2018年8月9日、『究極超人あ~る』の最新刊が発売されました。前巻の第9巻が発売されたのは1987年9月15日。なんと、30年(+1年)ぶりの新刊です。第9巻で完結したと考えられていた光画部のストーリーは、実はまだ続いていたのでした。 本稿では、そんな30年以上現役で愛され続ける、近来稀れなる作品に触れてみましょう。
「週刊少年サンデー」(小学館)で1985年から1987年に連載されていた、一風変わったコメディ漫画。それが『究極超人あ~る』です。
特に突出した特徴もない普通の私立高校「春風高校」の、かなり突出した個性の持ち主が集まる「光画部」を中心に展開される日常コメディ。
1980年代まで、漫画の舞台となるクラブといえば、大抵が運動部でした。文化系のクラブに集う風変わりな人物たちを肯定的に描く漫画は、おそらく本作が初めてだったのではないでしょうか。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
- 2018-11-12
本作は1987年に「週刊少年サンデー」での連載が終了し、そこで完結した……はずでしたが、21世紀になってからたびたび読み切り作品が描かれて単行本一冊分の量になり、それがまとめられて、とうとう最新10巻が発売となりました。
しかし、10巻だけはビッグスピリッツコミックススペシャルとして発売され、これまでの単行本とは判型が違ってしまっています。
そこで、この機会に1巻から9巻も刷新されて、同じ判型で発売されました。これらが5冊ずつ組まれて、描き下ろしやラバーストラップなどの特典つきの「完全版BOX」1および2としても発売され、「あ~る」ファンには大きなプレゼントとなったのです。
本作には、これといったストーリーはありません。ありふれた普通の高校を舞台に、普通からはみ出した人たちが高校の3年間という輝かしい時代を、それなりに懸命に、深い意味もなく、しかし楽しく謳歌するさまが描かれています。
主人公はアンドロイドのR・田中一郎。時折、すぐれた運動能力を見せることもありますが、実は特に人間よりも秀でたところはありません。何ごとにおいても「人並み」の性能です。
Rはアンドロイドで、自分の電源でごはんを炊いて食べ、それをエネルギー源としています。制服がない学校でいつも黒い詰襟の学生服を着て、下駄をはいています。
1学期の最終日に転校してきて、ほかの生徒と同様に授業を受けて、学生として生活していくのです。それは1980年代半ばのできごととしては驚くべきことのはずですが、作中の人物でそれにびっくりしている人は1人もいません。むしろ、それだけの異端でありながら、Rは彼らのなかでは影が薄い存在なのです。
それは光画部員をはじめ、Rを取り巻く人々が、自律行動するアンドロイドよりも非日常的というか非常識な存在であるということが原因でしょう。非常識な人たちが巻き起こす非常識なできごとが連なる『究極超人あ~る』という作品は、21世紀でもまだまだ楽しまれていくはずです。
1980年にデビューした漫画家。デビュー作は「月刊OUT」(みのり書房)に掲載された『ざ・ライバル』。当時、爆発的人気を誇ったTVアニメーション『機動戦士ガンダム』のパロディ漫画です。
しばらくはデビュー作のようなアニパロ(アニメーションのパロディ漫画)を会社勤めをしながら描いていましたが、1982年に会社を退職し、専業漫画家となりました。同じ年にアニパロではなくオリジナルの漫画『マジカルルシィ』を発表。この頃に出渕裕と出会い、『機動警察パトレイバー』の原型が生まれます。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
