波よ聞いてくれ(4) (アフタヌーンKC)

札幌市を舞台に、ラジオパーソナリティとなった主人公がくり広げるコメディ漫画。全編をとおしてラジオは主軸にあるものの、むしろラジオ放送外の奇想天外なストーリーがメインの作品となっています。 映画化作品『無限の住人』の作者でもある沙村広明が、「誰が読んでも大丈夫な漫画」というコンセプトで描いた、誰も死なない漫画。それが本作『波よ聞いてくれ』です。この記事では、あらすじと魅力、巻ごとの見所を解説していきましょう。
本作は、スープカレー屋に勤める主人公・鼓田ミナレが、愛と、幸せと、享楽を求めて、ラジオにカレーに奔走する爆走トークストーリー。「月刊アフタヌーン」にて2014年から連載されています。
彼氏にフラれた愚痴を、居酒屋で髭のナイスミドル・麻藤に話していたミナレ。翌日、店内で流れていたラジオ、昨日居酒屋でした話が流されているのを聞きます。実はラジオディレクターである麻藤は、ミナレの喋りを気に入り、会話を録音して番組で使用していたのでした。
店内に流れ出す自分の愚痴。真っ青になりながら、バイト先を飛び出します。
彼女は放送を止めるべく、なんと直接ラジオ局に乗り込むことに。ブースに入って放送を止めようとしますが、ディレクターの麻藤はこう言いました。
「ラジオには「3秒ルール」ってのがある
無音が3秒続くと放送事故――8秒も続けば俺のクビがとぶ
止めるからにゃアンタが間を持たせるんだぜ?」
(『波よ聞いてくれ』1巻より引用)
そのままブースに座らされたミナレは即興で喋りまくり、見事尺を持たせることに成功。結果として番組は無事終了し、リスナーから大反響を呼んだのでした。
見込んだとおりの活躍をした彼女に、ラジオ局で働かないかと誘う麻藤。勤め先を辞めさせられる瀬戸際でもあった彼女は、自分の生活のためにもラジオパーソナリティーになることを決意するのです。
こうして始まった、ラジオ人生。果たして彼女が作るラジオ番組は、どうなっていくのでしょうか。
作品の魅力は、主人公を含めたキャラクターの楽しさです。
鼓田ミナレは、札幌に住む美人で男勝りな25歳。そんな彼女の最大の特徴は、尋常ではない活力と表現力です。
本作を読んでみればわかりますが、彼女は大抵のページで叫んでいます。
「光雄! お前は地の果てまでも追いつめて殺す!!」
「徹頭徹尾自分の都合しか考えとらん! 私もだけど」
「藻岩山ラジオに私の寝床を用意してくれ!!」
「倉庫!?倉庫ってアンタ……おおよッじゃあ倉庫で!!」
「ヒモになりたい いや婿入りしたいこの部屋に! 私毎晩むっちゃ抱くわ! あの娘を」
(すべて『波よ聞いてくれ』1巻より引用)
1人の時でも誰かといる時でも、彼女は常に自身の感情をそのまま言葉や態度に表します。有り余るエネルギーでトラブルが絶えない面もありますが、炎上上等の正直すぎる生きざまと叫びは、読むだけでとても痛快です。
特にラジオの喋りとなれば、怒涛の勢いでまくしたてます。勢いとテンションの高さだけではなく、しっかり理屈も通っている彼女の喋りは、台本が途中からアドリブになっていても、勢いに任せて自分でオチまでつけてしまうほど。小話を聞いているようなその語りは、何度も見返したくなってしまうでしょう。
脇を固めるキャラクターも魅力的です。切れ者で頼もしいラジオディレクター・麻藤を筆頭に、ラジオ局の良心であるAD・南波、不愛想な構成作家・久連子など、みんな一癖も二癖もある非常に濃いキャラクターばかり。
ミナレを中心に彼らが織り成す物語は、激しいボケとツッコミのなかにも心の動きや人間くささが強く伝わってきて、とても生き生きと感じられるはずです。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 2015-05-22
本巻では、主人公・鼓田ミナレがラジオパーソナリティーとなり、自身の番組を持つことが決まるまでが描かれています。
冒頭の居酒屋の愚痴から、ラジオ局でのアドリブでの初放送、祭りの告知と、怒涛の喋りを見せるミナレ。その騒がしさを反映するように、解雇の危機、店長の事故、謎の麗人の登場など、ラジオ外でも凄まじいスピードで物語が進んでいきます。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 2015-05-22
なかでも見所は、ミナレのキャラクター性です。
性格こそ男前で常に自信にあふれているものの、その場その場で切り抜けようとすると、ほとんどが自分の首を絞める結果に終わる彼女の行動。大体、ろくな目にあいません。
容姿は美人なのに、残念で面白い人という印象が強い彼女。しかしそんな時に過度に落ちこむことや、立ち止まることは決してしません。
過ちに後悔し、不幸に叫びながらも、とにかく前へ前へと突き進む姿は、親近感と爽快感を与えてくれます。もしこんなパーソナリティがいたら、ファンになること間違いなし!
