漫画をとおして、往年の人気プロレスラーに会える!そんな夢のような作品が、1980年代に「週刊少年サンデー」で連載されていた梶原一騎・原作、原田久仁信・作画の『プロレススーパースター列伝』です。 当時の日本で人気だった実在のプロレスラーを題材として、証言などを元にして彼らの半生を描いています。今回の記事では、そんな本作の魅力をご紹介。スマホアプリから無料で読むことも出来るので、ぜひそちらからどうぞ。
1980年代は、日本におけるプロレスの人気絶頂期でした。アントニオ猪木率いる新日本プロレスと、ジャイアント馬場率いる全日本プロレスは、まさに2大巨頭。
そのカリスマに惹き付けられるように、新日本の藤波辰巳や全日本の長州力、あるいはジャンボ鶴田や天龍源一郎といったスーパースターが生まれたのです。
- 著者
- ["原田 久仁信", "梶原 一騎"]
- 出版日
- 1981-03-15
本作『プロレススーパースター列伝』はそういった時流に合わせて、当時有名ながら謎に包まれていた外国人選手を中心として、彼らの半生を描いた漫画です。
物語は各章で分かれており、スポットの当たったレスラーの全盛期の活躍が紹介された後に、その人生を振り返る形で進んでいきます。
半分伝記に近い内容となっており、原作者の梶原が本人から聞いた話なども盛り込まれていますが、事実の誇張や誤って伝わっていた内容も含まれるようです。
基本的にそれらは、作品のエピソードを盛り上げる役割を担っています。事実と異なる内容に不信感を抱く読者の方もいるかもしれませんが、プロレスとは本来そういった誇張込みのエンターテインメント。深く考えるずにこの漫画をも、「プロレス」として楽しんだ方がよいかもしれません。
梶原一騎(かじわら いっき)は1936年9月4日生まれで、1987年に亡くなった漫画原作者です。小説家や映画プロデューサーとしても活躍しました。
代表作はなんといっても、1966年に原作を担当した『巨人の星』でしょう。少年・星飛雄馬が読売ジャイアンツを目指す、スポ根漫画の金字塔です。
これだけでも凄いのに、『あしたのジョー』(名義は高森朝雄)や漫画『タイガーマスク』など、数々の大ヒット作品を生み出しました。
その顔の広さからプロレス業界にも親交があり、それが本作誕生にも繋がったのでしょう。
- 著者
- 原田 久仁信
- 出版日
- 2009-05-23
原田久仁信(はらだ くにちか)は1951年11月3日生まれの漫画家です。
1978年に「増刊少年サンデー」でデビューし、その2年後の1980年に梶原に指名されて『プロレススーパースター列伝』の連載を始めました。なんと、本作が彼のキャリアのスタートだったのです。
梶原の逝去後はヒットに恵まれず、清掃員やラーメン屋での仕事を兼業するなど、苦労をして過ごしました。そして2007年、プロレス関連のムック本から漫画の依頼を受け『プロレス地獄変』を発表します。これを機に、彼に再び漫画の依頼が舞い込んでくるようになります。
2019年2月からは、およそ35年ぶりに「週刊プロレス」で『スーパースター列伝』棚橋弘至編を開始しました。
本作は、当時人気絶頂だったプロレスラーメインの漫画だけに、登場人物がとにかく濃い!
タイガーマスクなど、プロレスに詳しくない人手も知っている超有名人から、タイガー・ジェット・シンやミル・マスカラスなど、プロレス好きも唸る名選手まで、ずらりと名を連ねています。それが当時の熱気を反映するかのように、凄まじい熱量で描かれているのです。
表舞台から裏舞台にわたって詳しく描写されるのは、ひとえにプロレス界に縁深い梶原の人脈の成せる技でしょう。それに加えて作中のアントニオ猪木による解説「アントニオ猪木・談」が、物語の熱さを際立たせます。
ちなみに、こちらは創作をメインに書かれた内容となっているため、猪木本人が言ったかどうかは定かではありません。
アントニオ猪木、ジャイアント馬場、アブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガーマスク、あるいはハルク・ホーガン、スタン・ハンセン。いずれも時代を築いたスーパーヒーローレスラーです。時代は流れ、彼らもすでに引退し、なかには天寿をまっとうした者も。
往年の輝きは、今や古いプロレスファンの胸の中……。
しかし、本作で描かれるレスラーは違います。全盛期の猪木や馬場、ブッチャーやタイガーマスク、彼らの1番光り輝いていた時代をそっくりそのまま、作中のエピソードで切り取っているのです。本作には、80年代の熱気がぎっしり詰まっています。
さらに往年の名レスラーの熱い試合だけでなく、意外な素顔に出会えるのも魅力。試合でアツい姿を見せてくれる彼らも、普段は見られないプライベートな姿の彼らも、どちらにも会うことができるのです。
往年のスター選手が題材であるためか、作中では印象的な台詞が多々登場します。本当に言ったかどうかはさておいて、言っていておかしくない迫力と説得力があるのです。そんな名言をご紹介しましょう。
なお、元は小学館のタイトルですが、他社からも何度か復刻されているため、バージョンによっては巻数表記にズレのある場合があります。ご了承ください。
ひょっとするとある意味で………
おれにとってイノキは……
永遠の恋人なのかな?
(『プロレススーパースター列伝』6巻より引用)
呼ばれもしないのに、猪木の興行に殴り込んで数々の因縁を生み、日本とカナダに跨がって死闘をくり広げたタイガー・ジェット・シン。幾度も猪木と直接対決をした彼のエピソードが、この名言で締めくくられました。
ニヤリとした笑顔で言ったこのセリフ、いったいどういった意味が込められていたのでしょうか。
弱肉強食のプロの世界で、
はじめから友情など期待するやつはバカだ、お人好しだ。
(『プロレススーパースター列伝』12巻より引用)
格上のスタン・ハンセンと競うように頭角を現した、ハルク・ホーガン。彼はある時から、ハンセンに試合を邪魔され始めます。
その時にホーガンは師匠ヒロ・マツダの言葉を思い出すのです。ハンセンの邪魔はライバル心の裏返しであり、彼らは対等な関係になったのだ、と。
本作はノンフィクション風のプロレスラー伝記漫画なので笑いの要素はあまりないのですが、独特のユーモアというか、おかしみのあるシーンがあちこちで出てきます。
その筆頭が、作中で描かれる無数の試合のうち、どのレスラーでも決まって上げる悲鳴「ホゲ~~ッ」です。これは作品の名物のようなもので、後年梶原が語ったところによると、意図的に強調していたそう。
きみはノドがかわいとらんか?
アップル・ジュースをおごるから口をあけな
(『プロレススーパースター列伝』1巻より引用)
こちらは、圧倒されながらつい笑ってしまうシーン。
ブッチャーへの秘密兵器として呼ばれたフリッツ・フォン・エリックが、自身のほどを聞かれた記者に、返答代わりに素手でりんごを搾って見せます。本家本元のアイアン・クローの威力と同時に、ブラックな笑いを引き起こします。
これ以外には、ホーガンとハンセンがビアジョッキを傾けるシーンも特筆すべきでしょう。元ネタである13巻のシーンでは、ビールを飲んで親交を深める場面でした。
が、本作と離れた場所で、本来「ワン・モア(おかわり)!」となる台詞が「麦茶だこれ」などと改変されて、インターネット・ミーム化しています。
いかがでしたか?近年ではかつてほどの勢いはありませんが、日本のプロレスは確実に一時代を築いたジャンル。本作を読めば、当時凄かった熱気の一端に触れることが出来るでしょう。