名作推理小説おすすめ40選!初心者も、最高に楽しめるミステリー【日本編】

更新:2021.7.13

ページをめくるドキドキ感。読み終わったあとのカタルシス。推理小説を読んでみたいけど、数がありすぎてどれから読めばいいか分からない……。そんな初心者の方におすすめの推理小説をご紹介します。

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おすすめ推理小説をジャンルから選ぶ!【本格ミステリー】

 

『そして誰もいなくなった』

 

著者
アガサ・クリスティー
出版日
2010-11-10

 

ミステリー界の女王、アガサ・クリスティーの作品。世界でもっとも売れたミステリー小説です。

本格ミステリーとは、謎解きとトリックに重きを置き、名探偵役が事件を解決する作風のこと。本作ではとある島に招かれた8人の男女と、島で出迎えた2人の召使いの全員が死に、事件が迷宮入りしかけたところですべての謎が解決します。

もはやミステリー小説の一般教養といってもいい作品、迷ったらぜひ読んでみてください。

 

 

『毒入りチョコレート事件』

 

著者
アントニイ・バークリー
出版日
2009-11-10

 

イギリスの作家アントニー・バークリーの作品です。

「犯罪研究会」のメンバーたちに未解決の毒殺事件が報告され、各々が推理合戦をくり広げます。集まった推理は全部で8つ。それぞれの職業や性格がよく現れた内容でした。

果たしてこのなかに正解はあるのでしょうか……?

 

おすすめ推理小説をジャンルから選ぶ!【どんでん返し】

『ハサミ男』

著者
殊能 将之
出版日
2002-08-09

 

殊能将之のデビュー作。「メフィスト賞」を受賞しています。

主人公は、2人の女子高生をハサミを使って惨殺した26歳の人物。マスコミからは「ハサミ男」と呼ばれています。3人目の犠牲者を定めて調査をしていた時、自分とそっくりな手口で、その女性が殺されてしまいました。しかもハサミ男は、死体の第一発見者となってしまったのです。

一体なぜ、そして誰が……。読み進めていけばいくほど、作者が仕掛けた壮大な仕掛けにはまっていってしまう作品。思いもよらない結末に、読後はもう1度最初から読み直したくなってしまうはずです。

『殺戮にいたる病』

著者
我孫子 武丸
出版日

 

猟奇的な殺人をくり返していた男、蒲生稔が逮捕されました。物語は過去へと時間を戻し、稔が起こした事件を克明に描いていきます。その描写はかなりグロテスクで、慣れていない人は読み進めるのが大変かもしれません。

しかし怒涛の展開のあとに訪れる衝撃は、どんでん返しの最高峰といわれるほどのもの。どこから騙されていたのか、どうしても確かめたくなってしまうはずです。

すべての物語は、読者を騙すために書かれていたのかと唖然としてしまうでしょう。ミステリー好きにこそおすすめしたい作品です。

おすすめ推理小説をジャンルから選ぶ!【歴史ミステリー】

 

『ダ・ヴィンチ・コード』

 

著者
["ダン・ブラウン", "越前 敏弥"]
出版日
2004-05-31

 

アメリカの作家ダン・ブラウンの作品です。

物語の舞台は、ルーヴル美術館。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「ウィトルウィウス的人体図」に模したかたちで、館長が殺されます。

捜査は、「モナ・リザ」や「最後の晩餐」などの有名絵画に潜む謎と、ヨーロッパの歴史を絡めながら進行。誰もが知っているアイテムを上手く用いた、暗号解読の魅力を感じられる作品です。

 

 

『時の娘』

 

著者
ジョセフィン・テイ
出版日
1977-06-30

 

イギリスの作家ジョセフィン・テイの作品。15世紀にイングランドの王で、歴史上もっとも悪名高いといわれるリチャード3世にまつわる謎を、現代の警察官が追っていきます。

歴史書や遺された資料を参考に事実を紐解いていく様子は、まさに歴史ミステリーの王道。歴史の意義や政治との関わりなども考えさせられる作品です。

 

おすすめ推理小説をジャンルから選ぶ!【社会派ミステリー】

 

『64』

 

著者
横山 秀夫
出版日
2015-02-06

 

横山秀夫が10年以上かけて執筆した作品です。

「ロクヨン」とは、昭和64年にD県で起こった未解決の誘拐殺人事件のこと。ある日、ロクヨンの被害者である雨宮宅を慰問する計画が広報官の三上に告げられます。しかしその裏には、キャリア組とノンキャリア組の対立と、誘拐事件の真相が隠れているのです。

怒涛の展開と伏線の回収っぷりに圧倒されるはず。社会派ミステリーの名作です。

 

 

『希望が死んだ夜に』

 

著者
天祢 涼
出版日
2019-10-09

 

「メフィスト賞」を受賞しデビューした天祢涼の作品。

14歳の女子中学生が、同級生を殺害した容疑で逮捕されました。犯行は認めるものの、動機を一切語らない少女。捜査を進めるうちに、彼女が抱える闇が明らかになっていきます。

物語の根幹をはしるのは、母子家庭と貧困という大きな社会問題。読み進めるのが辛くなってしまうような暮らしが描かれます。

ラストの真相が明かされる際には意外性もあり、ミステリーとしても満足できる作品です。

 

戦後の名探偵・金田一が大活躍する、名推理小説!

今まで推理小説というジャンルに一度も触れたことがない人でも、一度は耳にしたことがあるでしょう。戦後日本で最も有名な探偵のひとり、金田一耕助のシリーズは今まで様々な媒体でメディア化し続けてきました。物語の舞台は主に戦後。時代が代わり、当時の現在が遠い過去になってもなお、新しいドラマや映画が作り続けられています。

ボサボサの頭、貧相な体格。冴えない風貌の金田一耕助は、ときに物語の最後にふらりと姿を現すこともあります。しかしひとたび事件に関われば、警察が決して解決できなかった謎を解き明かす名探偵となるのです。

著者
横溝 正史
出版日


『八墓村』と並日、金田一耕助シリーズの中でも特に有名な本書。タイトルに覚えがない人でも、水面から突き出た二本足、と言えば思い出すものがあるかもしれません。

物語は信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛が遺言書を遺して亡くなるところから始まります。その莫大な財産がどうなるか分からないまま、佐兵衛の三人の娘、松子、竹子、梅子、その夫と子どもたち、佐兵衛の恩人の血縁である珠世が揃います。そこで明かされる衝撃の遺言、憤る三人の娘たち。金田一が滞在する中、まるで嘲笑うかのように次々と起こる惨劇。

独特の文体で淡々と描かれる陰惨なシーンは、じわじわと胸が冷えて行くような怖さがありますが、気が付けば引きこまれてしまう……。映像で結末を知ってしまっている方も、戦後の日本の惨憺とした雰囲気をぜひ一度「本」で味わってはみませんか?

迷宮入り寸前の怪事件を推理する、名探偵・御手洗

奇想天外な謎、複雑怪奇で大胆なトリック。リアリティという綱の上を、つま先立ちで歩くような設定の数々に「ほんとうにこの謎は解けるのか」という気持ちが起こります。

挑むのは、謎に負けず強烈な印象を残す、探偵・御手洗潔。皮肉屋で興味のあるもの以外には全く不誠実で、思い立ったら人目などまるきり気にしない。そんな変人探偵の相棒・石岡和己。

著者
島田 荘司
出版日
2013-08-09


自系列は前後することもありますが、人間模様に連続性があるので、基本的に刊行順に読むのをオススメします。今回ご紹介するのは、その最初の一冊。実はこのシリーズ、長らく映像化NGだったのですが、シリーズ開始から数十年の時を経て、立て続けにドラマ、映画化されました。

いわゆる不可能犯罪を多く取り上げた本シリーズの中でも、特に強いインパクトを残す本書。戦後40年以上(本書の舞台は1979年)解き明かされなかった殺人事件の謎に、探偵・御手洗潔とその友人・石岡和己が挑みます。

梅沢平吉という画家、そしてその血縁の娘たちが殺された奇妙で陰惨な事件。残された平吉の手記には、占星術を下敷きにした異常な計画が記されていました。6人の娘たちの体の一部を切り取り、繋ぎ合せて、完璧な「アゾート」を作ろうというのです。犯行はどのようにして行われたのか、真実はどこにあるのか。

2014年1月に、イギリスの『ガーディアン』紙で「世界の密室ミステリーベスト10」の第2位に選ばれた本作。思考の隙をついたかのような驚愕のトリックは、それだけでも面白いものですが、この先長く続くシリーズの入門編として、探偵と助手の関係を掴むことも楽しめることでしょう。

推理小説の舞台は、奇妙な館?

そのままでは映像化不可能といわれるトリックを多く扱う本シリーズ。本書でまず、文字でしか描けないトリックを味わいつくしてみませんか?

