「江戸川乱歩賞」の受賞作おすすめ10選!傑作のミステリー小説を厳選

更新:2019.2.5 作成:2019.2.5

推理小説作家の登竜門として知られる「江戸川乱歩賞」。受賞者の一覧には名だたる作家が並んでいます。そんな「江戸川乱歩賞」のなかから特におすすめしたい作品を厳選してご紹介します。

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「江戸川乱歩賞」とは

 

1954年、江戸川乱歩の寄付をもとにして「日本探偵作家クラブ(現:日本推理作家協会)」が探偵小説を応援するために生まれたのが「江戸川乱歩賞」です。

第1回は、中島河太郎の推理小説評論集『探偵小説辞典』が、第2回は、ハヤカワ・ポケット・ミステリの実績を奨励して「早川書房」が受賞しました。

第3回からは、長編小説を公募して優秀作品に賞を与えるという形に変更し、今では推理小説作家の登竜門として知られています。

講談社とフジテレビが後援し、受賞作品は講談社が発行、フジテレビが映像化の権利を取得。そのため副賞の賞金が1000万円と高額です。

歴代の受賞者には、今回ご紹介する作者以外に、西村京太郎や斎藤栄、森村誠一、栗本薫、真保裕一などそうそうたる面々が並び、多くの作家が受賞後も活躍しているとわかるでしょう。

「江戸川乱歩賞」を受賞した「仁木兄妹」シリーズ1作目『猫は知っていた』

 

1957年に受賞した仁木悦子の作品です。植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子という推理マニアの凸凹コンビが活躍する「仁木兄妹」シリーズの1作目。本書では、下宿先の箱崎医院で起こる連続殺人事件を、素人探偵の2人が推理していきます。

兄の雄太郎がホームズ役、妹の悦子がワトソン役としてストーリーは展開し、コミカルな描写のなかで謎やトリックが鮮やかに解決していくさまは、まさに探偵小説の王道だといえるでしょう。

著者
仁木 悦子
出版日
2010-03-08

 

作者の仁木悦子は、幼児期に発症した病気で歩行不能となり、寝たきりのまま学校にも行くことができなかったそう。終戦後に童話を書き始め、その後推理小説に興味をもち、執筆を始めたんだとか。「江戸川乱歩賞」が公募になってから初めての受賞者だったこと、そしてこの境遇も相まって注目されました。

本書は全体的に明るいトーンで展開して読みやすく、それでいてトリックや謎は本格的なもの。初版が発表されたのは50年以上前ですが、スタンダードなストーリーや兄妹の豊かなキャラクター性などは、いつ読んでも色あせません。

伝説となった青春ミステリー、「江戸川乱歩賞」受賞作『アルキメデスは手を汚さない』

 

1973年に受賞した小峰元の作品です。

とある高校で、盲腸手術の失敗で死んだとされている女子高生が、実は妊娠していて中絶手術の失敗で死んだという噂が流れます。やがて彼女が気にしていたというクラスメイトが教室内で毒殺未遂で倒れ、さらには行方不明者まで……。

女子高生を妊娠させたのは誰なのか、そして彼女が死の直前につぶやいたという「アルキメデス」という言葉は何を意味するのか……。学校を舞台にした青春ミステリーです。

著者
小峰 元
出版日
2006-09-16

 

青春推理小説のまさに先駆け的作品で、東野圭吾も自身のエッセイなどで本作に影響を受けたと語っているほど。執筆された当時は女子高生の性体験率が4%未満だったそうで、ショッキングな題材だったことがうかがえます。

一見関係のない別々の出来事が、謎が解けていくにしたがってひとつに収束していくさまは爽快。また登場人物たちの、高校生ならではの幼さや青臭さも魅力です。

実在した東洲斎写楽の謎に迫るミステリー『写楽殺人事件』

 

1983年に「江戸川乱歩賞」を受賞した、高橋克彦の作品です。

主人公の津田は、浮世絵の研究者。ある日古書市で手に入れた古い写真図録から、伝説の浮世絵師といわれつつも出自や経歴が謎に包まれている、写楽の正体に繋がる文言を見つけます。

写楽に関する津田の新説は、彼の恩師である西島教授の名前で発表されることになったのですが、その直前に西島は自宅が焼けて死んでしまいました。さらに、浮世絵愛好会の会長であり津田の恩師でもある人物も遺体で発見され……。

著者
高橋 克彦
出版日
1986-07-08

 

東洲斎写楽は、江戸時代中期のわずか10ヶ月間に140点ほどの作品を残し、忽然と姿を消した実在する浮世絵師です。その正体については諸説ありますが、さまざまな研究がなされているにも関わらず、いまだ明らかになっていません。