1984年から「週刊少年サンデー」での活動を始め、1985年から『究極超人あ~る』の連載を開始。その後続けて『機動警察パトレイバー』、『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』と人気連載が続きます。
同誌での活躍は17年続きましたが2003年から青年誌へと活動の場を移し、「週刊ヤングサンデー」で『鉄腕バーディー』の連載を開始しました。しかし連載中に同誌が休刊したため「週刊ビッグコミックスピリッツ」に移籍し、同作を『鉄腕バーディーEVOLUTION』と改題して完結まで連載。完結まで10年、全部で33巻という、ゆうき作品最長作となったのです。
その後も青年誌での活動は続き、『白暮のクロニクル』、『でぃす×こみ』など、安定したクオリティの作品を世に出してきました。続く『新九郎、奔る!』は、のちに北条早雲と呼ばれることになる伊勢新九郎の物語。ゆうき作品初の、本格歴史ものです。長く読まれる作品となることが期待されます。
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- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
- 2018-08-09
春風高校は平凡な私立高校。しかし、今ではめずらしい「光画部」というクラブがあります。これは古い呼び名で、いまの言葉でいうと「写真部」です。
夏休み前には毎年、宇南山のやしゃヶ池周辺に撮影旅行に出掛けます。部員の大戸島さんご(2年生)は、やしゃヶ池の中から自転車に乗った男子学生が、ザバッと波を立てて現れるところに遭遇しました。
その男子学生こそが、さんごのクラスに来る予定でいながらなかなか来ない転校生、R・田中一郎その人だったのです。彼は制服がない春風高校の生徒でありながら常に詰襟の学生服を着ていて、それなのにいつも下駄ばきです。
奇行が目立ち、ときどき首が真後ろに向いたりするへんてこな彼は、実はロボット……ではなく、アンドロイドだったのでした。
変わり者好きの光画部OB・たわば先輩はその事実を知り、ほかの運動部に手を出されないうちに早々とRを光画部に入れてしまいました。
写真撮影以外の活動も活発な奇人揃いの光画部と、浮き世離れしたアンドロイドのR。奇妙なバランスで釣り合いながら和していく二者ですが、Rは世界征服を企むさる科学者の手で生み出されたのだ、と刑事が彼をつけ狙います。果たして真相は?
「お…おまえ……ロボットだったのかっ‼ 」
「う……ち……ちがうよ。」
「なーにがちがう? 」
「アンドロイドだよ。 」
「同じだ、バカ者!」
(『究極超人あ~る』1巻から引用)
単行本第1巻「Rの正体の巻」より。Rがこだわるポイントです。「ロボット」とは、現在では「人の代わりに何らかの作業を自律的におこなう機械」を指す科学用語。
一方、「アンドロイド」とは、直訳すると「人造人間」、人に似せて作られたものを指す言葉です。「人型ロボット」と言い換えても構わないでしょう。こちらはSF用語です。「ロボット」と「アンドロイド」は、用いられるジャンルが違う言葉なのです。
Rのこだわりを察するに、自分は科学ではなくSFの世界の存在であり、ただの機械ではなく人型の、人間にきわめて近い姿につくられたものである、ということを強調したかったのではないでしょうか。しかし、たわば先輩は「同じだ、バカ者!」と一刀両断。いささか乱暴な斬り捨て方です。
こんな乱暴なロボット論が登場する本作ですが、星雲賞マンガ部門を受賞しています。星雲賞とは優秀なSF作品およびSF活動に贈られる賞で、この受賞は「あ~る」が日本SF大会に参加する日本中のSFファンに「SF作品である」と認められていることの証左でもありましょう。
それにしても、「R・田中一郎」の「R」とは「ROBOT」の「R」ではないのでしょうか……?
