少子高齢化が進行する日本。「団塊の世代」が後期高齢者となることで、医療費や社会保障費の高騰をもたらす「2025年問題」への対策が急がれています。ここでは今後の見通しや、具体的な問題と対策、さらにITシステムにおける「2025年の崖」もわかりやすく解説していきます。あわせて、もっと深く理解ができるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
「団塊の世代」が2025年ごろに75歳以上の後期高齢者となることで、医療や介護など日本の社会保障がひっ迫する状況を「2025年問題」といいます。
「団塊の世代」とは、1947~1949年に生じた「第一次ベビーブーム」の時期に生まれた人たちのこと。厚生労働省(以下:厚労省)作成の「人口動態統計」によると、この世代の出生数はおよそ800万人に達するそうです。
同じく厚労省が作成した「今後の高齢者人口の見通しについて」を見てみると、2015年に25%を突破した65歳以上の高齢者人口は、2025年には全体の30%を超えると予測されています。
世界でも有数の高齢社会と呼ばれる日本ですが、その理由は急速な高齢化のスピードにあります。北欧のフィンランドなど、ほかにも高齢者人口の多い国はありますが、そのペースは緩やか。一方の日本では、人口の多数を占める「団塊の世代」が高齢化することで、高齢者比率が一気に増加しているといえるのです。
そして2025年以降、この「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となることで、医療費や介護費のさらなる高騰、年金の給付額減少など、さまざまな問題の深刻化が懸念されています。
医療費の高騰は2025年以降の懸念として真っ先に浮上します。それは高齢化にともない、認知症など高齢者ほど罹患しやすい病気にかかり、病院を受診をする人が増加するためです。
厚労省作成の「2040年を見据えた社会保障の将来見通しについて」を見ると、2018年度の医療給付費が約39兆円なのに対し、2025年度には約48兆円と約1.2倍の増加が見込まれています。
ところが医療給付費が増加する一方で、病院や医師の数は減少傾向にあります。これは少子化に加え、「医師の偏在」による地方の深刻な医師不足が叫ばれているためです。その結果、このままでは「患者が増えて医師が減る」という状況が深刻化し、十分な医療や看護を受けられない患者が増加する可能性があります。
これに対し政府は、医療費の伸びを抑制するための各種対策を打ち出しました。たとえば、現在の死亡要因のうち約6割を占める生活習慣病予防への取り組みの拡大や、病院数の減少に対処するために医療機能の分化・連携を推進、さらに在宅医療の割合を増やすことなどが挙げられます。
また厚労省は、「地域包括ケアシステム」の構築を打ち出しました。これは「医療」と「介護」の垣根を取り払い、連携を強化して高齢者の増加に対応しようとするものです。次項で、そのシステムについて詳しく見ていきます。
費用の高騰が懸念されているのは医療だけではありません。2025年問題では、介護にかかる費用も増加することが予想されています。まずは現在の日本の介護状況を確認してみましょう。
政府は、介護費用の増加に対応するため、2000年に「介護保険制度」をスタートしました。そもそも介護保険とは、40〜64歳の人に加入が義務付けられている、保険料を支払う仕組みのこと。これによって、65歳以上の高齢者が介護サービスを受ける際に、自己負担を減らすことができるシステムが成立しています。
現在は、介護保険を負担する40歳以上の壮年世代が増加傾向にあるため、保険料の徴収額は増加し続けている状況です。しかしこれからは、高齢者の増加によって相対的に壮年世代が減少するため、2021年をピークに負担者は減少、財源が不足してしまうことが懸念されています。
さらには、こうした費用面での問題だけでなく、介護に関わる人的な問題も山積みです。具体的には、介護を請け負う人材や設備が足りなくなり、介護を受けることができない「介護難民」の発生や、高齢者同士が介護をする「老々介護」の増加など。
そこで厚労省が新たに対策として打ち出しているのが、先に挙げた「地域包括ケアシステム」です。ホームページで次のように説明しています。
2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
