数あるノンフィクション本のなかから、今回は中学生のうちに読んでおきたい名作をご紹介します。面白いだけでなく、どれも教養や一般常識として知っておいて損のないものばかり。ぜひチェックしてみてください。
作者の乙武洋匡は、本人いわく両手両足が「じゃがいも程度しかない」という先天性四肢欠損の状態で生まれてきました。本書は、そんなハンディキャップを背負って生まれた彼の自伝です。
乙武が早稲田大学在学中に執筆し、ベストセラーとなりました。
- 著者
- 乙武 洋匡
- 出版日
- 2001-04-04
「障害は不便です。しかし、不幸ではありません」と言い切る乙武。これは、三重苦として有名なヘレン・ケラーの言葉でもあります。乙武自身も本作のなかで、「障害を持っていても毎日が楽しい」と読者に伝えてくれています。
彼の両親は、自分の子どもに「ふつうの教育を受けさせよう」とし、小学校から普通学級に通わせたそう。クラスメイトは「乙ちゃんルール」という、乙武と一緒に過ごすためのルールを作り、彼を中心にクラスがまとまっていく様子がわかります。
障害のあるなしにかかわらず、ともに暮らしていくためにはどうすればよいのかを考えるきっかけにもなり、「工夫」の実例としてもわかりやすい一冊です。
アスペルガー症候群とサヴァン症候群、そして共感覚でもあるダニエル・タメット。彼にとって数字は色や手触りを持った景色に感じられ、それゆえに計算の結果が直感的にイメージできるのだそう。円周率も2万2500桁まで暗記しています。
しかし「天才」と呼ばれる一方で、彼はその感覚を他人と分かち合うことはできません。本書は、普通になれないという苦悩を抱えながらも生きていく、ダニエルの手記になっています。
- 著者
- ダニエル・タメット
- 出版日
- 2014-06-13
アスペルガー症候群とは、自閉症のひとつのタイプのこと。他人と社会的関係を築くことや、コミュニケーションをとること、相手の気持ちを想像することが苦手などの特徴があります。
またサヴァン症候群は、知的障害や発達障害をもつ人のなかで、特定の分野に優れた能力を発揮するという症状。共感覚は、たとえば文字に色を感じるなど、ある事柄に対し、通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚も得る知覚現象のことです。ダニエルは、1から1万の数字に対し、形や色、手触り、感情などを感じ取っていました。
彼は本書のなかで、率直に飾ることなく自分の「頭の中」について語っています。数学の天才と呼ばれる一方で、同時に障害にも苦しむ生活。「人と違う」ということにどのようにして向き合っていくのか、そこから導きだした生き方はどのようなものなのか、ぜひ読んでみてください。
1945年8月6日、広島二中の1年生321人は空襲に備え、避難場所を作るための作業をするところでした。朝早くから集合し、点呼をしていると、青い空に光る爆撃機、B29を見つけます。偵察機が様子を探っていると思った子どもたちは、口々に「敵機、敵機」と叫びながら空を見上げていたそう。しかし、B29は原子爆弾を投下。1年生たちは、落ちてくる原子爆弾を見つめていました。
本書は、1969年年に広島テレビが制作した「碑(いしぶみ)」という番組をもとに出版されたもの。遺族の証言などから、彼ら321人の消息を可能な限り調査し、記しています。
- 著者
- 出版日
- 2009-07-01
321人のうち、3分の1は原爆投下直後に亡くなりました。その場では助かった子どもたちも、全身にやけどを負い、翌朝には亡くなったそうです。また、家族などへの聞き取りで調べることができたのは226人で、残りの95人については、親戚も含め皆犠牲になったのだと想像できます。
人が亡くなったことを淡々と語る文章は重く、内容もセンセーショナルかもしれません。しかし、あっという間に数えきれない数の命を奪った原爆の投下や、それを引き起こした戦争があったというのも事実です。犠牲になった子どもたちと同年代のうちに、読んでおきたい一冊です。
腎臓の難病である「ネフローゼ症候群」を抱えながら、名人を目指して最高峰のリーグで奮闘していた、将棋棋士の村山聖(さとし)。異例のスピードでプロデビューをするなどその才能を開花させながらも、29歳という若さで、夢を叶えることができないまま生涯を終えました。
本書は、彼の壮絶な人生を描いたノンフィクションです。
- 著者
- 大崎 善生
- 出版日
- 2015-06-20
作者の大崎善生は、雑誌「将棋世界」の編集長を務めていた人物で、生前の村山と交流がありました。師匠との師弟愛や羽生善治らライバル棋士との友情、支え続けてくれた家族など、近くにいた大崎にしか語れない姿があるでしょう。
「ネフローゼ症候群」を患って入退院をくり返しながらも、将棋を指し続けた村山聖。まさに命がけで将棋に向き合い続けるその姿と迫力は、中学生の若い心に大きなインパクトを与えるのではないでしょうか。
将棋のルールなどについては知らなくても問題ありません。命や生に向き合い続けたひとりの男の人生の記録として、読んでおきたい作品です。
探検家であり、動物写真家でもある星野道夫が、アラスカについて語った作品です。十数年にわたり広大なアラスカの地を旅し続けた星野。厳しい自然のなかで、さまざまな出会いを経験しました。
静謐ながらも力強い文章で、臨場感たっぷりに語る33編が収録されています。
- 著者
- 星野 道夫
- 出版日
「私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない」(『旅をする木』より引用)
これは、アラスカに1週間だけ同行した編集者の言葉だそうです。たった1週間で、こうも人の感覚を変えてしまうアラスカ。本書を読んでいると、アラスカという土地は果てしなく大きなスケールをもちつつも、それでも同じ人間が住んでいるという不思議な親近感を抱かせてくれます。
人間が太刀打ちできないような大自然や、先住民族たちとのドラマチックな出会いなど、現地に行かなければ絶対に書けない文章たち。経験に裏打ちされた言葉は、中学生のみならず大人の心にも響くでしょう。
中学生のうちに読んでおきたいノンフィクション本をさまざまなジャンルからご紹介しました。どれも今後生きていくうえで、心の糧となるであろう作品ばかりです。気になったものがあったら、ぜひお手にとってみてください。