最初から最後まで主人公の気持ちになれる
村上春樹さんの作品は今までなんとなく難しそうで読んでいませんでしたが、この作品を読んでがらっとイメージが変わり、村上春樹さんの作品が大好きになりました。
主人公の多崎つくるはある出来事で彼の中で何かが変わり、まるで別の人間になってしまいます。この本では彼の繊細な心の動きと別の人間になっていく過程が細かく描写されています。人はその人にとっての大切な何かが奪われてしまったら、その人の内面に空洞ができて、考え方が変わって、顔つきも変わり、その人でありながら、もはや別人になってしまうことがあるのだと思います。なぜ人と人は別れが付き物なのか……最初から最後まで主人公の気持ちになってどんどん読み進められます。
夜の闇と人間の関係
『ねむり』はちょっと長めの短編小説です。主人公の女性は、ある日急に眠らなくても大丈夫、というより、眠れない人間になって、連続17日間起き続けるという生活を送ります。眠らなくても意識が朦朧とするわけでもなく、むしろ覚醒し続けます。彼女は夜中、人々が眠りについている間、人知れず本の世界に浸ったり、ドライブに出かけたり、そんなことをして過ごしているうちに、だんだん自分の朝から夜までの日常生活、“現実”としてきたものが機械的でただの繰り返しだと思うようになり、夜の世界を本当の“現実”として生きるようになります。夜の闇と人間の関係について考えさせられるとっても興味深い作品です。