転校生のRはすっかり春風高校に馴染んでしまい、季節は体育祭、そして生徒会役員選挙。光画部が体育祭で起こした騒動を苦々しく思うのは、次期生徒会長の座を狙う西園寺まりいです。
一方、Rを生徒会長にすればおもしろいことになるだろうと、よからぬことを思いついたのは光画部長の鳥坂先輩。まりいの対立候補として、Rを立候補させます。
熾烈な選挙戦を展開した結果、生徒会長にはまりいが当選。その後の春高祭は生徒会vs光画部の様相を呈しますが、これは始まりの鐘に過ぎなかったのです。
生徒会は写真部を創立し、光画部を部室棟から追い出そうとします。光画部は当然、とことん抵抗。校長の提案が挟まれ、生徒会と光画部の対立はそれぞれの意地をかけたサバイバルゲームに発展するのです。
「痛いイタイ痛い。」
「おまえ、ロボットのくせに本当に痛いのか? 」
「うむ。物が当たったら痛いに決まってるじゃないか。」
(『究極超人あ~る』2巻から引用)
単行本第2巻「歴史に名を残す者の巻」より。サバイバルゲームに使用するエアガンで膝を撃たれて痛がるRに、同級生のあさのが疑問を呈しますが、Rは当然のように「痛いに決まってるじゃないか」と答えます。
あさのたちが判断したように、Rはエアガンの弾丸が当たって実際に「痛いと感じている」のではなく、「当たった」→「痛いと感じる場面である」→「痛いと言わねばならない」という判断を短時間におこなって「痛い」と言うようにしていたようです。
「痛い」という経験や実感によらず、「痛いに決まっている」という知識だけでRが痛がって見せていたことがこの場面の笑い処であるわけですが、果たして私たち読者は、このときのRをまったく笑ってしまえるでしょうか。
「そんなの○○に決まっているじゃないか」と詳細を確かめることもなく言ってしまったことはないでしょうか。「○○に決まっている」ことなんて、本当にあるのかもわからないのに。
とぼけたRにクスッと笑いながらも、自らのおこないを刹那、顧みてしまう台詞です。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
- 2018-11-12
生徒会と光画部の、意地と部室をかけたサバイバルゲーム。勝負は生徒会が勝利を収め、光画部は部室を持たぬ流浪の民になってしまいました。校内をさまよい、その末に彼らが辿りついたのは「あかずの間」。いわくありげな部屋には、しかし「光画部」という表札がかかっています。
この部屋は数十年前の光画部が使っていた部室だったのです。それならば自分たちが使用しても何ら問題はないと、ようやく居場所を定めた光画部の面々。新しい部室で記念撮影をします。
Rたちが住む世界は1980年代。デジタルカメラが存在せず、写真は撮影してその場では見るということができませんでした。見るためには撮影したフィルムを現像して、印画紙に焼きつけるという工程が必要です。
そういった工程を経て後日、仕上がった記念写真を見てみると、なんと見知らぬ少女が写り込んでいました。そのような写真が撮れる場所にふさわしく、新しい部室では心霊現象らしきことが起こりますが、まったく気にしない鳥坂先輩。そして、とうとう光画部員たちの目の前に写真の少女が現れ……。
彼らは、新しい部室に落ち着いていられるのでしょうか。
フジ三太郎には月見そばがよく似合うというが、
さんごに涙は似合わないぞ。
(『究極超人あ~る』3巻から引用)
単行本第3巻「わたしは卒業するの巻」より。もはやその必要もないかと思われますが、敢えて説明しておきますと、「フジ三太郎には月見そばがよく似合う」というのは、太宰治の短編小説『富嶽百景』の中盤に述べられる「富士には、月見草がよく似合ふ」という一節のパロディです。
さらにいいますと、「フジ三太郎」とは朝日新聞に連載されていた、サトウサンペイによる4コマ漫画のタイトルです。
「富士山」と「フジ三太郎」、「月見草」と「月見そば」という、音が似通ってはいるけれどまったく違うものを表している言葉を覚え違えていて、それをまじめに口にしている姿がおかしいというギャグであるわけですが、Rがさんごに対して「泣かないで」と気持ちを伝えようという場面でもあります。
Rがさんごのことを、とても大切に思っていることがわかりますね。
新部室も決まり、文字通りの幽霊部員も入部した光画部は、部長となったRを部長らしく鍛えるべく、春休みに強化合宿を開催。いつものようにOB連が押し掛けて、いつものように大騒動が起こります。
新学期が始まれば新入部員の勧誘をしなければならないというのに、Rはアンドロイドであるにも関わらず、なぜか風邪を引いてしまいます。熱やくしゃみが出るなか奮闘し、その甲斐あって3人もの新入部員を獲得するのです。
しかし、3人目はすぐに光画部入部を承諾しません。彼を入部させるために、卒業したはずの鳥坂先輩を中心に、光画部は3人目の彼+野球部を相手に、とんでもないオリジナルルールで対戦することになるのです。
そして、それに見事勝利。この新入部員たちが、先輩たちに劣らぬ個性派揃いなのです。光画部の未来が思いやられます。
だーいじょうぶ! まーかせて!