無駄な設定などひとつもない、徹底したロジック。人物の何気ない会話でさえも、パズルを構成するピースなのです。また上記の御手洗潔シリーズへの、大きなリスペクトを感じるシリーズでもあります。本シリーズの設定を下敷きに、ゲーム化もされています。

著者
綾辻 行人
出版日
2007-10-16


すべて独立した作品である本シリーズには、共通する生きた登場人物があまりいません。なぜならすべてはパズルであり、登場人物もまたピースの一部であるからです。ただ本作に関していえば、最初に読むことをオススメします。理由はシリーズの次の作品を読めば分かるでしょう。

主人公は館であり、今は亡き建築家中村青司。物語の顔である本書の「館」は、無人島に建てられた十角館です。そこに、とある大学のミステリー研究会のメンバーがやってきます。

いまは古典となった推理小説家たちの名前をコードネームのようにして呼び合うメンバー。孤島で行われる惨劇。そして、本土に残ったメンバーに奇妙な手紙が届きます。

これ以上何もいうことはありません、思う存分騙されてください!

作家アリスたちが謎に挑む、読みやすい推理小説

「作家アリス」なんて書くと可憐な少女を想像してしまうかもしれませんが、こちらのアリスは、有栖川有栖という30代の成人男性。大学時代からの友人である火村英夫という準教授(助教授)が探偵役です。

実はもうひとつ、学生アリスという別のシリーズもあります。こちらのアリスも男性ですが、作家アリスよりも若く、大学生です。同名ですが、同一人物ではないのです。学生アリスシリーズでは、江神二郎という大学の先輩が探偵役。

著者
有栖川 有栖
出版日
1997-07-14


作家アリスも、学生アリスも魅力的なシリーズですが、コミック化したり、テレビドラマ化したりして目にとまる機会が多いのは、作家アリスシリーズのほうでしょうか。2つのシリーズの意外な繋がりは、作中で記されています。気になる人は、両方読んでみてくださいね。

作家アリスシリーズは短編集が多く、長編がメインの学生アリスシリーズと比べて気軽に読めます。国名シリーズと呼ばれる本書は、古典的なミステリー作家、エラリー・クイーンのオマージュでもあります。

最初に暗号を扱った短編が収録されてはいますが、基本的には、肩ひじ張らずに読める内容。それでいて物足りないということもなく、アリスと友人・火村の軽妙なやり取りを交えて、楽しく読み進められます。

結城中佐率いるスパイ達の知られざる戦争とは?

毎回主人公の変わる短編シリーズで、コミック化、アニメ化もされました。本書はその第一作です。

著者
柳 広司
出版日
2011-06-23


諜報員養成所、通称D機関――常人離れした記憶力、判断力、技能を持ったスパイ達、そして彼らを束ねる結城中佐。スパイ達に求められるのは、殺さないこと、そしてとらわれないこと。

荒唐無稽な設定ですが、主人公のスパイ達に強烈な個性はありません。むしろ個性を殺し、誰かになりきり、その場にいる誰よりも早く事件の謎を解き明かして、姿を消さなければならないのです。物語にエンドマークがついても、名もないスパイ達の素性は、その本名を含め、語られることはほとんどありません。

シリーズ最初の作品らしく、D機関の成り立ちや、ここに至るまでの結城中佐のことも語られます。しかしそれらには深くは触れず、いくつかの独立したお話で構成されています。

スパイ達は当然ながら常に四面楚歌。敵地で頭脳だけを頼りに立ちまわる姿は、読んでいてドキドキハラハラすること間違いなし。最後に収録された「ダブル・クロス」では、完全無欠で、血の通わないダークヒーローのように見える彼らにも、ひとりひとりに異なる生い立ちや、殺しきれない心があることが描かれ、とても味わい深い一作になっています。

初心者向けミステリー講座

『ミステリアス学園』の主人公、ミステリー研究会に所属する湾田乱人(わんだらんど)は、ミステリー作品は松本清張の『砂の器』しか読んだことがありません。そんな湾田が、殺人事件に巻き込まれていくのですが犯人は一体……。

著者
鯨統 一郎
出版日
2006-04-12


この作品の魅力は、「物語の構造」と「ミステリー講座」になっていること、そして「犯人」です。

この作品は短編形式になっていて、登場人物が同一のいくつかのお話が載っています。物語を読み進めていくと、「物語の構造」自体もひとつのトリックになっているのです。

そして、「ミステリー講座」になっているというのは、主人公の湾田は新入部員であり、ミステリー初心者です。そこで「本格ミステリー」や「バカミス」とはなにか、などミステリー小説について湾田がミステリ研究会から教えてもらうという内容になっています。

『ミステリアス学園』は、推理小説なので、事件が起こります。不可解な殺人事件です。さて、その犯人はいったい誰なのか。最後まで読み進めた時に、きっと前代未聞の犯人に驚くでしょう。『パラドックス学園』という続編も出ていて、そちらはパラパラ漫画を取り入れた作品になっているのでまた違った面白さがあります。ぜひ、この作品と合わせて読んでみてくださいね。

理論的事件・理系ミステリー小説

殺人を犯しながらも無罪になり、才能ゆえに監禁状態で研究を続けていた天才プログラマー・真賀田四季(まがたしき)の部屋から、花嫁衣装を着て四肢を切断された状態で死体が発見されます。完全な密室殺人、しかし真賀田四季の部屋以外からも次々に犠牲者がでてくるのです。カメラにも映らない殺人者の姿を、大学助教授の犀川創平(さいかわそうへい)と大学生の西園萌絵(にしぞのもえ)が追っていきます。

著者
森 博嗣
出版日
1998-12-11


「すべてがFになる」という真賀田四季がパソコンに残したメッセージが物語の鍵になります。この鍵は今までのミステリーとは違い、理系の知識と思考回路で考えなければ解けません。

この鍵だけではなく、登場人物もほとんどが理系、考え方も行動も理系です。トリックが理路整然としていて、ミステリー作品をたくさん読んできた方にも今までにない、読後感を味わうことができるのではないでしょうか。

社会派名作推理小説の古典

ドラマ、映画などでも映像化された松本清張の長編推理小説です。

物語は、東京の蒲田操車場にて男性の死体が発見される場面からはじまります。被害者が最後に目撃されたのは連れの男性と話し込んでいるところでした。被害者男性は東北訛りで、会話のなかに“カメダ”という単語がでてきたというのです。そのこと以外手がかりはなく、被害者男性の身元すら分からないまま、捜査は一旦打ち切りとなりました。

それから数ヶ月、被害者の養子であるという人物が現れたことにより事件の捜査が再開されます。刑事今西と吉村はこの事件の真相を執拗に追い求めますがなかなか手がかりがつかめません。そんな中、第2、第3の殺人が行われます。わずかな手がかりから犯人を突き止めることが出来るのでしょうか。

著者
松本 清張
出版日


この作品は1960年から1961年にかけて発表されました。その時代、交通機関や連絡手段は現代に比べるととても不便でした。作品の中でも、他県へ捜査に行くのに長い時間をかけているなど、技術が発展した今では考えられないような地道な捜査模様が描かれています。

また、内容に触れてしまいますが“ハンセン氏病”がこの事件の鍵になります。当時“ハンセン氏病”というととても恐れられ、差別の対象にもなってしまうものでした。現代ではそんなことはなく、この小説で初めてその病気の存在を知る方もいるかもしれません。そういった現代とのギャップ、時代について知ることが出来るのもこの作品の魅力の一つです。

今西が捜査を進める模様が、丁寧に無駄なく描かれています。東北訛り、“カメダ”という小さな手がかりから、些細な事も見逃さず事件の真相に近づいていきます。今西の目線で読むことができ、少しずつヒントが提示されていくので読みながら推理することも出来るはずです。最後の最後まで犯人が予想できないというか、わかりにくくなっていて悩まされるかもしれません。純粋に謎解きを楽しむことも出来る作品です。

時代を感じさせる内容が逆に新鮮で読み応えがあります。自分が事件の捜査をしているような感覚になるのではないでしょうか。こんな時代もあったのかと勉強にもなる作品です。ぜひ一度ご一読ください。

人気ナンバーワンミステリー作家東野圭吾のファンだけが知る名作

主人公樫間高之の婚約者森崎朋美が不運な事故により亡くなったことをきっかけに物語がはじまります。

朋美の父伸彦が所有する山荘に、朋美の親族、友人、そして高之らが、朋美を追悼する意味も込めて集まりました。そこへ突然、逃走中の強盗犯が押し入り山荘に立てこもってしまいます。高之らは脱出を試みますがことごとく失敗。そんな中、朋美の従姉妹雪絵が何者かに殺害されてしまいました。状況からして犯人は強盗犯ではありません。高之らはお互いを疑い、不安定な心理状況に陥ります。

