思春期の少年少女の心理を描くことで、定評のある辻村深月。作風は、透明感のある文章と、各作品で登場人物がリンクしているのが大きな特徴と言えるでしょう。直木賞や本屋大賞を受賞し、多くの作品が映画・ドラマ化されている彼女の著作をジャンル分けして紹介したいと思います。
1980年生まれの山梨県出身である辻村深月のデビュー作は『冷たい校舎の時は止まる』。これは、彼女が高校生のころから書き始めた作品です。その後大学四年間で書き上げられたというこの作品はかなりの長編で、枚数制限の関係と、大ファンである綾辻行人の『十角館の殺人』と同じレーベルから出版されることからメフィスト賞に応募し、見事受賞しました。
デビュー作以後の受賞歴については、2010年に吉川英治文学新人賞を『ツナグ』で受賞し、2012年は『鍵のない夢を見る』で直木賞にも輝きました。2018年『かがみの孤城』で本屋大賞にも選ばれるなど注目されている作家です。
若者の微妙な心情や揺れる感情を捉えた文章が特徴の一つ。また各作品の世界観が密接にリンクしており、単独作品ではあるものの登場人物の動きを追うことができるシリーズ作品のような側面も持っています。主に初期作にその傾向が強いので、刊行順に楽しむのもありでしょう。
ここからは辻村深月の作品を、文学賞の受賞・候補作、ドラマ・映画化されたメディアミックス作品、初期作品、短編などジャンルに分けて紹介していきます。
瀬戸内海に浮かぶとある島に住む4人の高校生たちの物語。フェリーで本土にある高校に通う彼らは、卒業とともに島を出ることになっています。別れの日が近づいているある日、「幻の脚本」を捜しているという青年に彼らは声をかけられるのでした。たった4人だけの同級生たちの青春を爽やかに描く、そんな作品です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2016-07-15
この作品はいつか巣立っていく、別離の日が待ち構えている、そんな高校生たちの姿が描かれています。島という土地が育む仲間意識、そして外部へと与えてしまう疎外感、排他性、そういった点が娯楽性のあるストーリーとともにスポットが当てられているのです。
小さな島にいるからこそ見える人のよさ、そして小さな島だからこそ出ていく人の醜さ。そういったものをすべて内包して、子供たちを見送る大人たちの覚悟や、高校生たちの想いが生き生きと本の上を踊っているよう。
『スロウハイツの神様』に出てくる、とある人物も登場するので合わせて見るのもいいでしょう。ちょっと昔の友達に会いたくなる素晴らしい青春物語です。
「うちのクラスの転校生は何かがおかしい――」
クラスになじめない転校生・要に、親切に接する委員長・澪。
しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
唐突に「今日、家に行っていい?」と尋ねたり、家の周りに出没したり……。
ヤバい行動を繰り返す要に恐怖を覚えた澪は憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。
身近にある名前を持たない悪意が増殖し、迫ってくる。一気読みエンタテインメント!
