作者本人が経験したことをベースに描かれた本作。「子どもを産む」ことを生物の「繁殖」として捉え、子を産むと決めてからは、子育てと出産を中心に生きるようになった女性。その子育ての様子を描いた『私たちは繁殖している』は、常識を覆す楽しさがあります。今回の記事では、そんな本作の見所をご紹介! スマホで無料で読むこともできるので、気になる方はそちらもご覧ください。
主人公の女性・ジジが、妊娠中にあったこと、出産中にあったこと、産後にあったこと、また子どもを産んで初めて知ったことや自分なりの子育て術を描いていく本作。
まるで作者・内田春菊の実話のようにも思える描き方をしていて、果たして実話なのかフィクションなのか、話題を呼んでいます。しかし作者は、1巻で「本作はフィクション」と表現しているのです。
- 著者
- 内田 春菊
- 出版日
- 1994-05-25
ただ作中に本当のこともあるらしく、実話をベースに脚色した作品、といったところでしょか。新しい掲載誌では「本当にあった笑える話」となっていますし、実話想定で読んでいても問題ないかもしれません。
『私たちは繁殖している』は、ほぼほぼノンフィクションな妊娠・子育ての様子を描いたフィクションなのです。
この作品は、Amebaマンガで180話無料で読むことができます。気になった方はぜひご覧ください。
漫画家としてはもちろん、小説家や女優、歌手などとしても活躍している人物。非常に多くの活動をしていて、そのどれもが中途半端になることなく、すべて全力で取り組む力強さを持った人です。
養父からの性的虐待や、中絶、家出、多くのバイト経験、妊娠・出産、数度の結婚・離婚、ガンなど、希少で多彩な人生を歩んできた彼女。そんな作者だからこそ発信できることも多く、彼女が漫画や小説などを生業にしているのは、まるで定めだったようにも思えるのです。
- 著者
- 内田 春菊
- 出版日
『私たちは繁殖している』の他、漫画では『南くんの恋人』、小説では『ファザーファッカー』などが代表作としてあげられます。作品傾向として男女の性について、ありのまま描いたものが多いです。
作者自身が持つ考えや感性を隠すことなく作品に反映し、周りからどんな意見を受けようと自身の在り方を貫き通す姿勢は、非常にかっこいいもの。主張や伝えたいことがはっきりとした作品が多く、内田春菊自身の脳内を覗いているような気分になれるのも特徴的ですね。
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小説家であり、エッセイストでもあり、俳優業もこなすマルチタレント。それが今回ご紹介する漫画家・内田春菊です。1984年にデビュー。数々の浮き名を流し、その壮絶な人生が作品に反映されていることでも知られています。 性的虐待、驚くような恋愛遍歴、果ては大腸がんを患ったという彼女について、詳しくご紹介しましょう。
自分流の妊娠・子育ての様子は、本作の最大の見所といってもいいかもしれません。
作中には主人公・ジジが妊娠中、医者や周りの人々から言われた言葉、調べた幼児期の子どもの様子について多く描かれています。そして同時に、それ対するジジの意見や、自分なりの見解も描かれているのです。
たとえば、妊婦さんが安定期からお腹につける「腹帯」。腹巻のようなものなのですが、これについて販売店の店員や周りの人は「つけないと」「つけるべき」と強く勧めてきます。それに対し、腹帯は日本だけの文化だと取り上げたうえで、絶対に必要なものではないと説明するのです。
何かとお金がかかる出産や幼児期のことを考えると、買わなくていいものにお金は使いたくないもの。周りから当たり前のことに言われると、ついついその意見を聞き入れてしまいそうですが、本人にとってよりよい方がいいに決まっていますよね。
また「お姉ちゃんだから」「男の子だから」といった性別による押し付けはしないというところも、ジジ流ではないでしょうか。性別や生まれた順番による差別をしないというのは、実際やろうと思っても難しいものです。
この性格や個性とは違う固定概念を押し付けない子育てというのは、子どもたちにとっても視野を広げるきっかけとなったのではないでしょうか。
