「何も無い」と嘆く暇があったら『そして生活はつづく』を読んでみな。

更新:2021.11.18

「『なにげない日常』の中には『なにげない日常』しかない。」 そんなわけで私はいま、北の大地にいる。

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記念すべき連載第3回目は、中川町からお送りします。

北海道は中川町からこんにちは。日本大学文理学部社会学科・吉野真悟です。私はいま、大学の研究で中川町に来ています。

ご存じでない方はいないとは思いますが、いちおう中川町について軽く説明をしておきます。

中川町は、北海道の北部に位置する人口1500人ほどの小さな町です。人口規模は小さくとも、面積はおよそ東京23区ほどの大きさを誇ります。町面積の約8割を森林が占めるだけでは飽き足らず、町の下から上までを広大なる天塩川が流れる、自然豊かが過ぎる町です。さらに、昔々は海の中に在ったためにクビナガリュウやアンモナイトの化石が発掘されたり・野菜を栽培できる日本最北限の地であったりと、ロマンとビタミンのあふれる町でもあります。

中川町は、私が通う日本大学のある下高井戸と地域間交流があり、私たちのグループはその交流についての研究をしております。2017年に私たちの研究成果として制作・公開した映像ドキュメンタリーが大絶賛の大盛況であったことをよいことに。今回はその映像ドキュメンタリーの続編を制作するということで、遂に中川の中側へと足を踏み入れたというわけです(前作はYouTubeにアップされておりますので、気になって夜も眠れないという方はご自身の健康のためにも試聴をお勧めします。超大作です。『ナカガワのナカガワから─下高井戸の中の北海道中川町』で検索検索)。

「何も無い」が有る町・中川町。

「何も無い」が有る町・中川町。

中川町滞在2日目(2019.03.27.)の朝。研究取材の空き時間を使って、商工会の事務局長さんが雪山を案内してくださいました。3月下旬にも飽きもせずに吹雪いており、山を登り始めた途端にオジロワシに出迎えられたり・下り道をでんぐり返りで転がり続けたり・鹿の群れを目撃したり……大自然の雄大さに圧倒される貴重な雪山体験。

そんな最中。山頂付近にて耳にした事務局長の語りに、私はハッとさせられました。

「当たり前だと思っていた自然が、中川町の宝だった」

中川町の住民は、「中川町には何も無い」と口々にするそうです。確かに、ショッピングができるようなお店はありませんし・遊べるような施設はありませんし・コンビニは本当にセブン(オープン)イレブン(クローズ)ですし……何より本屋が無い。後に吉野シンゴは中川町に本屋を開くことになるのだが、それはまた別のお話。 

要するに、東京に当たり前のようにあるようなものは「何も無い」町なんですね。

しかし、中川町には「何も無い」が有ります。 モノに溢れた手狭な東京には無い大自然が。 

「何も無い」は不便でつまらないかもしれないけど、それはかけがえのない宝であり魅力であるということに気付かされた。事務局長はそう語りました。 

見方ひとつで、いままでの認識は一変する。

さて。そんな今回の旅のお供に選んだ本は、星野源の初エッセイ集『そして生活はつづく』でした。

「何も無い」生活をおもしろがろう。

著者
星野 源
出版日
2013-01-04

このエッセイのテーマは、「つまらない毎日の生活をおもしろがること」。

『なにげない日常』の中には『なにげない日常』しかない。素晴らしいものなんてない。その中から素晴らしさ、おもしろさを見出すには、努力と根性がいります。黙っていても日常は面白くなってはくれない。見つめ直し、向き合って、物事を拡大し新しい解釈を加えて日常をあらためて制作していかなきゃならない。毎日をおもしろくするのは自分自身だし、それをやるには必死にならなきゃ何の意味もない。

あとがきで、星野源はこう語りました。

エッセイ本文中、めちゃくちゃ面白そうな日常を送っているように見えた星野源。その実は、めちゃくちゃ面白がる努力をしていたようです。劇的なことは「何も無い」ただの日常でも、面白がろうと思えばいくらでも面白くなるらしい。

見方ひとつで、いままでの認識は一変する。

そんなヒントが満載のエッセイを、ぜひ。 
 

そんなわけで私はいま、締めの文章を考えている。 
現在、深夜2:09。明日は、朝から研究取材の予定が入っている。 
……寝よう。おやすみなさい。

この記事を最後まで読んでくれたあなたは、「何も無い」生活をおもしろがる前に…… 
面白いところが「何も無い」この締めの文章をおもしろがるところからはじめてみてほしい。

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