残業ゼロがモットーの女 VS ブラック上司!その熾烈なバトルに、果たして終わりはくるのでしょうか!? 2018年の春に出版されて話題になり、なんと2019年に吉高由里子主演でドラマ化される小説『わたし、定時で帰ります。』。ブラックな働き方はおかしい!と徐々に世に浸透してきたとはいえ、まだまだ働き方改革は進んでいないし、働く人の意識も変わっていないのが現状ですよね。 そんな現代だからこその問題に迫った、新しい小説ともいえる本作。今回の記事では、その魅力や見所について触れていきましょう!
とあるウェブ制作会社に勤める主人公・結衣。働きどおしだった父親、働くのが大好きな元彼を見ていた彼女ですが、「絶対に定時で帰る」をモットーに日々仕事に励んでいます。
しかし、同僚には中学時代の皆勤賞を自慢する「皆勤賞女」がいたり、働きすぎて自分の健康を顧みない元彼がいたりと、定時帰宅を邪魔する人々が……。
そんな人々にも負けず、毎日定時で帰っている結衣は、ある日プロジェクトのチーフに抜擢されます。しかし、そのプロジェクトの上司は、なんとブラックな働き方推進上司。
果たして彼女は、「定時で帰る」を貫くことができるのでしょうか。
- 著者
- 朱野 帰子
- 出版日
- 2018-03-30
ドラマは、2019年4月からTBSの火曜10時に放送。キャストは、結衣役に吉高由里子、働きまくる元彼は向井理。さらにバリバリワーキングママ役に内田有紀、ブラック上司はユースケ・サンタマリアと個性的な面々が勢ぞろい。どんな演技を見せてくれるのか、とっても楽しみですね。
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作者・朱野帰子は、 1979年生まれの東京育ち。早稲田大学第一文学部卒業後は執筆活動をするのではなく、会社に就職します。2009年に『マタタビ潔子の猫魂』でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞したのを機に小説家デビュー。
その後2013年に『駅物語』がメディアでも取り上げられて大きな話題となり、2015年には『海に降る』がテレビドラマ化されました。
- 著者
- 朱野 帰子
- 出版日
- 2012-01-13
そんな作者は、本作『わたし、定時で帰ります。』の主人公・結衣とは正反対で、会社員時代はモーレツに働いていた社員だったそう。「会社の困った人の話を書きませんか」と編集者に提案を受けて、最初は自分のようにバリバリ働く女性を主人公に置いたそうです。
しかし、ゆとり世代といわれる担当編集者の一言、「上の世代の人たちが、なぜそんなに仕事に命を懸けるかわからない」というのがきっかけで、彼女はふと思い直します。それでは反対に、絶対に定時で帰る主人公を作ろう、と。
結果的に、その主人公の対比で「猛烈に働く社員」が際立ち、いかに彼らが理不尽極まりないかが描かれています。
彼女は、就職氷河期世代の若者でした。何十社と落とされて自分の価値を見失ったあげく、やっと入った会社には同僚がおらず、共感できるような人もいません。自分には価値がない、仕事をがんばらないと居場所がないかもしれない、クビになるかもしれない。そんな思いが、作者を仕事へと駆り立てたのです。
そのときの体験が、結衣を取り巻く「ブラックな同僚」「ブラックな上司」の元ネタとなっているのでした。
さて、本作の登場人物を紹介していきましょう。
まずは、主人公・結衣。32歳の会社員で、作者と同じで就職氷河期に入社しました。彼女は、バリバリ仕事ができるから定時で帰るわけではありません。会社に入って10年。コツコツとがんばって、やっと仕事ができるようになって、定時で帰る、を信条にしています。あくまでも普通の会社員、という立ち位置です。
彼女の元彼は、同じ会社にいるバリバリのサラリーマン・種田晃太郎。冒頭では定時で帰る結衣を横目に、夜食のカップ焼きそばを手に会社へ戻ってきたところが描かれています。結衣の「定時で帰る」モットーは、この元彼の影響も大きくあるようで……。
物語冒頭で絡んでくる同僚女子は、三谷佳菜子。同い年の結衣に何かとつっかかってくる、「皆勤賞女子」。何かといえば、「新人は有給なんて取らなくていい」「なんで残業せずに定時で帰るのか」などと文句を言います。中学時代に皆勤賞だった!私は頑張っていた!と興味のない自慢をしてくる同僚です。
そして、とあるベンチャー企業の社長が、福永清次。自身の会社をたたんで、なんと結衣の職場へ入社。彼女の上司となります。もちろん、無理難題を求めてくる姿勢はベンチャーのときから変わっておらず、結衣をはじめ会社の人間を巻き込んでいくことになるのです。
他にも仕事ができるゆとり社員や、仕事で倒れた糖尿もち、さらに仕事人間だった父親なども登場。「定時で帰る」結衣にとっては敵だらけのような気がしますね。
こんなメンバーのなかでチーフとなってしまった彼女は、最後まで信条を貫きとおすことができるのでしょうか!?