(『究極超人あ~る』4巻から引用)
単行本第4巻には鳥坂先輩のこの台詞が複数回、登場します。「強化合宿をするぞの巻」、「新入生歓迎会の巻」、「きたれ新入部員の巻」、「第3の男の巻」の4つのエピソードにそれぞれ1回ずつ、「芸を見せようの巻」には「だーいじょうぶ!」が単体で2回登場です。
どんなことがあっても「大丈夫」だし、自分が何とかするので「まかせて」と、何があっても間も置かずに鳥坂先輩は言い放ちます。
安請け合いにも見えますが、どんなときもすかさずこのように自信を持って言えるということは、とても大切です。どんなに実力があっても、自信がなければ行動を起こすことができません。鳥坂先輩は光画部や後輩たちへの口出しが多いですが、口を出す分行動してもみせますし、自ら戦うこともします。
いつも「大丈夫」と言える自信と安心感は、ゆとりと平穏の生活の源です。こわごわ生きるよりも、いつも「大丈夫」、「まかせて」と言える彼のように、大胆に生きていきたいものですね。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
- 2018-11-12
卒業アルバムの編集を巡って、光画部はまたまた生徒会と攻防。先だって創立した写真部とのコンペを開き、勝ったらこれまでどおり光画部が編集委員をしてもいいと、生徒会からの達しを受けます。
そのコンペは、写真部に一歩リードを譲ってしまう展開に。このままでは負ける、というところで、鳥坂先輩が奇策を用いて逆転勝利。その勢いのまま、Rやさんごたち2年生は修学旅行に旅立つのでした。
奈良・京都に、なぜか毎日顔を出す鳥坂先輩、ことあるごとにRにプロレス技を頻繁にかけるバスガイドなど、修学旅行先でもにぎやかな春高光画部。修学旅行の後は、1年前にRが湖から姿を現した宇南山での撮影会です。
そんなドタバタのうちに1学期は終わろうとしますが、Rたち2年生はそろそろ進路を考えなければなりません。担任の松浦先生に問われてRは言いました。
「ぼくはとうだいにいかねばなりません」。その言葉により、鳥坂先輩は「とうだい」が見られる場所を光画部の撮影旅行のコースに組み込んでしまうのでした。撮影のため、「とうだい」を間近で見るため光画部は電車で旅立ちますが、予想するまでもなく、行く先々に騒動の種が埋まっているのです。
こんなこともあろうかと、
ぼくはいつも埼玉県の地図を持ち歩いているのです。
これさえあれば日本中どこへいっても安心です。
(『究極超人あ~る』5巻から引用)
単行本第5巻「魚はいるかの巻」より。前の項で「自信を持つことは大切」ということを述べましたが、ここでもやはり同じことが言えます。Rは自信を持って「これさえあれば日本中どこへいっても安心」と言っているのです。
その根拠は幾分、間違っているようにも思えますが、たとえ間違っていてもそれによって不安がなくなるのであれば、悪いことでもないのではないでしょうか。
信じられる拠りどころがあるということは、心強いもの。その安心感が、埼玉県の地図だけで日本中を迷わずに移動できる力を生み出すのかもしれません。
「そんなバカな」と言うことは容易いですが、おそらくそれまでおこなったこともなかっただろう長野県周辺を、高速道路まで使ってRは埼玉県の地図のみを頼りに自転車で移動し、先に電車で到着していた光画部員たちと合流しています。なせばなってしまったのですね。
撮影旅行で海も山も満喫してきた光画部も新学期を迎え、そろそろ次期部長を決めなければならない頃です。そこに現れる部室の幽霊少女が「あたし2年生だけど」……鳥坂先輩はすかさず幽霊を次期部長に指名しますが、誰も彼女の名前すら知りません。
では、名前ほか幽霊について調べなければと、光画部一行はRの生みの親でもある成原博士の科学力に頼るしだいに。
他方、体育祭で光画部になんとか一泡吹かせようと、生徒会長・西園寺まりいが画策。生徒会vs光画部のエキシビションマッチが、体育祭のプログラムに加わります。種目はバレーボール。ここでも鳥坂先輩は「ユーレイにボールを操らせる」などと言い出し、幽霊の捜索と体育祭が並行しておこなわれていくのです。
特訓なくして勝利なし。鳥坂先輩はRをバレーボールで活躍させるべく特訓をおこない、例によって滅茶苦茶な特訓の方法でRの手首を左右両方折ってしまい、バレーボールの行方は霧の中。その惨状を見かねた幽霊少女が試合に出ようと申し出たりの混迷のなかで、エキシビションマッチの勝敗の行方はどちらに?
