沙村広明おすすめ漫画ランキングベスト5!映画化『無限の住人』を含む名作

更新:2017.3.13

千葉県出身の漫画家、沙村広明。各所で絶賛される高い画力と、シリアス、コメディー、エログロ、アクションなどジャンルを選ばないその多彩な作風は海外でも人気を誇っています。今回はそんな沙村作品からおすすめの5作をご紹介していきます。

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沙村広明とは?

沙村広明は、1993年『無限の住人』でデビューした男性漫画家です。小学生の頃から「将来の夢を書け」と言われても漫画家としか浮かんでこなかったと、各所のインタビューで述べています。

「絵がうまい人がたくさんいそう」と多摩美術大学の油画専攻に入学するものの、「油絵の具のにおいが嫌い」という理由で、大学時代は主に漫研での活動がメインとなっていました。余談ですが、沙村広明が所属していた頃の多摩美術大学の漫研には、先輩に『イエスタデイをうたって』の冬目景、後輩に『彼女のひとりぐらし』等の玉置勉強が所属していました。特に玉置勉強と沙村広明は、お互いの漫画にイラストを寄稿しあうような仲となっています。

デビュー作『無限の住人』が1997年に第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を獲得。同作は2000年にはアメリカでアイズナー賞最優秀国際作品部門を受賞し、2008年にはアニメ化も果たします。また同時期に竹易てあし名義でコメディー作品『おひっこし』を発表するなど活動の幅を広げていきました。

デビュー直後から評価され続けている沙村作品の魅力は、なんと言ってもその高い画力。美術大学卒業の歴に違わない、綿密なデッサンに裏打ちされた圧倒的なその画力はメディア芸術祭などでも絶賛されています。

また、描かれる多くの女性キャラクターが強いことも特徴のひとつでしょう。沙村作品の大半は『無限の住人』のように男性が主人公であったとしても、物語を動かしていくのは女性であることが多く、またその女性像も「さばさばした姉御肌タイプ」「どこか影のある女性」などいくつかのタイプに分けることができますが、誰もがみな美しく、芯のある強い女性ばかりです。

今回は、そんな沙村による漫画ベスト5をご紹介します。

5位:沙村広明の代表作!『無限の住人』

著者のデビュー作にして代表作。前述のように国内外で賞を受賞し、アニメ化、そして2017年には映画化されるなど評価の高い一作です。

本作の大まかなあらすじは、江戸時代、剣客集団「逸刀流」に両親を惨殺された過去を持つ少女凜は、彼らへの復讐を誓い、不老不死である人切り万次に用心棒を依頼し戦いに向かっていく、というもの。単行本の1巻には、人切りのお尋ね者万次がなぜ凜の用心棒を請け負ったのか、その背景が描かれた「序幕」が収録されています。この序幕は、アフタヌーン四季賞を受賞した読切作品でもあります。

著者
沙村 広明
出版日
2016-08-23

奇抜な服装や武器を見ると、どうにも江戸時代が舞台の時代劇とは思えない本作。大元となったのは、沙村がコミカライズした、谷崎潤一郎の『刺青』だそうです。その絵を見た編集者が「時代劇を描いてみたらどうか」と言ったことで『無限の住人』が作られたという経緯があるそうです。

『刺青』の絵からスタートした漫画だけあって、この作品に登場する女性キャラクターはとても官能的です。「女性をどこから見るかが一番好きかというと、背中から腰にかけての何もないライン」(ダ・ヴィンチ2017年4月号より引用)と沙村本人が公言しているだけあって、この作品に登場する女性キャラクターはエロチックに、そして強い剣客として描かれています。またアクションを描ききった決めのシーンは、浮世絵のような一枚絵であることが多く、それがこの漫画にただのバイオレンス漫画にはない美しさを醸し出しているのです。

