5分でわかる優生保護法。なぜ今注目されているのか、成立した背景なども解説

更新:2019.1.10

宮城県に住む女性が仙台地裁に訴えを起こしたことで、大きな話題となった「優生保護法」。この記事ではあらためてどのような法律なのかを説明し、成立した背景や、改組された「母体保護法」などについても解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。

ブックカルテ リンク

「優生保護法」はどんな法律?

 

1948年に制定された「優生保護法」。1996年に「母体保護法」と名をあらためるまで運用されていました。

目的は「優生学にもとづいて不良な子孫の出生を防止すること」「母体の生命健康を保護すること」で、「優生手術」と「人工妊娠中絶」を合法としています。

2018年には、「優生手術」をめぐる問題が話題となりました。身体障害者に対しては本人と配偶者の同意を得たうえで、精神障害者や知的障害者に対しては本人の同意がなくても、都道府県の審査を受けたうえで医師が手術をすることができると定められていたのです。

1949年から1994年にかけて、本人の同意がないまま優生手術を受けた人は全国で1万6475人にのぼるといわれています。

「母体保護法」に改正されてからは「不妊手術」と言い換えられましたが、当時はただ妊娠をしないようにするだけでなく、優生学にのっとって妊娠をしないようにしていたためこう呼ばれていました。

そもそも優生学は、1883年にイギリスの人類学者フランシス・ゴルトンが提唱した学問です。「生物の遺伝構造を改良することで、人類の進歩を促そうとする科学的社会改良運動」と定義されています。

ゴルトンは、「知的に優秀な人間を創造すること」や「社会的な人的資源を保護すること」などの目的を掲げ、産児制限・人種改良・遺伝子操作などを提案しました。当時この考え方は、世界各地の知識人層に支持されたそうです。しかし、ナチスによる人種差別やジェノサイドに影響を与えたとして1990年代後半から急速に衰退していきました。

「優生保護法」が成立した背景は

 

もともと日本では、「中絶」という行為がタブーとはされていませんでした。さらに戦後の混乱期になると、過剰人口や治安の悪化、強姦などによる望まない妊娠の増加などが社会問題となります。

そんななか、日本社会党の福田昌子や加藤シヅエなどの革新系議員らは、母体保護の観点から多産による女性への負担を憂慮し、母体の死の危険もある流産の恐れがあると判断された時点で中絶することを合法化するよう求めたのです。

優生保護法に「障害者に対する優生手術」が盛り込まれた背景には、知的障害者や精神障害者が親族などの把握していないところで妊娠する場合があること、他者に性的暴行をしてしまっても責任能力がなく無罪となる場合が多いことなどが挙げられます。

親族が金銭的にも精神的にも大きな負担を被ることが多いため、子育て能力がない、もしくは法的責任を負えないと判断される場合の中絶や不妊手術を合法化してほしいと、障害者の親族から要請が出されたそうです。

「優生保護法」から「母体保護法」へ。何が変わった?

 

高度経済成長期を迎えると、経済団体らが、将来の労働力確保の観点から中絶の抑制を主張しはじめます。さらにカトリック教会など宗教団体からも、中絶の禁止を求める声があがるようになりました。

その一方で、羊水診断の技術が発展し、胎児の障害の有無を早期に診断することができるようになります。日本医師会は、障害をもつ胎児の中絶の合法化を提言しました。反対派と賛成派による議論がおこなわれたものの、法改正にはいたりませんでした。

「母体保護法」へと改組されたのは、1996年のことです。優生学的思想にもとづいて規定されていた条項は削除され、「優生手術」という言葉は「不妊手術」に変更されました。

優生手術の適否を審査していた都道府県の優生保護審査会も廃止されています。2019年現在の不妊手術は、本人および配偶者の同意を得たうえで実施できるとあらためられています。

「優生保護法」はなぜ今注目されている?

 

2018年、宮城県に住む60代の女性が、「同意のないまま優生手術を受けさせられたことは個人の尊厳や自己決定権を保障する憲法に違反する」と仙台地裁に訴えを起こしました。

この女性は1963年に軽度の知的障害と診断され、16歳の時に不妊手術を受けたそう。その後、子どもを産めないことが原因で離婚を経験し、国に情報の開示を求めました。手術の理由が記してある書類などは見つかっていませんが、手術の必要性を認めた「判定書」が存在することから、事実の立証をする方針です。

このほかにも、75歳の男性が中学生時に理由を告げられないまま不妊手術を受けさせられたとして、東京地裁で国賠訴訟を起こしています。

近年まで優生手術がおこなわれていたこと、手術を受けた半数以上が当時未成年だったことなどが報道され、大きな衝撃を与えました。

当事者の証言が記された一冊

著者
出版日
2018-03-01

 

優生保護法に関する問題に長年取り組んできたグループがまとめた、活動の記録と提言です。

法律が改正されたとしても、子どもをもつ権利を奪われた人々の苦しみが消えることはありません。本書には、実際に強制不妊手術を受けた人の証言が多く掲載されています。

ほかでもない日本でおこなわれていた事実として知ることはもちろん、この問題がなぜ長年放置されてしまったのかを考えるよいきっかけになるでしょう。

「優生保護法」とナチスと日本のこれから

著者
["米本 昌平", "ぬで島 次郎", "松原 洋子", "市野川 容孝"]
出版日
2000-07-19

 

優生学というと、ナチスを連想する人が多いのではないでしょうか。しかし、自分の子どもには優秀であってほしいという考えは、多かれ少なかれ誰しもが抱く普通の感情です。

本書では、優生学の成り立ちと、ヨーロッパと日本でどのようにして優性思想が育まれていったのかが丁寧に記されています。

またナチスの優性思想を批判する一方で、出生前診断や、遺伝子情報による医療の発達など、「優秀でありたい」という欲望は現代のほうがよりいっそう高まっていると危険性を指摘。戦後日本の内実と、未来の視座を示す一冊です。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る