ラジオが成功するかどうかより、彼女の貯金残高が気になる、ドタバタな第1巻。ぜひ手に取ってみてください。
ついに始まったミナレの番組、「波よ聞いてくれ」。本巻の主軸となるのは、ミナレの過去との決別です。
そもそも恋人と別れた愚痴から始まった彼女のラジオ人生。言い換えれば恋人とともに始まったものです。ラジオ第1回も彼を殺す架空実況という、元恋人の呪縛に捕らわれたの内容でした。
つづく第2回のラジオ。ディレクターの麻藤は「光雄の埋葬」という台本を用意。彼は、この台本について元カレ・光雄の埋葬だけではなく、ミナレ自身の埋葬だとも告げました。元カレへの愛憎を語る一般女性という役を埋葬し、ラジオパーソナリティへと生まれ変わるのだと。
新たなスタートを切るために始まった2回目の番組ですが、この台本には、まさかの展開が用意されていたのです。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 2016-02-23
そんな本巻の見所は、なんといっても元カレ・光雄とのエピソードでしょう。
普段男前な姿ばかりが描かれるミナレ。しかし再会に不覚にもときめいてしまったり、普通にデートを楽しんだりする姿からは、普通の女性としての一面が垣間見えます。
これまで吐き出してきた憎悪の部分だけではなく、本当に彼を好きだったという一途な気持ちが伝わってきて、より彼女の魅力を感じるでしょう。
その一方で、元カレとの再会の結末はあまりにも男らしく、「かっこいい……!」と口に出してしまうこと間違いなし。
ミナレのさまざまな魅力を、ぜひ堪能してください。
2回目の放送が無事終了したミナレのもとに、麻藤は次の番組の企画を自分で考えるように言いました。まったく企画の浮かばない彼女は、周囲の人間に聞いたり、番組のホームページで募集したりと奮闘しますが、どうにもなりません。
そんなときに、ミナレ宛に一通の手紙が送られてきます。手紙の冒頭は、
たすけてください 俺は呪われてる
(『波よ聞いてくれ』3巻より引用)
その話を聞いて興味を持った麻藤は、ミナレを手紙の送り主のもとへ取材に行かせます。
そこでは、思いもよらない恐ろしい事件が待ち受けていて……。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 2016-11-22
本巻最大の見所は、取材現場で起きた、この怪事件です。
1巻から登場していた隣人の本性、漂う腐臭、謎の袋、そして天井から滴る血。ラジオ漫画のはずなのにホラー漫画のような展開が次々と起こり、まったく先が読めません。あなたは巧妙に隠された伏線から、この結末にたどり着くことができるでしょうか……。
想定外の怪奇事件の結末を、ぜひ確かめてみてください。
先輩パーソナリティ・茅代まどかに唐突な説教を受け、衝撃的なラジオ名の由来を電波に流され、挙句の果てに収録1回分を勤め先の店長のせいで潰されるミナレ。ラジオの回が進むたびに、どんどん傷ついていきます(主に自分のせいで)。
そんなボロボロな彼女はさておき、本巻では周囲の人間の動きが重要になってきます。見所は、周囲のキャラクターたちの心の動きです。一応のジャンルはラブコメであるだけに、実は三角関係が2つもあるこの漫画。微妙な関係に少しずつ動きが出てきます。
波よ聞いてくれ(4) (アフタヌーンKC)
2017年09月22日
カレー屋でもラジオ局でも起こる恋模様。思っているのに思いが伝わらない、あるいはわかっているはずなのに何も言ってくれない。
しかしなかなか告白に踏み切る展開にはなりません。ただ堪えきれずに涙を流したり、恋敵に遠回しの宣戦布告をしたり。脇役たちの行動は、ミナレの直情的な姿と対比されて、とても奥深く感じられます。
人間臭いキャラクターたちの心情と名言が魅力の4巻、ぜひ読んでみてください。
構成作家の久連子、ADの南波とともに、和寒へ向かったミナレ。久連子の小説の取材とともに「波よ聞いてくれ」の収録も進めていきます。
そんな本巻の魅力は、まさかのストーリー展開でしょう。
端的にいうと、3人は宗教団体に監禁されるのです(!)。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 2018-07-23
5巻目にして、まさかの展開。オカルトは3巻でやりましたが、次はまさかのサスペンスです。人がめったに来ない田舎で、3人は宗教団体に監禁されるという推理小説で見るような状況に陥ってしまいます。この漫画だからこそ許される展開ですね。
正しい報道のためという主張のもと、自分たちで作った台本を放送させようとする宗教団体。教主も信者たちも1人残らず濃いキャラクターで、描く相関図は混沌の様相を呈しています。そんななかでもぶれないミナレは、相変わらず自分の道を独走中。ちなみにその行動は、一度も脱出の役には立ちません。
はたして宗教団体の真の目的とは。3人は無事に逃げ出せるのか。文字通りの超展開を、ぜひ確かめてみてください。
なんと本作が2020年4月からTVアニメ化が決定しました。
すでにキャストも発表されており、ミナレの声を任されるのは、作品の舞台でもある北海道出身の杉山里穂。地元愛を公言しており、アニメでも北海道にスポットを当てたシーンが多く登場するようなので、ぴったりの配役だといえます。
公式サイトでは、インパクト満点のPVが公開されています!
その他キャストや気になる放送日についても随時更新されていくと思われますので、TVアニメ『波よ聞いてくれ』公式サイトをご覧ください。
放送のプロが放送業界についての作品を手がけるというところも楽しみの1つ。ミナレの番組が実際に始まるかのようでわくわくしますね。
『無限の住人』でデビューした人気漫画家・沙村広明。そんな彼のおすすめ作品を紹介した<沙村広明おすすめ漫画ランキングベスト5!映画化『無限の住人』を含む名作 >の記事もおすすめです。