チーフに抜擢された結衣は、無理難題を押し付ける上司・福永と対立します。絶対定時で帰りたいのに、納期や人員を無視した仕事を振ってくる福永。
そんな仕事の振り方を見て、結衣はさながら日本軍がおこなった「インパール作戦」のようだと思います。それは、上官たちの無謀でずさんな作戦により、作戦に参加したほとんどの兵が死亡した作戦でした。「作戦」とは名ばかりで自分たちの能力を過信し、権力の強い上官が言葉強く推し進めた結果、歴史的な敗北を喫したのです。
ただし本作の福永は、頭ごなしに命令していくようなタイプでもありません。じわじわと周りからせめて、チーム内の空気を変化させ、その結果だんだんと結衣も残業していくようになるのです。彼女はこの上司相手に、定時で帰る、というモットーを再び復活させることができるのでしょうか!?
普通に考えれば、生産性を上げて定時で帰ることは推奨されることであり、そういった人たちが責められる必要はないでしょう。しかし「職場の空気」では、そうはいきませんでした。
自分の効率を上げても、誰かがダラダラと仕事をしていれば滞り、「みんなで頑張ろうぜ!」となってしまっては、自分だけ帰ったら士気を下げてしまう……そんな「空気感」の理不尽。どんなに自分ががんばっていても、「残業時間が評価」な上司なら、自分の評価は下がってしまうのです。
結衣は、そんな上司や同僚にモヤモヤしながらも、誰もがさまざまな理由を抱えながら仕事をしているということに少しずつ気づいていきます。そんな彼女が、とっていく行動とは?
結衣の恋愛模様にも注目!元彼はバリキャリの仕事人間で、もはや中毒です。好きで婚約までしたけれど、仕事のために両家顔合わせもすっぽかすほど。ここまできたら、なんにも言えませんよね……。
そんな元彼・晃太郎に愛想をつかし、彼女は次の恋愛へ進みます。新しくできた彼は、仕事は二の次で、プライベート重視のゆるキャリ。しかし、そんなおっとりした彼は、実家暮らしで親に甘える毎日。仕事をがんばってるわけでもないのに家賃25万の家を譲らなかったり、まあいいかと許したと思ったら新築を買う(!)といきなり言い出したり。
将来の展望も何もないのに、自分の生活をよくすることだけは考えている今彼に、結衣は徐々に疑問を持ち始めます。仕事人間の元彼は嫌だと思って今の彼にしたけれど、この彼とずっと一緒にいられるのだろうか……。
さて、彼女は結局どちらの彼を選ぶのでしょうか!?
定時で帰る、をモットーにしていた結衣は、結局どうなっていくと思いますか?
プロジェクトを進めるにつれて、彼女は徐々に残業をこなしていくようになります。理不尽なことにも耐えつつ、かといってプロジェクトは予算のないなか進めていかないといけない。
そんな状況で、チームのみんなが「なぜ、今のような働き方をしているのか」「何を思ってここにいるのか」を徐々に知ることになるのです。
- 著者
- 朱野 帰子
- 出版日
- 2018-03-30
ダラダラ働いている社員も、すぐ辞めたいという新入社員も、ブラックな働き方をする元彼も、さまざまな思いがあって、この会社にいました。もちろん結衣にも、しっかりした考えがあります。
彼ら・彼女らと進めていくうちに、結衣の考えも少しずつ変わっていくのです。果たして彼女は、みんなを説得して定時帰りを推奨していけるのでしょうか。
その結末は、ぜひ本を読んでみてください。ブラック企業は撲滅すべし、というなかでもそれぞれが考えがあって、悪気のない人たちもたくさんいます。好きで働いている人たちも、たくさんいます。
そんな人それぞれがさまざまな事情を抱えるなか、本作は結衣を通して、働き方について考えるきっかけとなるはずです。特に女性は子育ての問題などもあり、働き方について考えることは多くあります。
仕事だってプライベートだって自分の人生の1つで、すべては地続き。これを読んで結衣のように、あなたの考え方も少し変わるかもしれません。
いかがだったでしょうか。どうしても定時で帰りたい!という人もたくさんいますし、それが当たり前になってほしいものですよね。だけど、すぐそうなれないのは、やはり組織を作っているが人間だからではないでしょうか。働く女性、働き方に少しでも疑問を感じている方は、ぜひ読んでみてください!