてもらえば、本作はこれまでにないほど現実的で、まともなのだそう。実際、前作の『てるみな』は、本作同様に主人公が鉄道で旅をするストーリーですが、幻想的で現実ではありえない奇妙な世界観でした。
それに似た幻想的な世界が、本作でも瞬間的に表れます。ホコホコした楽しい旅の雰囲気から、ひんやりした空気に変わる瞬間に、はっとするはずです。
たとえば1巻のこの場面では、作者の気迫が感じられるような圧巻の背景によって、読者は不思議な雰囲気へと誘われます。細かく、そして力強く描かれる駅舎や森林は、少し怖いような、もっと周りを探検したいような、不思議な魅力にあふれているのです。
時折お姉さんが訪れる幻想的な世界は、ゆるい物語のなかでよいアクセントになっています。そのアクセントのおかげもあって、大きな事件が起きない展開にも関わらず、飽きることなくずっと読んでいられるのでしょう。ほのぼの展開だけでなく、作品をとおした雰囲気の変化にも、ぜひ注目してみてください。
無計画な鉄道小旅行をするのが生きがいの、職業不明、年齢不詳の謎のお姉さん。お金も時間も関係なく、いつでも素直にやりたいことを求めます。
1巻では、都内の百貨店で駅弁を購入したことから、行き当たりばったりな旅が始まるのでした。
お姉さんは、百貨店でお目当ての駅弁を購入。さっそく食べたいところではありますが、やっぱり駅弁は車窓を見ながら食べたいものです。
そこで彼女は、とにかくなんでもいいから、特急に乗ってしまおうと考えたのでした。
- 著者
- kashmir
- 出版日
- 2017-01-31
駅弁を食べるためだけに乗った特急・かいじ。そこには、通勤や遊びなど、目的があって乗車している人々ばかり。普通なら背徳を感じそうななかでいただく、その駅弁の味とは……?
そしてお姉さんは、車窓からふと富士山を見たことで、近くまで行ってみたいという気持ちが芽生えます。富士山方面の電車内には海外からの観光客が大勢いるので、家からそんなに離れてもいないのにすっかり旅気分です。
富士山の近くでまた駅弁を食べ、博物館に行き、日帰り入浴をし、しっかり堪能して満足したお姉さん。
そして旅の帰路、見知らぬ路線にたどり着くのでした。彼女は、その路線に止まっている暗い電車に興味を抱き、乗ってみようとします。その先には一体何が待っているのでしょうか。また、駅弁を食べたかっただけの小旅行は、いつまで続くのでしょうか。
行き当たりばったりで残念なお姉さんですが、駅弁に対するこだわり、鉄道の知識は大したもの。何より、ちょっとした思いつきで日常をハッピーにすることができるのだ、ということを教えてくれるのが魅力的です。
ゆるっと旅鉄漫画の第1巻は、お姉さんと同じようなゆったりした気分で堪能できるでしょう。
くだらないけど、なんだか自分もやってみたくなる。そんな小旅行漫画の第2巻。
いつも無計画旅行を楽しむお姉さんが、今度は五芒星を描く旅を思いつきます。そのきっかけも、方法も想像がつきませんが、旅のプロはどうやって五芒星を描くのでしょうか。
ぱらのま 2
2018年09月28日
ざっくばらんな性格のお姉さんは、亀戸天神に少し遅めの初詣にやって来ました。そこでも、あっちも見てみよう、こっちも行ってみようと、いつものようにウロウロ。
そして気づきます。スマホの地図上で見ると、自分が一直線の軌道を描いていることに。スマホの電源を落としていたことにより、自宅から亀戸天神までの履歴がばっさり途切れていたのです。
翌日、お姉さんは地図上で東京都に五芒星を描く旅に出るのでした。目的地に来たら電源をON、そして電源をOFF、次の目的地へ……。その工程をくり返し、地点と地点をつないで記号を描こうとしたのです。
彼女しか思いつかないような、斬新な楽しみ方です。しかも、ただ記号を完成させるだけではなく、旅の雰囲気を出すため、できるだけ神社やお寺がある地点を目的地に定めます。
一見くだらないことに思えますが、自分でルールを決めて旅をするというのも一興です。それが、いつもとは違った旅を演出してくれるかもしれません。それにしても、本当に五芒星は完成するのでしょうか。そして、その目的は何なのでしょうか。
旅のむずかしさと、新たな面白さを教えてくれる第2巻。また本巻では、メガネの友人も登場します。お姉さんのちょっと違う一面も見ることが出来るので、そこも楽しんでくださいね。
おすすめの電車漫画を紹介した<電車漫画おすすめ5選!男女もオタも関係なく楽しめる心の物語>の記事もおすすめです。
無計画ですが行動力にあふれるお姉さんが、旅の知識や面白さを伝授してくれる『ぱらのま』。読めば、鉄道、バス、徒歩、あらゆる手段でのんびり旅を堪能したくなるでしょう。本作を旅のおともに加えるのも、おすすめです。