(KADOKAWA公式サイトより引用)
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
『闇祓』は辻村深月初の本格ホラーの長編作品ということで、読後ゾッとする感覚を味わいたい方へおすすめの作品です。「優れたホラー作品はどれも優れたミステリー作品の要素を持つ」と語る作者。1章ごとに学校や会社など舞台・主人公が入れ替わるものの、ストーリーは徐々につながっていき最後に1つの結末にたどり着くという仕掛けがあります。
悪意があるなしに関わらず、自分の思いを一方的に押し付けてしまったという覚えが誰しもあるでしょう。悪気はないけれど、どこか冷静な判断を欠いて自分の心の弱さで相手を不愉快にさせてしまった。辻村はその心の弱さのようなものを「闇」、そしてその行為を「闇ハラ(ハラスメント)」としています。
1章ごとにフーダニットが仕掛けられ、本当の元凶が最後までわからなくなっています。元々は設定説明の段階で真相をほとんど明かすつもりだったという作者。辻村深月のミステリ作家としてのエンターテイナー精神を深く感じることができます。
理想の教育を掲げた集団生活をおこない、「カルト」とも批判された組織「ミライの学校」。施設撤退後の敷地から、子どもの白骨死体が発見されます。
30年前に「ミライの学校」の夏合宿に参加し現在は弁護士となった主人公・法子は、その骨は当時施設で共同生活を送っていた少女・ミカのものなのではないかと予感するのです。
現在と過去の視点が入れ替わりながら、それぞれの人物の心理に深く迫る物語となっています。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
『琥珀の夏』で随所に織り込まれる過去のパートで辻村深月は、小学校に入る前の年齢の人物を一人称とすることに初挑戦。ミカの視点から、「先生」と呼ばれる組織の大人たち、敷地にある「泉」、先生との「問答」を感じたままに描きます。「子供だからって世界に対する感覚や思考が狭いとは限らない」と作者は語ります。
また、辻村深月が繰り返しテーマに選んできた「ふたりの女性」の物語がテーマになっている点も本作の魅力。楽しかった夏合宿の記憶。法子は骨がミカのものであってほしくないと願ってやみません。同時に、親の子どもに対する責任についても考えさせられる物語となっています。
遺体の身元の追究というミステリー要素は前半の3分の2ほどで、後半はガラッと作品の雰囲気が変わります。自分の奥底に閉じ込めていた「琥珀」のように美しい記憶が、過去の呪縛から解放されて現実の自分へと語り掛けてくるような怒涛の展開が待っています。
『かがみの孤城』をはじめ、辻村深月を文学賞の受賞作で知っているという方も多いのではないでしょうか。そこで辻村深月の著作から、各賞の受賞・候補作に選ばれたものを紹介。ECサイトの売上ランキングや検索数などを元に独自のランキングを作成しました。
主人公は、藤子・F・不二雄を敬愛する写真家の父を持つ女子高生です。父親が突然失踪して五年経った夏の日、図書館で彼女は一人の青年に「写真を撮らせてほしい」と声をかけられます。やがて父を継ぐ写真家になる女性の高校時代を回想する形で、成長していく姿が描かれ、その隣にあるのは「ドラえもん」の少し、不思議な世界でした。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2008-11-14
作品の特徴はなんといっても辻村深月自らファンであるという、藤子・F・不二雄への愛を感じさせる、ドラえもんのオマージュがいっぱいに詰まっていることです。
たとえば各章のタイトルは、馴染みのあるドラえもんの秘密道具の名前からとられています。作中でも彼女はたびたび秘密道具の名前を口に出したり、藤子・F・不二雄の「ぼくにとって『SF』は、サイエンス・フィクションではなく『少し不思議な物語』のSFなのです」という言葉から「スコシ・ナントカ」という言い回しを好んで使ったりと、彼女の周りはそんな世界で満ちているのです。
やや独特の暗さがありますが、何となくドラえもんが読みたくなる、そんな作品に仕上がっています。またこの作品は『スロウハイツの神様』に繋がっているので、そちらと合わせて読むのもおすすめです。
主人公は小学四年生の「ぼく」。ぼくは同い年の「ふみちゃん」に憧れを懐いています。ふみちゃんは分厚いメガネをかけ、ズルを嫌い、人と違うものの見方をし、顔をからかわれても「仕方がない」と笑う女の子です。そんなふみちゃんと幼なじみの「ぼく」は、ピアノの発表会でふみちゃんを「声」で元気づけたりして、親交を深めました。
とこらがある日、ふみちゃんが大切にしていた学校のウサギがバラバラにされて、彼女は心を閉ざしてしまいます。学校に来なくなり、「ぼく」の呼びかけにも答えなくなってしまいました。
犯人は医学部の学生である市川雄太です。一見恵まれた環境にいる彼の動機は「面白いと思った」。面白半分でうさぎを殺したうえ、第一発見者であるふみちゃんにもひどい言葉を投げつけた彼が、法律では「器物破損」でしか裁かれないと知ったぼくは、いてもたってもいられなくなり「声」の「先生」をたずねます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