本作では妊娠・育児中の、周囲のありがた迷惑な言動と、それに対する意見も多く描かれています。例えばお店に行ったときなどに彼女が子どもを抱っこしていると、お店の人が面倒を見ると申し出たり、確認もせずにベビーベッドを用意したりと、あれこれと世話を焼こうとしてくれるそう。
困っていたらありがたい行為ではありますが、ジジは子どもを抱いてご飯を食べることが苦ではないですし、どこかに寝かせるより抱いている方が、子どもが大人しい場合もあります。抱っこで寝かしつけた子どもをベッドに戻すと泣き出すことも多く、むしろ抱いていないといけないときだってありますよね。
ジジは「大変だろう」という憶測だけで世話を焼こうとする人に対し、普段から抱っこのまま食べていて自分も息子も慣れていること、料理のなかで食べられそうなものがあったら一緒に食べていることを伝え、はっきり「けっこうです」という断りをいれました。
人の好意を断るのはなかなか難しいものですが、自分と子どもがもっとも安心できる育て方をするために、伝えるべき意思は伝えなくてはいけないと、あらためて考えさえてくれます。同じような場面に立ったときに、どう対応をすればいいのかの参考にもなりますね。
作者は本作の1巻で「子育てのハウツー本ではない」という風な表現をしていますし、「自分なりのやり方だからマネはしないように」という表記も多々登場します。しかし、それでも子育てにおいて念頭に置いておきたいことが、きちんと描かれているのです。
乳児にハチミツを与えてはいけない理由、子どものときに必ずなる病気である「乳児湿疹」や、「突発疹」のこととその特徴などがわかりやすく、噛み砕いて書いてあります。初めて子育てする人は読んでおいて損がないような話も多くあるのです。
また、授乳中に吸われていない方の乳から母乳が出るときの対処法、断乳するときどのように痛いか、そして冷やし方などの対応方法など、母親自身についてのことも多く登場。子どもと母親のことについて一挙に知れるのも嬉しいところです。
最低限、親として知っていなければいけないことは一通り描かれていて、また「なぜダメなのか」「どうダメなのか」ということもきちんと説明しているのが勉強になります。フィクションと言いつつベースは実体験なので、変に不安を煽るような描き方をしていないのもいいところですね。
子育てについて知りたい人は、参考書として読んでおいて損はないでしょう。
就職した長男だけ別で暮らしつつ、娘2人と次男と一緒に、4人で暮らしていたジジ。
ほぼほぼ問題ないものの、私生活を振り回す長女や、学校のことや勉強のことで何かと面談の多い次女・次男とともに、ジジ自身、車の免許取得やライブなど忙しい日々を送っていました。
- 著者
- 内田春菊
- 出版日
- 2018-04-10
本巻は、作者がガン手術をおこなった前後のこと描いていて、子育てのことというよりは自身の話が多め。もちろん、次女・次男はまだ未成年で学校に行っているので、手を離れたわけではありませんし、変わらず子育てに奮闘する様子も見られます。
朝起きられず学校に行けない思春期の娘と手が出るほどの大げんかをするものの、なぜ起きないのか、どういう気持ちなのかをきちんと聞き、それからは娘のペースに合わせようとするあたりは、やはり見ていて参考になるのではないでしょうか。
どうしても子どもにアレコレと口を出してしまいたくなるものですが、彼らにだって自分なりの考えがあります。いくら親が「こうしたほうがいいだろう」と感じていても、子どもが「つらい」「いやだ」と思っては、反発心を生むだけですよね。
見守ることも子育てで、学校から呼び出しを受けても子どもの自主性に任せようとするあたりは、家庭の特色というのがよく出ており、見所といえるのではないでしょうか。 それぞれの家庭にはその家なりの考えがあるのだとわかり、自分たちは自分たちでいいのだと思わせてくれるのもいいところでしょう。
作者の実体験をベースに描かれた『私たちは繁殖している』。自分なりの子どもとの付き合い方をありのまま描いた本作には綺麗事がなく、読んでいて非常に納得できる部分も多い作品です。周りの人間に左右されない人生というものを、あらためて考えさえられますね。