『無限の住人』については<原作『無限の住人』5分でわかる6つの魅力!不老不死の隻眼剣士が大立ち回り【全巻ネタバレあり】>で詳しく解説しています。

4位:12作の短編を1冊で楽しめる『幻想ギネコクラシー』

白泉社の「楽園」(読みはル・パラディ)で発表された作品を集めた長・短編集です。なお「楽園」は、シギサワカヤ、かずまこお、水谷フーカといった他掲載作家の名前を見れば、ぴんと来る人もいるかもしれませんが恋愛漫画を専門に取り扱った漫画雑誌です。「楽園」愛読者の中には、「沙村広明は掲載雑誌を間違えてるんじゃないのか」と思われた方もいるのではないでしょうか。

本作は「鳳梨娘」「楽園からのハッピーバースデー」など全12作が収録されています。おすすめは「筒井筒」と「オムレツの思い出」。どちらもギャグが基調になっているのですが、あっといわせる結末の心地よさは素晴らしいの一言に尽きます。

著者
沙村 広明
出版日
2014-03-26

まず「筒井筒」のあらすじは、以下のようにまとめられるでしょう。ひょんなことから地球に遭難してしまった宇宙人のカップル。13年間身を潜め続けたかいあって、ようやく母性から救助艇が来ることになったと通信が入ったのは良いものの、その救助艇は1人乗り。通信を聞いた男の取った行動と結末は……。結末が秀逸な作品なのであえてオチは書くのを控えますが、日本人なら誰でも知っている昔話を題材にした、驚愕の前日譚となっています。

続いておすすめしたい作品は「オムレツの思い出」。主人公は、幼馴染から「彼氏彼女になりたい」言い寄られていました。しかし彼は近所に住む義叔母のことが好きで、よく彼女の家に出向いたのです。そこで食べるオムレツが大好きだった主人公は、その日も義叔母の家から漂うオムレツの匂いに心躍らせて台所へ向かうのですが、といったあらすじとなっています。

どちらもオチが秀逸ですので、結末は是非単行本で確認してもらいたい作品です。その他のお話も最後までぶっ通しでコメディーだったり、サスペンスだったり、ぞくりとするホラー要素があったりと、沙村の魅力が余すことなく詰め込まれています。沙村によるレベルの高い、多様なジャンルを楽しめる短編集ですよ。

3位:沙村広明作品のグロテスク要素を凝縮『ブラッドハーレーの馬車』

資産家であり議員でもあるブラッドハーレー氏が経営するブラッドハーレー聖公女歌劇団は、メンバーが全員がブラッドハーレー氏の養女であること、彼女たちが全国の孤児院から集められていることから、孤児院に暮らす少女たちにとって憧れの的です。

しかし孤児院を去っていく少女と、歌劇団の新人としてデビューする少女とで、人数に大きな差がありました。実は養女として貰われる少女たちの大半は、ブラッドハーレー氏の考案したプログラムによって、囚人たちが暴動を起こさないよう、彼らの慰みものにされるために連れて行かれていたのです。

本作は、以上を根底にして描かれた全8話からなる短編集です。大筋が連続していますが、各々独立した少女、または少女をめぐる男の話です。

著者
沙村 広明
出版日
2007-12-18

沙村作品のバイオレンス、グロテスクといった要素を最大限に描ききったこの作品は、あまりにもえげつない内容と、各話でピックアップされる少女たちへの救いのなさから、好き嫌いがはっきりと分かれる作品でしょう。しかしだからこそ、最終話で描かれる結末はこれ以上ないほどのカタルシスをもたらしてくれる1冊に仕上がっているのです。

余談ですが沙村本人は「『赤毛のアン』のような作品が描きたい」(『ブラッドハーレーの馬車』あとがきより引用)、「ドレスのヒダヒダを描きたいという欲求だけが最初にあった」(ダ・ヴィンチ2017年4月号より引用)といってこの作品を開始したそうですよ。

2位:沙村広明の魅力は、バイオレンスだけじゃない『おひっこし』

竹易てあし名義で発表していた表題作「おひっこし」他2編を収録した作品集です。沙村で一番有名なのはやはり『無限の住人』だと思うのですが、そのバイオレンスなイメージを持って読むと度肝を抜かれるギャグ作品となっていますよ。その中でもおすすめは、やはり表題作でしょう。