この小説の読みどころは、物語中盤の「ぼく」と「先生」のやり取りでしょう。とてもわかりやすい言葉で、命や倫理、世間の常識などの問題を語っていきながら、なおかつ「ぼく」が本当はどうしたいかを整理していきます。おかげで、実は「声」に不思議な能力を宿しているぼくが、市川雄太に会うと決め、そしてどういう「声」をかけるか、覚悟を決めていくことができました。
小説のタイトルにある「メジャースプーン」とは、ぼくがふみちゃんから貰ったもので、いわゆる計量スプーンのことです。ふみちゃんの好きなうさぎの形があしらってあります。
このメジャースプーンが、単に思い出深い道具にとどまらず、象徴的に扱われているところも、注目すべき点でしょう。
この物語のぼくの武器はあくまで「声」です。「声」とは? そしてぼくの「覚悟」とは? 落ち込んで、心が揺さぶられる作品を読みたいときに、おすすめの小説です。
主人公は長野県にすむ普通の中学2年生、14歳の小林アン。母親が『赤毛のアン』が大好きで、この名前がつきました。
アンは学校では「リア充」と呼ばれるグループにいて、芹香や倖とバスケットボール部に所属しています。その中でのいじめや確執。母親の思い通りになりたくないという葛藤に悩んでいます。
アンの隣の席にいる、徳川勝利は教師の息子で、「ショーグンJr」と呼ばれ、クラス内での冴えない「昆虫系」に属し、どちらかといえば目立たなく、浮いている存在です。そんな徳川も、人には知られたくない秘密を抱えて苦しんでいるのです。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2015-05-20
徳川にアンは「自分を殺してくれない?」と依頼をします。「いいの?」と聞き返す徳川。「これは、悲劇の記憶である」という出だしから始まる「悲劇の記憶ノート」に殺され方、自分の死後に徳川にして欲しいことなどを書いていくアン。
アンと徳川が起こしたい「事件」は、意外な、予想もつかない結末で幕を閉じます。その結末とは?
クラスの上下関係や家庭での悩み、大人が読めば、自分にもあったと懐かしく感じるでしょう。物騒でグロテスクな表現もありますが、アンと徳川の成長した、不思議なくらいに爽やかなラストシーンまで一気に読んでしまいます。
依田いつかが感じた違和感、それは撤去されたはずの看板でした。高校生のいつかは、ある日三か月前の時間にタイムスリップしていることに気付く。そのことと同時に、記憶に浮かんだのは同級生の1人が自殺するというものでした。とにかくその自殺を止めなければいけない、そう思ったいつかは同じ中学出身の坂崎あすなにわけを話し、協力を求めます。あすなはそれを真剣に聞き、友人である長尾秀人にも事情を説明し、彼の人脈で椿と敬もメンバーに加わってきます。高校生たちは自殺する同級生を見つけ出し、止めることができるのか。自殺をテーマにした青春ストーリーです。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2010-09-15
この話はとにかく構成が見事としか言いようがありません。詳しく説明してしまうと読んだときの楽しみを奪うことになるのでここではあえて触れませんが、読み終わった後もう一度初めから読み直したくなることでしょう。全てを知ったうえで見直すと、物語の別の側面が見えてくる作品です。
舞台となるのはアニメーション制作業界です。この作品はシーズントップである覇権アニメを目指す、業界の人々が描かれた群像劇作品になります。アニメ業界に即したお仕事小説で、アニメが好きな人たちの熱い気持ちがダイレクトに伝わってくる、力強い作品です。
第一章は憧れの監督、王子千晴と仕事がしたくて業界に飛び込んだ有科香屋子の物語です。ストック3話、シナリオは完成していない、そんな状態で起こった監督の失踪。はたして制作は間に合うのか、監督はなぜ失踪してしまったのか、というお話です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2017-09-06
香屋子たちのアニメ「運命戦線リデルライト」と同じシーズンに放送される「サウンドバック 奏の石」の制作現場の話が二章の内容になります。やり手監督である斎藤瞳が出した企画はロボット少年ものシリーズ。一章とは別にひたすらに制作現場、その場所で様々出来事に翻弄されながらもなんとか作品を完成させようとする監督の姿が書かれた章です。
残りの物語もアニメーターと町おこし公務員のお話、最後には彼女たちの次のステップへと移るところが書かれています。一つのアニメが作り上げられるまでにこれほどまでの障害があるのかと考えされる一作。ですが、とっても明るく楽しい物語です。
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『ハケンアニメ!』の魅力3!アニメ業界が舞台の小説を結末までネタバレ!