雪絵を殺害したのは誰か、また彼らは無事山荘から抜け出すことが出来るのでしょうか。

 

著者
東野 圭吾
出版日
1995-03-07


とにかく面白いです。強盗が立てこもることによりできあがったクローズドサークル(外界から閉ざされた山荘)が作り上げる独特な世界観に一気に物語に引き込まれることでしょう。

山荘の中で彼らを悩ませる謎は大きく2つあります。

まず、山荘で起きた殺人について。強盗が立てこもっている状況の中で、この殺人はあきらかに身内による犯行ということがわかります。一体誰が何のために殺人を犯したのか、これが1つめの謎です。

そしてもう1つ。高之の婚約者であった朋美は本当に事故死だったのか、実は殺人だったのではないかという謎がわき起こります。軟禁に近い状況下で、この2つの謎を解明しながら物語は終わりへ向かっていきます。

ラストについてはあまり先入観を持たず読んでいただきたい作品です。なのであまり詳しくは書きませんが、読んでいると感じるであろう違和感を大事にしながら読み進めてください。その違和感はきっとラストで、あぁこういうことだったのか、という驚きを大きくしてくれます。

もう1度、初めて読むときに戻りたいと思わせてくれる作品です。ぜひ純粋な気持ちではじめての『仮面山荘殺人事件』をお楽しみください。

日本の三大奇書の一冊

『虚無への供物』は“日本の三大奇書”ともいわれる長編推理小説です。

まずはあらすじをご紹介します。物語のはじまりは東京のとあるゲイバー。光田亜利夫、奈々村久生、氷沼藍司が“氷沼家の祟り”について談義することをきっかけにすすんでいきます。

氷沼家には代々不幸がおとずれるという噂がありました。それに興味を持った亜利夫と久生は氷沼家の祟りについて調査しはじめます。その矢先、藍司の従弟が密室で殺害されてしまいます。これを皮切りに第2、第3と事件が続いてしまうのです。亜利夫、久生、藍司をはじめ、その他数名の探偵役が事件について推理ショーを繰り広げながら真相を探ります。
 

著者
中井 英夫
出版日


奇書といわれるだけあって全体的にクセのある文章になっています。本格派推理小説とか、古典的といったとても雰囲気のある作品です。そこにハマってしまう方は一気にのめり込んでしまうことでしょう。

よくある推理小説と違うのが、事件ごとに複数の探偵達がそれぞれの推理を披露するところです。しかもその探偵はまったくの素人達。彼らの推理は、論理的に推理として成り立っているものや、五色不動など伝説的なものまでさまざまです。読んでいると狐に化かされているような気分になります。

風変わりな推理小説として読み進めることができますし、ラストでいざ犯人は誰か、という場面では驚くような展開が待っています。登場人物の探偵達と一緒に犯人を推理してみてはいかがでしょうか。

京極夏彦のデビュー作にして代表作!

数多ある京極作品で、まず何から入ったかといえばこの百鬼夜行シリーズの第一作『姑獲鳥の夏』から読まれた方が多いのではないでしょうか。数々のメディア化を果たしたこの百鬼夜行シリーズは、京極夏彦の原点であり、京極夏彦のエッセンスが詰め込まれています。 

終戦から7年後の、未だ戦争の影響が色濃く残る時代、小説家の関口巽は、出入りしていた出版社から奇妙な噂を耳にします。雑司ヶ谷の病院で二十ヶ月も妊娠したままの妊婦。その夫は密室から失踪し、さらにはその病院で生まれたばかりの赤ん坊がいなくなるという事件が度々あったというのです。

著者
京極 夏彦
出版日
1998-09-14


好奇心にかられ事件を追う関口は、自分と事件の思わぬつながりを知り、己が事件にすっかり絡め取られていき……。 

漫画的にとも言えるような強い個性を持つキャラクター達が魅力的です。特に京極夏彦の分身にも思える拝み屋の京極堂こと中善寺秋彦の博覧強記ぶりは、物語を盛り上げ、事件を解決するのに大いに役立っています。彼の語りがなければ何割か本が薄くなっているだろうほどのうんちくは、ただただ圧倒され、長さにも関わらず読み入ってしまいます。 

他にも旧華族の美形探偵、榎木津礼二郎や精神不安定で卑屈な小説家、関口巽など京極堂の周囲の面々も、物語の面白さを盛り上げる強烈な人物ばかりです。 

同じ世界での物語を描いたシェアードワールド小説も出版されるほどの人気の登場人物と世界観を、ぜひ堪能していただきたいです。

計算された狂気?稀代のアンチ・ミステリー小説

推理小説ではありますが、ここでは探偵と助手の名コンビが難事件を解決することもなければ、少年探偵団もでてきません。また、ヨレヨレのトレンチコートを着込んだ警部も登場はしません。

そこには、記憶を失くした一人の青年、精神病棟を舞台とした妖しく幻想的な世界が描かれています。読んだ人は精神に異常をきたすとまでいわれた、大胆で奇抜、不条理とさえ思える展開。読者はページをめくるごとに、主人公と同じく混乱と狂気へ引き込まれます。

「ブウウーーンンン」という時計の音とともに目を覚ます主人公、それまでの記憶を完全に失っています。自分は何者かを模索する中、若林鏡太郎という法医学教授が現れ、ここが精神病棟であること、過去に凄惨な殺人事件があり、失われた記憶が関連していると伝えられます。

著者
夢野 久作
出版日


推理小説でありながらアンチ・ミステリーの巨編と謳われた、夢野久作独自の正気と狂気が交差する世界が待ち受けています。

一読では必ず迷い込む、破綻と混乱の迷宮。江戸川乱歩が「わけのわからぬ小説」と評したことからも、本作の不可思議な力が伺い知れます。

また、作品の持つ独自の雰囲気に目を奪われがちですが、ループやメタ表現、「信頼できない語り手」のようなトリック小説の技法が使われていることにも着目すべきでしょう。

構想と執筆に10年以上の歳月を費やされた本書は、1935年に刊行されたにもかかわらず、色褪せることのない魅力、個性を持っています。

個性の強い作風でありながらも、手に取る方が絶えない作品です。さまざまな作家やクリエーターに影響を与えつづける、夢野久作の世界。幻想的な狂気の世界に訪れてみませんか。

複雑なトリックに引き込まれる

1949年12月10日、東京の汐留貨物駅で異臭が発端となり牛革の黒いトランクの中から身元不明の遺体が発見されます。トランクの中には被害者のものであろう壊れた眼鏡と筑後柳川発折行の切符が入っていました。

警察はトランクを福岡県から郵送した記録から麻薬の密売人でマークをされていた1人の男性を犯人と割り出し、捜査をします。しかし、容疑者は行方をくらまし、捜査は難航するのです。

警察はこの男性の妻に事情聴取を行い、よく使っていた防空壕跡の物置があったと聞き出し確認をします。すると、壊れた眼鏡の破片と万年筆のキャップが見つかったのです。

その後、兵庫県の別府の沖合で青酸カリを摂取し自殺したと思われる容疑者の死体が見つかります。自殺で、捜査は終息に向かう予定でしたが、妻が主人は殺人を犯すほど度胸の据えた人間ではない、と待ったをかけるのです。そこで、学生時代自分を巡り主人と争った現在警部の男性に助けを求め事件の真相を突き止めるための幕が開いていきます。

著者
鮎川 哲也
出版日


作品はまさに最後の最後まで読まなければわからず、読後はすっきりするトリックが隠されているので王道の推理ミステリーといえるでしょう。最近は、読みやすいミステリー小説が増えてきていますが、しっかりとした本格ミステリーに触れたいひとにはぜひおすすめの1作品となっています。

思わずあっぱれと言いたくなる

大阪の刑務所で刑に服していた前科2犯、犯行歴126回の男性が刑務所内で身代金を目的とした誘拐を企てます。刑務所内で仲間をスカウトし、その話を聞いた別の男性が自ら仲間入りに志願し計3名と共に出所後計画を練るのです。

目をつけたのは、紀州1の富豪と呼ばれ、最近所有している山を自分の目で見るために出歩いている老婆でした。誘拐する機会を伺い実行したのですが、その老婆はちっとも臆せず、さらには犯行を成功させるための手助けをし始めます。隠れ家を提供したり、元は5000万円であった身代金を100億円でなければだめだと口出ししてきたりと意表をつく人物であったのです。この誘拐計画は成功に終わるのか、ハラハラとする気持ちが最後まで続きます。

著者
天藤 真
出版日


この作品で思わずさすがだなと呟いてしまう部分は、誘拐された人物が計画に荷担してくるというところでしょう。今まであまりなかった題材ですので、一気に心を捕まれ引き込まれていきます。しかし、読中になぜ誘拐された人物が一生懸命協力をするのか疑問に思うでしょう。そこがこの小説のみそになっており、読後は老婆にあっぱれと言いたくなること間違いなしの結末が待っています。

