恋愛の「普通」ってなんぞや?『太陽と毒ぐも』

更新:2018.12.25 作成:2018.12.25

ところで、普通の恋愛って何ですかね?平均値の顔・年収を持つ相手と、基本的には楽しく、時々ケンカしながら、日々を穏やかに過ごすことですか?ってか、それってもう普通じゃなくて、大成功の恋愛だよね!?ってここ数年で気づいた、アラサーに片足を突っ込んだ筆者です。 なんで普通の恋愛ができないのだろう。私のパートナーって変だよね。そう思ってる、そこのあなた。とりあえず、角田光代の『太陽と毒ぐも』を読みましょう。

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普通の恋愛とは、なんぞや。

 

ここ数年で何回もくり返し、自問自答してきた問いです。

安定した収入のある仲のよい両親の下で育った私は、普通に生活していたら、普通の見た目で、普通に収入のある彼氏と、普通で穏やかな、普通の家庭を築くと思っていました。

でも実際の私は、メンヘラホイホイを自称してしまうほど、メンヘラ男子を引きつけてしまう性質。気分の上がり下がりが激しい彼氏、急激な勢いで痩せ始める彼氏、「死にたい」と言い出す彼氏に振り回され、本来メンヘラ気質である私もつられてグロッキーに。

こうして、カップルそろって見事にメンタルがヘラヘラしたところで、別れの季節がやってくるのでした。

 

著者
角田 光代
出版日
2007-06-01

 

このルーティーンが一周する時、必ず思うのが「普通の恋愛、したいなぁ」ということ。でも、そもそも普通の恋愛ってなんぞや?普通って何?そんなもの、存在するんですか?

そんな、私のように、恋愛においての普通の壁にブチ当たった人にぜひ読んでいただきたいのが、角田光代の『太陽と毒ぐも』です。

本作は、11編の作品からなる短編集。11組のカップルについて書かれた、ラブストーリーとなっています。

 

きっと、あなたの傍にもいるであろうカップルたち

 

本作に登場するのは、飯ではなくスナック菓子ばかり食す彼女、万引き癖のある彼女、ジャイアンツを愛しすぎる彼氏と、絶妙にいそうな人物ばかり。そして、そんな一癖も二癖もあるパートナーに振り回されるお相手たち……。

本作に収録されている「雨と爪」では、異常なまでに迷信深い彼女が登場します。この彼女、消しゴムに好きな人の名前を書いて、誰にも見られずに使い切ったら両想いになれるっ♡なんて可愛いものを信じているわけではありません。

たとえば、夜に爪を切ると親が早く死ぬ、という迷信を聞いたことはありませんか?このことに関して、本作ではこのようなやり取りがあります。

親が死ぬのよ、とある日、ハルっぴは言ったんだった。
ここへ引っ越してきたばかりの雨の夜だ。
テレビを見ながら足の爪を切ろうとしたおれから爪切りをとりあげて、
夜に爪を切ると親が死ぬから爪切りはいけない、と重々しく告げたのだ。
(『太陽と毒ぐも』より引用)

信じられないくらいの、マジトーン。その他にも、葬式がないのに喪服を買うと身近な人が死ぬ、味噌を減らすと家の運気が傾く、夜に笛を吹くと蛇が出るなど、聞いたことがあるものからないものまで、ありとあらゆる迷信を信じ込んでいるのです。

そもそも都内なのに、蛇って出る?夜に笛を吹く機会なんてあるの?

 

私たちの中にある「普通」は、幻想

一見世間からズレているように見える、本作の登場人物たち。彼らは、俗にいう「普通」から外れてしまっている人たちでしょう。

でも、周りから見た彼らが普通じゃなくても、彼らから見た彼ら自身は?きっと、自分は変わっている、周りとズレている、という認識は、あまりないはずです。

本作に収録されている「サバイバル」に登場するキタハラスマコは、あまり、というか、かなり風呂に入らない女性。砂浜で寝っ転がった日も平気で風呂に入らず、なんだったら、そのまま数日入らずに過ごします。

そのことを彼氏から指摘されても真に受けず、彼女は笑い飛ばしてしまうのです。そう、自分が変だと思っていないから。

著者
角田 光代
出版日
2007-06-01

 

ここで、最初の話に戻ります。「普通ってなんぞや」。

結論からいうと、「普通」とは幻想である、と筆者は考えます。

普通というものには、基準がありません。「普通だったらこうだったのに」「普通はこういうものだよね」「なんで自分を取り巻く環境は普通じゃないんだろう」……つまり「普通」とは幻想、こうありたいという理想であるといえるのです。

 

『太陽と毒ぐも』に登場する人物たちは多少変わり者ではあるものの、みんな自分なりに、普通に生きています。そして、そんな彼らのパートナーたちは、自分なりの「普通」を外れた相手に対し、大いに戸惑うのです。

恋愛に「普通」なんてものは存在しない。まさに、そのことを気づかせてくれる一冊です。自分の恋愛が普通でないことを嘆いていた人にとっては、勇気をもらえる作品となっているでしょう。恋愛にはさまざまな形があってよいのだと、そういった多様性を感じさせてもらえるのではないでしょうか。

だから、メンヘラしか寄ってこない私の恋愛も、これでよいのですね?誰か、そうだと言ってください。

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