わたしは爆発する物が好きなんだ。
自爆装置は男のロマンだぞ、きみ!
(『究極超人あ~る』6巻から引用)
単行本第6巻「バレーで勝負の巻」より。光画部が生徒会とバレーボールで勝負することになり、鳥坂先輩はRに特訓をおこないますが、レシーブ練習に使用したボールにボウリングの球が混じっていたために、Rは両手首を折ってしまいました。
それを成原博士に緊急に修理してもらったのですが、左右両方とも肘から先はギプスで固められてしまいます。
成原博士によると全治16時間の診断で、「16時間」とは接着剤が乾くまでの時間とのこと。全治の時刻になるとひびが入り、ギプスは大爆発。「自爆装置付きギプス」という博士の発明品だったようです。
「意味がないもの」と鳥坂先輩は罵声を浴びせますが、博士は上記の台詞を放ちます。これには鳥坂先輩も「わからんでもない」と半ば納得。
「○○戦隊」だとか巨大ロボットもののアニメだとか、男児向けの娯楽番組にはたびたび爆発シーンが登場します。その記憶がいつまでも残っているためか、爆発が好きな男性は多いようです。成原博士のように「男のロマン」だと捉えている男性も少なくはないのでしょう。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
早くも次期生徒会長選が近づいてきました。西園寺まりいの任期もそろそろ終わりです。後継者を探すべく生徒会は画策し、土木研究会の1年生・島崎を指名して信任投票にかけますが、なんと彼は鳥坂先輩と同じ中学校出身という旧知の人物。生徒会長や光画部長が代替わりしても波乱は続きそうです。
生徒会長が決まれば、次におこなわれるのは春高祭。新任の生徒会長がはじめて仕切る大きな催しです。しかし、ある企画が問題になり、校長の提案でさらに捻った企画となったそれにより春高は混乱に陥ります。
学園祭が終われば進路相談。光画部は次期部長を決定し、冬休みを迎える準備をして何かと口実をつけてパーティを開催……例年通りです。
さて、新年新学期には転校生がやってきました。1年生の女子です。名を天野小夜子。見たことがありすぎるその女生徒は、光画部の部室に現れる幽霊少女です。やけにはっきりと姿が見えると思えば、幽霊ではなく実体。霊として分離していた部分が、身体に戻って再度現れたのでした。
あらためて部長に指名された小夜子は、予算会議に際しても「お金をたくさんぶんどってくればいいのね」と頼もしい発言。これからも光画部は栄えていきそうな予感……!
だれもぼくがいることを止めることはできないのです!