そして、この作品のネタバレをしてしまうとハッピーエンドになっています。老婆側か犯罪者側のものなのかそこを楽しみながら読めば一層楽しいです。空前絶後の推理小説をぜひこの機会にお楽しみください。

貴志祐介が描く、切ない殺人者の完全犯罪

舞台は湘南。名門高校に通う櫛森秀一は、母と妹と三人で穏やかに暮らしていました。しかし、10年前に母が再婚しすぐに離婚したという養父の出現によって、歯車が狂い始めます。

曽根というその男は横暴で、母だけでなく妹の体にまで手を出そうとする卑劣な人間でした。秀一は法的手段に訴えますが、そこに立ちはだかるのは、警察も法律も家族を守ってくれないという冷たい現実。

家族の幸せと平凡な日々を取り返すため、秀一は自らの手で曽根を葬り去る事を決意し……。

著者
貴志 祐介
出版日
2002-10-25


通学路でもある海岸沿いを、秀一が愛用のロードレーサーで走り抜ける場面からこの物語は始まります。

名門校の中でも優等生の秀一は、何でも要領よくこなすスマートな性格の持ち主。憎き曽根を「強制終了」させる事を決め、「ブリッツ」と名付けた殺人計画を綿密に練り始めます。

頭の切れる秀一は、行動力も情報収集力も抜群。不法な薬物の入手も、難なくこなしていきます。しかしそこに見え隠れするのは、17才という多感な年頃特有の未熟さと傲慢さ。本人なりの理屈や知識で物事を咀嚼しつつも、えも言われぬ恐怖や戸惑いといった感情を、うまくコントロールできません。

聡明な頭脳と抜群の行動力を駆使し、一見するとまさに完全犯罪と呼べる秀一の計画。しかしそこには常に、悲劇的な影が重苦しくのしかかっています。家族を守るためにと闘う秀一ですが、実のところ守られるべきなのは秀一本人だったのでは。そんな思いがよぎるほど彼の孤独は大きく、またその情操面は非常に脆いのです。

物語が進むにつれ、秀一という少年の成熟と未熟の不釣り合いが顕著になっていきます。多くの知識で作り上げられた「大人っぽさ」は次第に崩れ、後に残るのは成長し切れていない精神面。孤独や恐怖と闘う秀一の心象風景が、非常に繊細に書き上げられています。

事件を追いながら犯人を憶測するミステリーとは違い、この物語は犯人側から描かれたミステリーです。緻密な計画を実行する時の緊張感や、警察がじりじりと迫ってくる恐怖は、心理が克明に描き出される作風ならではといえるでしょう。

また要所要所で描かれる湘南や相模湾の情景の美しさが、孤独な少年の苦悩と悲しみをさらに際立たせます。主体はミステリーでありながら、少年ゆえの浅はかさや儚さに胸が詰まるような、青春物語の一面も持った作品です。

「花」をテーマにした名作短編集

『戻り川心中』は、連城三紀彦による「花葬」シリーズが収録された短編集です。事件の真相を追う極上の謎解きと共に、情緒あふれる美しい世界観を堪能することができ、名作中の名作と絶賛される1冊となっています。

日本推理作家協会賞を受賞した表題作の「戻り川心中」では、主人公が大正時代の天才歌人、苑田岳葉の死の真相に迫っていきます。

苑田岳葉は、生前2度の心中未遂事件を起こしていました。いずれも相手の女性だけが亡くなり、生き残った歌人は事件についての歌を完成させた後、結局自ら命を絶ってしまいます。

世間では、愛する女性との心中の失敗を苦に、自殺を図ったと考えられていましたが、小説家であり彼の友人でもあった主人公は、事件について調べるうちに、意外な真相にたどり着くことになるのです。

著者
連城 三紀彦
出版日

次から次へと新しい真実が明らかになり、徐々に事の全容が明らかになっていく過程にどんどん惹きつけられていく作品です。物語には歌人が詠む様々な歌が登場するのですが、綴られている言葉のひとつひとつがとにかく美しく、その芸術性の高さに思わず酔いしれてしまいます。

その他の短編でも、恋愛要素を織り交ぜた雰囲気たっぷりのミステリーが展開され、どの物語でも「花」が重要な意味を持って登場してきます。犯人探しよりも犯行の動機に焦点が当てられ、明らかにされる登場人物たちそれぞれの想いに、心を揺さぶられるような感情が湧き上がることでしょう。

まさに奇書!難解なのに目が離せない傑作ミステリー

数ある日本の探偵小説の中でも、とりわけ難解なことで知られている小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』。三大奇書のひとつとしても有名な作品で、探偵役の法水麟太郎が披露する深すぎる知識の数々に、読者は奇怪と混乱の世界へと引きずり込まれていきます。

神奈川にある、通称黒死館と呼ばれている降矢木の館で、殺人事件が発生しました。弦楽四重奏のヴァイオリン奏者、グレーテ・ダンネベルグ夫人が何者かに毒殺されたのです。これまでにも奇怪な事件がたびたび起こってきたこの館は、いつかまた不可解な事件が起こるのではないかと人々に噂されていました。

そんな不思議な降矢木家で起こった殺人事件と聞いて、法水の目は輝きます。事件を伝えに来た支倉検事と、熊城捜査局長と共に調査に乗り出し、黒死館を訪れたのでした。ダンネベルグ夫人の遺体を見て一同は息を飲みます。なんとも不思議な光が遺体全体を覆い、その光は皮膚から放たれているようでした。しかも夫人のこめかみには、降矢木家の紋章の一部によく似た切り創が残されていて……。

著者
小栗 虫太郎
出版日
2008-05-02

作品内では、神学や悪魔学などのオカルト的知識や、心理学や薬学などについての専門的な知識が、法水を通して惜し気もなく披露され、その全てを理解するのは到底不可能なことのように感じてしまいます。それでも、物語全体に漂う怪し気な雰囲気だけはひしひしと伝わってくるため、気づけばその文体から目が離せなくなっているという、不思議な感覚を味わうことになります。

難解な知識で溢れ、一見読み進めるのも困難な作品ですが、理解しようとせずただ文章に身を任せて読んでいけば、いつしか黒死館というおどろおどろしい世界の虜になっているかもしれません。まさに「奇書」としか言いようのない本作。読書が好きな方には、ぜひ1度チャレンジしてみていただきたい1冊です。

死者が蘇る特殊な設定が面白い人気推理小説

死んだ人間が蘇るという、ミステリーの中でも奇抜な設定が目を引く、山口雅也の『生ける屍の死』は、長い時を経てもなお人気の衰えない傑作長編推理小説です。

1900年代末期、アメリカ各地では死者が次々と蘇るという、なんとも奇怪な現象が発生していました。そんな中、ニューイングランドの郊外で「スマイル霊園」を営み、巨額の富を築いたバーリーコーン家では、当主のスマイリーに死期が近づき、遺産分配の話が持ち上がります。

当主の孫である主人公の青年グリンをはじめ、一族が揃って屋敷に集められました。ところが、なんとグリンが何者かに毒物を盛られ死亡。自室で蘇ったグリンは、自らの死の真相を暴くべく、周囲に死んでいることを隠して調査を開始するのです。

著者
山口 雅也
出版日

タイトルの印象とは異なり、物語にはいたるところにブラックユーモアが散りばめられ、コミカルなミステリー作品になっています。全体を通して「死」をテーマに描かれており、宗教、医療、歴史などの知識がふんだんに取り入れられていますが、とても読みやすく綴られているため、すんなりとこの一風変わった世界観に入り込むことができます。

死者は生前となんら変わらない様子で蘇る一方、身体の腐敗を止めることはできません。様々な人物描写から、その登場人物が生きているのか、死んでいるのかを推測するのも面白く、興味深く読んでいくことができます。

死んだ人間が次々と生き返る特殊な世界であるにもかかわらず、犯人はいったいなぜ殺人を繰り返すのでしょうか。明かされる犯行動機には驚きを隠せません。その手腕に感動すると共に、なんと言えない切ない余韻を残す印象深い作品になっています。

個性的な名探偵が大活躍するシリーズ作品

ハンサムなのにどこか風変わりな名探偵、亜愛一郎が活躍する泡坂妻夫の短編集『亜愛一郎の狼狽』には、秀悦なトリックが仕掛けられた、極上の短編8つが収録されています。

著者のデビュー作であり、「亜愛一郎」シリーズ第1話となる「DL2号機事件」では、愛一郎が飛行機の爆破予告についての真相を暴きます。

DL2号機に爆破予告が入ったため、空港で警備に当たっていた羽田刑事。結局機が爆破されることはなく、無事フライトを終え着陸したのですが、爆破予告があったことを知る実業家の柴が搭乗していたため、「警備体制が甘い」と猛抗議を受けてしまいます。