アニメといえば日本を代表するエンタメコンテンツ。「国民的アニメ」と呼ばれる作品も数多く、これまで国内外を問わず人々を魅了してきました。では、アニメを制作する人は、どのような方々なのかご存知ですか?今回は、アニメ制作の現場で奔走する人々の、笑いあり涙ありの物語を描いた本作の魅力を、ネタバレを含めながらご紹介します。
2012年に映画化され、一躍その名を轟かせた『ツナグ』。生者と死者の再会という奇跡を前にした時、人は何を思い、何を得るのか。その答えが、丁寧に描かれた作品です。
生者と死者を1度だけ再会させる職業、使者(ツナグ)。その使者の元を、様々な事情を抱えた人々が訪れる形で物語は進行していきます。
恩人との再会を望むOL、祖母にどうしても聞きたい事がある工務店社長、友人に対する後悔を抱えた女子高生、そして真実を追い求めるサラリーマン。性別・年齢も異なる彼らは、死者への想いを胸にそれぞれ使者の元を訪れ、各々のドラマを繰り広げていきます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2012-08-27
死者との再会で救いを得る者、そうでない者。自分なりの答えを見出した者に、改めて自分の未来を見つめなおす者。結末はそれぞれですが、死者と向き合った彼らからは確かな変化と、成長が見て取れます。
また、本作を語る上でもう一つ欠かせないのは、使者である渋谷歩美の存在です。基本的に冷静なスタンスを崩さない彼ですが、それだけに物語の随所で見せる激情や戸惑った姿からは年相応の若さが見受けられ、読み手に親しみと微笑ましさを同時に感じさせてくれます。
使者という生業を通して、彼は何を見出すのか。現役の高校生である彼が、どうして使者の役目を担うことになったのか。そして、使者の存在意義とは何なのか。これら作中の根幹にかかわる問いへの答えは、作中で彼の姿を追っていくことで明らかになるでしょう。
たった1度しか許されない、生者と死者の再会という奇跡。それはある意味、とても残酷で厳しい選択を迫るものであるのかもしれません。
それでも、もし1度だけその奇跡が許されるというならば。あなたは、誰との再会を望みますか?