(『究極超人あ~る』7巻から引用)
単行本第7巻「えらいのはだれだの巻」より。1年前よりも成長した自分の誇れる部分を述べたRの台詞です。あさのからは「消極的な自信」などと言われていますが、Rの言葉は言い方を換えると「私の存在を妨げることは誰にもできない」ということではないでしょうか。
自分がここにいることは誰にも妨げられることがないのだということ、それを知っているということ、それは何よりの強みです。何者にも揺るがせられることがない、圧倒的自信を持っていられるということでしょう。
自身の存在の確かさを信じていられるなら、怖れるべきものは何もありません。もはやRは無敵です。
光画部が撮影したりしなかったりしている間にも、OBの鳥坂先輩はたびたび光画部に顔を出します。補習を受けなければならないRを学外に連れ出したりしながら常に戦う先輩は、またも新たな対戦相手を見つけてしまい、4話に渡って戦うのです。
その間にも時間は進み、さんごたちは受験して合格したりしなかったり、いろいろあってとうとう卒業式……なのですが、彼らと同じ学年のはずのRはまだ卒業できず、しばらく学校に通って補習を受けなければなりません。
だというのに、たわば先輩が「列車の写真を撮るのだ!」などと言い出しましたからそちらに連れていかれたりして、さんごが社会人になり椎子が大学生になってもRはまだ補習です。
4月になれば新入生が来ます。春風高校にはどうやらアメリカンフットボールとバスケットボールをやっていたという、アメリカ人の新入生が来たようです。まだ光画部に日参している鳥坂先輩はその新入生を光画部に入れろと言い出し、獲得に動き出しますが、その彼というのが思いのほかの人だったのでした。
「逆光は勝利」!
「世はなべて三分の一」!
「ピーカン不許可」!
「頭上の余白は敵だ」!
(『究極超人あ~る』8巻から引用)
単行本第8巻「これが基本だの巻」より。写真撮影の基本を鳥坂先輩が「トライXで万全」、「これを4号か5号で焼いてこそ味が出る」と撮影会に来ていた光画部員に説きました。「トライX」とは写真用のフィルムの種類です。椎子は「基本はやっぱりネオパンSSじゃないですか?」と言っています。
「4号」や「5号」というのは写真を焼きつける紙、印画紙の種類です。号数は大きさではなく、階調を表します。やはり、さんごが「基本は3号ですよ」と言っています。
鳥坂先輩の教えは、ずいぶん偏っているのです。たわば先輩がそのように鳥坂先輩を叱り、代わって唱えたのが本項で取り上げた名言です。写真をやっているわけでもないのに、この台詞を覚えてしまった読者も多かったのではないでしょうか。
たわば先輩は4つの項目を掲げていますが、これは写真を撮るときの条件です。「逆光」と「ピーカン」は光線の加減のことを、「三分の一」と「頭上の余白」は構図のことを言っています。しかし、どうやらこの教えも偏っているもののようなのです。
つまり、2人ともかなり偏ったことを教えているのですが、これを覚えて実行してみれば、先輩たちが好んで撮る写真が再現できるということ。極端を知ることも、また学びの方法でしょう。よくわからないなりにこれらの台詞を読んで、何だか気になっているうちにプロカメラマンになってしまった読者も実際にいるのだとか。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
鳥坂先輩の思惑通りではなかったものの、アメリカ人の新入生を部員として獲得した光画部は、さらに2人の新入部員を得て歓迎会を催します。さらに「マミヤ」なる怖ろしいものが来襲したり、3年生になった小夜子が修学旅行に出発したりしますが、Rはまだ補習を受けているのでした。
そんなある日、Rは見知らぬ少女に「あなたは堕落しました」と指を突きつけられます。少女は成原博士につくられたRの妹、R29号ことアールデコ。博士は世界征服のためにつくり出したRが一向にそのように動き出さないので、新たにアールデコをつくり、あらためて世界征服に乗り出すというのです。
「世界征服の基礎はまず練馬から」というスローガンを掲げ、成原博士は春風高校を占拠して生徒たちを人質に取ります。狂戦士(バーサーカー)なるロボットが作業に戦闘に活躍して、春風高校は要塞化。修学旅行中の現生徒会長の代わりに西園寺まりいが現れ、鳥坂先輩も、もちろん戦う心づもりです。
昨年の修学旅行でRにプロレス技をかけ通した強いバスガイドもやってきますが、春風高校の運命やいかに……?!