そんな中、羽田は雨の中夢中になって写真を撮る、変わった3人組の男と出くわしていました。そのうちの1人の男が、柴が降りてきた階段をしげしげと観察しており、羽田に「カメラマンの亜愛一郎です」と名乗ります。翌日、講義を受けたこともあり柴邸へと向かった羽田は、またしても写真を撮る愛一郎と再会したのでした。

著者
泡坂 妻夫
出版日

どの短編もそれほど長いものではなく、ひとつひとつが独立したストーリーであるため、気軽に楽しむことのできる作品です。見惚れてしまうな美しい風貌の持ち主でありながら、運動神経が皆無で雲や虫をこよなく愛する、亜愛一郎の突飛なキャラクターに心を奪われるのではないでしょうか。どこまでも論理的で鮮やかな推理が小気味よく、探偵小説の醍醐味を堪能することができます。

コミカルでゆるい世界観であるにもかかわらず、仕掛けられたトリックの完成度はすこぶる高く、そのギャップにたまらない魅力を感じる方も多いことでしょう。ストーリーもリズムよく展開されていくため、難しい推理小説は苦手という方でも、安心して楽しむことができる小説です。

ほのぼのとした気分になれる北村薫のデビュー作品

『空飛ぶ馬』は、女子大生と落語家という異色のコンビが、日常の中に潜む些細な謎をテーマに交流する連作短編集。北村薫のデビュー作であり人気シリーズ第1弾となった作品です。

第1話である「織部の霊」は、主人公の女子大生「私」と、落語家の春桜亭円紫の出会いの物語です。

文学部の「私」は、あることがきっかけで加茂教授の紹介を受け、落語家の円紫と出会いました。集まりの席で、古典落語の「夢の酒」が話題に上ったことから、加茂教授は幼い頃によく見た夢の話をはじめます。

幼少の頃、教授は叔父の家に行くと、決まって男が切腹する夢を見ていました。その夢の男は焼き物作家の古田織部で、実際に切腹した人物なのですが、当時の加茂教授はもちろんそんなことは知りません。存在すら知らなかった男が、なぜ何度も夢に出てきたのか。教授はずっとそのことが気になっていました。

著者
北村 薫
出版日

殺人事件が一切起こらないミステリーとして人気を博した本作は、探偵役となる円紫の軽妙な謎解きと、円紫との交流を通して成長していく主人公の「私」の姿が、温かい文体で綴られた物語です。

日常で出会うちょっとした謎がテーマになっているとは言え、展開される推理は人間の本質を突いた本格的なもの。読んでいて思わずハッとさせられる場面が多々あり、要所要所で考えさせられてしまいます。

落語についての話題も頻繁に登場するので、興味のある方はより楽しめることでしょう。円紫師匠の優しいキャラクターがとにかく魅力的で、落語がまったくわからなくてもすんなりと物語の世界に浸ることができます。人が死んでしまう推理小説は苦手という方には、文句なしにおすすめの作品ですから、ぜひ1度読んでみてくださいね。

純文学作家による本格ミステリー!

太宰治らとともに無頼派と呼ばれ、数々の名作を残した作家、坂口安吾による推理小説『不連続殺人事件』は、純文学の傾向が強かった著者による推理小説とあって、刊行当時から大きな関心を集めました。作品は絶賛を受け、探偵作家クラブ賞を受賞しています。

1947年6月。小説家であり主人公の「私」は、文士仲間の歌川一馬に誘われ小料理屋を訪れていました。一馬は、この夏に歌川邸には、事情がありさまざまな人間が集まることになっていて、どうにも落ち着かないので、昔からの文士仲間も誘い一夏を一緒に過ごそうと考えているという話をします。

一馬は「私」にもぜひ来てもらいたいと言うのですが、妻の京子に相談したところ、そんな話はまっぴらだと断られ、「私」も歌川邸に行くことを断念したのでした。

ところが7月に入り、一馬から1通の手紙が届きます。「恐るべき犯罪が行われようとしている」「君と巨勢博士だけが頼みだ」と書かれた手紙には、「私」、京子、巨勢博士にと、3枚の切符も同封されていました。こうして歌川邸に向かった 3人だったのですが、着いてみると一馬はそんな手紙は出していないと言います。そして、なんと作家の1人が刺されて殺されているのが見つかり……。

著者
坂口 安吾
出版日

巨勢博士とは、小説家になることを目指している若者なのですが、小説を書くのは下手でも、人間の心理を読み取ることに関しては天才的な力を発揮する、という特異なキャラクターです。あまりにその手腕が見事なため、文学者たちから博士と称されており、物語はこの巨勢博士を探偵役として犯罪心理に焦点を当て、スピーディかつスリリングに展開されていきます。

序盤から次々とクセのある人物が登場し、しかもそれぞれの人間関係が複雑に絡み合っているため、頭の中で相関図を整理するのには少々苦戦することになるかもしれません。

ですが、殺人事件がこれでもかと頻発する独特なストーリーは面白く、語り口も軽妙なため、読んでいてどんどんその世界観に引き込まれていきます。複雑な人間関係の裏に隠された真相が明かされた時、驚きとともに何ともいえない切なさを感じることでしょう。

絶賛を受けた江戸川乱歩のデビュー作品

『二銭銅貨』は、かの有名な名探偵「明智小五郎」を生み出したことでも知られる、江戸川乱歩のデビュー作です。本作は暗号解読ものとなっていて、日本で最初の本格推理小説とも言われ、高い評価を受けました。

「私」と松村武が、6畳1間の下宿部屋でゴロゴロと貧乏暮らしをしていた頃、世間ではある事件が注目されていました。

通称「紳士泥坊」が、給料日当日の電気工場へ朝日新聞の記者を装って侵入し、職工の給料として用意された現金5万円を盗んでいったのです。

刑事の必死の捜査が功を奏して犯人逮捕となったものの、「紳士泥坊」は5万円の隠し場所を白状しないまま懲役となってしまいました。困ったのは被害を受けた工場で、支配人は懸賞金をかけて5万円の行方を捜すことを発表したのです。

そんなある日、銭湯から帰って来た「私」に、松村が興奮した様子で机の上の二銭銅貨をどこで入手したのかを聞いてきます。松村は、その二銭銅貨に隠されたある秘密に気づき、なんと懸賞金のかかった5万円を見つけたと言い出したのでした。

著者
江戸川 乱歩
出版日

冒頭、物語は「あの泥坊が羨しい」という印象的なセリフで幕を開けます。貧乏な生活を送る青年2人のやり取りは、大正時代に発表されたものとは思えないほど読みやすく、情景を自然と脳裏に思い浮かべることができるでしょう。作り込まれた暗号の解読もとても面白く、興味深く読み進めていくことができます。

そして、この作品の最後に用意された驚きのどんでん返しには舌を巻くばかり。著者のイタズラ心を垣間見るかのようなストーリー展開で、ファンならずとも楽しめる作品になっています。

短編なので気軽に読むことができますから、ミステリーが好きな方や、古典に興味のある方はぜひ一度読んでみてくださいね。

名探偵・神津恭介が難事件に挑む!

高木彬光による本格推理小説『人形はなぜ殺される』では、明智小五郎、金田一耕助と並び「日本三大名探偵」と称されている、神津恭介が事件解決に挑みます。

ある日、「日本アマチュア魔術協会」の会員たちによって、新作マジックの発表会が行われました。メンバーである水谷良平と京野百合子のペアは、人形とギロチンを使ったマジックを披露することになっていたのですが、発表会が行われている最中に、その人形の首が盗まれてしまいます。

偶然にもその場に居合わせた推理作家の松下研三は、奇妙な盗難事件に不安を感じ、友人の神津恭介に相談するもなかなか相手にしてくれません。そんななか、人形と同じようにギロチン台で首を切られ殺害された、百合子の遺体が発見されてしまうのです。そして続けざまに、破壊された人形と同じように殺害された、第2の被害者が出てしまい……。

著者
高木 彬光
出版日
2006-04-12

容姿端麗で頭脳明晰な名探偵、神津恭介が登場するシリーズ作品のなかでも、代表作といわれている人気ミステリーです。

怪奇的な雰囲気漂う世界観にどんどん引き込まれ、ついつい夢中になって読んでしまいます。鮮やかなトリックの数々は、今読んでもまったく色褪せることなく、ミステリー小説の醍醐味を思う存分堪能できることでしょう。

被害者が殺害される前に、なぜ必ず人形が先に「殺される」のか。本作ではその謎がもっとも重要な鍵を握ります。

作品内に「読者への挑戦」が用意されているのも面白いところ。謎解きが得意な方は、ぜひこの難問に挑戦してみてはいかがでしょうか。

昭和の未解決事件を下敷きにした傑作社会派ミステリー

昭和史に残る未解決事件、「グリコ・森永事件」を題材として描かれた、高村薫の長編推理小説『レディ・ジョーカー』。上・中・下の3巻からなる大作となっており、毎日出版文化賞を受賞しました。

