アクティブな図書館のあり方に驚き!ニューヨーク公共図書館の映画が公開中

更新:2021.3.29

世界でも有数の規模を誇るニューヨーク公共図書館。歴史的建造物としての価値からニューヨークのランドマークとなっており、『セックス・アンド・ザ・シティ』や『デイ・アフター・トゥモロー』といったヒット映画のロケ地としても有名です。そして、その規模や知名度に甘んじない、進化し続けるサービスもこの図書館の特徴です。そんなニューヨーク公共図書館の舞台裏を探ったドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が5月18日から公開されています。日本の図書館のイメージからは考えられない、映画から垣間見える斬新な取り組みの数々を、ロングセラー『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― 』の著者でもある、在米ジャーナリスト・菅谷明子さんへのインタビューを通してご紹介します。

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NYPLの特徴1 図書館だからこそ情報格差をなくす

日本で「図書館はどんなところ?」と聞かれたら、多くの人は「本が借りられる場所」と答えるはずです。学生の頃、宿題やテスト勉強、レポートの調べ物などに使った思い出がある人も多いのではないでしょうか?「静かで落ちついた場所」といったイメージもあります。そんな「図書館」のイメージを覆すのが、ニューヨーク公共図書館(以下NYPL)です。

著者
菅谷 明子
出版日
2003-09-20

菅谷さんとNYPLの出会いは学生時代。ニューヨークにあるコロンビア大学で学んでいた頃に遡ります。論文やレポートを書くために本の閲覧に行ったり、美しい建築としての価値は感じたりはしていたものの、頻繁に活用する機会はなかったとか。卒業後、フリーランスのジャーナリストとして活動し始めた時、専門性の高いデータベースに個人でアクセスすることの難しさを知り、公共図書館に通うようになります。図書館を利用している人たちを見ていると、起業家や発明家をはじめ、様々な目的を持って使い倒している姿が印象的で、「図書館はアクションのための場なのでは」と感じるようになったそう。

スマートフォンですぐに何でも検索できる環境で過ごしていると、情報過多に感じることはあっても「情報の不平等さ」を感じることはなかなかありません。しかし、より専門的、また、質の高い情報を手に入れようとすると、そこには壁があると気付かされます。希少な情報や質が担保されたものは自ずと高額なものとなり、資金力のない個人が手に入れるのは非常に難しくなります。

NYPLでは、そういった格差を無くそうと、高価なデータベースやコンピュータも無料提供しています。図書館というと「紙の本」のイメージが強いですが、サービスは紙・電子を問いません。データベース講習会も頻繁に行われ、また多様なイベントも開催されています。

ビジネス支援の拠点でもあり、就職イベントが図書館で開催されることもあるそう。映画では、様々な職種の採用担当が図書館を訪れ勧誘をおこなう様子や、転職活動でのアピール法のレクチャーなどが行われている場面も登場します。

また、移民も多く社会経済格差も大きいニューヨークでは、「英語をマスターする必要がある」「通信環境を確保する経済的余裕がない」といった市民の声に対応し、モバイルWi-Fiルーターの貸し出しや、言語別のパソコンセットアップ講座を開催するなど、まさに「いたれりつくせり」です。

NYPLの特徴2 サービス強化の「寄付集め」にも注力

NYPLの特徴2 サービス強化の「寄付集め」にも注力
© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved

「日本では、本はありがたく拝読して、中身をいかに自分のものにするかと考えがちですよね」と話す菅谷さん。「でも、本はあくまでも考える素材で、それを踏み台にして自分なりにどう考え、次に結びつけるかが大事です」。

アメリカでは、本はコミュニケーションのきっかけであり、読書のあり方も日本とは少し違うのだそうです。図書館は読書会(ブッククラブ)も開催しますが、映画のなかでも登場するように活発な議論の場となるそう。「最近は本によっては、後ろのページに『読書会で話し合うポイント』が載っているものも増えています。情報をインプットするだけでなく、感想をアウトプットし合い、多様な意見に触れつつ自分の考えを微調整して理解を深め、より深い思考にたどり着くことが読書文化として根付いているのです」と菅谷さん。「そういう意味では日本でも本を深く読み語り合う機会がもっと必要かもしれません」。

図書館は、本の読み方だけでなく財源の確保にも積極的で、本や映画の中で描かれるNYPL運営の舞台裏は日本の図書館からの想像を覆すものです。 
 

特に映画の中では随所随所で、図書館の幹部らが活発に議論を交わす会議のシーンが出てきます。その中で話し合われるのは「民間からどれくらい寄付を集めるか」「市や州からの資金をどのように使うのか」といったものです。図書館幹部らがイベントを通じて直接寄付を呼びかけるシーンもあります。 

そもそもアメリカでは寄付をすることがあたり前に根付いているそうで、 「寄付をすると節税対策になるだけでなく、金額が大きければメディアで大きく扱われたり、招待客のみのイベントに参加する特権が与えられるなど、寄付することで社会的地位も上がります。米国には日本では考えられないような富裕な層がいますし、一般市民でも自分が応援したい組織には少額でも可能な限り寄付をしていくことが自己表現にもなるのです」とのこと。 

また、市や州から受ける援助は、その用途が厳しく制限されることが多いようですが、寄付金はフレキシブルな用途に使えるため、寄付金集めこそが運営幹部らの重要な仕事として位置付けられているようです。

日本の状況から見ると、ここまでして資金を集めるのかと驚きますが、こうした活動の成果が、時代に応じたサービスを次々に展開していくために欠かせないことがわかります。

「NYPLは電子書籍なども積極的に提供していますが、紙かデジタルかといった媒体に固執せず、市民の利便性を常に考えています。そのため、最近では家や仕事場から電子情報にアクセスする人が増え、来館者数自体は減ってきていますが、その分図書館に足を運ぶに値する催しを充実させ、イベント参加者数は増加しているそうです。」

そんなNYPLの姿は本好き必見!

こうしたきめ細やかなサービスから、市民の絶大な支持を誇るNYPLの裏側に迫ったドキュメンタリー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が、5月18日(土)より岩波ホールほか全国で絶賛上映中です!

アカデミー賞名誉賞受賞のフレデリック・ワイズマン監督は、この魅力的な図書館の姿を生き生きと描いています。

また上記で紹介した菅谷さんのルポ『未来をつくる図書館~ニューヨークからの報告~』からは、図書館の全貌や各館の特色、歴史やブランド戦略なども学ぶことができます。

「新しい図書館のあり方」を知りたいという方にとっては必見映画・必読書であるといえるでしょう。

 

 

≪作品データ≫

監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン 

原題:Ex Libris - The New York Public Library|2017|アメリカ|3時間25分|DCP|カラー 

配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ
 

大人になると縁遠くなりがちな図書館ですが、進化する図書館のあり方を知ることで、あらためて読書への興味・関心を育ててみては!