人間なみの能力をもってますからね。
指を折って数を数えられるんですよ。
(『究極超人あ~る』9巻から引用)
単行本第9巻「つかのまの平和の巻」より。「人間と同等の性能を持ったロボット」というととてもすごい能力を持つように思えますが、Rは卒業のための単位が足りなくて補習を受け続け、やっと最終試験に辿りついたのでした。
その最中に両手と足の指を使って何をか計算していて、担任の松浦先生は「なんで十進法なんだ?」と訊ねます。Rはコンピュータ制御で動いていて、だから二進法で計算するものだと思っていたのでしょう。
Rの場合は「人間並み」というよりは、「人並み」というべきなのでしょうか。あらゆる意味で「人間と同じ」能力ですから、計算能力も、記憶力も、運動能力も普通の人と変わりません。それは、むしろアンドロイドとしてはかなり高等な技術を用いられたものだと考えられます。
桁数が多い計算を瞬く間に済ませてしまうコンピュータよりも、あいまいな判断ができるコンピュータの方が後に生まれたことからも、それはわかるでしょう。凡庸な人間と同じほどの性能のRは、実は高等なアンドロイドなのです。
Rは、春風高校の最上級生になりました。3年生よりも上の4年生です。まだ卒業できていません。
時は1987年。「ゆるキャラ」も「○トウのごはん」もまだ存在しない頃です。光画部長の小夜子は3年生。そろそろ受験勉強に取りかかりたく、部長を引退したいと言い出します。次期部長には常識人の曲垣が推されますが、鳥坂先輩は宿敵の生徒会の重鎮、西園寺まりいの妹であるえりかを推挙するのです。
しかし「生徒会長はクラブの部長を兼任できない」という規則があります。えりかを光画部長にしたくないまりいは生徒会長選にえりかを立候補させ、光画部の目論見を打破しようとするのです。ここに生徒会執行部のクーデターが発生し、すでに卒業した者たちによって春風高校はしっちゃかめっちゃか。
結局のところ生徒会長は前会長が留任、光画部長は現2年生3人が3人とも週替わりで部長を務めることになり、春風高校も光画部も相変わらずの日常なのでした。
第10巻には『究極超人あ~る』本編のほか、『ヒーローズ・カムバック』に収録されていた「究極戦隊コウガマン劇場版3Dの巻」および『ゆうきまさみ年代記』収録の「究極超人あ〜るEVOLUTIONの巻」も同時収録されています。「EVOLUTION」ではRとバーディー、野明の共演が見られます。
船頭が多ければ船で登山ができる!
(『究極超人あ~る』10巻から引用)
単行本第10巻第7話「光画部は懲りない!の巻」より。Rお得意の「根本的に間違ってるシリーズ」のひとつです。もともとは「船頭多くして船沈む」ということわざ。船頭とは、船の運航のすべてを取り仕切る人のことです。
航路や操縦などの計画を見通して船の各所に指示を出し、各所の係員がそれに従うことで船は安全に進んでいきます。しかし、指示をする人が大勢いたら係員はどの指示に従えばいいのか混乱してしまい、船は進むどころか沈んでしまう、ということを示すことわざです。
Rはこれを間違えて覚えていたというギャグ……のはずですが、実は「船頭多くして船山に登る」という言い方もあります。意味は同じで、船頭が何人もいると船はまともに進まないということを言っているのです。
「水の上を進むべき船が山に登ってしまう」という望まないことが起きる可能性を示唆する言葉であって、「登山ができる」という可能性を示したことわざではないことはいうまでもありません。
Rの間違いぶりはOB連が「わしらがいなくても大丈夫だ」と洩らすほど。Rは、そして光画部は、これからもこうして間違い続けるでしょう。
- 著者
- ゆうき まさみ
- 出版日
- 2018-08-09
本稿で『究極超人あ~る』からチョイスした名言には「元ネタがありながらちょっと間違ってるシリーズ」が多く含まれています。その間違い方を含めて楽しむものですが、元ネタを知らなければ楽しめません。
本稿で解説したものもありますが、元ネタについてよく知っておくと、間違いネタをさらに深く楽しむことができます。Rがよく言う「奥が深い」です。みなさん、深い奥にお進みください。