競馬仲間である物井清三、松戸陽吉、布川淳一、半田修平、高克己の5人が、大手ビール会社「日之出ビール」の社長誘拐を計画しました。

労災で2本の指を失った青年松戸、警察体制に不満を感じている警察官の半田、在日朝鮮人の高、障害を持つ娘を抱える元自衛官の布川。この4人が日之出ビールの差別問題を知る物井によって集められたのです。

5人は布川の娘の愛称から取った「レディ・ジョーカー」という名前を名乗り、日之出ビール社長の城山恭介を誘拐。3日後には城山を解放し、続いて日之出ビールの製品に異物を混入するなどして、商品を人質とし、身代金20億円を要求したのでした。

著者
高村 薫
出版日
2010-03-29

本書は、警部補の合田雄一郎が登場する、シリーズ第3弾となる作品です。物語は複数いる重要人物たちの視点を巡るように、交互に語り手を変えながら展開されます。さまざまな社会問題や人間関係、組織の不条理などが複雑に絡まり合っていくため、先が気になり最後まで目が離せません。企業や経済について知らなかったことを教えてくれる作品でもあり、読み応えたっぷりの重厚な社会派ミステリーとなっています。

すっきりとは終結しないラストが、逆に現実の世界をリアルに描き出しているようで、読後は物悲しい気分も湧き上がるのではないでしょうか。何ともいえない余韻に、さまざまなことを考えさせられる、時間を忘れて読みふけってしまう傑作です。

妖艶な悪女が引き起こす怪事件から目が離せない

山田風太郎による連作短編集『妖異金瓶梅』は、中国の「四大奇書」の中のひとつ『金瓶梅』をモチーフに、オリジナルとなる独自の物語が描かれています。

舞台となるのは宋時代の中国。県下でも名の知れた豪商である西門慶(せいもん けい)は、8人の夫人や取り巻きたちを屋敷に住まわせ、毎日のように性の饗宴をくり広げていました。第1話の「赤い靴」では、この屋敷で起こる最初の怪事件が綴られています。

第4夫人の孫雪娥(そん せつが)は夢遊病の気があり、罪人を生きたまま徐々に切り刻んでいく「凌遅刑」を見物してからというものの、人形の手足をちぎりながら徘徊することが増えていました。

そんななか、第7夫人の宋恵蓮(そう けいれん)と第8夫人の鳳素秋(ほう そしゅう)が、両足を切り取られ殺害されるという事件が発生。雪娥が真っ先に疑われたものの、屋敷に居候する西門慶の友人、応伯爵(おう はくしゃく)はまったく違う推理を展開させるのです。

著者
山田 風太郎
出版日
2012-06-22

妖艶で残虐な雰囲気が作品全体を漂い、女の情念の恐ろしさを感じさせる作品となっています。物語は応伯爵を探偵役として、ひとつの短編にひとつの事件が描かれる形で進んでいきますが、それぞれが絶妙に繋がっていく過程が素晴らしく、壮大な長編小説としても読むことができるでしょう。

作品内には、艶かしいほどの魅力を放つひとりの悪女が登場します。恐ろしいのに惹かれてしまう独創的なキャラクターとなっていて、読んでいて思わずこちらまで魅せられてしまいます。原作となる『金瓶梅』の、官能的かつ非道な世界観を巧みに活かし、本格的なミステリーに仕上げる著者の手腕には脱帽するばかり。圧巻のトリックや壮絶な結末を、ぜひ堪能していただければと思います。

職業知識で展開していくミステリー短編集

 

更生保護施設・かすみ荘の施設長・設楽結子は、自転車の飲酒運転で女児を死なせた入所者が遺族から送られた手紙のことを気にしていて……「迷い箱」

消防署員の諸上将吾がほのかに想いを寄せるシングルマザー・新村初美宅も延焼に遭い、彼女の4か月の娘が家に残されていて……「899」

刑事・羽角啓子の自宅近所に住む老女が居空き窃盗事件の被害に遭い、間もなく、過去に啓子が捕まえたことのある窃盗の常習犯が逮捕・拘留され……「傍聞き」

間もなく結婚予定の救急隊員の蓮川は、逆恨みで刺された検事の葛井の救急搬送に向かうのですが、その搬送中に蓮川の上司・室伏は救急車を迷走させ……「迷走」

この4本が収録されています。救急救命士や警察官や消防士が職業柄持っている知識を使って展開していく長岡弘樹のミステリーです。

 

著者
長岡 弘樹
出版日

どのお話もラストは救いがあって、ほっと温かい気持ちになる人情もののミステリーと呼べるのではないでしょうか。ぜひ読んでみてくださいね。

ちなみに、表題作のタイトルにもなっている『傍聞き』とは、信じさせたい情報を別の人に喋って、それを聞かせる漏れ聞き効果のことだそうです。

2人の男の奇妙な東京散歩

主人公、文哉は大学生ながら借金を抱えていました。そんなとき、「100万円払うから、一緒に散歩をしないか」という提案をしてくる借金取りの男、福原に出会います。

文哉はその男との散歩の中で、自分の記憶をめぐっていくのです。

著者
藤田 宜永
出版日

 

まず思い浮かぶのが、「現実逃避」という言葉でしょう。

現実逃避というのは、精神的なことを言う場合が多いですが、この作品は、散歩という形でまさしく「現実逃避」しているのではないかと思わされます。

物語では、散歩の中で、文哉と福原の過去が明かされていくのです。文哉の借金は、ストリッパーの女に振り回されたことがきっかけでした。

一方福原は、妻を殺したことがあると明かします。全体的に暗い、しかしその暗さが、東京と彼らの闇を表現しているのかもしれません。

『転々』という題名は、東京を転々とする事と、2人の気持ちや人生そのものが転々としていることすら表していることが分かります。

藤田宣永特有のミステリー要素もありますが、文章でも魅力を持っている内容といえるでしょう。特に、東京を散歩するということで、散歩の細かい描写のシーンが数多くあります。

二人の関係が徐々に縮み、会話が増えていくことも魅力の1つといえるかもしれません。

そして、ラストは意外な真実が明かされます。ミステリー作家ならではの仕掛けに、思わず驚くこと間違いなしでしょう。

またこの作品は、かなり内容は異なりますが、映画化されていることでも有名です。そちらもおすすめできる作品なので、併せてご覧ください。

 

日本語の美しさに魅せられる圧倒的な傑作

竹本健治によって描かれた『涙香迷宮』は、暗号ミステリーの最高峰との呼び声も高い1冊。2017年、「このミステリーがすごい!」第1位に選ばれ、さらに本格ミステリ大賞を受賞しました。

IQ208を誇る若き天才囲碁棋士・牧場智久は、対局を終えた直後に知り合いの刑事と出会い、殺人事件の現場へと一緒に向かうことになりました。被害者の身元は不明。背中を刺されており、遺体の周辺には碁石が散乱しています。囲碁の対局をしていたにしては、散らばっている碁石の数が多過ぎるようでした。

その日の夜、恋人の類子と共にミステリ・ナイトに参加した牧場は、麻生という男に声をかけられて意気投合し、明治の偉人・黒岩涙香の隠れ家へと発掘調査に行くことになります。ところが彼らは隠れ家で、驚くべきものを発見してしまうのでした。

著者
竹本 健治
出版日
2016-03-10

本作は、牧場智久の活躍を描いた人気シリーズの一作です。殺人事件の謎と、黒岩涙香が遺した暗号を解明していく渾身の作品となっており、著者によって創作された、暗号の仕込まれた「いろは歌」は圧巻の一言。日本語とはこんなにも美しいものだったのかと、感動に胸が震えます。

スピーディーな謎解きを楽しむというよりは、神がかった超絶技巧によって創り出された、言葉の魔法に酔いしれる1冊。神秘的とすら感じるその技には驚嘆するばかりです。我こそはという方は、この難解な暗号に挑戦してみてはいかがでしょうか。

報道のあり方について考える。重厚なヒット作品

日本人の女性フリーライターが遭遇する、ネパールで起きた殺人事件を描く推理小説『王とサーカス』。人気作家、米澤穂信が執筆する本作は、実際にネパールで起きた事件がモチーフとなっています。過去には「このミステリーがすごい!」で1位に輝いた作品です。

新聞社を辞め、フリーの記者となった太刀洗万智は、旅行記事の取材のためネパールを訪れました。同じ宿の客たちや現地で知り合った少年らと交流しながら、取材を進めていたのですが、その矢先、予想もしていなかった大きな事件に遭遇することになります。