作者の高橋は浮世絵の研究者でもあり、かなりの造形の深さ。作中で語られるうんちくで、浮世絵にも詳しくなってしまいます。

本書は写楽の謎を追う歴史ミステリーの側面がある一方で、主人公の周りで起きる殺人の謎も提示される二重構造になっていて、その構成力の高さが物語に厚みを与えています。

「江戸川乱歩賞」を受賞した東野圭吾のデビュー小説『放課後』

 

1985年に受賞した東野圭吾のデビュー作です。

県内でもトップクラスの進学校である、私立清華女子高等学校で起こる連続密室殺人事件。犯人は誰なのか、その動機は何なのか……。

命を狙われる教師、頭脳明晰の美少女、停学中の問題児、自殺未遂をした少女……と個性豊かな登場人物たちが、高校という閉鎖空間で起きる事件に巻き込まれていきます。

著者
東野 圭吾
出版日
1988-07-07

 

思春期真っ只中の少女の、心の機微を描いた青春ミステリーの傑作ともいえる作品です。人間の感情に焦点を置いているからこそ、ヒリヒリとした緊張感を保ったまま最後まで読み進めることができるのです。

トリックには無理がなく、ミステリーファンも満足できるはず。作中で明かされる犯人の動機についても登場人物の特徴をよくとらえています。

東野圭吾ファンでなくても、読んでおいて損はありません。

「江戸川乱歩賞」と「直木賞」のダブル受賞作『テロリストのパラソル』

 

1995年に受賞した藤原伊織の作品です。「直木賞」も受賞し、「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」で6位にランクインした屈指の名作だといえるでしょう。

主人公の島村は、アル中のバーテンダー。20年前の事件をきっかけに名前を変え、ひっそりと暮らしています。ある日いつものように公園でウイスキーを飲んでいると、突然爆発音が響きました。

島村は爆発事件の死傷者のなかに、かつて学生運動で事件を起こした同士や、一時は恋人だった女性が含まれていることを知ります。そして、現場に置きっぱなしにしてしまったウイスキーの瓶から島村の指紋が割り出され、彼は事件の参考人として疑いをかけられることになるのです。

自身の身の潔白を証明するため、犯人を見つけようと独自に動き始めることになりました。

著者
藤原 伊織
出版日
2007-05-24

 

重い過去を背負いながらもどこか飄々としていて、傷つきながらも真相へと近づいていく島村が魅力的です。物語の序盤ではほとんどホームレスのようなアル中男だったのに、ストーリーが進むにつれて、本来の頭の良さを発揮し、最悪な状況から立ち上がっていくさまにページをめくる手が止まりません。

ハードボイルドななかに、どこか浪花節が漂っているのも日本の作品ならではでしょう。

作者の藤原伊織の短編集『雪が降る』にも、島村が活躍する話が収録されています。ロートル感あふれるダメ男な主人公のかっこよさにノックアウトされた方は、そちらも読んでみてください。

池井戸潤の「江戸川乱歩賞」受賞作『果つる底なき』

 

1998年に受賞した池井戸潤のデビュー作です。池井戸は元銀行員で、自身の経験をいかして金融界や経済界を舞台にした作品を多く発表している人物。「江戸川乱歩賞」の受賞作は必ず読んでいたそうで、本作で見事受賞し作家デビューをしました。

「これは貸しだからな」という言葉を残して亡くなった同僚、坂本の死後の業務を兼務することになった銀行員の伊木。坂本の死因はアナフィラキシー・ショックだったのですが、彼が顧客の口座から金を引き出し、自分の口座に不正送金をしていた疑いが出てきました……。

著者
池井戸 潤
出版日
2001-06-15

 

伊木は坂本の無実を信じ、生前の彼の行動を調べ始めます。やがて真相に近づきつつある伊木に妨害の手が忍び寄り、新たな事件が起こります。

坂本は本当にアナフィラキシー・ショックで死んだのか、殺されたとしたら犯人は誰なのか……一銀行員である伊木がひとりで謎に立ち向かっていく過程は、ハラハラの連続です。

銀行内部の勢力争いや業界内の競争など、サスペンスとともに人間関係の波も楽しめる一冊でしょう。

20年前の誘拐事件の真相を暴け『翳りゆく夏』

 

2003年に「江戸川乱歩賞」を受賞した赤井三尋の作品です。2015年にテレビドラマ化もされました。

20年前、神奈川県のある病院で、新生児が誘拐される事件が起こりました。犯人だと目星をつけられていた男は車で崖から転落。誘拐された新生児も見つからず、いつしかこの事件は世間の記憶から失われていきます。

ところが20年経ち、誘拐犯の娘が新聞社に内定した、というスクープ記事が週刊誌の紙面に載ったことで事態が動いていきます。新聞社の社長は思うところがあり、記事が出たことで就職を辞退しようとする当人を就職させようと説得。一方で主人公の梶は、誘拐事件の再調査を命じられるのです。

