冷戦のさなかに創設された「NATO(北大西洋条約機構)」。冷戦が終結した後もその規模を拡大し続けてきました。近年はアメリカのトランプ大統領の発言もあり、今後のあり方に注目が集まっています。この記事では概要や設立されるまでの経緯、日本との関係、アメリカ離脱の影響などをわかりやすく解説していきます。あわせてもっと理解が深まるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
「North Atlantic Treaty Organization」の頭文字をとった「NATO」。日本語では「北大西洋条約機構」といいます。
創設の母体となったのは、1948年にイギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクが結んだ「ブリュッセル条約」にもとづく軍事機構です。その後東西冷戦が激化したことにともない、アメリカやカナダなど北米諸国も参加して拡大。1949年4月4日に「北大西洋条約」が締結され、NATOが創設されました。
当初の加盟国は12ヶ国。その目的は、共産主義国の脅威に対抗して軍事同盟を結ぶことです。そのため加盟国は、地域ごとにNATO軍を結成し、ソ連を仮想敵として集団防衛の備えを整えていきます。一方でソ連を中心とする共産圏も、対抗して1955年に「ワルシャワ条約機構」を設立。以降、長らく両者の対立が続くことになるのです。
しかし、1989年におこなわれた「マルタ会談」の結果、冷戦は解消。NATOの役割も大きく変わることになります。共産主義国に対抗した軍事同盟から、周辺地域の紛争抑止や危機管理、対テロ対策を実施する枠組みへ変化していきました。
その過程でNATOは、旧共産圏の東欧諸国やポーランドの加盟を認め、2019年の時点で加盟国は29ヶ国に増えています。
さらに日本などの非加盟国とも協力関係を築き、世界規模で安全保障を確立するために活動範囲を拡大。このように創設以来加盟国の安全保障を追求し、それを達成してきたNATOは、「世界でもっとも成功した同盟」と賞されることもあるのです。
しかし近年では、ロシアが国力を回復させてNATOの東欧への拡大に反発。「ウクライナ問題」をはじめ、NATOとロシアの対立が再燃しています。さらに中核を占めるアメリカでも、トランプ大統領がしばしば「NATO不要論」を主張していて、加盟国との足並みに乱れが生じている状態です。
このように今日のNATOはさまざまな問題に直面し、安全保障のあり方やアメリカとの関係構築など、今後の動向に注目が集まっています。
先述したとおり、NATOが設立したきっかけは東西冷戦の激化にあります。
第二次世界大戦の終結後、ソ連の影響によって、ポーランドなど東欧に相次いで共産主義政権が誕生。1946年にイギリスのチャーチル元首相が「ヨーロッパ大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた」と演説で述べたように、ヨーロッパにおける東西の分断が深刻化していきました。
一方のイギリスやフランスなど西欧資本主義諸国では、ドイツが復興を遂げ、再び対立することが懸念されていました。そこで1948年、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの5ヶ国は条約を結び、ドイツの再侵略や共産主義の拡大への備えとして共同防衛の措置をとることを決定します。これが「ブリュッセル条約」によって創設された「ブリュッセル条約機構」です。
しかし5ヶ国だけで安全保障を確立することは困難でした。そこで強大な軍事力をもつアメリカを組み込むことで、体制の強化を図ろうとしたのです。
一方のアメリカも1947年に発表された「トルーマン・ドクトリン」に示されるように、共産主義を明確に敵視した「封じ込め政策」を推進中です。
両者の利害が一致した結果、ドイツの再侵略よりも共産主義への対抗を主眼に置いて、新しい枠組みが築かれることとなります。1949年4月に「北大西洋条約」が調印され、NATOが発足することとなったのです。
なおドイツについては、対抗するのではなくNATOの枠組みに取り込むことで脅威を取り除くという対策がとられました。その結果、1955年に西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が加盟しています。
NATOが対象としている北大西洋と日本は地理的に隔絶していて、設立当時、直接的な協力関係は構築されていませんでした。
しかし冷戦が終結し、NATOの役割が周辺地域の紛争抑止や危機管理、対テロ対策などに変わっていくと、NATOは地域外の国との関係強化に取り組むようになります。
こうした状況のもと、日本とNATOの接近は1990年代から進められてきました。2001年に起こった「アフガニスタン紛争」や「ソマリア海賊問題」などで緊密な協力関係を示しています。さらに2018年7月には、ベルギーのブリュッセルにある日本大使館内に、NATO日本政府代表部が設置されることとなりました。
日本との関係はよりいっそう強くなり、北朝鮮への国際的な包囲網の強化につながることが期待されています。一方で近年のNATOはロシアとの対立が再燃していて、これが日露関係に影響をおよぼすことを懸念する声も挙がっています。
欧州諸国とアメリカの利害関係が一致したことが、設立に繋がったNATO。しかし2017年にドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任すると、この関係にほころびが生じてしまいます。
トランプ大統領は就任以前からくり返しNATOを批判していました。その理由は、他の加盟国とアメリカが負担している軍事費に大きながあること。2018年7月にも、他の加盟国に対し、軍事費支出をGDP比4%に引きあげるよう要求しています。
また2019年1月、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」誌はトランプ大統領が2018年中に、複数回にわたってNATOから離脱したいとの意向を周囲に漏らしていたと報じました。
仮にアメリカがNATOから離脱した場合、その影響は非常に大きなものになることが予想されます。日本と同じように、多くのヨーロッパ諸国は在欧米軍の存在を前提に安全保障政策を構築していて、その大前提が崩壊してしまうからです。
NATOの批判だけでなく、離脱をほのめかすようになったアメリカ・トランプ大統領の動向に注目です。
- 著者
- 佐瀬 昌盛
- 出版日
本書の初版が発行されたのは、1999年。当時のNATOは、冷戦の終結にともない新たな任務を掲げ、活動範囲を拡大しようとしていました。
本書には、NATOが設立された経緯やその役割、各国の動向などが的確かつコンパクトにまとめられて、概要を抑える最初の一冊におすすめです。
作者の佐瀬昌盛は国際政治学者で、NATOの拡大が不戦域の拡大をもたらしたとし、平和を構築したことを積極的に評価しています。本書を読むと、勢力均衡や抑止力など安全保障に関わる知識も深めることができるでしょう。
- 著者
- 金子 讓
- 出版日
- 2008-04-01
NATOの「通史」を扱った専門書です。対象としているのは、「北大西洋条約」の締結から、2001年の同時多発テロの前後まで。それぞれの時代で争点となった大きな課題に注目しつつ、NATOがどのように対処してきたのかがまとめられています。
副題にあるとおり、NATOの歴史は、米欧が協力して安全保障を構築してきた歴史でもあります。しかし両者の思惑は常に一致していたわけではなく、しばしば見解の相違が発生しています。ただこれまでは、相違が生じるたびにNATO内で交渉がおこなわれ、問題は克服されてきました。
本書を読むことで、国家の思惑がぶつかり合うダイナミックな国際情勢を感じられるでしょう。