ネパール国王を始め、王宮に集まっていた8人の王族たちが殺害されてしまったのです。容疑者の皇太子は自殺を図り重体。前代未聞のこの事件で、国全体に衝撃が走りました。太刀洗は、記者としてこの事件の取材を開始するのですが、取材の申し込みをした王宮の警備官が、遺体となって発見されてしまい……。

著者
米澤 穂信
出版日
2015-07-29

事件の謎に惹きつけられると共に、報道とは何か?ということを深く考えさせられる作品です。なんのために伝えるのか?どのように伝えれば良いのか?自問自答を繰り返しながらも、自分なりの答えを見つけていく主人公の姿が印象深く心に残り、同時に、それを受け取る側の私たちにも、重い疑問が投げかけられているのです。

事件の展開、ネパールの風景、そしてそこに住む人々、全てがリアルで、作品全体が臨場感に溢れており、文章もとても読みやすいので、一気に読み進めることができるでしょう。本を閉じた後も、様々な思いが脳裏を巡る重厚な作品になっています。

『そして誰もいなくなった』を彷彿させる本格ミステリー

雪山に不時着した飛行船の中で、次々と起こる凄惨な連続殺人事件を描き、鮎川哲也賞を受賞した『ジェリーフィッシュは凍らない』。市川憂人のデビュー作となる本書は、「21世紀版『そして誰もいなくなった』」とも称されている話題作です。

舞台となるのは、「真空気嚢」という新技術を使い、小型飛行船が開発された世界。最終確認試験のため、6人の開発メンバーが飛行船「ジェリーフィッシュ」へと乗り込みました。ところが航行テスト中、メンバーの1人が死亡しているのが発見されます。更には、自動航行プログラムがトラブルを起こし、「ジェリーフィッシュ」は雪山に不時着してしまったのです。

飛行船内で起こる惨劇と並行して、物語では事件後に行われている、警察の捜査の様子が描かれていきます。乗組員たちは全員が他殺体となって発見されました。一体何があったのか……。2人の刑事、マリアと九条が、この不可解な事件に挑んでいきます。

著者
市川 憂人
出版日
2016-10-11

事件と捜査を行き来しながら進んでいくストーリー展開がスリリングでどんどんのめり込んでしまい、読む手が止まらなくなる作品です。刑事コンビのコミカルな掛け合いが心地よく、重苦しくなりがちな残酷な事件とのバランスを、絶妙なものにしています。1つずつ謎が解けていく様子から目が離せなくなり、明かされるトリックや真相には思わず膝を打ってしまうでしょう。

事件の展開や謎解きに焦点の当てられた、シンプルな構成がわかりやすくて読みやすく、推理小説に慣れていない方でも飽きずに読み進めることができるはず。二転三転しながら訪れる結末が、魅力的な余韻に包まれている、おすすめの本格ミステリーです。

タイトル当てが話題となった斬新すぎる推理小説

早坂吝のデビュー作であり、メフィスト賞受賞作品の『○○○○○○○○殺人事件』。タイトルの伏せ字部分を読者に推理させる、一風変わった試みが話題になった1冊です。

主人公の沖健太郎は、アウトドアが趣味のごく平凡な公務員。毎年夏になると、フリーライター成瀬のブログで知り合った7人のメンバーで、オフ会(現実世界で集まること)を開催するのが恒例となっています。開催場所はメンバーの1人で資産家の、黒沼重紀が所有する無人島。ところが今年の夏は、成瀬が恋人の上木らいちを連れてきたため、メンバーが1人増えていました。

派手な女子高生らいちの登場に困惑したメンバーでしたが、すぐに打ち解け一行は島へと到着します。ところが、思う存分バカンスを楽しんだ次の日の朝、メンバーの浅川史則と、黒沼の妻である深影の姿がなく、クルーザーも消えメンバーたちは孤島へと閉じ込められてしまうのです。そして、メンバーの1人が密室状態の部屋で殺害されているのが見つかり……。

著者
早坂 吝
出版日
2017-04-14

謎多き登場人物たちと、クローズドサークルで発生する密室殺人事件。王道ミステリーとも言える展開には、思わずわくわくさせられてしまいます。わかりやすく読みやすい文体のあちこちに伏線が張り巡らされ、読み応えは十分。トリックも古典ミステリーを彷彿とさせるものになっています。

ラストには、それまで見ていた世界ががらりと姿を変える、どんでん返しが用意されており、心底驚かされる一方、その奇抜な種明かしに笑いがこみ上げたり呆然としたり。とにかくそのインパクトの強さが心に残り、忘れられない推理小説となること請け合いです。

物語が幕を開ける前に、いきなり「読者への挑戦状」からスタートするという、なんとも斬新なこの作品。タイトルにはあることわざが入ります。興味のある方は、ぜひこの謎解きに挑戦してみてはいかがでしょうか。

女探偵が活躍するハードボイルドなシリーズ作品

若竹七海によって執筆された推理小説『さよならの手口』は、どうにも不運が付きまとう女探偵、葉村晶の活躍を描く人気シリーズの中の1冊です。

探偵を休業中の葉村晶は、現在知り合いが経営するミステリー専門書店でアルバイトをしています。ところが古本の回収作業に行った先で、建物の倒壊に巻き込まれてしまい負傷。しかもそこで白骨化した遺体を見つけてしまいます。葉村は意識をなくし入院することになりますが、入院先まで話を聞きに来た刑事に、白骨遺体についての推理を話し、事件を解決に導きました。

そのことをきっかけに、同じ病室に入院している元女優、芦原吹雪から、20年前に行方不明になった娘の調査を依頼されます。

著者
若竹 七海
出版日
2014-11-07

登場人物たちは皆一癖も二癖もあり、キャラクター設定がわかりやすいので混乱せずにストーリーを追うことができます。受難続きの女探偵には同情してしまうこともしばしば。それでも決して折れることなく、冷静に問題と向き合っていくハードボイルドな姿に胸を打たれます。

主人公はシリーズとともに歳を重ねており、本作でもとても魅力的に描かれています。様々なプロットが絡まりあい、謎が謎を呼ぶストーリー展開は秀逸。最後までドキドキしながら読み進めることができるでしょう。シリーズを知らない方でも、問題なく楽しめる作品ですから、気になった方はぜひ1度その世界観を覗いてみてくださいね。

むせ返るほどの美しい狂気

舞台は第二次世界大戦中のドイツ。男児をレーベンスボルンという私生児出産施設で産んだマルガレーテは、クラウスという医師と結婚します。このクラウスはカストラート、去勢された男性歌手の育成に異常な情熱を燃やしています。フランツとエーリヒというジプシーの孤児を養子に迎え、仲睦まじい家族となりますが、戦争の渦に飲み込まれていきます。

著者
皆川 博子
出版日


人体実験、秘密結社、古城に眠る絵画。推理小説ファンを魅了するパーツが随所に散りばめられています。しかし血生臭く感じないのは、皆川博子の表現力のおかげでしょう。たとえば、マルガレーテから語られるこの一文。

「その子供の声は、澄んだ鈴の音よりも透明で、水車がはねる水玉のようにかろやかで、蜜の糸のように聴く人をからめとった。」
(『死の泉』より引用)

子供の声を表現するのにも手を抜かない、皆川博子の美しい表現力が、この推理小説をどこか幻想的な物語にしています。

小説はあとがきから読む、という方に一つだけ忠告を。この推理小説のあとがきは物語の一部であり、また醍醐味となっていますので、決してあとがきから読むことのないように……。

宮部みゆきの代表作!

ある日、遠い血縁関係にある男性から彼の婚約者の関根彰子を探して欲しいと刑事の本間俊介は頼まれます。しかし、彼はある事情から休職中だったのです。それでも彼は自らの意思で姿を消し、足取りも徹底的に消している彰子を疑問に思い、捜し始めます。どうして彰子は姿を消したのか?また、どうして徹底的に自分の存在を消さねばならなかったのか?謎に満ちた彰子の失踪。深まる謎。果たして、本間俊介は彰子を捜し出すことはできるのか?そして、彼女の正体とは?

作品は山本周五郎賞に輝いています。

カード社会をより忠実に描き、リアリティを追求されています。

著者
宮部 みゆき
出版日
1998-01-30


この作品の魅力はなんといっても直接的に犯人を描写しているシーンが一切描かれていないという事です。

詳しくは話せませんが、犯人を直接的に描写しないように細心の注意を払って描かれた作品で、犯人を描写しない事ばかりを意識しすぎて、肝心の内容がちゃんと物語として成り立っているのか心配しましたが、そんな事は一切ないのです。

犯人を描写しない、物語として成り立っている。この二つを完璧にこなした作品はとてつもない作品になっています。

衝撃!この一言に尽きる!ミステリーの中のミステリーです。この本を読み終えた後、この本の凄さに衝撃を受けます。読まなきゃ損です。

エドガー賞ノミネートで話題に!