『ツナグ』は2012年に松坂桃李、樹木希林、佐藤隆太らの俳優陣によって映画化されています。
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特撮ヒーローでのデビュー以来、多様な役柄を演じてきた俳優・松坂桃李。好青年からクズ男、ミステリアスな犯罪者まで、演技の幅は留まるところを知りません。映画『娼年』では、ベッドシーンの演技が話題になり、注目されました。 この記事では、松坂桃李が演じた役柄と作品について紹介します。
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まっすぐで熱い演技と優しい笑顔で、好感度の非常に高い役者・佐藤隆太。本格的に出演したテレビドラマ『池袋ウエストゲートパーク』でブレイク後、数々の映画やドラマに出演、順調にその役者人生を歩んでいます。 この記事では、そんな佐藤隆太が演じた役柄と実写化された作品について紹介します。
ホテル・アールマティで働くウェディングプランナー山井多香子。25歳まで勤めていた小さな出版社を辞めてプランナーになる専門学校へ入り、転職して5年が経ちました。
11月22日の大安吉日。ホテル・アールマティでは4組の結婚式が行われ、この4組の結婚式を時系列で、各カップルのそれぞれの登場人物と、多香子の目線で語られていきます。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2014-01-25
結婚式当日にも関わらず、新婦の加賀美妃美香は一卵性双生児の姉の鞠香と入れ替わりをしてしまいます。
多香子が結婚式の担当をしている、自分の非を認めないクレーマー新婦の大崎怜奈は、どこか憎めないキャラクター。
白須りえの甥っ子の真空は、大好きなりえちゃんが東君に殺されると思い込み、ある行動を起こしてしまいました。
鈴木陸雄は、実は結婚しているのに浮気相手のあすかと結婚式をあげることになっています。
登場人物の目線の語りで話が進み、しかもどんどん語る人物が入れ替わるので、読み慣れるのに少し時間がかかりますが、次第に話に引き込まれていきます。
後半起きる騒ぎにより、物語は大きく方向転換。幸せになれるのかどうか不安しかなかった4組のカップルはどうなってしまうのか。411ページと少し厚く感じてしまいますが、あっという間に読み終えてしまう作品です。
2012年にはテレビドラマ化、多香子を優香が演じました。他出演者についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
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クリエイターが集うシェアハウス、イメージとしては現代版トキワ荘といったところでしょうか。そんなアパート、「スロウハイツ」が舞台となる作品です。メインとなるのは「小説で人を殺した」人気作家のチヨダ・コーキと、スロウハイツの家主である脚本家の赤羽環。そして、そこに新しく入ってきた女性、加々美莉々亜の存在で、変革を始めるアパートの物語です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2010-01-15
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
上下巻構成のこの作品、上巻ではたくさんの伏線が張られ、それを下巻で一気に回収していくという形になっています。この伏線回収があざやかで見事としか言いようがない出来で、それがなんとも気持ちがいいのです。チヨダ・コーキが「小説で人を殺した」と言われることになった10年前の事件とは、と聞くと少し不穏な感じがしますが、実際は心温まる青春ストーリーなので、安心して読むことができます。『凍りのくじら』の主人公も出てきますので、そちらも注目です。
狐塚孝太と月子、木村浅葱は同じ大学に通う仲間です。その大学の周辺で連続して殺人事件が起こります。
その一連の殺人事件は、i(アイ)とθ(シータ)、二人の間で進められる残忍で取り返しのつかないゲームでした。なぜそんなゲームが続けられるのか?その理由はシータである浅葱の悲惨な過去にあります。その悲惨な過去以来、分かれ離れになっている双子の兄「藍」が、姿を見せないiであると浅葱は思い込んでいるのです。ゲームが終了したときに2人が再会できるというルールのため、浅葱はゲームをやめることができません。
そんな殺人ゲームに狐塚孝太と月子は巻き込まれていきます。孤独な浅葱が唯一心を引き寄せる相手が月子であり、月子は孝太を慕っているからです。3人の関係に加え、それぞれの交友関係にも複雑な交友関係が存在しています。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2008-05-15