表題作は、多彩な人物が織り成すキャンパスライフコメディー、でもきちんとしたラブコメ作品。主人公は、かっこいい先輩赤木が好きな遠野くん。そんな遠野くんのことが好きだけど、遠野の親友木戸くんから告白されてオッケーしちゃった小春川さん。さらには謎のイタリア人バローネと、そのバローネに恋する女子大生などが登場します。

赤木さんと遠野くんの恋愛模様はどうなってしまうのかということがメインストーリーですが、さまざまな媒体から持ってこられたパロディーの数々、「嫌いなモノはお前のような女です」(『おひっこし』より引用)といったセリフの切れ味からは、沙村の真骨頂はバイオレンスではなくギャグなのではないかとすら思わされることでしょう。

著者
沙村 広明
出版日
2002-06-19

特に本作でおすすめしたいポイントは、登場人物たちの織り成す怠惰でリアルな大学生事情です。「俺ってこんなことでいいのかな」「あの人との関係をなんとかしたいな」と心の片隅で思いつつ、飲み会で酒を飲みまくり、酔っ払い続け、就職活動はなんとかして回避したい……。そんな大学生活を送ったことのある人なら、すぐにこの作品の空気に懐かしさを覚えると思いますよ。

大学生の頃に思いをはせてノスタルジックな感傷に浸りたいけど笑いは欲しいという、欲張りなあなたにおすすめしたい1冊です。

1位:サバサバ系女子が魅力的!『波よ聞いてくれ』

主人公は、少ない貯金を彼氏に持ち逃げされたミナレ。飲み屋で隣に座っていたラジオ局のディレクター麻藤に、酔いに任せて失恋話を愚痴った次の日、なんとその失恋話がラジオで流れているのを職場で聞いてしまうのです。それを止めに行ったミナレは、麻藤から「止める変わりにアドリブトークをしろ」といわれます。結果的にミナレは、ラジオパーソナリティーとして活動していくことになり……。

著者
沙村 広明
出版日
2015-05-22

本作の魅力は、主人公ミナレに集約されていると言い切っても過言ではないでしょう。彼女はサバサバとした女性であるが故に駆け引きができず、また惚れる男もダメンズばかり。しかし彼女自身も、好意をもたれている男性に対して「私が本当の意味で食いつめた時、再びお前の前に現れるだろう」(『波よ聞いてくれ』より引用)と言ってしまうなど、むしろさばさばを通り越して彼女もダメな人なのではないか?と思わされるような人物です。

しかし金を持ち逃げした元彼に対して「お前は地の果てまでも追いつめて殺す!!」(『波よ聞いてくれ』より引用)とラジオで言い放つなど、とにかくたくましく、こんな人が知り合いにいたら面白いだろうなと思わせてくれることでしょう。また「おっさんしっかりしてくれ。49にもなって何を言ってんだ」(『波よ聞いてくれ』より引用)といったテンポのよい台詞回しも、本作の魅力です。

ちなみに本作は、「言ってしまえば、俺の“ふざけたあとがき”をマンガにした」(ダ・ヴィンチ2017年4月号より引用)とのこと。「エログロとかパロディーとか控えないと……という強迫観念の結晶がこの漫画」「今度こそ間違いなく、人の死なない漫画」(共に『波よ聞いてくれ』あとがきより引用)と作者が公言しているとおり、エログロ要素や、世代によってはまったく通じないパロディーはこの漫画からは排除されているので、沙村作品の中では最も人を選ばずおすすめできる作品といえるでしょう。

『波よ聞いてくれ』については<『波よ聞いてくれ』の名言がヤバい。爆走ラジオ漫画の面白さを全巻ネタバレ!>の記事で紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。

いかがだったでしょうか。美術大学卒の裏打ちされた実力で描かれる絵と、テンポのよいギャグや耽美的なエロチズム、美しさすら感じるバイオレンス描写など、多岐にわたる作風が沙村作品の魅力です。ぜひこの機会に沙村広明ワールドに、足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。