深夜の弁当工場で働く弥生という主婦が旦那からあざができるほど殴られ、しかも貯金していた500万円をカジノゲームのバカラに使い込んだことを聞いてかっとなり、ついには旦那を殺してしまいます。

相談を受けた雅子は助けてやろうと、金を貸していたヨシエ、雅子が準社員になることを見越して付き合っていた邦子を引き入れ、死体をバラバラにしていろいろな場所に捨てるのですが、邦子の往来のずぼらさがたたって死体の一部が発見されてしまいます。全く関係のないバカラ店のオーナーが容疑者として連行されてしまい……。

著者
桐野 夏生
出版日
2002-06-14


動き出した歯車は決して止まらず、4人の運命はどん底まで落ちていきます。その様子が暗示されているのがよくわかるセリフがあります。

「ね、人間、転がるのなんて簡単だね」
 ヨシエがつぶやくと、雅子は気の毒そうにヨシエを見た。
「そう。あとはブレーキの壊れた自転車が坂道転がるようなもんだよ」
「誰にも止められないってことかい」
「ぶつかれば止まるよ」
 自分たちは何にぶつかるのだろう。この先、曲がり角の向こうには何が待っているのだろう。ヨシエは恐怖に戦いた。
(『OUT』より引用)

姑の世話。金銭的な問題。娘の進学と、さまざまな事情を抱え飛び立つことのできない主婦たち。そこから脱却することができるのか、現代社会における実際の問題を提示したこの推理小説は、アメリカのエドガー賞にノミネートされ話題になりました。桐生夏生は「日本もだんだん世界に近づいてきた」と語ったそうです。内容のヘビーさ故に気軽に読むことができないかもしれませんが、ここまで現実的な推理小説があるでしょうか。桐野夏生にしか書けない世界をぜひご堪能ください。

ミステリーの名手が描く、少年の復讐劇

辻村深月といえば推理小説の名手ですが、その中でも作者自身が自信作だと言った作品が『ぼくのメジャースプーン』です。

不思議な力を持った少年と、幼なじみの少女の物語です。ある日学校で陰惨な事件が起き、少女は心を閉ざしてしまいます。反省する気のない犯人に、少年は自身の不思議な力を使って復讐を企みます。その不思議な力とは一度きりしか使えないものなので、どれぐらいの罰を与えるのがいいのかと慎重に考えるのですが、同じ能力を持つ親戚の先生の指導も受け、その時をじっと待ちます。そしてどういった行動に移るのか、少年の出した答えとは?

著者
辻村 深月
出版日


小学校四年生ということもあり文章は読み易いのですが、内容はしっかりとしており、ただ重い作品というだけではなくどこか希望を見出すことのできる秀作です。反省しない犯人に憤りを感じ、罰を与えるということは同時に自分が加害者になるということ。それでも少女を救いたいと一生懸命な少年の姿に涙が誘われます。罪をなんとも思わない犯人、実際にいますよね。この作品では不思議な力という武器がありましたが、現実での武器は何があるのでしょうか?考えさせられる物語です。

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辻村深月の書籍をジャンル別にランキングで紹介!文学賞、映像化、初期、短編

辻村深月の書籍をジャンル別にランキングで紹介!文学賞、映像化、初期、短編

思春期の少年少女の心理を描くことで、定評のある辻村深月。作風は、透明感のある文章と、各作品で登場人物がリンクしているのが大きな特徴と言えるでしょう。直木賞や本屋大賞を受賞し、多くの作品が映画・ドラマ化されている彼女の著作をジャンル分けして紹介したいと思います。

篠田真由美のデビュー作

18世紀のオーストリア。雪に閉ざされたベルンシュタインブルク城館の、密室となっていた書庫で、当主の伯爵が背中を短剣で刺されて死んでいました。

たまたま城にいた客人フランチェスコ・プレラッツィが謎を解こうと奮闘しますが、次々と惨劇が起こってしまうのです。古城にいるのは、伯爵の子供たちや妻、兄弟たち。近親憎悪が渦巻く古城で、真相は明らかになるのでしょうか。

著者
篠田 真由美
出版日

古城となる舞台や、美しい若き城主や薄幸の美少女などの登場人物、城をさまよう過去の亡霊、加えて、人間関係の在り方なども独特で、中世ヨーロッパならではの世界を堪能することができます。もちろん、密室ミステリーとしても、秀逸です。

なお、探偵役となるプレラッツィは、人間らしい血の気を感じさせない古代ローマ彫刻のような端正秀麗な顔をしており、代表作「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズの桜井京介を思わせます。

新津きよみが描く、交差する二人の心情

とあるニュータウンの二世帯住宅。一階に住む河野祐二・史子夫婦は、裕二の兄夫婦が海外赴任になったことを機に、阿部数彦・なつき夫婦に二階を貸すことになりました。

パッチワークが好きで大人しい性格の史子と、キャリアウーマンのなつき。当初はうまくやろうとする二人ですが、家に対する思い入れの違い、なつきの妊娠、過去におきた2つの悲劇を背景に、次第にお互いへの不信を募らせていきます。

著者
新津 きよみ
出版日

 

「女の生きる道に二つあるとしたら、わたしは右を選び、彼女は左を選んだ。」「自分が選んで歩む道は間違っていない、と思いたいものです。」(『階上に住む女』より引用)

家という閉ざされた空間で交錯する、違う生き方を選んだ二人の女の感情は、物語が進むにつれ閉塞感がましていき、読みながら息苦しさすら覚えます。

なつきの家の床の汚れが許せず留守中にこっそり掃除に行く史子や、トラウマを克服し友人であるなつきの力になろうと明るく振舞っていたにも拘らず、直後に精神のバランスを崩した恵……。「普通」の女性が抱える生きづらさが随所に描かれています。そして最後にあかされる史子の秘密を知ったとき、「普通」の影にある狂気に、思わず戦慄することでしょう。

 

服部まゆみが提示する、切り裂きジャックの真相とは?

1888年、日本人の柏木薫は、国費留学生としてベルリンで解剖学を学んでいました。ある日、友人から聞いたエレファント・マンの話に興味を持ち、ロンドンに向かった柏木。ロンドンでは友人の下宿に部屋を借り、エレファント・マンに会うためにロンドン病院に通います。その最中、連続娼婦殺傷事件が発生。犯人は、切り裂きジャック。柏木は友人とともに、切り裂きジャックの謎に巻き込まれていき……。

著者
服部 まゆみ
出版日

1996年に発表された『一八八八 切り裂きジャック』。ヴィクトリア朝時代のロンドンの街並みや道徳を描きながら、医学留学生の柏木と、スコットランドヤードに勤める鷹原のコンビが歴史上の謎である、切り裂きジャック事件の真相に迫ります。エレファント・マンという実在の人物と、切り裂きジャックを巧みに絡めて、著者が考える真実を提示するのです。

本書の魅力は、実在の人物を登場させる点です。その数、なんと100人以上。当時の王侯貴族から巡査や子どもに至るまで、実名という徹底ぶり。実在の人物を絡ませることで、よりリアリティを楽しめることでしょう。

女流ミステリー作家代表宮部みゆきの傑作小説

物語は、何の前触れもなく始まります。公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見されます。

バッグの持主は、三ヶ月前に失踪した古川鞠子の物だったのです。事件が発覚したある日の事、テレビ局に一本の電話がかかります。電話に出るや否やそれは「犯人」からだったのです。

「犯人」が電話をかけてきた理由は、公園で発見された若い女性の右腕は鞠子のものではないという内容だったのです。

長編ストーリーだけに、一行一行が物語を左右するのではないかと緊迫感に溢れています。

著者
宮部 みゆき
出版日
2005-11-26


この作品で一番印象的だったのはラストに描かれている真一とのシーンです。愛する孫娘を死に至らしめた犯人と奮闘し続ける有馬義男。そんな有馬義男が公園で泥酔し、泣きながら真一に「だって鞠子は帰ってこねぇよ」と泣き叫ぶ場面。

孫娘を死に至らしめた犯人は交通事故で亡くなるというなんともあっけない結果だったのです。
そんな中で、有馬は孫娘が帰ってこないという現実を痛感させられ、今まで張り詰めていた思いが犯人の死をきっかけに溢れ出し、泣き叫びながら言った言葉につながっているのだと思います。

緊迫感に溢れた作品です。

ハラハラドキドキするのに有馬が号泣した場面を読むと、自分になぜか罪悪感に襲われます。これは作品に対して、感情移入をしている証拠だし、なんといっても作品がそういった何らかの感情を味あわせてくれます。

時々見せるシビアな部分は、作品をより一層引き立て、とても考えさせられる作品です。

おすすめの推理小説をご紹介しましたがいかがでしたでしょう。たくさんの読者から愛される不朽の名作ばかりです。素晴らしい推理小説で、ぜひ素敵な読書時間を満喫してみてください。

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