重要なのは「住み慣れた地域で」の部分。公的な介護サービスでは増加する高齢者を支えきれない現状に対応するため、介護の担い手を各地域に分散する狙いがあります。高齢者が住み慣れた地域で「自分らしい暮らし」、つまり「今までと変わらない暮らし」を続けていくことができるように、「医療」と「介護」の連携強化や、地域社会のなかで高齢者を支える仕組み作りを目指しているのです。
2025年問題は、高齢者の増加だけでなく、少子化や公的サービスの地域格差など、さまざまな要素と絡みあっています。「地域包括ケアシステム」のように、新たな枠組みを作っていくことが必要だといえるでしょう。
ここまで見てきたように、高齢者の増加にともなう各種負担の増加は避けることのできない課題となっています。同様に年金の給付も、財政に支障をきたすことが予測されている「2025年問題」のひとつです。
高齢者の人口増加により、年金を受給する人は増え続ける見込みです。一方で年金保険料を納付する20~65歳の人口は減少してしまうため、ひとり当たりの負担の増加や、給付額が減少することが懸念されます。
医療・介護・年金などの社会保障費は、現在でも国家予算の3分の1を占めるほど。そのほかの要因も重なると、今後はさらに増額するものと考えられているのです。
そこで、社会保障費の財源を確保するために、2019年10月に消費税が10%に増税されることが決定されました。また年金についても、資産規模の大きな「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」に年金積立金を委託し、積極的に運用して積立額を増やそうとする取り組みがされています。
ほかにも、65歳から受給することができる年金を、70歳から受け取るように変更する提案もされていますが、これは受給者の老後の生活設計に大きな影響を与えるため、反発も多い状態です。
いずれにせよ、社会保障費の増額に対処するため、今後の私たちの生活は大きく変化していくといえるでしょう。
ここまで、少子高齢化にともない発生する「2025年問題」について解説してきました。実はそのほかにも、懸念が存在します。それは、経済産業省(以下:経産省)が「2025年の崖」と呼んでいる問題です。
「2025年の崖」という言葉は、経産省が2018年に作成した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」で使われました。
DXとは「デジタル・トランスフォーメーション」の略称。「ITの浸透が生活を良くする」という考え方で、このレポートでは企業のIT化をさらに進展させる必要性について言及しています。日本企業や公的機関のIT化は遅れていて、このままでは2025年を境に多額の経済損失が生じてしまうと警鐘を鳴らしているのです。
「2025年の崖」による経済損失を具体的に見てみると、
このような問題が指摘されています。既存システムが老朽化するなか、新たなシステムを導入するには人材やコストが必要となるため、解決が先送りになってしまっているのです。必要なタイミングでシステムが更新されてこなかったシワ寄せが及んでいるともいえるでしょう。
- 著者
- 河合 雅司
- 出版日
- 2017-06-14
本書は、国立社会保障・人口問題研究所が作成した「日本の将来推計人口」のデータを駆使して、日本の未来像を描き出したものです。年表形式で、これからの人口減少によって生じるさまざまな問題を列挙しています。
「日本の将来推計人口」は信頼の高い統計として知られていて、本書で記されている事態はどれも現実的なものばかり。2025年問題をはじめとする諸問題を知り、これから国や個人がとるべき行動について考えることができます。
後半では、作者の考える「日本を救う10の処方箋」が提示されています。人口減少という静かなる有事に対応するために、きっと参考になるはずです。
- 著者
- 山田 謙次
- 出版日
- 2017-09-29
作者の山田謙次は、野村総合研究所のコンサルタントを務める社会保障の専門家。本書では、タイトルのとおり社会保障に焦点を当てつつ2025年問題の深刻さを浮き彫りにしています。 現在の日本は充実した社会保障制度を比較的低い税負担で実現しているものの、この状態は2025年頃には立ち行かなくなると警鐘を鳴らしているのです。
作者によると、2025年とは「団塊の世代」が後期高齢者となるだけでなく、非正規雇用が多い「就職氷河期世代」が税負担の中核を占める年代でもあるそう。このように問題を多方面から見ることができるのも、本書の特徴です。
専門的な内容ではありますが、全体的に読みやすい文体でまとめられていて、ポイントもはっきりと提示されています。本書を読むことで2025年問題をリアルに感じ、その深刻さを実感することができるでしょう。