人間関係、とりわけ学生時代のそれは、「きっとこう思われている」、「こうに違いない」という思いとそれを取り繕う表面的な付き合いに縛られていたりします。それは性格だったり、初対面の時の印象であったり、些末なことかもしれません。そんな不安定な付き合いの先の本音がほとばしる瞬間に「え、そうだったの」「そんな風に思ってたのか」という本心で交流できるタイミングが到来します。本心で交流できるかどうかでその後の付き合いが変わっていくのです。
辻村深月は登場人物の心情、それも一人の心に宿す複数の心情を縦横無尽に描くことができます。そのいくつもの心情を組み合わせ、物語を大胆に展開していくのです。そしてその展開に読者は振り回され、ますます物語に引き込まれていきます。
人間関係と殺人ゲームを組み合わせた展開や重要な伏線、あえて終盤に明らかにされる事実により、物語は全く想定外の結末へと至ります。
明るく爽やかな青春物語も多い辻村深月ですが、『子どもたちは夜と遊ぶ』は、人間の人格や性格など心の奥底を題材にするもう1つの辻村ワールドです。ぜひとも手に取って、心の奥底の描写を楽しんでみてください。
小学生時代や中学高校時代をふりかえると、感激したり落ち込んだりした時のような強い印象とは別に、ちょっとした出来事を鮮明に憶えていることがあります。どうしてそのシーンだけ切り出して憶えているのかはわからないけれど、そのシーンはしっかりと憶えているのです。
そんな思い出に、実はあなたはこんな風に考えてたり思ってたりしたんじゃないか、相手はこんなことを考えていたんじゃないか?といった感じで、辻村深月が言葉にしてくれます。表題作である短編「ロードムービー」は小学校で特別な友達になったトシとワタルの2人の思い出です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2011-09-15
ワタルの父親が経営する会社が清算されることになり、2人は別れ離れになることになります。別れ離れになりたくないトシは借金分である1,000万円を身代金として親に要求し、2人で家出するのです。
子どもだけの2人の逃避行は3日目にあっけなく終わります。トシとワタルが一緒に家出するほどの仲になった理由は、学校内で相性が合う2人を仲間外れにするようなイジメでした。2人が一緒に乗り越えてきたその過程を、辻村深月がやさしく丁寧に綴ります。
顔をあげて、胸を張って生きていくことは小学生であっても大変な勇気がいることです。そして、それを友達としてお互いに支えていく友情はとても大切です。本書を読んで、改めてそんなことを思い出します。
少年少女時代の心の動きを丁寧に綴った辻村深月ワールドを楽しみながら、ご自分の「あの頃」を思い出してみてはいかがでしょうか。
『光待つ場所へ』は、表面的な付き合いが得意ではない主人公たちの、心の奥を描いた短編集です。本当はこんな風に思っているんだけど、そんなのはよくないことなんだと思い込んでいる人たちがいます。そんな人たちが、自分の思うとおりに生きてもよいんだと気づくまでの心の変遷が描かれた物語集です。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2013-09-13
短編「しあわせのこみち」は小さい頃から絵が上手かったあやめの物語です。あやめは自分の絵の才能と他人の絵の才能をいつも比較し、自分の才能は他人よりも優れていると自覚してきました。そしてそれ以外の才能、例えば恋愛といった才能は諦めていたのです。そんな心の奥底を理解して接してくれる友達、田辺に出会います。
彼の作品を見た時、あやめは初めて自分にはかなわないという敗北感を抱くのです。でも、そんな彼と接していくうちに、あやめと考え方が似ていることがわかります。才能がありながら実は必死になって絵と向かいあう彼の姿勢を知り、彼を好きになり、自分の絵に対する思いを改めるのです。そしてあやめはこれまでとは違った想いがあふれる絵を描き、賞を取ることができます。自分の想いを絵に表すことができ、思いを遂げたのです。
いつでも自分自身でいいんだ、という物語を紡いでくれる辻村深月はやっぱり人の想いをきちんと表現してくれる作家です。日々の生活がやるせなくなったとき、『光待つ場所へ』を手に取り、ほっとしてみてはいかがでしょうか。
いかがでしょうか。青春の胸の痛みを存分に感じ取れ、そして最後にはほっとできる、それが辻村深月の作品の大きな魅力です。ぜひそんな時代を思い出しながら、読んでみてはどうでしょうか。