「月刊コミックガーデン」で連載されているヤドクガエル作画、山口夢・TARO原作監修の作品。文明開化されて間もなくの日本、まだ江戸の残り香のある横浜の裏賭博場を舞台にして、主人公の少年が凄惨な勝負に挑むギャンブル漫画となっています。 花札という珍しいモチーフながら、スピーディな展開とエロチックな絵柄で、引き込まれること間違いなし!
時は明治9年11月、ところは横浜に1人の少年がいました。
彼の名前は、小野柳(おの やなぎ)。小柄ながら物怖じしない奇妙な少年で、親友の植木職人・桜助(おうすけ)以外からは敬遠されていました。
金の取り立てというアコギな仕事を手伝い、なんとか日々を暮らしていたのですが……。
- 著者
- ヤドクガエル
- 出版日
- 2018-11-14
ある晩、彼は何者かに拉致されてしまいます。そうして連れていかれたのは、横浜の一大歓楽街、高島町遊郭の一角にある水郷楼(すいきょうろう)という店でした。
彼は父・鉄男の借金の肩代わりをする羽目になったのです。その返済方法は、水郷楼の裏賭場で命と引き替えにおこなう花札賭博でした。柳は持ち前の「目」と異常な精神状態、機転を駆使して戦っていくことになります。
ちなみに本作のタイトル「あかよろし」とは、花札に複数枚ある赤札に書かれた「あのよろし」という文句が由来です。この「あのよろし」の「の」は「可」を崩した変体仮名で、本来は「あかよろし」と読みます。これは「実に素晴らしい」という意味の言葉です。
主人公の小野柳は、不幸な身の上の少年です。
ある事情から父母はおらず、頼れる身内もなく、天涯孤独の身で1人生活をしていました。
職業は借金の取り立てです。債務者が逆ギレすることもしばしばあり、小柄な彼にとっては労力に見合わない危険な仕事でした。それにも関わらず続けていた理由があり……。
その後、柳は父親・鉄男の代わりに、裏賭博の参加者とされてしまいます。
事情を知るごく一部を除けば、初参加のこの少年はすぐ食い物にされると誰もが思っていました。
しかし、彼には特異な才能があったのです。実は柳は異常なほどの度胸の持ち主で、凄惨な場面を目にするほどに興奮し、能力を発揮させていきます。血を見れば、文字通りに目の色が変わるのです。
何よりも異彩を放つのが、途轍もないその「目」。見たものをすべて記憶し、まるで札を透かして見るかのように連勝を重ねていきます。
その一方で、桜助との絆を確認すると正気に戻り、年相応に力のない少年となるのです。しかし鬼気迫る興奮状態は狂気スレスレであり、ハラハラさせられて非常に危ういもの。
この正気と狂気で揺れる異常さが、後々のキーポイントとなってくるのでしょう。
物語の主な舞台となるのは、水郷楼の奥座敷にある人目に付かない裏賭博場です。この水郷楼は架空の店ですが、横浜の高浜町は当時本当に栄えていた有名な遊郭(公認の遊女屋街)でした。
そこでおこなわれるのは、花札を使った賭事。参加者は全員、臑に傷のある曲者ばかりで、負ければ重い代償が待っています。
この参加者は全員、「札士」と呼ばれます。負債を抱える彼らが賭けるのは、己自身の肉体です。
水郷楼がなぜこのような非合法賭博の胴元となっているのがまず謎ですが、柳が巻き込まれた経緯にも不明瞭な点があります。彼にとっては旧知であり、訳知り顔で賭場の処刑人(?)をする菊次が、どうやら一枚噛んでいるようですが……。
「右舷」「左舷」と呼ばれる札士の派閥。胴元の思惑。そして、柳とよく似た雰囲気のある僧侶の少年。登場人物には謎ばかりが募ります。
柳は果たして、五体満足でここを抜けることが出来るのでしょうか?
ショッキングな話が怒濤のように押し寄せますが、それにも増して展開が早く、花札という馴染みのない題材でもすいすい読めてしまうでしょう。
花札とは、山札をめくって、手持ちの札の絵柄と合わせて役を作っていく、一種の絵合わせです。ルールや使用するカードの違いはありますが、ギャンブルという点で見てもポーカーに近いといえるでしょう。
柳は優れた「目」を使って、勝負に使われる絵札を、その札の傷などの特徴を元にすべて覚えることが出来ます。これによって自分の必要な札、相手に取られるとまずい札まですべて丸わかりとなるので、実質負けることはありません。
カジノが一般的ではない日本ではあまりピンとこないかもしれませんが、たとえば外国のカジノでは目星を付けたイカサマ防止のために、毎回新しいカードを使います。あるいは日本でも多少わかりやすいところだと、麻雀には自動雀卓というものがあります。これは牌を積む手間を省く目的もありますが、手積みによるイカサマ防止という面もあるのです。
特定のカードや牌に目印を付けるイカサマは、実践出来れば簡単かつ効果的なのでしょう。
柳は「目」の力で初戦は全勝。向かうところ敵なし、と思われましたが……次戦であっさりと看破され、対策を打たれてしまいます。もちろん、柳も黙ってやられるわけではありません。
このように、状況がスピーディにめまぐるしく動いて先が読めないというのが、本作の魅力の1つとなっているのです。
ショッキングと先述しましたが、具体的にはグロシーンが満載となっています。札士は肉体を賭けるとされていますが、それは伊達でも酔狂でもないのです。
勝負中、持ち点を失った者はその場で手足を切り捨てられ、あるいは腹を切って内臓を取り出されます。菊次の説明によれば、手足と目は医療関係者の研究のために提供され、臓器は煎じて薬にされるとのこと。
この手や足といった肉体が担保であり、その取り立てに関する一連の血生臭いやり取り自体も、裏賭博における見世物(ショウ)の一環となっています。
そして、その究極は「飛び」――すなわち破産であり、裏賭場でそれは死を意味するのです。そうなった場合、菊次は速やかに処刑人と化し、札士の首をはね飛ばすのでした。
たとえ自分でなくとも、他の参加者が切り刻まれるのを目の当たりにしては、尋常の精神ではやっていけるはずもありませんが……?
他にも、札士同士の暗黙のルールや地下における不文律といった、精神的なグロ描写も読んでいるとじわじわと効いてくるでしょう。
- 著者
- ヤドクガエル
- 出版日
- 2018-11-14
このように非常にスリリングで面白い『あかよろし 闇花札遊鬼譚』。本作の魅力を体感したいと思った方も多いはず。是非この機会に読んでみてはいかがでしょうか?
いかがでしたか?『あかよろし 闇花札遊鬼譚』はまだまだ始まったばかりで、今後面白くなる作品です。ぜひとも今後に期待しつつお読みください。