著者
赤井 三尋
出版日
2006-08-12

 

スピーディーな展開と、そもそも物語がどのような形で決着されるのかという先の読めなさも相まって、ぐいぐいと読み進めることができます。

真相を追いかける梶はもともと社会部の記者でしたが、とある事件をきっかけに窓際に追いやられていました。そんな彼が久しぶりに記者としての勘を働かせ、事件の唯一の目撃者である当時5歳の少女の証言をきっかけに、矛盾をひとつずつ潰していくさまは圧巻です。

複数の人生が交錯した複雑な事件。すべての真相が明らかになるまで気が抜けません。

死刑をテーマに人間を描く「江戸川乱歩賞」受賞作『13階段』

 

2001年に受賞した高野和明のデビュー作です。

傷害致死で2年間服役し、保護観察で仮出所が許された三上純一。彼のもとに顔見知りの刑務官、南郷がやってきて、ある仕事を手伝ってくれないかと持ち掛けます。その内容は、樹原という死刑囚の無実を3ヶ月で証明すること。

樹原は殺害現場から逃走中にバイク事故を起こしたとされているのですが、事故の後遺症で事件の記憶がないというのです。死刑執行の手続きまで、タイムリミットは3ヶ月。三上と南郷は、まだ見つかっていない凶器や、樹原がわずかに覚えている「どこかの階段を昇った」という言葉を頼りに、調査を始めます。

著者
高野 和明
出版日
2004-08-10

 

殺人を犯してしまった青年と定年直前の刑務官というコンビが、記憶喪失の男の無実を証明するために調査をするという設定が目を引きます。3ヶ月というタイムリミットが設定されていることも物語を盛り上げているでしょう。少しずつ真実が明らかになっていく過程と、果たして間に合うのかという緊張感がたまりません。

タイトルにもなっている「13階段」とは、処刑台への段数を表したもの。死刑と同異語として使われています。真犯人はいったい誰なのか、最後まで目が離せない一冊です。

少年犯罪に真正面から挑んだ傑作『天使のナイフ』

 

2005年に「江戸川乱歩賞」を受賞した薬丸岳の作品。予備選考からほぼ独走状態で受賞が決定したそうです。

主人公桧山の妻は、4年前、生後5ヶ月の娘の目の前で殺されました。彼らはその年齢から刑事責任を問われることなく、少年法で保護の対象となったのです。

それから4年後、妻の忘れ形見である娘を育てながらコーヒーショップを経営していた桧山のもとに、刑事が現れました。妻を殺した少年のうちのひとりが殺されたそうで、桧山が容疑者になっているというのです。

やがて別の少年も殺され、警察も世間も桧山への疑いを強めていくなか、身に覚えのない彼は独自に事件の真相を探っていきます。

著者
薬丸 岳
出版日
2008-08-12

 

少年犯罪や少年法を被害者の側から扱った作品です。4年前の事件当時、桧山はしつこいマスコミの取材に対し、「国家が罰を与えないなら自分の手で犯人を殺してやりたい」と発言していたことから容疑者として疑いをかけられています。法律の問題点や抜け道をうまく突いた犯罪に、読者も考えさせられるでしょう。

「更生」とは何なのか、そもそもなぜ桧山の妻は殺されたのか……最後の最後まで二転三転するストーリーで、どんでん返し好きの人にもおすすめです。

暗闇のなかで真実を探る、下村敦史の「江戸川乱歩賞」受賞作『闇に香る嘘』

 

2014年に受賞した下村敦史の作品。下村は「江戸川乱歩賞」に9年連続で応募し、最終選考に4度残り、本作で満を持しての受賞だったそうです。

主人公の村上和久は、戦中戦後の食糧難による栄養不足が原因で盲目となった、69歳の男性。腎臓の病気で闘病を続けている孫に自分の腎臓を移植できないかと、検査を受けることにしました。

残念ながら適合しなかったため、中国残留孤児として日本に帰国した兄に、移植の相談をするのです。しかし兄の態度は予想以上に頑なで、和久は、もしかして彼は自分の本当の兄ではないのではないかと疑い始めます。

著者
下村 敦史
出版日
2016-08-11

 

中途失明の和久の視点で描かれているため、ほぼ全編にわたって暗闇のなかでストーリーが展開していきます。何も見えないなかで感じる不安や、目の前の人間が何をしているのかわからないという恐怖が、緊張感をもって読者に迫ってくるのが魅力でしょう。

そもそも和久は中国残留孤児として帰国した兄の顔も見ていません。そんななか、本物の兄を名乗る電話がかかってきて、さらに不気味な内容の点字の俳句も届くように。盲目というハンデを負いながら、もがいていきます。

中国残留孤児という社会問題も描きながら 、兄の正体を探っていく一冊です。